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刻界の魔術師は生まれ直して気儘に歩む【旧題・刻界の転生魔術師】  作者: 銀闘狼
4章【ファルス製薬医薬研究所】
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137.紅蒼混色

改稿し続けていて投稿忘れ

 「ウオッと!?」

 「ッ!……危ないわねぇ!!」


 先程迄立っていた場所からも突き出した水晶の原石を思わせる何本もの赤い凶刃を、二人は前に飛び付く様にして回避し転がって受け身を取り直ぐに立ち上がる。


 下から刺し貫かれて持ち上げられた死色の異形は悶える様に身体を揺らすが、深々と突き刺さる凍り付いた鮮血を研ぎ澄ました様な凶刃は揺らぐ事無く磔にする。


 灰緑或いは蒼白の巨体の表面に赤い血管じみたくねり枝分かれする線が凶刃から伸びて這い回り、突き出した凶刃から赤い氷が張る様に結晶体が体表に広がり覆って行く。其れが全身に回った時、一斉に砕け散った地面から突き出す凶刃と体表を覆う結晶体の破片が探照灯の光を乱反射する中で、死色の巨体が重々しい音を立てて着地した。


 「「「Ugrorororororororaaa!!!」」」


 額の左右と中央に反りの少ない紅玉を削り出した様な紅角が生えた奇妙な頭骨と、逆に一切の加工がされていない原石を思わせる紅い結晶体が眼窩に嵌った身体中に嵌め込まれた頭蓋骨が一斉に名状し難い喉に痰が絡んだ様に汚らしい咆哮を上げ、其の大音声が大気を震わせる。踏み鳴らす四対の馬脚もどきが地面を荒らしながら孝義を追い、赤い血管の様な物が走り杭の様な爪が生えた腕を振り上げる。


 無論、孝義や紀矢子は勿論の事、他の職員も只黙って突っ立っている訳では無くそれぞれが持ち得る手段で異形へと攻撃する。


 銃弾は露出した頭部や頭蓋骨、八本の脚を除き、硬めのスライムの様な肉に受け止められて弾かれずに大した痛痒を与えた様子も無く体内に取り込まれる。頭部や頭蓋骨に当たった物は表面を削るものの、有効打と云える程の損傷は与えられず、角や結晶体には傷一つ付けられずにいる。脚は其れなりのダメージはありそうだが、異様に細く八本もある為に効果が出る程のダメージは与えられていなかった。


 孝義に向かって腕が振り下ろされる。紙一重で避けようとした孝義だったが、近付いて来る手の中に現れた、色の明度を上げながら大きさを増して互いに結合して纏まっていく何十もの朱殷の結晶を見て、嫌な予感がして咄嗟に大きく横っ飛びすると少し遅れて腕が叩き付けられる。


 最終的に手の両側から突き出す鮮血色の一つの塊になった其れは、手が地面に叩き付けられた瞬間に沢山の硝子が一斉に割れる様な音を立てて炸裂して破片をばら撒いた。


 飛び散った破片は宛ら散弾の様に職員達に襲い掛かり、碌に防御出来なかった者を無惨な肉片へと変えて、《肉体の保護》等があった者も容赦無く装甲を削り取って少なく無い切創を与える。


 孝義は近くにいたとは云え、飛び退く時に手があった方向に向けられる身体の面積を極力小さくしていた事で致命傷からは程遠いものの、主に脚に破片が当たり移動や咄嗟の動きに大きな影響を及ぼす程の負傷を負ってしまった。


 更に最悪な事に飛び散った破片で出来た傷口から、内出血による黒い斑点や発疹等の症状が現れ始める。其れだけでは無く、咳や喀血等を引き起こしている者もいた。


 再び腕が振り上げられる。


 「「「Urororororo……!!」」」

 「クソッ!!」

 「【――彼の者を縛り付け給え】《クトゥルフの鷲掴み》ッ!!」


 孝義の危機に間一髪の所で駆け付けたアンシャトレーヌが《クトゥルフの鷲掴み》で死色の異形を押さえ込む。蛸や烏賊の様な軟体動物の触手を思わせる輪郭を持つ透明な力が死色の異形に絡み付き、地面へと組み伏せようとするが、死色の異形は移動は出来ないものの完全に押さえ込まれる事は無く、膝を突かずに両腕もアンシャトレーヌへと伸ばそうと地面を引きずって少しずつ動かす。


 「クッ!流石に図体がデカいと押さえ込むのも苦労するわねッ!」

 「【黄昏】、感謝するわ。【憑影】、背中に掴まりなさい!」

 「ゲホッゴホッ!悪いな」


 アンシャトレーヌが完全に押さえ込もうと額に汗を浮かべて更に魔力を籠めている間に、紀矢子が孝義の下へと駆け寄って素早く腕を引っ張って背負うと、直ぐ様其の場から離脱する為に立ち上がる。


 其の場から離脱しようとした時、軽い地震を思わせる程に地面が大きく震え、尚も大きくなる振動と共に空の排水管に勢い良く水を流し込んだかの様な轟音を唸らせる何かが近付く音が聞こえる。


 死色の異形に集中しなければならないアンシャトレーヌを含めて音の発生源へと視線を向けた時、応急処置として複数の《障壁》で封じ込められていた【植物園】の大穴から、間欠泉の地熱で熱された熱湯の様に、恐らくは赤や黒、緑等の色が入り混じった何かが《障壁》を内側から容易く破って噴き出し、聳え立つ柱となって、勢いを無くした頂点から飛沫が重力に引かれて雨の様に周囲へと降り注いだ。


 全体的に見れば其の色を恐らく灰色と表現される色合いの噴き上がる柱から撒き散らされる飛沫に見える其れは、近付いて来るにつれて其れが人では無い何かの胎内から産まれる前の未成熟な奇形児の様な姿形をしている事が分かり、其れが地面にぶつかるとグシャリと卵を落とした様な水っぽい嫌な音を立てて脳漿や体液を傷口から流して、未熟な手脚や身体を弱々しく動かす。


 其れがゲリラ豪雨の雨粒の様に膨大な数が一斉に上空から降り注いで来た。大半はそのまま地面に打ち付けられて落下死するが、不運にも素肌が接触した者は其の箇所が腫れ上がり、引っ掛かったり組み付かれた者は、接触面が融ける様に崩れた奇形と其の部分が癒着してしまっていた。


 『【結界】や《障壁》を使用出来る者は周囲の仲間を集めて防御!!【黒曜の防砦】を含めた大規模の物質操作及び創造能力者、そして地形変化や鉱物操作能力者は直ちに屋根のある避難所を作成して下さいッ!!』


 混乱する現場一帯に【解析者アナライザー】の一声がインカム越しに広がり、即座に其れに従って辺りで【結界】や《障壁》を用いて時間を稼いでいる間に、次々と壁と天井だけの掘っ立て小屋やトーチカが作られて近くにいた職員達が其処へと避難する。


 降り注ぐ奇形児の雨の中を【童子切安綱】で最低限切り払いながら避難先を探して駆け抜けていた紀矢子は、奇形を撥ね飛ばして走り目の前に停車すると同時にドアをスライドさせて開いた装甲車の中へと飛び乗る。直ぐ後に死色の異形の拘束を諦めたアンシャトレーヌが乗車した瞬間にドアが閉められて急発進した装甲車の中で、紀矢子は隣の席に孝義を下ろしてから自身も倒れ込む様に座ると溜め息を吐く。


 「助かったわ」

 「いえ、ご無事で何よりです」

 「其れよりも急いで離れた方が良いわ。押さえる物が無くなったアレにひっくり返されるなんて御免だからね」

 「そうですね。合流地点に急ぎましょうか」


 運転手はワイパーを動かして窓に貼り付いた奇形の残骸を拭い取ると、視界がある内にアクセルを踏み込み装甲車を発進させる。紀矢子が其れを見極めようと絶え間なく降り注ぐ奇形を生産する灰色の柱に目を向けた時、噴き上がる柱の中程で黒い物が一瞬、横に広がる様に噴き出したかと思うと、夜天に一筋の斬撃が走った。

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