もふ23 もふもふとお花畑
「そう言えばアンドレア姫、『俺の』マフラーはその後どうなったのですか?」
朝食を終えた二人は、城内のラベンダーがたくさん咲いている庭を散歩していた。
アンドレアは庭師のカイマンお爺さんと二人でラベンダーの大きな花束を作り、抱えきれないほどだ。
世の男性陣の大半がそうであるように、ドン・サンチェスも草花には関心が薄いのだが、ラベンダーの甘く優しい香りにうっとりとするアンドレアの幸せそうな顔が愛しく、この城にこんな庭園があって良かったと思った。
長年庭師を勤めているカイマンお爺さんにも子供の頃は良く遊んでもらったものだ。最近はゆっくり話をする機会もないが、そのうち、ちゃんとお礼を言おう。
そして、大きな花束で視界を遮られ歩きにくそうなアンドレアに代わり花束を持ってやった。
「まああ……、素敵……!」
熊ちゃんのお花屋さんを前にアンドレアの目も心もうっとりと、いつにも増して幸せそうにしている。
しかし、油断も隙もない奥方様は、
「そうだわ。カイマンさんにお願いして、向日葵の花もいただけないかしら。サンチェス様の胸のところに向日葵を飾って謁見をなさったら、とっても素敵だと思いませんか?」
「ひまっ!? 」
半強制的に同意をとろうとするのに恐れをなしたドン・サンチェスは、話をはぐらかそうと、そんな言葉が思わず口をついて出た。
「そう言えばアンドレア姫、『俺の』マフラーはその後どうなったのですか?」
「ああ、あれは、ほどいてしまいました。」
しかし、アンドレアはそう答えるのみで、庭に咲いている向日葵の品定めに夢中なようだ。
そうして、しばらく真剣に向日葵を眺めていたが、ついに諦めて溜め息をついた。
「残念だわ。適当な向日葵がないみたい。さあ、そろそろ戻りましょうか。ご覧なさい、サンチェス様が三つ編みを嫌がるから、しっぽにいがいががたくさんついてますわ。」
まるでドン・サンチェスに非があるような口ぶりだ。
二人は毛のお手入れをすべく、城の中へ入って行った。
そうか、マフラーほどいちゃったのか……って、いや、待て、なぜ俺はガッカリしているんだ? ドン・サンチェスは我知らず首を振った。
今はそんな事どうでもいい。
何せ、今日はこれからすこぶる憂鬱な謁見が待っているのだ。
ʕ•ᴥ•ʔ
竜人族の首領の側近、セニョーラ・カーマ。
こちらで言えばレアルのようなポジションの女史だ。
(獣)人をバカにしたような三日月のような細い瞳で薄ら笑いを浮かべ、玉虫色の曖昧な言葉でのらりくらりと(獣)人をケムに巻くような、いやーな、話し方をする。
どうやら今日は「竜人族の女性の雇用危機の解決、雇用の拡大・創出を求める意見書」、なるものを携えてやって来るらしい。
我々が人間の魔女を登用するのが気に入らないのだろう。
城で働いてくれる魔女達は、獣人も竜人もその他の種族もみんな仲良くやっているのに、外野にうるさく言われてみんな迷惑しているのがわからないらしい。
「サンチェス様、サンチェス様、そろそろ午後のご公務のお時間ですよ。」
アンドレアに揺り起こされ、ドン・サンチェスはハッと目を開いた。
鬱々と考えごとをしているうちに、アンドレアの気持ち良い毛づくろいも手伝って居眠りをしてしまったようだ。
「しまった。アンドレア姫、また後で。」
ドン・サンチェスは慌てて謁見室へ向かった。
「おお、ドン・サンチェス、一体……!?」
急ぎ廊下を行くドン・サンチェスを見かけたエスカミーリョは驚き声をかけた。
「いや、お前は来ない方がいいよ。天敵のカーマ女史が来てるんだ。」
エスカミーリョはセニョーラ・カーマのネチネチした話し方が大嫌いだし(俺も嫌いだが我慢している。)、セニョーラ・カーマも、人間の女と結婚したエスカミーリョが気に入らないとみえ(俺も結婚したがモテないから黙殺されている。)、二人が同じ場所にいると、嫌な空気が余計に悪くなるのだ。
「い、いや、そんな事より、ドン・サンチェス……!」
「すまん、急いでるから、また後で。」
「そんな格好で人に会うんですか?」
エスカミーリョがそう言い終える頃には、ドン・サンチェスの姿は見えなくなっていた。
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