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もふ28 もふもふのヒーロー?


「そちらのお嬢さんは、何か気に入ったのがありましたか?人間の女の子と獣人の男の子との恋愛コーナーはあっちの棚よ。あんまりないんだけど。」


 貸本屋の店主がアンドレアに向かって言った。


 魔族の首領と人間の姫が縁組をする事だし、今後は人間のヒロインの需要も高まるかも知れない。


 貸本作家にそう言うものをもっと書くよう言った方が良いのかも、と、雫型の大きな瞳をきょときょとさせつつ、店主は考えた。


 アンドレアは書架に並ぶ背表紙のタイトルを眺めながら、お目当ての本について店主に尋ねた。


「さっきから探してるんですが、もふもふのヒーローのお話はないのかしら?」



「もふもふ!? 」


 その場にいたお客の少女達が一斉にアンドレアの方を見た。


(もふもふですって……。)


(人間の女の子みたいよ。)


(すごーい、斬新ね。)


(あら、最近はゲイの男の子達の間でも、もじゃもじゃは人気があるのよ。)


(もじゃもじゃのヒーローなんて、私、読んだ事ないわ。)


(当然じゃない。そんなの読んでるのが見つかったら、お母さんにものすごく叱られるわよ。)


 互いに目配せしたり、肘でつつき合って、真っ赤になりながらアンドレアをチラチラと見ている。


 周りのお客の只ならぬ様子にアンドレアまでどぎまぎする。



 何かおかしな事を言ったかしら?


 私はただ、サンチェス様のようなもふもふの獣人ちゃんと人間の女の子の恋愛物語を読みたいだけなのに……?



「そう言うちょっと変わったジャンルはほら、あっちの隅にありますよ。」


「か、変わっ!? 」


 店主に指さされた方を見ると、変な暖簾がかかっており、奥が見えなくなっている。しかも、入り口には大きな字で『十八歳未満入室禁止。』と張り紙がされていた。


「十八……!? なぜ?」


「もうっ、お姫さ……アンさんてば!」


 真っ赤になったカミラがアンドレアをつんつん突いた。


「仕方ないわね。私もついて行ってあげますわ。」


「え? ちょっ、カミラさん?」


 カミラはアンドレアを暖簾の向こうへズルズルと引きずって行った。


「先日も申しましたでしょう? ご主人様は偉大なお方ですが、ビジュアルは一般ウケしないんです。どうしてもマニア嗜好になってしまうんですよね。」


「ま、マニア!? 」


 以前から暖簾のこっち側に興味津々だったカミラは嬉々として棚に並んだ本を物色している。


「あ、一冊だけありましたよ。『しっぽに狂わされて・堕天使の告白』ですって。私にも後で読ませて下さいな。」


「堕……!」


 何やら踏み込んではいけない領域に足を踏み出そうとしているのだろうか?


 そんな不安がよぎりつつも好奇心には勝てず、アンドレアはカミラの差し出した本を恐る恐る受け取った。



          ʕ•ᴥ•ʔ



 ドン・サンチェスへのお土産は、露店の小間物屋で見つけた、陶器でできた熊さんの頭のエッグスタンドと、お菓子屋さんで買ったはちみつバター飴にした。


「半熟卵をこれに立てていただくんですよ。早くこれを使って卵をいただくサンチェス様をみたいわ。」


 アンドレアは嬉しそうに言うが、これに半熟卵を入れて殻を割ったら、まるで熊の頭が割れているようにならないか?


 じーっと、こちらを見ている陶器の熊を見て、ドン・サンチェスは複雑な気持ちになった。




「アンドレア姫? お休みにならないのですか?」


 いつもなら夜のブラッシングの後も、しっぽを編んだりリボンを結んだりとなかなか自由にしてくれないアンドレアだが、今日は早々にブラシを放り出し、借りてきた本を読みふけっている。


 時折、


「まあ、そんな。こんなことって……きゃっ、どうしましょう……嘘でしょう……?」


 と言った声が漏れる。


 サスペンスやスリラーものでも読んでいるのだろうか?


「先程から何をそんなに熱心に読んでいらっしゃるのですか?」


「ひゃっ!」


ドン・サンチェスが覗き込んできたので、アンドレアは勢いよく本を閉じた。


「な、何でもありません! だ、だめっ! 見ないで下さいっ! 」


 アンドレアはベッドに入った後も、ドン・サンチェスにしがみつきながらモゾモゾそわそわと落ち着きがなく、くすぐったくてとても眠るどころではなかった。


 ドン・サンチェスはようやく寝息を立て始めたアンドレアを起こさないように慎重に身体から離すと、アンドレアの読んでいた本にそっと手を伸ばした。


 先程の動揺は只事ではない。人間に対する批判的な記述か、何かもっと良くない事が書かれていたかも知れない。


「おお、これは……。」


 しかし、本を開いたドン・サンチェスは、衝撃のあまり思わず本を落としてしまった。


「うーむ。しっぽにこんな用途があったとは。」


 まさかとは思うが、アンドレア姫には「こう言う要望」があるのだろうか?


 妻の幸せは夫の幸せである。


 愛する妻の望む事ならば全力で叶えてやる必要があるだろう。


 ドン・サンチェスは、寝息を立てながら手が無意識にもふもふを探しているアンドレアに、おずおずとしっぽを近づけた。






 お読みいただきありがとうございます!


 引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです♪

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