もふ21 もふもふと地雷
その晩もいつものようにアンドレアに毛のお手入れをしてもらいながら、側近のレアルの監督の元、ドン・サンチェスはせっせと残業をしていた。
「お次は鳥人の長、ドン・ガロのお母堂様への弔辞へご署名をお願い申し上げます。ご葬儀へはドニャ・カサンドラがご参列なさいます。」
「うむ。」
「ありがとうございます、お次は……。」
「ちょっと休憩。何しろこう暑くては……。」
ドン・サンチェスはレアルの差し出す書類を手で遮り、冷却魔法を唱えながらしっぽを振った。
たちまち、しっぽからひんやりとした風がおこり、ドン・サンチェスの顔がふにゃーっ、と、緩む。
それを見たアンドレアの顔も、ふにゃぁぁ〜っ、と、緩む。
「今からそんな事では先が思いやられますなあ。」
レアルは溜め息をついた。
「あのう。」
後ろで仕事の邪魔をしないよう黙々とブラシをかけていたアンドレアが口を開いた。
「何でしょう? アンドレア姫?」
「長い毛が嫌だ嫌だとおっしゃるのなら、少しカットしてみては如何ですか?」
アンドレアの目が好奇心いっぱいに輝き、どこから調達したのか、鋏をチョキチョキさせている。
「な……!」
ドン・サンチェスは絶句した。
ガチャリ。
テーブルの上の茶器を片付けていたカミラが思わず食器を倒してしまった。
「お、お姫さ……!」
「何と言うことをおっしゃるのですか!」
カミラの言葉を遮りレアルが大きな声をあげた。
アンドレア以下、カミラと、ドン・サンチェスまでもが、びくっ、と、身体を硬直させる。
「お妃であられる貴女が何ということをおっしゃるのですか!」
「あ、あの、私、何か……?」
サマーカット熊ちゃんを見たいという個人的な欲望も多分にあったものの、それ以上に暑さに苦しむドン・サンチェスを気遣っての発言だったのだが、予想外のレアルの反応に、アンドレアは戸惑っている。
「まあまあ、レアル、落ち付きなさい。」
耳を寝かせ、毛を逆立てたドン・サンチェスがおどおどしながらレアルを取りなした。
「いいえ、いくら我が君の仰せと言えどもこればかりは引けませぬ。神、いいえ、魔王をも恐れぬ罰当たりなその言葉、和平の証と見せかけわれら魔族の弱体化が狙いなのか!?」
そんな……。
思いがけない言葉を投げかけられ、アンドレアは言葉もない。
がたがたと震え、目には涙を溜めている。
「言い過ぎだ、レアル、今日はもう下がりなさい。」
ドン・サンチェスは珍しく厳しい口調でレアルに命じた。
しかし、
「恐れながら、本日予定しておりますご公務を終えるまでは下がれません!」
「うう、そうだった……。」
全然恐れていないくせにそんな事をぴしゃりと言われ、すぐに怯んでしまった。
「すみません、アンドレア姫、今日は先にお休み下さい。セニョーラ・カミラ、姫をお連れして。」
「はい、さあ、参りましょう、お姫様。」
カミラは気遣うようにアンドレアの肩を抱き、二人は部屋を後にした。
やっとの事で仕事を終えたドン・サンチェスがアンドレアの寝室へ訪れると、頬に涙の跡を残したアンドレアがブラシを握りしめたまま眠っていた。
「かわいそうに。」
ドン・サンチェスはアンドレアの額にキスをして、その手からそっとブラシをはずしてやった。
「レアルに怒られてさぞかし怖かったろう。全くあいつと来たら母ちゃんそっくりだ。」
レアルの母ちゃん……。
その言葉を口に出すだけで、こんなに暑いのに何だか背筋が寒くなるドン・サンチェスだった。
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