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寄せ集め会議・1

※15日正午頃、文中の日数を修正しました。

 近衛隊長が他国と通じていたことは秘され、ただ『長く続き、終わりの見えない異変に絶望して自害しようと火を放った狂人』として処理されることになった。ほぼ同時に王宮周辺の雲が晴れ異変が終わりを告げたことも、彼を哀れな人として実際に起きたことの追求を留めるに十分な効力があったのだろう。

 謁見の間に火を付けた行為は謀反にも近しいとして葬儀は許されず遺体も埋葬されなかったが、その実、遺体を晒さねばならないことを避けたのだとは、事情を知る者にはすぐに理解できた。隊長の息子はいくら最期がああだと言え長く仕えた国にこんな仕打ちを受けるとはと憤っていたそうだが――いつか彼ら遺族が事実を知れば、取り潰しを避けた女王の判断に感謝する日が来るかもしれない。

 酒に混入された薬も、しばらく目を覚まさない近衛が出るという被害はあったが、死者を出すことはなかった。

 謁見の間から逃亡した東国の男、ガンゲツに関しても、その姿を見た者は近衛の数名にとどまり、女王直々の緘口令が出たこともあって民の噂になる前に封じることが出来たようだ。

 慌ただしくはあったが、そうして他国の戦士が近衛隊長の手引きにより王宮の中枢へ乗り込んできた、などという不祥事はなかったことになったのだ。


「だいたいそんな感じね、こっちは。で、そっちはどう?」


 ジリアン女王は、そう言って執務室に呼び出したウィリアムを見た。

 あの襲撃の日から二日が過ぎた昼のことだ。瀕死の重傷を負った人間が動き回れるようになるには早過ぎる時間ではあったが、どういうわけか、ウィリアムの身体に大きな傷はない。一度は黒焦げになっていたはずの体も、である。あの炎が幻覚だったというわけでもないのは、身に付けていた服などが全て燃え尽きていたことからも確かなのだが。


「は……それが、相変わらずです」


 今、ウィリアムは上級近衛に支給される、白い塗装の金属で要所を覆った皮鎧を身に付けている。他の近衛たちからすれば異例の抜擢だったが、表向きは『近衛隊長が火を付けたのをいち早く発見した功績』ということになっている。

 事実は勿論、そうではない。

 あの日以来ふたたび、あの剣は誰にも抜けない置物へと戻っていた。

 ウィリアムの体も、男性のままだ。

 ――他の誰かに剣を抜くことができるかを試したほうが、良いかと思うのですが……。

 そう進言したことも、あるにはある。

 だが、その時の女王と賢者ガストルの生暖かいような、かわいそうなものを見たかのような妙な笑顔を思い返せばその選択肢が少なくとも二人にはないことがわかってしまって、なんだか心が乾いた気分になったのでそれ以来口にしていない。


「女王と認められた者にしか抜けない剣が、認められたはずの者にも抜けないなんて、由々しき事態だ」

「本音、絶対そこじゃないよね」


 アデルバートが大げさに嘆き、葉月がそれにツッコミを入れる。

 新たな女王として召喚されたはずがそうではなかった、という彼女の立場は色々と微妙なのだが、とりあえずは魔法省の出世頭であるアデルバートの親戚、という方便で通すことになったらしい。異性であるアデルバートの部屋に身を寄せるのは問題があるだろうということで、客人として女王が王宮の部屋を一室貸し与えると申し出た、という設定になっているのだとは女王自身から聞いた。

 葉月はどうもウィリアムに対して苦手意識を持っているようで、顔を合わせることがあってもあまり近寄ってこない。今も、アデルバートの横でへらへらと煽っているのだが、目が合うと引きつった笑顔で会釈だけ返される。

 ウィリアムの方でもわざわざ彼女に近づきたいとは思っていないので、別にいいのだが、なんだか釈然としなかった。


「ふむ……やはりうらないに頼る他、なさそうじゃな」


 賢者が、執務室の顔ぶれを見回して唸った。

 今室内にいるのは、召喚が行われた時と同じ面々だ。

 表向きの理由などを気にすることなく女王召喚の失敗について話し合うことが出来るのは、あの時その場に居合わせた者だけだろう、というのは五人の共通認識だった。


「今までにこういったことは、なかったんでしょうか」

「召喚した少女が剣を抜けなかったこと? 男の人が剣を抜いたこと? どっちも、伝わっていないわね」

「文献も調べさせてみたんじゃが、そもそも召喚した少女が女王にならなかったことがなかったようじゃの」


 呻くように問うたウィリアムに女王が、賢者が続けて返答するも、その内容はウィリアムにとって気落ちするものばかりだ。


「ま、もうちょい調べてはみるつもりじゃが……それより先に、対処せねばならん問題があるようじゃな」


 賢者が切り出した話に、アデルバートが頷いてそれを引き継ぐ。執務室の机の上に地図を広げ、少し何かを探すように辺りを見回すと棚に飾られていたチェスのような物の駒を持ち出してきた。


「ええ。……剣が抜かれたことで払われたはずの『異変』ですが、すべての地域で瘴気が消えたとは言えないようです」

「ん? それ、どういうこと?」


 葉月が身を乗り出して、駒をつつきながら首を傾げる。


「新しい女王が現れたら異変が終わる、とかいう話じゃなかった?」

「その通りのはずなんだけど。結局『新しい女王』はあの日短時間しか存在してないからじゃないかな」


 アデルバートが眉間にしわを寄せながら、ちらりとウィリアムを盗み見た。

 なんでお前男なんだよ。とか言われてないはずなのに聞こえた気がして、ウィリアムは遠い目をしたくなった。

 葉月に地図の見方を説明しつつ、アデルバートは現状の報告を始める。


「この場所……この地図は王宮中心に描かれてるんだ。これが王宮で……っと。王宮を中心とした円周状に、異変が消えたという報告があります。ある程度離れた距離……この辺りとか、あとは山や森が深いところなどを主として、異変が続いている、瘴気で家畜が変異した、などの報告が今も続いていますね」


 駒を置きながら続けられるアデルバートの説明を受ける女王の顔は、どことなく悲しそうだ。

 解決したと思った問題が、まだ残っている。その事実はどうしても憂鬱な空気とともに肩にのしかかってくるものだから、だろうか。

 だが。

 ウィリアムは疑問をいだく。

 そんな話なら、この小規模寄せ集め会議ではなく、もっと大きな議場で出てくるべき問題ではないだろうか?

 考えこむウィリアムに、賢者が片眉を跳ね上げて声をかけてきた。


「ウィリアム。何をぼーっとしておる。これはお主の話じゃぞ?」

次は18日、月曜日。(予定)

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