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99人目の女王・8

「さっきまで電車に乗ってたのに、異世界で女王とか、なんかラノベのファンタジーって感じだけど。

 でもいいわ、きっとあたしが選ばれたのも、何かの運命ってやつよね」


 少女は、さっきまでのどこか作り物めいた表情もどこへやら、頬を紅潮させて饒舌に語る。


「元の世界に、あたしは居ても邪魔なだけだったから。

 きっとこれから、凄い力に目覚めたりするんだわ。あ、でもハーレムは興味ないなあ。

 いっぱいのイケメンより、無条件にあたしを慕ってくれる子犬系美少年がひとりいたらいいかなあ……」

「確かに、凄いちからは預かってもらうことになるけれど」


 くすくすと笑う女王は、少女の事態への動じなさにも驚いていないようだった。

 ごろりと床の上で頭を転がして、ウィリアムは女王の側を見た。

 賢者が、ぐったりとした様子で椅子に座っている。

 ぎょっとして立ち上がったウィリアムに、さっきの少女が警戒心もあらわにして女王の後ろにその身を隠す。

 ウィリアムは苦い顔をする。警戒したいのはこっちの方だ。

 可能な限り少女から遠ざかるように配慮して、賢者へと声をかけた。


「ガストル様。どうかされたのですか」

「ああ……あまり気にせんでええ。さすがにこれだけ大きな術は疲れるというだけの話でな。

 それよりあの剣を、彼女に渡してくれんか」

「あの女性――新しい女王に、ですね」


 ウィリアムの確認は、大した意味を持っていないはずだった。

 しかし、ガストルはにやりと笑って答えない。

 引っかかるものを感じはしたが、特に気にもとめず、ウィリアムはその指示に従った。

 さっき、あのよくわからない空間の中で取り落とした宝剣は、ウィリアムが横たわっていた場所に転がっていた。

 それを拾い上げ、女王へと声をかける。

 ――極力、少女に近づかないようにしながら。


「陛下。先ほどの剣をお持ちしました」

「ありがとう。じゃあ、あなた……ええっと、お名前は?」

「葉月です。日本語で8月とか、秋の始まりとか、そういう意味の……そういえば、言葉、通じてる。召喚魔法の影響とか?」

「わたしも苦労したことがなかったから、きっとそうね。わたしはアメリカにいたのよ」


 女性二人の話が脱線しそうになったのを察してか、アデルバートが「おほん!」と咳払いした。


「あ、そうだったわね。

 葉月ちゃん、ちょっとこの剣を抜いてみてくれないかしら?」

「なんですか? これ。もしかして、王の剣とか、そういう」

「うふふ、話が早くて助かるわね。そうなのよ。この剣は女王にしか抜けないの」


 ウィリアムから受け取った剣の柄を、女王は葉月と名乗った少女に差し出す。

 葉月はそれに手をかけて、ぐっと引いた。

 引いた。

 もう一度引っ張った。


「……あれ?」


 抜けない。

 当然だ、とウィリアムは思った。

 誰かにしか抜けない剣などという妙な物があるものか。あれはどう考えても置物だ。


「ふ、んぬぬぬぬ……っ!」


 ムキになって顔を赤くするほど力を込めて剣を抜こうとする少女から、黙っていれば美少女のような気がしなくもないと言ってやらんでもない顔なのに、とか思いながらウィリアムはやや目をそらす。その先で、青い顔をした女王に気がついた。


「どうしましょう……女王の召喚は、失敗したの……?」


 よろめく女王の側で、少女はにわかに青褪めて表情を失った。

 否定を突きつけた剣の重さを今更知ったかのように葉月の手が震え、取り落とされた剣が鞘ごと床に落ちて高い音を響かせる。

 ――正直なことを言えば、ウィリアムはこの時、ほっとした。突然人のことをひっぱたくような彼女を女王と崇め、この先仕えるようにと言われるくらいだったら実家に帰って森の奥で弓を引く生活を選ぼうかとさえ悩み始めていたから。

 ともかくも、地面に落ちた剣をそのままには出来ない。膝をついて、石床を叩いた鞘を拾い上げる。

 それを手にした時、妙なことに気がついた。


「……?」


 最初、この剣はこんなに、軽かっただろうか?

 細身の剣だ。軽いのは確かだっただろうが、軽いと言っても所詮は金属塊。己の腰に下げた剣などとの比較でしかなかったはずだ。

 柄はこんなに、吸い付くような握りやすさをしていただろうか?

 嫌な予感がした。

 それでも、そうしないわけには行かないと、何かが心のなかでせっついてくる。

 ウィリアムは、その剣の柄を握りしめ、ぐっと力を込めた。


 白い鞘から、するりと刀身が現れた。

展開遅いですね。次は27日、月曜日。

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