3.イケオジ人魚登場!
人魚達がさっと道を開ける。
あ、移動はヒレを左右に動かすのか。まっすぐ立っているようで、ヒレは反っているのね。
地面にヒレが付いていないという事は、ここはやっぱり水の中なの?
私の脳内は疑問で一杯になる。
道を開けた先からずいと身を乗り出したのは、先程の人魚の倍以上の胸板がある、鮮やかなオレンジ色の髪と鱗を持つ筋骨隆々の人魚……。
いやシブッ! めっちゃイケオジ!!!
あの騒いでいる人魚よりも年上なこのイケオジは、日本人にはない海外俳優のようなムキムキの筋肉と色気を持つ人魚で、筋肉フェチかつイケオジ好きな私にはドンピシャ好みだ。
うん、目尻にあるシワすらも色気を感じる。歳、同じくらいかな? あーあの胸板最高!!
日本ではまずお目にかかれない筋骨隆々の色気あるイケオジが目の前に現れ、私は年甲斐もなく見入ってしまった。
私の視線が痛いのか、その人魚もこちらをじっと見つめた後私より先に視線を逸らす。
すみません、見すぎました。だってカッコイイんだもん。
「ンン」
イケオジが姿勢を正し咳払いをする。
「私は此処、カンシーラ国の国境を警護する国境守備隊の者だ。部下の、突然の無礼をお詫びする」
頭を下げる人魚に、無意識に私も座ったまま頭を下げた。
ヤバイ、声もダンディボイス過ぎる。
「この地に来た時のことを、覚えているだろうか?」
イケオジはわざわざ私と目線を合わせるため体をかがめてくれた! 紳士過ぎて、あのヤンキー人魚とは雲泥の差だ。
私は拙いながらも、ここに来た経緯を説明した。
「本当に、入浴中にうたた寝して、気づいたらここに来ていたんです。子供が読むラノベ小説じゃああるまいし……」
ここまで話して、私は胸の奥が冷え込むような感覚に襲われた。
まさか本当に自分が、息子の部屋に置いてあったファンタジー小説の中に来てしまったのかと思ってしまう。
「……まずは、私の話を聞いてくれ」
そう言って、イケオジ人魚は語り出した。
此処は海底にある人魚の国、カンシーラ。
この地には数年に一度、異界人が落ちてくるのだという。その者の前世が何であれ、此処に落ちてくると皆この姿になっているらしい。
言語が日本語……自身の母国語に聞こえて喋れるのは、所謂脳内補完というやつで、実際私はこの国の言葉で話しているという。
そして前世にどんな行いをしたのかは、鱗の色でわかるらしく、それによってここでの生活がほぼ決定するんだって。
鱗の色は色が薄ければ薄い程徳を積んだ偉い者で、カンシーラの都市部にある高級住宅地に住み、この国でも医師、技術者、教育職など地位の高い職につけるみたい。
実際、たくさんの人の命を救った戦場医がこの国に落とされ、本人の希望で医者をしているらしい。
逆に、濃い場合は罪を犯した罪人が多く、都心から遠く離れた僻地の、厳しい環境下での強制労働を強いられるそうだ。ここカンシーラは長い間そうして異界人の住み分けをしているらしい。
ちなみに、このイケオジの名前はギースで、国境守備隊の隊長をしているそうだ。
そして私が落ちた地はぎりぎりカンシーラ国だったので、ギース隊長率いるこの隊員達が私を保護もしくは捕獲しようとして来たそう。
今の説明を聞いて、私は自身の体を再度見る。
「て、ことは……」
「貴方の鱗は紛れもない黒だ。それは即ち、咎人としての扱いになる」
その言葉に、私は勢いよく立ち上がった。
足はないので、立ち泳ぎのような姿勢だが。
「待ってよ、私そんな事してない! 息子と二人、ただ平凡に暮らしていただけなの!」
必死に訴える私に、イケオジのギース隊長は複雑そうな顔をする。
だって、信じられる?
突然謎の、アニメでしか見た事のないファンタジックな世界に落とされて自分も人魚にされて、更に魚だか人間だかわからない生き物に問い詰められその挙句鱗の色でその先の事が決まるなんて。
夢じゃあなくても猛反発するわ!
しかし隊長の後ろに控えていた、先程から盛んにキレている赤い人魚は「煩いぞ女! とにかくお前は牢獄行きだ!」と槍の先で脅してきた。
……あのさ、アンタがいくら若いからって、槍の先端を向けるな粋がりヤンキーめ! その暴走族みたいな赤毛と特攻服カラー鱗が似合いすぎて本家もびっくりよ! 礼儀を覚えろ! そもそも私は罪人じゃあないわ!
すっごく腹が立ったけれど、ここで言い返したら彼と同じ土俵に立つようで悔しいから言わない。
深紅の鱗に燃えるような赤毛を逆立て、目じりを吊り上げる若い人魚に心の中で文句を言っていると、ギース隊長が手でヤンキー人魚の槍を制した。
「マクザ、いい加減にしろ。まだ何も分からない異界人に、乱暴はするな。私達が野蛮な種族だと思われるだろう」
「ですが隊長、コイツの正体はこの鱗が物語っているでしょう!」
「落ち着け」
吠える仔犬を親犬がたしなめるように、彼はヤンキー人魚を諭す。
「レイズ。ライズと共に異界人を地下へ連れて行くように。くれぐれも、手荒な真似はするなよ」
「「はっ」」
「チッ」
呼ばれた人魚ふたり(二匹?)はすっと前に出て、同時に返事をした。
深緑色の髪と鱗をした人魚の顔はよく似ていているから、双子かな。赤い人魚のマクザと違って、クリッとした丸い翡翠色の瞳と細い体はまるでアイドルみたい。
その美青年ふたりに両脇を抱えられて連行される時、触れた体は吃驚するほど冷たくて私は物凄く驚いた。
魚だからって事? じゃあ私もずっとこの姿なの? ああもう、色々聞いたり体を触って確かめたいのに、拘束されていて何も出来ないじゃない!
でも抵抗したら、この尖った矢で刺されるとか? こわっ。
小心者の私は、なすすべなく同行したのだった。




