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2.海の中ですか?

 


 ばしゃりとお湯のコーティングが弾けたような衝撃が体に走り、目を開いた私が見たものは……。




「なに、ここは……」



 絵画でしか見た事のないような、神秘的な世界だった。


 どこまでも続く深い青と、砂の地面に生えた色とりどりの珊瑚や海藻。海藻がユラユラと揺れるわりに、私の頬に全くと言っていいほど風が当たらない。


「……うそ、まさか海の中じゃあないよね?」 


 目に見えるものだけを見て判断すれば、ここは海の中だと思う。

 だってね、この景色は昔綾人と良く見た青いネコ型ロボットが眼鏡の少年とひみつ道具で問題を解決するあの国民的アニメの、四駆の車に乗り海底に冒険に行った映画の海底の映像に、非常に酷似していたのよ。


 更に驚いたのは、「そこの者、こちらを向け」と声を掛けられ振り向いた先にいた者達の姿。


「わあお」


 年甲斐もなく変な声出ちゃったよ。

 人魚、といえばいい? いや、限りなく人魚なのだけれど、いきなりのファンタジックな世界に頭がパンクしそうよ!



 声を掛けてきた人は人間に近い頭部と顔つきだけれど、鎖骨から下にかけてビッシリと鱗に覆われている。


 人間と同じ上半身には西洋騎士のような甲冑を身に着け、二本の足はなく、絵本で見た人魚そのものだった。

 歳はまだ十代半ばかな……逆立って燃えるような赤い髪と切れ長の瞳、鱗まで真っ赤だ。

 その人魚はいつの間にか私を囲うように仲間を呼び、十人程の人魚が皆長い爪をした指に槍のようなものを握りしめ、ギラリと鋭い視線をこちらに向けている。


「すっごい、ファンタジーな夢……」


 まさかこの歳になってこんなファンシーな夢を見るとは思わなかった。仕事と育児に追われて禄に夢も見ず寝落ちしていた時の反動かな。


 私がぼんやりしていると、その赤い髪の人魚がチッと舌打ちした。


「いいか、偽りなく答えろ。お前は何の罪を犯して此処に来た」

「罪? どういう事ですか?」


 見た目はめちゃくちゃファンタジックなのに日本語喋っている人魚。夢だからそうなっているのかな。というか、罪って何よ?

 私が首を傾げていると、真っ赤な人魚は更に苛立ったように問い詰める。


「惚けるな! お前は異界で罪を働いてこちらに来たのだろう!」


 おお! この勢いはまさにヤンキーだ!


 若い男の声で怒鳴る人魚を、ヤンキー人魚と呼びたい。

 でも今はそれどころではない。


「んんん? どういうこと?」


 全くもって身に覚えがない私は曖昧な返事をした。

 いやだって、なんで夢の中でこんなわけわからん人魚に尋問されているの? さっきまで良い気分でお風呂に入っていたのにこんな事になっているのか全く意味がわからない。


 私はきっと浴槽内で眠りこけている。

 早く起きなきゃ。

 折角今日のために用意した、リッチでプレミアムなビールが堪能できないじゃない。


「ちょっと、起きて、起きてよ私!」


 ペチペチと頬を叩いたり抓ったりしても、全く景色も意識も変わらない。って、あれ?


「なに、この爪……」


 先程抓った時、妙な違和感。ゆっくりと視線を下に落とした。そしてその時見た自分の姿に、私は「えええ!」と飛び上がらんばかりに驚いた。


「なにこれ! なんで私も人魚になっているの!」


 下を向いた時に見た自分の体に衣類はなく、代わりにビッシリと黒の鱗が生えていたのだ。

 首から下、ブラジャーをする部分には鱗はないが、運良くも腰まで伸ばした髪が張り付いて髪ブラ状態になって胸は見えていなかったが、私は慌てて両腕で胸を隠した。

 腹部から下は鱗、というかその下……大腿部から下は魚の形になっていて、そこも黒の鱗で覆われていた。

 てっきり横座りをしているものだと思っていた私はなんか変な座り方で……完全に人魚と化していたのだ。


「攻撃をしかけるつもりか!」


 両手を胸の前で組む行為をした瞬間、人魚の空気が一変した。

 皆一斉に槍を構えて、私を睨む。


「手を下ろせ! 今すぐにだ!」

「はあ? 自分の胸が晒されているのに隠さないわけにいかないでしょうが!」


「アンタ馬鹿ぁ⁉」と某朱色長髪の女の子のように言い放つと、ヤンキー人魚は声を荒げて槍を近付けてくる。


 その時、低いバリトンボイスが聞こえた。



「手荒な真似はよせ」


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