第2話
読んで頂きありがとうございます!
拙い文章ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
‥‥いや、本当に何が起きたんだ?
俺、鍋でスープ作っただけなんだけど。
薬草と干し肉を煮込んで、湯気を立てて——それだけだ。
剣も振っていない。魔法も使っていない。攻撃らしい攻撃なんて、一切していない。
もう一度、自分の手のひらを見る。
お玉が一本。それだけ。
「え、もしかして鍋の中に毒草混ざってた?」
拾った薬草を思い返す。
……うん、たぶん普通のやつだったと思う。たぶん。
それはそれで怖いな。
でも、考えたところで答えが出る気がしない。
俺は鍋を覗き込む。スープはまだぐつぐつしていた。
香りは悪くない。むしろいい。
こんな美味しそうな香りが毒のはずが無いと思いたい。
でも、美味しそうな香りを放つ毒草もあるかもしれない。
‥‥‥‥。
「これ、食べられるのか?」
巨大な魔物の亡骸を前に、スープを見ながらそんなことを考えていた、その時。
「おいお前!!」
背後から、鋭い声が飛んできた。
咄嗟に振り返る。
すると木々の隙間から、数人の冒険者が飛び出してきた。
装備は本格的で、全員が武器に手をかけている。明らかに戦いに慣れた連中だ——なのに、俺の後ろに横たわる巨体を見た瞬間、全員が石になった。
全員目が見開かれ、口が半開きになる。
……え、なにその顔。
「な、なんで……“それ”が倒れてるんだ!?」
冒険者のリーダーらしき人物が魔物を指差しながら、声を震わせた。
「それって……これ?」
俺が背後の魔物を指差すと、冒険者たちは一斉に、ゆっくりと頷いた。
まるで夢でも見ているような、ぎこちない動きで。
そして、冒険者達の誰かが掠れた声で呟いた。
「……っ、嘘だろ……っ、これ、“黒瘴樹グレイブトレント”じゃないか……」
「ああ……間違いない。Aランクでも遭遇したら撤退を考えるっていう、あの……」
冒険者たちが、顔を見合わせる。全員の顔から血の気が引いていた。
「‥‥なんで街の近くの森にグレイブトレントが居るんだ?」
「そうだ‥!それに、誰だ……誰がやったんだ……?」
男がゆっくりと周囲を見回す。
深手を負った戦士の姿も、魔法の爆発痕も、血の跡すらない。
草一本、乱れていない。ただ静かな森と、横たわる巨体と——
鍋の傍に立っている、お玉を持った俺。
男の視線が、俺の上で一瞬止まった。
……が、すぐに外れた。
当然だ。どこをどう見ても、俺には戦った形跡がない。武器もない。鎧もない。
あるのはくたびれた旅装と、手に持ったお玉だけだ。
先頭の冒険者は俺に向かって口を開いた。
「おい、この魔物を倒した冒険者はどこに行ったんだ?」
「へ?」
倒した冒険者?
勝手に倒れたんだけど‥‥。
キョトンとする俺から視線を外すと、先頭の冒険者は仲間と話し始めた。
「……まだ近くにいるのか?」
「‥‥先を急いでたのか?」
冒険者達は皆周りを見回す。
「あの、」
俺は思わず声をかけた。
全員の視線が戻ってくる。
厳しい顔付きの冒険者達に、内心小さくなりつつも、俺は言葉を続けた。
「なんか……勝手に倒れました」
沈黙。
「……は?」
「俺がスープ作ってたら、なんか倒れたんですよね。弱ってたんですかね」
男の眉が、ゆっくりと上がった。
「……弱ってた?」
「そうじゃないと説明つかないんで」
また沈黙。
冒険者たちが、また顔を見合わせた。
今度は全員、何か言いたそうな顔をしていたが、誰も言葉を出せないでいた。
重い空気が、じわじわと俺にのしかかってくる。
……居たたまれない。
視線をどこに向ければいいかわからなくて、つい足元の魔物に目が落ちた。
改めてよく見ると、なかなかの体格だ。
素材として使える部位もありそうだし、売れば今夜の宿くらいにはなるかもしれない。
追放されたばかりの身としては、一文でも惜しい。
「えっと……これ、持って帰っていいですか?」
気づいたら口から出ていた。
「はぁ!?」
全員が、声を揃えて叫んだ。
鳥が数羽、驚いて木の上から飛び立つ。
「え?そんな高いの?」
「そんなレベルじゃねぇ!!」
男が頭を抱えた。
隣の冒険者は口をぱくぱくさせる。
一番後ろの小柄な一人は、なぜか膝に手をついていた。
……そんなに怒らなくても。
俺はもう一度、横たわる古木の魔物を見る。
怒ると言う事は、この魔物、低ランク過ぎて素材換金もして貰えないのか?
そうだよな。
ここは街近くの森の奥だしな。
低ランクの魔物しか居ないよな。
俺は逃げる事しか出来ないけどね!
そう考えていると、静かな女性の声が聞こえて来た。
「ねぇ、君。その鍋‥‥何が入ってるの?」
「へ?」
顔を上げると弓を背負った金髪エルフの女性が、こちらに歩み寄って来ていた。
腰まで届く金色の髪が、歩くたびに絹のようにサラサラと揺れる。
そしてその美貌。
彫刻みたいに整った顔立ち。すっと通った鼻筋、形の良い唇、そして——尖った耳の先が、髪の隙間からちらりと覗いていた。
流石、美形揃いと言われるエルフ族。
美形に近寄られると緊張で胸がドキドキする。
だがエルフの視線がロックオンしているのは、俺の顔では無かった。
足下の焚き火の上の‥‥鍋。
‥‥‥鍋!?
美形エルフがロックオンしてるの、俺じゃなくて鍋なの!?




