もふ26 もふもふと友達
レアルから護衛を言いつかったエスカミーリョは、お忍びで町へ出かけたアンドレアとカミラに気づかれないように気配を消しつつ、二人を見守っていた。
薬屋に小間物屋、お菓子屋さんと、カミラのお気に入りの場所へ寄り道した後、二人は仲良く賢者セルバンテスの孫娘が営む貸本屋へ入って行った。
貸本屋に入ったら、カミラはいつも三十分は出て来ない。
通りを挟んだ茶屋で一杯ひっかけながら、二人が出てくるのを待つ事にする。
しかし、離れた場所で獣人の魔導士が二人の様子を伺っているのが、ふと、エスカミーリョの目に映った。
実はさっきからずっと目の端っこでちらちらしていた奴なのだ。
その魔道士は漆黒のローブを纏い、深く被ったローブから鼻先だけが覗いている。
(暑い……。)
そして、冷却魔法をひたすらぶつぶつと唱えていた。
エスカミーリョは仕方なくその魔導士に近づき、声をかけた。
「フリオ様。」
「ふぁっ!」
魔導士は飛び上がった。
「な、なんだエスカミーリョじゃないか。奇遇だなあ。」
「こんなところで何してるんですか。って、だいたいわかりますけど。どうせ、アンドレア様が心配でつけて来たんでしょ。
けど、フリオ様の方が今にも熱中症でぶっ倒れそうで心配ですよ。」
ほら、と、エスカミーリョは携帯していた水筒を差し出した。
「すまん………。」
ドン・サンチェスは決まり悪そうに水筒を受け取る。
エスカミーリョはドン・サンチェスの側用人として幼少より仕えているため、私的な場では今でもドン・サンチェスを名前で呼び、腹を割って話せる数少ない友でもある。
それどころか、レアルと言い、このエスカミーリョと言い、主君の顔色を伺って何でも首を縦に振るイエスマンとは程遠く、たまにどっちが主人だかわからなくなる時もある。
こと、幼い頃より容姿端麗なこの家臣にドン・サンチェスは劣等感を刺激され続けてきたのだが、同時に、ちょうど今日のように幾度となく助けられてきた。
寄宿学校時代は、出自を問わず厳しく指導する教授陣も舌を巻くほどの突出した魔力に加え、他の科目も常にトップを走っていたドン・サンチェスだが、こんなにぼさぼさなら魔力が高いのは当然だという目で見られていたし、そうでなくとも、生まれ落ちたその日から国内屈指の有識者から英才教育を受けているのだから、それで成績が振るわなければよほどお出来にならないのだろうということになり、誰も褒めてくれる者などいないどころか、全てに秀出でて当然だと思われていた。
そんな息苦しい少年時代、エスカミーリョに何度救われたか知れない。
彼と一緒にいさえすれば、首領の嫡男ドン・サンチェスではなく、人気者のエスカミーリョの友達のフリオでいられたのだ。
むろん、親友などではない。エスカミーリョの親友は今も昔もレアルだ。
フリオ少年はたくさんいる取り巻きのひとりだった。
茶屋の店先の椅子に腰掛け、着崩した兵服に、足を組んで良く冷えたビールをひっかけているエスカミーリョは男の目から見てもサマになっている。
エスカミーリョみたいな近衛兵が出入りしてくれれば、ごろつきも手を出せないから店でも歓迎され、ちょっとした飲食なら金を取らずにサービスしてくれる。
むろん、そんな時はウエイトレスのチップをはずんでやるから、益々歓迎される。
かたや、ドン・サンチェスはボサボサの毛がはみ出さないようにローブを頭からすっぽり被り、巨大なゴミ袋のようだ。酒なんか飲んだら余計に身体に熱がこもってしまうから、ソーダ水をすする。
「この人は、エスカミーリョさんのお知り合い?」
「い、いや、違う。」
ウエイトレスがドン・サンチェスをうさんくさそうに指さしながらエスカミーリョに尋ねたので、ドン・サンチェスは咄嗟に答えた。
「じゃ、550M、あと冷やし代が100Mね。」
「…………。」
エスカミーリョへのそれとは明らかに違う態度だ。
ドン・サンチェスは懐から硬貨を出してテーブルの上に置いた。
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