7 聖女の取り調べ【ハルジュ】
第一章 ラストです
<ハルジュ視点>
リナリエ嬢を客間に送り届けてから王城の自室に戻り、今朝の新聞に目を通してため息をついた。
彼女について、想像以上に派手に書かれてしまっている。
(……これは一刻も早く王都を離れたがいいだろう)
私は辺境騎士団とともに辺境へ向かう準備を始めた。
昼前に兄からの呼び出しがあり、国王の執務室で公爵との話し合いについての報告を受けた。
「思った以上に搾り取られてしまったな……」
「娘を溺愛しているあの公爵相手だ。覚悟はできていたんだろう?」
「ははは……カレンディア嬢の長年に渡る王家への献身に対する慰謝料として、王領の一部割譲と公爵家が持つ一部の交易ルートの関税免除か……」
普段は温厚な公爵の唯一の逆鱗。それが家族だ。
あの公爵を怒らせてそれだけで済んだのなら、兄は公爵とうまく折り合いをつけたんだろう。
「あとはカレンディアの婚姻については一切の口出しを禁ずる、か。本人からの条件だっけ? まあこればかりはしかたないよね」
私が言うと、兄は心底残念そうにため息をついた。
「本音を言えば国内の貴族に嫁いでほしいのだが……本人が他国からの求婚にうなずいてしまえば受け入れるしかない。あれほどの逸材を外に出してしまうのは惜しい」
カレンディアは淑女としての品位、王族としての政務の才能、領地経営の才能……すべてを兼ね備えている。
さらにはあらゆる毒を無効化する『解毒の聖術』の使い手でもある。
国内だけでなく、どこの国も喉から手が出るほどに欲しい人材だろう。
そんな逸材を手放してしまったレオシードは本当に残念としか言いようがない。
廃太子となった彼はしばらくの間、王領にある保養地での療養が決まった。
「ハルジュ、幼なじみのお前がカレンディア嬢に求婚したらどうだ。昔から見知った仲だし、案外うなずいてくれるかもしれん」
兄の唐突な提案にため息をついた。
「王命として言っているのなら私に断ることはできないよ。でもこの場の冗談として言っているなら答えはノーだ」
彼女のことは大切だが、それは妹としての感情に近い。おそらく彼女も同じだろう。
たとえそうでなかったとしても……
「私は人と心を通わせることはできない。兄上もわかっているだろう?」
私はすでに生涯を捧げる場所を決めている。
たとえカレンディアと結婚しても、彼女を幸せにはできないだろう。
そう言うと、兄もはっとした顔をする。
「そうだな。すまない、馬鹿なことを言った」
「わかってくれればいいよ。それよりもだ、午後にリナリエ嬢から話を聞いて、問題がなければ明日にはここを発つことにした。思ったよりも国民の反応は悪くなりそうだ」
兄も新聞を見たのだろう。顔をしかめて不満げな声を漏らした。
「今こちらが事実を国民に説明しても、しばらくは落ち着かないだろうな。まったく先が思いやられる……」
「まあ、留学経験を積んだ将来有望な第二王子が助けてくれるはずさ」
「そうだな……。目が覚めたレオシードはつきものが落ちたような、すっきりした顔をしていた。あいつに何があったのかはこれからしっかり調べるつもりだ。父親として……もう一度、あいつとちゃんと向き合っていかなくてはな」
兄にとってはレオシードも大事な息子だ。決して切り捨てることはしないだろう。
順番は間違ったかもしれないが……これからレオシードともいい関係を築いていけると信じている。
私は兄の肩を軽く叩いて執務室を出た。
時間は正午を少し過ぎたところだったので、リナリエ嬢と自分の昼食を用意させて客間に向かった。
リナリエ嬢のいる客間の扉を叩いても応答がない。侍女もすでに退室しているようだった。
万が一倒れていたり、まさかとは思うが逃げ出していては困る。私は室内の様子をうかがうことにした。
すると彼らが「楽しそうに踊っている」と言うので、声をかけて入室した。
彼らに案内された衣装部屋の中をのぞいてみると、見違えるほど可愛らしくなったリナリエ嬢が鏡の前でくるくると動き回っている。
しばらく見ていたが気づく様子がないため、少し悪戯心が顔を出した。
彼女が鏡の中の自分を見つめているところに声をかけると、彼女は飛び上がって驚き、顔を真っ赤にしながら慌てていた。
やはり彼女には優しい色の方が似合う。昨夜の深紅のドレスとは大違いだ。
昼食に誘うと、だいぶお腹が空いていたのだろう。私の勧めるままに食べていた。
無心で食事をほおばる様子を見ていたら、つい必要以上に勧めてしまった。
昼食を済ませたところで昨夜のことを質問した。
彼女に不審な点はないか、嘘をついていないか注視していたが、すべて正直に話しているようだった。
レオシードが彼女の聖術を利用していたこと、彼女は断れない立場だったこと、カレンディアは無実だったこと。
おおよそほかの関係者から集めた情報と同じだった。
それにしても……レオシード、あんなに聖女に執着していたのに、本人には嫌われていたんだな……。
彼女もある意味被害者だろうと結論づけ、最後に辺境の修道院についても質問してみた。
「どうしてあのとき『辺境の修道院行きだ』と言い出したの?」
「えっ?」
彼女は突然の質問に慌て出した。
「えっと、えーっとですねぇ……そう! 辺境の修道院にはこの国で最も古い聖堂があると聞いて、行くなら辺境しかないとピンときたんです!」
彼女が絞り出した返事は取ってつけたようなものだったが、何か裏がありそうな様子もない。
辺境に行ったことがあるわけでも、彼らについて知っているわけでもなさそうだ。
ただ、彼女自身は辺境に行きたがっているようには見えなかった。むしろその逆のような……。
まあ、詮索はここまでにしよう。
辺境に連れていけば彼女の秘密もいずれわかるだろう。
彼女に今朝の新聞を見せると、自身の状況に青ざめ、辺境へ行くことを素直に受け入れた。
気の毒だとは思うが、彼女のためにも、今は納得してもらうほかない。
そしてレオシードが廃太子となることを伝えると、彼女なりに罪悪感を感じているようだった。
あいつの罪は彼女に責任はないのだが、何か思うところがあったのだろう。
とりあえず彼女に怪しいところはない。
……彼らが異様に懐いていることを除いては。
明日は辺境に向けて出発する。道のりは長い。
時間をかけて見極めるつもりだ。
⟡.*ここまでお読みいただきありがとうございます⟡.*
次回より第二章 辺境への旅編です
ざまぁ回避に失敗したリナリエは辺境へ……
道中何が待ち受けているのでしょうか。
引き続きお読みいただければ幸いです⟡.·*.




