81 従者の秘密
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「ノクスさんが……カルミノード王国の第一王子……!?」
(聞き間違いよね……!? たしかにノクスさんと殿下がちょっと似てるって思ったことあるけど……! そういえばノクスさん、殿下のこと呼び捨てにしてたけど……! いやでもまさかそんな……)
わずかな勘違いの可能性にかけてカレンディア様を見ると、彼女はにこやかにうなずいている。その澄んだ瞳は本気だと告げていた。
「さっき『カナン殿下のルートを攻略していないでしょ?』って聞いたわよね。貴方は殿下と一緒にいるノクスを見ても何の反応もしなかった。攻略していればあの二人の対立を見て、戸惑うのが普通よ。貴方嘘が苦手そうだし……本当に知らないんだなって思ったの」
(ほ、ほんとなんだ……)
――そこから語られたのは、ノクスさんの正体とカレンディア様の過去だった。
「ノクスはね、カナン殿下の腹違いの兄なの。当時の王妃はノクスが生まれてすぐに亡くなり……次に王妃となったカナン殿下のお母様とカナン殿下と幼少期を過ごした。でも……」
カレンディア様は言葉を詰まらせ、わずかに眉を寄せる。
「ゲームの中で、ノクスが十歳だったかしら……たまたま一人で乗っていた馬車が何者かに襲われる。運良く逃げ出せたけれど、そのときのショックでノクスは記憶を失うの。自分が何者かもわからず、長い間あてもなくさまよい続けて……ノクスが公爵家に拾われ、わたくしの従者になるのは十二歳のころよ……今考えると、ひどい設定よね」
「十二歳!?」
それだとノクスさんは二年間もさまよい続けたことになる。しかも幼い子どもが……。
絶句する私を見て、カレンディア様はうっすらと微笑みを浮かべながら口を開く。
「ここからはゲームでは語られない、今世の話よ。そもそも幼いころ、記憶喪失だったノクスを拾ったのはわたくしなの」
カレンディア様は遠くを見つめ、目を細めた。
初恋の思い出を語る少女のような愛らしい表情に、思わずどきりとする。
「わたくしが十歳のとき、レオシード様との婚約が決まって、初めての顔合わせで王城に出かけた帰りだった。流行り風邪で力尽きて倒れているノクスを、家の門の前で見つけたの。それを見た瞬間に……すべてを思い出したわ」
カレンディア様は視線を目の前に戻し、熱を帯びた瞳で私を見つめた。
「同時に神が与えてくださったチャンスだとわかった。大好きだったのに……絶対に攻略ができなかった最推しを攻略できるチャンス。ノクスを拾ったあとは惜しみなく愛を注いで育てたわ。今ではすっかり忠犬……愛と忠誠を誓う、わたくしの半身なの」
うっとりとした表情で語る彼女を見て、ようやくつながった。
(ノクスさんのカレンディア様への愛はわかっていたけど、カレンディア様もノクスさんを推してたのか……しかも本気のやつ……)
だからカレンディア様はハルジュ様に仮の婚約をもちかけた。ノクスさん以外と結婚する気がなかったから……。
私たちはどちらも攻略対象ではない人を推していたのだ。愛し方はだいぶ違いそうだけど……そこに触れてはいけない気がした。
(……でも待って)
ノクスさんのことを見つけた時点で、カレンディア様は王太子殿下との婚約が決まっている。どうやって回避しようとしていたのだろうか。
私はすっかりカレンディア様の話に引き込まれていた。
カレンディア様はふわりと微笑んで話の続きを始めた。
「わたくしがノクスと結ばれるには二つの障害があったの。一つはレオシード様との婚約、もう一つは……ノクスとの身分の差よ」
――カレンディア様はこの障害を乗り越えるために計画を立てた。
ノクスさんとの身分差を失くすには、彼が記憶を取り戻し、カルミノード王国の王族に復帰する必要がある。
だからカレンディア様が王城で王族教育や作法のレッスンを受けるときは、常にノクスさんを側に置いて一緒に受けさせたそうだ。将来、王族としてノクスさんを復帰させるために……。
その一方で……王太子殿下との婚約破棄の問題が立ちはだかる。
「この世界が、貴方がヒロインの本編なのか、わたくしがヒロインのざまぁルートなのかわからなかった。本編だったとしても、ヒロインと対立するつもりはなかった。そんなことをしたら、わたくしは断罪されてノクスと離れ離れになる可能性が高いもの……だからよくある悪役令嬢の転生ものみたいに、おとなしくしていて様子を見ようと思ったの」
カレンディア様は「でもね……」と笑みを深めた。
「神は再びチャンスをくださった。十五歳の覚醒の儀で、わたくしはざまぁルートを確定させることに成功したの」
「……え?」
(ざまぁルートを確定させた……?)
「勝手なことをしてごめんなさい。あのときはそれしか思いつかなくて……ノクスと離れないために必死だったの。貴方が破滅するルートだってわかっていたのにね……」
カレンディア様が肩を落とす。私は何も言わずに首を横に振った。
本編で悪役令嬢の相方であるノクスさんは、断罪後に行方不明になってしまう。ノクスさんを救うため、カレンディア様がざまぁルートを選択するのは当然のことだった。それよりも……。
「いったいどうやって、ざまぁルートに入ったんですか……?」
この世界は決められた運命に従って動いていると思っていた。自分が回避できなかったからだ。
でもカレンディア様は、自分で運命を選んだ……?
カレンディア様と視線がぶつかった。彼女は首を少し傾けて、上目遣いでこちらをのぞき込む。
「覚醒の儀で使う道具……聖具の形って覚えてる?」
「聖具……ですか?」
唐突な質問に、私もつられて首を傾げる。
たしか……白い石板の真ん中に聖言が現れるガラスのような板がはめ込まれていて……
左側に十字形の装飾があって、右側は上下左右に四つのボタンのような丸い装飾が配置されてて……
さらには両手で動かせと言わんばかりの、操作スティックのようなものが――
(――あ)
「携帯ゲーム機じゃん……」
思わず前世の口調で呆然と呟いていた。
私を見たカレンディア様が「そのとおり」と口元を吊り上げる。
「それに気がついたわたくしは、ゲームの中でざまぁルートを開放するための条件……隠しコマンドを入力したの。いちかばちかの行動だったわ」
(そんなゲーム要素、前世の記憶があったからって……この世界でコマンド入力まで試す人、なかなかいないんじゃあ……)
ノクスさんを救うため、迷わず行動を起こしたカレンディア様。彼女の執念ともいえる強い想いに鳥肌が立つ。
そんなカレンディア様の空色の瞳がきらめいた。
「その結果——わたくしはヒロインの力……『癒しの聖術』を覚醒したの」
「ええぇ!?」
カレンディア様は、神託によって癒しの力に目覚めたんじゃなかったの……!?
明日から朝晩二回投稿に戻ります!




