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もふ25 もふもふはお留守番


「お忍びで町の貸本屋へ行きましょうか。」


 自分の写本した貸本の評判が気になるアンドレアにカミラが提案した。


「ちょうど、今日の午後にでも行こうと思っていたんです。」


「わああ、行きます!」


 公爵令嬢としてカブレラ家で下へも置かぬようにして育てられていた頃はもちろんのこと、台所で飯炊き女をしていた時でさえ、町へ出られるのはせいぜい年に二、三度だったアンドレアにとって、カミラの言葉はわくわくする響きがあった。


「いけません、首領の妃が町へ出るなど。」


 しかし、ドン・サンチェスはその案には賛成しかねるようだ。


「大丈夫ですよ。忍びも何も、アンドレア姫はまだ魔族の民にはお披露目もしていないのですから、誰も顔を知りませんよ。」


 と、カミラ。


「でも。」


 それを聞いてもドン・サンチェスの不安は消えない。町の治安は特に悪くはないが、人間の女はまだ珍しいし、好奇心も伴い変な奴に声をかけられないとも限らない。


 母親譲りなのはふさふさの長毛だけではないらしい。過保護な面も似ているようだ。


 しかし、気難しいレアルが反対するに決まっている。ドン・サンチェスは期待をこめた目で隣に立っている彼を見たが、


「夫である貴方様の統べる国の民がどんな生活をしているのかを知るのも大切だと思います。」


 などともっともらしい事を言って誰も味方してくれない。


「じゃあ、俺も行く!」


 しかし、女子二人のお出かけを計画しているカミラは乗り気ではない。こんなもじゃもじゃに後ろで見張られていては楽しみも半減してしまうではないか。


「ご主人様の姿は特徴的だから、一瞬でバレてしまってお忍びになりませんよ。」


「う……。」


 こんな時にご禁制の短毛の魔法があれば!


 ドン・サンチェスは悔しくて地団駄を踏んだ。


「すみません、サンチェス様。お土産買ってきますから。また今度、一緒に行きましょうね。」


 しっぽをふりふりさせて悔しがる熊ちゃんを気遣いながらアンドレアは言った。



          ʕ•ᴥ•ʔ



「おめかししたいと思いますけど、人間は私みたいな魔女くらいしかいないですから、魔女っぽい格好が良いと思います。私のローブを貸しましょうね。」


 カミラはクローゼットから暗い色のブラウスとスカートを選び、自分の深緑色のローブをアンドレアに着せてやり、頭からフードをすっぽり被せ


「どこから見ても魔女ですね。貴女は今日は魔女のアンです。私の妹分の。」


 と、満足そうに言った。



 こうして、アンドレアとカミラは連れ立って城を出た。


 城下の「蒼い森」は、盛り土をした蟻塚のような形の家や、森の巨木や巨大なキノコをそのまま繰り抜いて造られた家々が点在し、町を作っている。


 町には、獣人の他にも、ダークエルフに竜人、ドワーフ、もっと他の様々な種族が行き交っている。


 アンドレアの片手に収まりそうな妖精もいて、それぞれの大きさに合った植物を活用してそれぞれの住まいにしていた。


 道のあちこちに露店が出ており、お弁当や、肉や野菜、お菓子に、小間物屋、魔除けの花数珠の御守りなど、様々なものが売られていて、手に入らないものは無さそうだ。


 公爵家でもごくたまに遣いで街へ出ることはあったが、意地悪な女中頭が時間を測っていたので、いつも駆け足で周りを見ることもなかった。こんなふうに出歩いてのんびりと街並みや行き交う人々を眺められるのは嬉しかった。



「お姫さ……じゃない、アンさん、貸本屋はあっちよ。」


 カミラは町並みに見とれているアンドレアの手を引いて立派なキノコでできた建物を指差した。


 中へ入ってみると、いろいろな種族の少女達で賑わっている。


「この本はもう読んだ?」


「殺人(獣)の場面がらあるから、お母さんが読んじゃダメだって。」


「じゃ、私が借りるわ。学校で読ませてあげる。その代わり、あなたは『悪役令嬢と七人の貴公子』の騎士ボナパルトの求婚編を借りてね。」


「それはもう読んじゃったの。こっちの魔導士マリーン編はどう?」


「良いわよ。」


 と、こんな具合に、皆、おしゃべりに花を咲かせつつ真剣に本を吟味している。


 先の少女達が噂していた小説は、従姉妹のマリアも夢中になっていた人気小説だ。読み方の苦手なマリアがアンドレアに朗読させていたおかげで、アンドレアも本の内容は良く知っていた。


 しかし、こちらのヴァージョンは、ヒロインは獣人の女の子で、ヒロインの前に現れる貴公子達も、獣人やダークエルフに書き換えられているらしかった。



「アンさん、アンさんが写本した本はどれも人気で何人も順番待ちしているそうですよ。」


 後ろからカミラが嬉しそうにアンドレアに囁いた。


「まあ、本当?」


 自分の写本したものを少女達が手に取り喜んでくてれている、あれこれみんなで話しながら、続きを楽しみにしてくれているなんて、想像するだけでもわくわくする。


 アンドレアは、今では宿題を押しつけていたマリアにも感謝したい気分だ。彼女が真面目に勉強していたら、なかなか字を覚える機会に恵まれることも無かっただろうから。


「どれも丁寧で読みやすいと評判ですよ。癖のある字は読みにくくて、せっかくのお話の雰囲気を損なってしまうの。」


 賢者セルバンテスと同じ、イタチのような姿の貸本屋の店主が、雫のような瞳をきょときょと、バッテンの上にちょこんと付いている鼻をひくひくさせ、つるんつるんとカウンターを行き来しながら言った。


 目の前にいる魔女のフリをしたアンドレアが写本した本人だと店主は知る由もない。アンドレアとカミラは目配せして微笑んだ。


 どうやら、店主はカミラとは馴染みらしく、つるつると書籍を何冊か取り出し、カミラの前に差し出した。


「これ、お爺ちゃんにまたお願いします。こないだの人にお願いしてねって、伝えて下さいな。」


「お爺ちゃん? 賢者セルバンテスは貴女のお爺さまだったのですか?」


 店主の言葉にアンドレアはびっくりして聞き返した。


「そうよ。似てないかしら?」


 カウンターで、つるんっ、と一回転して店主は言った。


 そう言えば瓜二つ、いえ、イタチ二匹です。


 カミラはアンドレアの心の声を聞いた。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 皆さまのお目にとまり、こうして読んでいただけて本当に嬉しいです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

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