〈僕〉
リアンの「ラヴィッジを弱い核で復活させて殺す」という計画に、蘭は大反対のようで……。そして放たれる佐倉の疑問。それに対する答えは?
誰も何も言えなかった。世界の秘密を知ってしまった。佐倉は辛うじて正気を保っていたが、この世界の成り立ちに困惑すると同時に、現状の世界を深く恐れた。
リアンの述べた計画は、フォウの言う通りやはりリスクにまみれていると思った。博打だ。世界の命運を一か八かに賭けてしまっていいのだろうか。それを踏まえて、この二者択一をキクトに迫るつもりなのだろうか。
リアンにすべてを託して死ぬ覚悟で身体を破壊されるか、恒星会に託してコールドスリープに入って何万年も一人で眠るのか。
……あまりに、過酷な。どちらを選んでもキクトにとっては最悪の選択だ。
佐倉はキクトを思うと、やり切れない思いでいっぱいになった。しかし、どうしたらいいのかなど見当もつかない。ラヴィッジなるものの脅威を真の意味では誰も知らないのだ、ただ一人、それを経験したリアンを除いて。
黙っていると、蘭がふはっと笑った。乾いた笑いだ。
「……ははっ、なにそれ。リアンの言ってること、意味わからない。ラヴィッジを復活させるって? ……正気なん? ウチの一族でラヴィッジの災厄を経験した奴らの話、ウチだって色々聞いてる。それに近いものがまた起こるかもしれないってのに、リスク背負う意味がどこにあンの?
……リアンはさぁ、フォウの言った通り、自分の感情で動いてるよね。周りの感情なんてどうでもいいんだ。
ま、そうだよね。だってあんた、感情が全然ないもん。ラヴィッジを殺したいだけ、全部がそれだけだ。みんなにだって、興味ない。そりゃ千年も生きてりゃそうかもしれないけど、ウチらをリアンの復讐心に巻き込まないでよ。だってそんなの、自分勝手じゃん。リアン、あんたの欲望だけ。それに対して新人類は人類にとっての最善を用意する、これは絶対だよね。
ねえみんな、よく考えて。リアンの計画は、人類すべてはおろか多くの種が絶滅の危機に脅かされる。それに対して新人類が用意した計画は、キクト一人がコールドスリープに入れば終わる話だよ。
……迷うことないね」
蘭はどうやら、リアンの計画には反対のようだ。蘭の言葉にリアンは目の色一つ変えないが、キムはカッとなったのか勢いよく立ち上がって怒鳴った。
「蘭! あんた………」
「はは、キムはリアンに賛成なわけ? あんたさ、世界のために……キクトの代わりに死んでくれって言われてるようなもんなのに」
蘭の心ない言葉にキムは目を見開き一瞬で殴りかかったが、蘭はその場から少しも動かずにその腕を掴んで止めた。佐倉にはそれらの動作が速すぎて見えない。
キムは掴まれた右手の拳を強く握り締め、反対側の足で蹴り上げようとする。しかし、それも止められてしまう。
「ちょっと……、二人とも」
セリは困ったような、怒ったような微妙な言い方で制した。キムは舌打ちをして悔しそうに唇を噛んだ。
「……離して」
「先に殴ろうとしてきたのはどっちなのかなぁ」
蘭は妙にゆったりとした口調になる。気付けば蘭の目はまるで虫でも見るような、無機質な目になっている。光のない、感情を殺した目。佐倉は思わず叫ぶ。
「や、やめてよ! こんなことしたって、何にも解決しないわ」
「そーだよ、蘭。あんたの言い分もわかるけどさ。キクトがコールドスリープに入れば、ラヴィッジの脅威はなくなるの? 私にはそう思えないな。……もう、ラヴィッジを殺すしかない。ここまで来たら、みんなでやるしかないよ」
とセリも加勢して言う。蘭は目を細め、露骨に嫌そうな顔をした。
「はぁ〜。いやいや、ラヴィッジを今のウチらで殺せるなら、千年前にもうご先祖さまが殺してるって。それができなかったのは、ラヴィッジがそれだけヤバい奴だからでしょ」
「でも蘭、ラヴィッジが復活したら最後の一人まで戦えばいいとか言ってたじゃん」
「それはラヴィッジが復活したら、の話だよ。復活せずに平穏が続く方法があるなら、それをやらない手はないでしょ」
やれやれと言ったように手を離しながら蘭は言う。キムはすぐに蘭から離れ、警戒心を顕にしている。セリも段々と不機嫌そうな顔になってきた。
「それで、キクトを犠牲にするの? 呆れた、剣は人を守るためにとか言ってたのは全部嘘なんだね」
セリは鼻で笑いながら言う。蘭はその言葉が許せなかったのか、即座に立ち上がって言う。
「は、キクトはどちらにしたって犠牲になるでしょ。キクトはそういう存在なんだよ。どう足掻いたって、それは動かしようのない事実じゃん。っていうか、犠牲になるのは今の話だとキムでしょ。あんたらみんな、何言ってんの、キクトを生かすために他の人類が死ねってこと? ……ならウチは人類を守るために、今ここで剣を振るってもいいんだけど」
腰に提げた剣を握る。全員の顔が強ばった。一瞬で空気が凍る。蘭を制したのは意外なことに、DedのA―5038だった。
「ちょっとちょっと、落ち着いてくださいよ、今ここで決めることじゃないですから。ねっ蘭さん」
「ふーんだっ」
蘭はつまらなそうに剣から手を離す。凍てついた空気が一瞬で溶け出す。
いつの間に動いたのか、池の近くにいたDedの四人がこちらを取り囲んでいる。
「蘭、お前の言い分もわかる。だが、なんと言われようとオレはキクトを救いたい」
リアンは無表情のままそう告げた。蘭は腕を組んで黙り込んだ。集落の人間もそうだが、最終的にはリアンの意向に従うというのは、それだけリアンが絶対的な力を持っているということなのだろうか。すべてを破壊できるその手は、すべてのものを捻じ伏せてしまう。圧倒的な力の前に、人は屈する以外の何もできない。
話は終わったというように、キムを先頭に解散の流れになる。佐倉は思わず、ずっと自分の中で燻っていた疑問をぶつける。
「待って。リアンさん、最後にひとつだけ教えて」
皆が佐倉に注目する。佐倉は大きく息を吸ってから、一気に聞いた。
「今までの話だと、リアンさんはキクトと会うのは十七年ぶりだったということになるわ。……なのに、初めて会った時、どうしてキクトだってすぐにわかったの」
その質問にリアンの瞳が揺れた。隠していたのだ。佐倉は確信する。しかし予想に反して、リアンはすぐにその理由を告げた。
「……顔を見て、すぐにキクトだとわかった。キクトは、『ミミナシ様』と……つまり、オレの兄と同じ顔をしていたからな」




