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もふ27 もふもふと友情



「最近、どう?」


 エスカミーリョはウエイトレスに声をかけた。


「最近は、そうねえ。ゲイの男の子達の間で長毛種がもてはやされてるみたい。最初にゲイ、次にティーン、その後に業界って言うじゃない? また長毛が流行りつつあるのかしら? あたしにはまだピンと来ないわ。女の子の長毛はかわいいけど、男の子はねえ。……もちろん、カッコいい子も中にはいるんだろうけど。」


 エスカミーリョが魔族の首領でもじゃもじゃのドン・サンチェスの側近である事を思い出したウエイトレスは慌ててつけ加えた。


「そっか、ありがとう。」


 エスカミーリョはウエイトレスにチップをたくさん握らせた。


「どうも。セニョーラ・カミラにもよろしくね。」


 ウエイトレスは上機嫌で店の中に入って行った。


 ウエイトレスが姿を消すと、ドン・サンチェスは期待を込めた顔でエスカミーリョを見た。


「もじゃもじゃが流行りつつあるのか……?」


「そのようですよ。惜しかったですね。もう少し待てば、あんな人間じゃなくて、かわいい獣人の姫と結婚できたかも知れないですよ。」


 エスカミーリョが悪戯っぽく笑った。


「冗談じゃない、いくらお前でも、言って良い事と悪い事があるぞ。」


 ドン・サンチェスが唸るように言った。


 深く被ったフードの中で、皺の寄った鼻の下から牙が覗き、目がギラギラと光っているのがわかる。


 もふもふ優しい熊ちゃんだとアンドレアは思い込んでいるが、ドン・サンチェスはまごう事なき魔族の獣人だ。


 怒りの沸点は人並み外れて高い方ではあるが、大切な人を軽んじる発言を許すような男ではない。


「申し訳ありません。もちろん、フリオ様がそうおっしゃるのは分かっていました。人間の女は、流行なんかに左右されず、俺達のありのままを受け入れてくれ、愛してくれますからね。」


 エスカミーリョはしみじみと呟いた。


「そうとも、わかってるじゃないか。」


 しかし、彼の表情筋は元々怒りの顔を維持するのには向いていないので、すぐに、ふにゃー、と、脱力した顔に戻った。


 それよりも、怒ると余計に暑くなる。怒りという感情は全然良い事がないな。ドン・サンチェスは必死で冷却魔法を唱えながら考えた。


「セニョーラ・カミラが親切にしてくれるおかげで、アンドレア姫もすぐに城に馴染んでくれた。礼を言うよ。」


「れ、冷却魔法の合間に出し抜けに何をおっしゃるのですか。」


「出し抜けなんかじゃないよ。エスカミーリョ、君がセニョーラ・カミラと幸せな結婚をしているのを見ていたから、俺も決心がついたんだ。いつかきちんとお礼を言いたかった。今のこの幸せは君のおかげだってね。ありがとう。」


「なっ……! ちょっ……べ、別に、お、俺……!」


 怒れるドン・サンチェスと同じく、いや、それ以上に、「照れ」という感情に慣れていないエスカミーリョは黒い顔を赤くして突然狼狽え始めた。


「ふん。意地悪を言うからお返しだ。ザマーミロ!」


 ドン・サンチェスはペロリと舌を出した。


 アンドレアが見たらまた喜びそうな絵面だ。


「それよりも、フリオ様はそろそろ引き上げた方がよろしいのでは? どうせ勝手に抜け出して来たんでしょ? きっと今頃、鬼より怖いレアル殿が毛を逆立てて探していますよ。」


 今度はエスカミーリョが反撃する。すると、さっきまで暑さで冷却魔法をかけまくっていたドン・サンチェスが突然震え始め


「そ、そ、そうだな。後は頼んだぞ。」


 と、そそくさと立ち去った。




「フリオの奴があんな顔をするなんてな。」


 ドン・サンチェスを見送ったエスカミーリョは、独りごちた。


 物心つく頃から一緒にいたエスカミーリョでさえ、彼が感情に任せ怒りを露わにしているところを只の一度きりしか見たことがない。



 ……あの時は、そう、寄宿学校時代に上級生のひとりが俺の母親を淫売と言ったのを聞いた時だ。


 人気者の裏には嫉妬あり、やっかみ半分のそんな捨て台詞には慣れっこだから、「お前の母ちゃんでべそ」程度のダメージもない。


 しかし、咆哮とともにそいつは吹っ飛び、石の壁に体を激しく打って血を吐いた。辺りの建物の硝子という硝子が粉々になった。


 振り返ると、いつも後ろの方にいるフリオの毛が総毛立ち、ぎらぎらと光った目が満足そうに血の海を作って失神しているそいつを見ていた。




 エスカミーリョは初めてアンドレアが自分を見た時の事を思い出していた。


 目にありありと恐怖の色を浮かべ、ガタガタと震えているアンドレアを、カミラが肩を抱き、寄り添い去って行った。


 アンドレアは魔女や他の女の獣人達とは上手くやっているようだ。しかし、相手が戦士となると話は違ってくる。


 妻のカミラは使用人ではあるが、姉のように慕い、頼りきっているから、勤めて表に出さないように気をつけてはいるが、アンドレアが未だ自分を恐れている事も知っていた。


 アンドレアが獣人の本来の姿を晒したドン・サンチェスを目にする事があっても、ありのままを受け入れ、変わらず愛してやるのだろうか。


 それとも……。



 通りの向こうの貸本屋から、アンドレアとカミラが大事そうに本を抱え仲良く連れ立って出てきたのを見たエスカミーリョは、グラスの底に残っていたビールを飲み干し席を立った。



 お読みいただきありがとうございます!


 引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです♪

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