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寄せ集め会議・5

 あれよあれよという間に、ウィリアムが国内をめぐることが決まってしまった。

 剣を抜けるのなら、それでかまわないとばかりに。

 ウィリアムの都合など、何一つ考慮されずに。

 ――まあ、構いやしないんですが。

 呆けたような表情で、まとめられた荷を前にしてウィリアムは思う。

 もともと食い扶持を減らすために仕官したのだから、己の身の振り方に希望や夢があったわけでもない。

 他人が、他人の都合で彼自身ウィリアムを出世させようが旅させることを決めようが、それに異論があるわけでもない。

 今や既に出発を目前にして、王宮の門前の広場(馬出し)にいる自分にも、特に疑問など持っていない。

 ただ問題があるとすれば。

 ウィリアムは横目で、馬車の側で荷の中身の説明を受けている葉月を見た。

 葉月は顔を合わせても、最低限の挨拶意外はウィリアムに対し無視を決め込んでいる。

 当然だ。

 あれから、謝る機会をつくれていない。

 正確にはそれをするだけの勇気が持てないまま、今に至っている。

 剣を抜くのに葉月が必要だということがわかった以上、葉月がウィリアムの旅に同行するのは確定事項だった。

 その結果、ふたりで各地をまわれという指示がくだされたのだ。

 表向きは『葉月が帰るのを護衛する』ことになっている。

 どうして少人数で旅をすることになるのかと、ウィリアムは一度、女王に問うた。

 せめて人数が多ければ、もう少し気の重さも紛れるだろうと。

 だが、答えはこうだ。


「多人数の護衛をつけたら、そこに新女王がいるって宣伝しているようなものでしょう?

 囮としてそういう隊も出すけど、あなたたちには極小人数で身軽に動いてもらいたいの」


 にべもなかった。

 葉月とウィリアムの間が執務室で話し合った時以来ぎこちないのも周知の事実だが、何があったのかを二人が黙っている以上、そのうちおさまるだろうとみなされているのも原因だろう。

 実際のところ、ウィリアムが自分から謝る以外、道がないのはわかっているのだ。

 ただ気が進まない、それだけのことでいつまでも居心地の悪い状態でいるわけにはいかないだけで。

 荷の確認は済んだらしく、小さな馬車の荷台に積み込まれる。

 ウィリアムはハーネスを己の馬に付けさせる。その間に、ここまで引き連れてきた厩番が馬の首をなでてウィリアムに笑いかけてきた。


「いい馬だ。どこで買ったんだ?」

「元は野生ですよ。荒れた馬でした」


 厩番は驚いていたが笑って誤魔化し、ウィリアムはその場を離れた。

 葉月が客車に手をかけているのを見て、意を決して声をかける。


「あの――」

「この間は、ごめんなさい」


 ためらいがちな言葉は、よどみなく発された声によって遮られる。

 謝罪とされるものを口にしていながら、葉月はあいかわらず表情のない顔でウィリアムを見ていた。


「ああするしかなかったんですよね。わかっていますから」


 目を見ないまま彼女はそう言い切ると、またウィリアムなどいないものとして扱うかのように客車に乗り込んだ。


「……絶対許してないですよねそれ……」


 どうしろっていうんだ。ウィリアムは頭を抱えながら馬の側に戻り、たてがみに顔をうずめた。

 毛が乱れるのを嫌がってか馬が首をゆっくりと振ったが、離してやらずにぐーっとしがみついてやると、そのうち馬がぶふー、と鼻息を大きく吐いた。諦めたのか、呆れたか。おおかたそのあたりだろう。

 そうしていると、ウィリアムの肩が後ろから叩かれた。


「もう荷物は全部載せたか?」

「ああ、それなら――って」


 ウィリアムは振り返ると、声の主に対し怪訝そうな顔をした。

 アデルバートが、荷物を手に立っていた。


「何をしてるんですか?」

「何って。身寄りをなくして俺を頼ってきた遠縁の女の子をひとりで返せと?」


 葉月の『設定』はそんなことになっていたのか。

 ウィリアムは今更ながらに、はあ、と気のない返事をしつつ、やがて意味がわかって目を剥いた。


「え。それは、つまり、え?」

「察しの悪い男だな、俺も行くと言ってるんだ」

「あ……わあ! ありがとう、アデルお兄ちゃん!」


 どさり、と自分の荷物を積み込むとアデルバートはひょいと客車に乗り込み席を陣取った。

 葉月も驚いた顔を浮かべていたが、どういう判断をしたのか、その『設定』に乗ったようだ。


「ということで、俺とこの子の護衛、頑張ってくれよ、ウィリアム君。

 それと、敬語はいらない。一応休暇扱いなんでね」

「わかり――わかった」


 腑に落ちないものを感じつつも、ウィリアムはそれに従って頷く。

 大仰に、かつ妙に嬉しそうにアデルバートが手を広げ、宣言する。


「さあ行くとしよう、当面の目的地は彼女の故郷だが――寄り道しながらの旅もおもしろそうだ!」


 万一、顔を知る者と妙な場所で出くわしても、これで言い訳が立つだろうと。

 そういう意図が見え隠れする言葉に、ウィリアムは苦笑を浮かべる。

 だが、葉月との二人旅を回避できたことは、本音で言うと少し、ありがたかった。

 ――それが、今朝の話だ。


 そして今。

 草原の中を通る一本の道を馬車が進んでいた。

 二頭立ての馬車の、一頭はウィリアムの、もう一頭はアデルバートの馬だ。

 アデルバートの馬は血統も悪くなく素直な良い馬だが、手に入れてから日が浅いらしいのだが、ウィリアムの馬が些か気が強いためぐいぐいと綱を引く。うまく手綱をとってやる必要がありそうだった。

 もうすぐ、最初に立ち寄りたい村が見えてくる頃だ。

 近づくに連れて晴れ間が、少しづつ雲に埋めて隠されていくのが見える。

 未だ、あのあたりは異変が続いているはずだ。

 気を引き締めないと、とは思いつつ、張り手の後がまだ少し赤いのだろうことに少しだけ憂鬱を感じながら、ウィリアムは前方に意識を向けた。

 腰に吊った、宝剣という形の貧乏くじがかたりと揺れた。

次は27日、水曜日(予定)

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