10. 私にできること
「国王様、特殊能力はどうやって発動させるのですか?」
「患部に手を置いて、治れって念じればいいよ。今までは誤った鱗の色のせいで、能力が隠されていたのかもしれないね。やってごらん」
促され、私はヒレにそっと手を当てて「治れ」と念じた。
すると、瞬く間に私の傷はなくなり、つるりとした綺麗な鱗になったのだ。
「わーすごい! これ、シミやシワにも効果ないかな? 本当にアイツらいらなくて……」
「あら、若い乙女のお顔にそんなものはありませんわ」
ホホ、と微笑む王妃。お世辞が上手だわ。
「いやいや、私四十にもなるんだからシミもシワもいっぱいですよぉ。毎年コンシーラーで隠す範囲が多くなっちゃって」
自虐的に言うと、国王も王妃、更にギース隊長までもきょとんとした表情になった。
え、その顔何?
「……姿見を、こちらに」
王妃が言い終える前に、家臣によって用意された姿見。
そういえばずっと自分の顔見てないな。スキンケアとか全然してないからボロボロになっていたら笑えないよ。
そう思って覗き込み、私は卒倒しかけた。
なんとそこには、色白の肌にパールホワイトの髪と光り輝く鱗を身に纏った、二十歳そこそこの女の子が映っていたのだから。
「えーーー! どういう事⁉」
驚きとともに、鏡にかじりつく。近くで見るとよりいっそう白く、顔に触れると頬は陶器のように滑らかだった。
瞳の色と顔の輪郭やパーツは変わっておらず、あのお気に入りの瞳はそのままだったが、それが余計に白い体を印象強くさせている。
「鱗以外、落ちてきた姿のままなんだけれど、もしかして変わったの?」
国王に言われ、私は頷いた。
王妃曰く、ここに落ちる時も何らかの特殊な力が働いたのかもしれないというが、わからないらしい。
「皆の者聞きなさい。この者は罪人などではなく、この国を御守りしてくださる特別な力を持ったお方です! 以後言動に気をつけるように!」
王妃が力強く言うと、ギース隊長含む周りの人魚達がザ・軍隊の返事をした。統率力半端ない。
その後、私は国王と王妃と今後について話し合う為他の人魚達を外に出して部屋で話し合った。
「癒しの力には身体に持つ気……魔力を使いますから、あまり頻繁に使うとお身体を壊すことになります」
「魔力、かあ。私は今どれくらいあるかわかりますか?」
「チヅル様は生前に大変徳を積んだ御方なので、その量は膨大です。私と共に訓練して、適正な量を出せるようにしていきましょう。そして、厚かましいお願いなのですが、国王と私、そしてチヅル様に我が国カンシーラを御守りして欲しいのです」
「御守り? 戦争か何か起こるんですか?」
不穏な言葉に、私は思わず聞き返した。
「今すぐにではありませんが、何か不吉な予感がするのです。チヅル様には専用の屋敷を建設し、食事も衣類も不自由させません。チヅル様の要望は全て聞き入れますので、お願い致します」
国王共々、深く頭を下げられ私は焦った。
よく考えたらこんなの、日本の天皇陛下と皇后様に頭を下げられているようなものじゃないの。
いや、私全然そんな大した事してないし徳積んだ覚えがないんだけど!
必死に子育てと仕事しかしてないから!
「あ、頭を上げてください! どのみち私はもう帰れないですし、衣食住をお約束してくれるのであれば私としても願ったり叶ったりです。強制労働とかじゃないのは有難いですし」
「強制労働など以ての外です! 貴女様は自由にしていて構わないのですよ」
若干青くなった王妃の顔に「じょ、冗談ですよ〜」と笑ったが、二人の目は真剣だった。
かくして私は、このカンシーラ王国で暮らすこととなった。
子育てが終わって、プレミアムビールを飲む暇のないまま一生縁がないと思っていたメルヘンでファンタジーな世界に飛び込んでしまったのだった。
でも悲観しても仕方がない。
せっかく若い体になって特殊能力まで手に入れたんだもん、この世界を謳歌してやろうじゃあないの!
綾人! そっちは元気にやってる?
お母さん、カンシーラ国で第二の人生始めます!
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