5. 悲しいかな、これが現状
「起きたら自宅のお風呂の中でした……って、ならないのねえ」
私の願いむなしく、浅い眠りから覚めてもそこは薄暗い地下牢の中だった。
翌日の見張り番はあのヤンキーみたいなマクザで、彼曰く此処は落ちてきた咎人を一時的に入れておく牢屋なんだって。今日中に国王や宰相、国王を守る隊の隊長らが会議をして、異界人の処遇を決めるらしい。
だが肝心な時に、諸事情で国王が不在の為会議が長引いているのだとか。
「罪人は建築の肉体労働か水魚達便所の糞掃除かもな。娼館でも働けねぇし」
事あるごとに私を嗤う彼。
しかし、見た目もそうだが声色も発言も中学生の思春期のような言い方なので、彼の発言は私からすれば反抗期特有の面倒くさい絡みにしか聞こえない。
というか、息子の事が気になり過ぎてそれどころではないというのが本音である。
あの子、ちゃんと食べているのかしら……。
成人したって言っても、夜更かしばっかりしていたら体壊しちゃうから、しっかり寝てほしいけれど。
巣立ったと言っても息子は息子。
体を大事にしてほしい。
「オイ、聞いてンのかコラァ!」
「あーハイハイ聞いてるわよ。労働? 上等じゃあないのやってやるわよ」
こちとら寝る間も惜しんで昼間は工場勤務、夜は道路の交通整備やコンビニバイト、更に内職までやってきたのだ。今更仕事内容で文句を言う事もない。というか、永住する気なんて私にはサラサラない。
「ねぇ、此処から元の世界に戻る事ってないの?」
「あるわけねぇだろ。向こうでは死んだ事になってからこっちに来るんだからよ。っていうか敬語を使えよ罪人がぁ!」
「きゃあっ」
鉄格子の隙間からヒレの部分を槍で突かれて、私の鱗から血が出る。
暴力反対よこのヤンキー思春期人魚!
鱗が黒なのでわかりづらいけれど、痛いものは痛いわ!
私の態度が相当気に入らないのか、マクザは事あるごとに私を槍でつついた。何度も刺されるうちにもう慣れてしまい、子供が癇癪を起こして暴れるようなものだと放っておいたのだ。
……ん? 待って今さらっと大事な事言わなかった?
「死んだ事になってる……?」
となると、私はお風呂で溺死したと言う事になるの⁉
水死体って、めちゃくちゃ膨れて別人みたいになるんだよね? その悲惨な姿で綾人に引き取られる?
いやよそれ絶対! それにまだ、やり残した事めちゃくちゃあるし!
第一、この体、私の体って感じしないし。
痛みも感触も確かにあるが、どうもしっくりと来ないのは元々が人間だからかな……。
魚特有の、締まった体にびっしり生えた鱗はランプの光で黒光りし、なんだかパリコレモデルが着るようなドレスみたい。
ヒレを軽く動かせば立ったり移動したりできるけれど、それも慣れそうにないなあ。
今の私には何かできる事も、どうもすることもできないので、暫く壁に寄りかかってぼーっとする。
考えてみると、不思議な事はいくつもある。
魚ってエラ呼吸だよね? 私が今こうして普通に呼吸できているという事は、私の体が鼻呼吸ではなくエラ呼吸に変化したという事なの?
それに水の中でランプが点くのも変だなあと思っていると、ガチャリと音がして扉が開くと同時に、あのイケオジ人魚が現れたのだ。
「ギース隊長!」
マクザが声を上げる。
ギース隊長は足早に私の牢屋の前に来て、見張り番の彼に鍵を開けるように指示をした。
「え、何言っているんですか! 咎人ですよ危険です!」
その発言した直後、ギース隊長は鋭い目でマクザを睨みつけた。




