11. 新生活スタート!
綾人、おはよう。
もう朝ごはんは食べましたか?
お母さんは今、地底国カンシーラでモーニングコーヒーならぬ、海藻汁と新鮮な海藻サラダ、そして青魚の姿焼きを人魚の王様夫妻と共に食しています。
「母さん頭大丈夫?」
うん。我が息子が顔をしかめて言いそうな台詞を容易に想像できる。
でもね、綾人。これ全て、現実なの。
「食事、口に合わなかったかい?」
「シェフに作り直すよう言いつけましょうか?」
「あっ大丈夫です美味しいです! ちょっと考え事していて……」
国王夫妻に心配され、慌てて言い訳した。いかんいかん、感傷に浸ってどうする。
私こと斉藤ちづるは、数日前息子の巣立ちを見届けた後、入浴でうっかり死んでしまいカンシーラ国に落とされた。どういうシステムかはわからないが、死んだ体はそのまま浴室に置かれ、分身のように切り離されたもうひとつの体はこの地へ落ちる前に人魚にされてこの地へ送られる。
王妃によって鱗の色を決められるのだけど、私の場合手違いで一度黒にされ、今は当初の予定でパールホワイトとなった。
でも、一番吃驚したのは、見た目が若返った事よ!
皆の前でも絶叫したけれど、その後案内された豪華絢爛な部屋に移動し、休もうとこれまたキングサイズのベッド付近に置かれた、全身が映る鏡を見て再度吃驚したよ。
今までのエイジングケアがまるっきり無駄になりそうな、つるつるな肌にくっきり二重の瞳。体の鱗が白く光沢があるせいか余計に若く見えて、下手すれば十代でも通るかもしれない。
髪の毛も白いけれど、顔が若いからか白髪に見えないのが不思議だわ。ホントに凄い……。
あの一件で私は、大変貴重な鱗を持つ私は国賓扱いとなり、今はこの夫妻が暮らす赤い城の一室で暮らすようになったの。
それも、めちゃくちゃ豪華な部屋。自宅のアパートが物置に見えるくらい、内装もザ・中華の王室って感じ。
お高そうな絨毯とカーテンがあしらわれた煌びやかで、トイレとお風呂もついてめちゃくちゃ良い。良すぎる。
ホテルのスイートより良いんじゃない? 泊まった事ないけれど。
ぶっちゃけ、私はどこかのアパートでもなんでもいいので静かに暮らしていければいいかなと思っていたけれど、国王夫妻もといギース隊長にも止められた為、このお城に身を置く事にしたの。
そして一夜明けた今日の朝、こうして国王夫妻と朝食を共にしているのだけれど、そのメニューがザ・海鮮メニューなの。
というか、人魚なのに魚食べるって、「共食いにならない?」って思うでしょ?
ところがどっこい、人魚と魚は進化の過程で全く別物になっているらしく、皆普通に食しているのだそう。
ところ変われば文化も違うとはよく言ったもので、私も良くわからないがおなかが減っていたという事もあって食べた。
姿焼きは、めちゃくちゃ肉厚あって美味しかった。
「あの、私は具体的に何をすればいいんですか?」
食事を終えたタイミングで、王妃に尋ねた。昨日はたっぷり寝たし、現状把握もだいぶできた。脅威は今のところないというけれど、タダ飯食らいはしたくないから働きたい。
王妃様は口元を布ナフキンで丁寧に拭うと、まず私に此処カンシーラ国での生活に慣れてほしいとの事だった。
「昨日も申し上げた通り、脅威となるものが襲ってくる事はまだ先になりそうです。その前に、チヅル様にはこの国を知り、生活に慣れて頂きたいのです」
「市街に出ても良いという事ですか?」
「勿論ですわ。護衛をお付けしますので、ご自由に散策くださいませ」
にこやかにそう言われると、王妃の横ですやすやと眠っていた赤ちゃんが起き、ふええと泣き出した。
「あら起きたのね」
「失礼致します」と言って、王妃が赤ちゃんを抱えて席を外す。
王妃って、自分の子は乳母に預けるものだと思っていたけれど、この王妃様は常に自分が世話をしているみたい。王様も、忙しい合間を縫って子育てに参加しているようだし、この国はそういう文化なのかな。
……なんか、日本の皇室と似てて親近感が沸くなあ。
それに、王妃自らおむつを替えたりするのってなんかいいな。




