もふ19 もふもふの王子様
「ドン・サンチェス、肖像画家のセニョール・レオナルドが参りました。」
いつものように二人で朝食を摂っていると、セニョーラ・カミラがやってきてそう告げた。
「おお、待ちかねたぞ。すぐ支度しよう。」
ドン・サンチェスは食事もそこそこに、いそいそと席を立った。
「肖像画?」
「おや、聞いていませんでしたか? 私達二人の肖像画を描いてもらうことになっているんです。」
怪訝な顔をするアンドレアに、ドン・サンチェスはウキウキを隠せない顔で答える。
「ほら、先日貴女が白い砂浜で話していた、バラの花のアーチの下に立つ二人を描いてもらいましょう。今はバラの季節じゃないけれど、絵の中なら咲き乱れるバラの花でも吹雪の中でも思いのままですよ。」
もちろん、二人が結婚式をしないことを気遣ってのことだろう。
アンドレアは、本当はもうそんな形式的な事などどうでも良かっのたが、ドン・サンチェスのその優しい気遣いが嬉しかった。
この城には、いたる所に巨大な獣人に似合った巨大な肖像画が飾られているが、皆、いかめしく鋭い眼差しの猛々しい短毛の獣人ばかりで、ドン・サンチェスの肖像画はひとつもなかった。
アンドレアには理解しがたい話だが、ドン・サンチェスは自分の容姿が好きではないようだから、肖像画を残すのも嫌なのだろう。
そんなドン・サンチェスが、自分の為に好きでもない肖像画を描かせようとしてくれているのだ。
それも、食事を切り上げてまで嬉しそうに支度にかかってくれている。
アンドレアは改めて夫の優しさが身に染みた。
立派な首領であるドン・サンチェスと並んだ自分の絵が城内に飾られる事になろうとは何だか畏れ多いような気もするが、あれが従姉妹の身代わりに嫁がされた人間の娘と末代の者に笑われないよう精一杯おしゃれをしようとアンドレアは思った。
同じ獣人に嫁いだ人間の女として、カミラの思いも同じと見え、あちこちから美しく品の良い物を集めて来てくれた。
アンドレアはセニョーラ・バタフライの新作のドレスに袖を通し、ドニャ・カサンドラから受け継いだ先祖代々伝わるティアラを頭に乗せてドン・サンチェスと画家のセニョール・レオナルドの待つ中庭へ行った。
そこには……。
がくっ。
「ああっ、お姫様! どうなさいました!?」
その場に崩れ落ちたアンドレアをカミラが慌てて支えた。
中庭には、魔族の首領としての一番格式の高い正装をした、おめかし熊ちゃんが立っていた。
頭に王冠をのせ、胸に勲章をたくさんつけ、優美なマントを纏い、腰にサーベルを帯び、
仕上げに……、
カボチャ型のブルマーと
白タイツを履いてる!!
「おうじさま……熊ちゃんのおうじさま……!!」
痙攣したように体を震わせ、ぶつぶつとうわごとのように呟くアンドレアに
「はよう薬師をよべ! 気つけ薬はどこだ!?」
カミラ以下お付きの者は大慌てだ。
「おお、アンドレア姫!」
異変に気づいたドン・サンチェスも慌てて駆け寄り、アンドレアを抱きかかえた。
「サンチェス……様……?」
ドン・サンチェスの呼びかけに目を開きかけたアンドレアだが、
熊ちゃん王子さまに、お姫様抱っこ……!
がくっ、と、再び意識を失ってしまった。
しかし、その顔は大層緩みきっていたという。
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