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イズギタ村の子どもたち・3

 廃屋は、かつて子供二人が親とともに住んでいた家だと言う。

 二人の親は、もうだいぶ前に亡くなったらしい。

 今はどうしているのか、と聞けば、言葉を濁された。だが、かろうじて残るわずかな屋根の下に汚れた毛布が転がっている辺り、今もここで寝泊まりをしているのだろう。


「こんな、ちっちゃい子が……?」


 それに気がついた葉月は、信じられないと言いたげに首を振る。

 ウィリアムは屋内を見回し、ケンに顔を向けた。


「食事はどうしているんです」

「……おじさんとこで、わけてもらってる。はやいとこ、おれたちで作れるようにならなきゃ」

「でも……君たちまだ、子供でしょ?」


 意地か、独立心か。ケンの顔は悔しそうにも見える。

 それを早すぎると感じでもしたのだろうか、葉月がウィリアムの顔色をうかがっているのがわかった。

 ウィリアムは、ケンにもう一度、問いを投げた。


「君ひとりならともかく、メリーちゃんもいるのだから、もう少し大人を頼ってもいいと思いますけど」


 少年ひとりなら、そうない話でもないのだと、言外に含ませる。葉月はそれを理解したのか、ウィリアムからケンへと視線を移し、じっと黙りこむ。


「……おとなは今、じぶんたちのことで手一杯だよ」

「わるもの、ですか」


 確認するように声に出したウィリアムに、ケンは頷いて返す。

 だが、言葉は続かない。ケンは俯いて、口を開いては、閉じ、を繰り返す。

 どうしたものかな、と顎を撫でたウィリアムの横で、葉月が動いた。


「よっと。――悪者が、大人をいじめてるって、どうしてわかったの?」


 埃が舞う。スカートの裾をさばいて、葉月が床に腰を下ろしてしまったのだ。

 あぐらで。


「なにしてるんですか……」

「あなたもよ。座りなさい、ウィリアム。

 そうでなくても図体でかいんだから、子供怖がらせてどうするの」


 そう言われて、ウィリアムは雨風を防ぐ機能を失った元屋根を見上げる。

 ――崩れたのはいつ頃だろう。ひと月ふた月の話ではなさそうだ。すっかり端から朽ち始めているのだから。

 足元を見る。埃が積もっているところもあるし、土汚れがひどい。

 渋面で、断った。


「……いえ、私はこのままで」

「付き合い悪いやつー」


 葉月のブーイングを聞き流して、ウィリアムはケンの顔を見た。

 ――良し悪しはともかく、そうして明確にながっちりの姿勢を取られて少年も言葉にする覚悟ができたようだ。


「おじさんが、脅されてたんだ。洞窟で」

「洞窟? なんでそんなとこ」


 きょとんとして聞き返した葉月に、ケンはえっと、と詰まりながら返す。

 そうやってケンの話を聞いていくと、最近顔色が良くないおじを心配してついて行った先で、見覚えのない粗野な男たちと話をするのを目にしたようだった。


「たしか、『これがおかみにしられたらおまえたちもどうなるか、わかってるだろうな』……とか、いってたの」


 薄汚れた人形を使い、洞窟で聞いたのだろう言葉を再現するメリー。お人形遊びの一環のようにも見えるが、その人形に取らせる行動は、木切れを振り回して他の人形を叩く姿だ。その人形はだあれ、と葉月が聞けば、叩かれた方を指し「こっち、おじちゃん」と言うではないか。

 何が起こったのかは曖昧にしかわからなかったが、それでもわかることがある。

 この村の人々は、何かの共犯を強いられている。

 その状況で、軍務にあることが明確な服装の者が村を歩けば、警戒もするだろう。

 なるほどなと心中で納得していると、葉月が膝で立ち、ずりずりとケンに近寄った。


「な、なんだよ」


 なにごとかと身構えるケンの頭を、葉月は引っ掴むようにしてぐりぐりと撫でまわす。


「ふたりっきりで、不安だったでしょ。よくがんばったねー」

「やめろよ!」

「んー? 嫌ならあたしのことも、棒で殴ればいいんじゃない?」

「女だろ、できるかそんなこと」

「ほら、メリーちゃんもおいで。いいこ、いいこ」

「メリー、いいこ?」


 葉月はどこか不安そうなメリーを優しく抱きしめて、背中を軽く叩いた。

 あやすように、微笑みながら。


「うん、とってもいい子。……こわかったね。あとのことは、おねーちゃんに任せときなさい」

次は3日、水曜日。

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