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荷台の男はと言うと
この荷台の男は名前をヴァキレンと言った。顔に痣をもつ赤子を見て、どうしようという気があった訳ではない。ラジェルネが気に入らなかった、それだけのこと。こう言うのが適切だろう。この、それなりに気品があって経済力がある様子で、きっと高い位の騎士かなんかみたいのが、こんな赤子を連れてなんとかしようなんて、そんなことがただただ癪に触った。どっかの愛人にでも作らせた子かなんかで、でもってこんな大きな痣が顔にあるから処分しようとでもしたのかと、そんな想像をするだけで腹立たしかった。
天涯孤独で育ってきた男が誰かと一緒に居たいなどと考えたことはなく、この赤子とだって長く一緒にいるつもりはないのだけれど、それでもあんなおっさんに処分されるのは気に食わない、そんな機会は俺様が奪ってやる。どうせ行き先だって定まらない俺だ。この子が野垂れ死んだって俺のせいでもあのおっさんのせいでも、ましてやこの御者のせいでもないけれど、いまはこの腕の中で安心して眠れよ。そんなことを考えながら、ヴァキレン自身もまた眠りに堕ちるのだった。




