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もふ22 もふもふの秘密


 「獣人の毛は魔力の源と信じられておるのじゃ。」


 翌日、アンドレアにブラッシングをしてもらいながら、ドニャ・カサンドラはそう言った。


「私、そんな事ちっとも知りませんでした。首領の妻失格ですわ。」


 義母の話を聞けば、昨晩のレアルの怒りも、あの言葉も合点がいく。


 アンドレアは改めて自身の軽率さを深く恥じ入った。


「気にするな。わらわもここへ嫁いだばかりの頃は、イジワルな家臣共にそんな事も知らんのか、これだから田舎者はなどと、どーでも良い事で散々イヤミを言われたものじゃ。こんなにわらわや息子の毛を慈しんでくれる其方が、我らの弱体化を狙う反逆者のはずがなかろう。」


 ドニャ・カサンドラはアンドレアがきれいに梳かしてくれたつやつやの毛を鏡に映して満足そうに微笑んだ。


「ありがとうございます、ドニャ・カサンドラ、いえ、お義母様……。」


 優しい義母の言葉に、アンドレアはまた涙した。



「ドニャ・カサンドラ、お時間でございます。」


「うむ。」


 側近のひとりに声をかけられ、ドニャ・カサンドラは立ち上がった。


「其方に頼むと、十も二十も若返る気分じゃ。魔族界のファッション・アイコンとまで言われたドン・ガロのお母上もお喜びになるに違いないて。」




 隣国の葬儀に参列するために城を出る王太后を見送るべく、頭を下げ広間に立っているレアルの横を、通りすがりにドニャ・カサンドラは囁いた。


「レアルよ、礼を言うぞ。」


 レアルは恐縮してさらに頭を下げた。


「其方が止めなんだら、アンドレアまでお尻を叩かれる羽目になるところじゃったな。礼を言うぞ。」


「は……!!」


 青白い顔がみるみる赤くなったレアルを残し、ドニャ・カサンドラはその場を後にした。


「お尻?」


 側に控える側近達は、顔を見合わせ首を傾げた。



          ʕ•ᴥ•ʔ



「今ならレアル様がお怒りになった理由がわかります。サンチェス様のもふもふの毛にそんな秘密があったなんて。」


 その晩、久しぶりに二人だけの夜のお手入れをしながらアンドレアは言った。


「……別に秘密でも何でもないんですけどね。それより、どうかレアルを許してやって下さい。ちょっと、いや、かなり融通の効かない杓子定規でワークホリックで石頭のダークエルフですが……」


「そ、そんな事思っていませんわ!」


「あ、そう? まあいいや。そうそう、ああ見えて、いつも俺の事を第一に考えてくれる、忠義に厚い奴なのです。」


 もちろん、アンドレアにも良くわかっている。


「それに、あいつが恐ろしいのはどうしようもないのです。何と言ってもあいつの母ちゃんを見て育ったんですからね。」


「お母さま?」


 アンドレアはブラッシングの手を止めた。


 きれいにしたばかりのしっぽが三倍になり、小刻みに震えている、


「どうなさったの、サンチェス様? 急に震えだして。もうお休みになった方がよろしいわ。」


「う、うん。そうしよう。」


 ドン・サンチェスはアンドレアに促され早々にベッドに入り、三倍のしっぽに巻きつき、お腹のもふもふにしがみつく新妻と仲良く夢の世界へ旅立った。




          ʕ•ᴥ•ʔ




「悪い子! 悪い子!」


 小さな手に握られた鋏を取り上げられたレアルは、母親から激しくお尻を叩かれていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。」


 レアルは泣きじゃくりながら謝るものの、母はその手を緩めるどころか更に激しく打ち続ける。


「謝って済む事か! 魔族の弱体化を狙う反逆者と言われても申し開きもできぬ行いだぞ!」


「おばさん、もう許してあげて、レアルのお尻が火山みたいに真っ赤になってるよう!」


 傍らには、身体中の毛のあちこちに鋏を入れられ、毛先がガタガタになり、見るも哀れな姿の小さなドン・サンチェスが怒り狂うレアルの母親の腕に泣きながらすがっていた。


「お願い、おばさん、レアルは僕を思って……ああっ。」


 腕を振り払われたドン・サンチェスはふっとんだ。


「サンチェス様がお許しになっても私は許しません! 悪い子! 悪い子!」


「ごめんなさい母さま、ごめんなさいー!」


 レアルの叫びはかなり長い間城中に響いていたと言う……。





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