53 お留守番コンビの薬草採取
⟡.·*.いつもお読みいただきありがとうございます⟡.·*.
その後、二人の気が済んだところでお互いの進捗を確認した。
「聖霊王の手がかりはまだ見つからない……。だが嬉しい知らせもある。カレンディアが森の中で聖術を使ったところ、今まで何をしても変化のなかった黒い木が緑の葉に戻ったんだ」
「やはりお嬢様に任せておけば間違いない」
ハルジュ様の報告を受けて、ノクスさんは誇らしげに胸を張る。
「さすがカレンディア様ですね……!」
私が初めて森に入るときは怖くてしかたがなかったのに、カレンディア様は堂々としていた。
(カレンディア様は美しくて勇ましい。ハルジュ様の隣に立つのにふさわしいお方だわ……)
比べる資格なんてないのに、心は勝手に比べてしまう。
私は笑顔を浮かべながら、いまだに胸の奥に居座る劣等感にそっとふたをする。
「カレンディアの浄化は黒の森に効果がある。つまり森の木々が魔の力に影響を受けているということだ。聖霊たちや薬草が無事だということは、森に対する影響は小さいのかもしれないが……聖霊王の住む神聖な森に、なぜ魔の影響が出ているのか……」
ハルジュ様は最後は呟くように言葉を切り、考えにふけっている様子だった。
浄化の力を持たない私は、聖霊王様の捜索ではハルジュ様の役に立てない。
(やっぱりわたしは大地を再生することだけを考えよう……!)
頭を軽く振って沈みそうになる思考を追い払っていると、ハルジュ様が視線をこちらに向けた。
「捜索隊は引き続き森の浄化をしながら聖霊王の行方を捜す。農地再生の方はどう?」
「あの! 実は採取してもらっている薬草と森の土が足りなくて……わたしたちは黒の森で薬草と土の調達に回りたいと思うんです」
先ほどまでの気分を上書きするため、声を張り上げてハルジュ様に申し出た。
現在農地に確保している薬草や土は、捜索隊が森に入るたびに調達してきてくれたものだ。かなりの量を採取してきてくれるけれど、それでも圧倒的に足りない。
「しかし聖霊の森に入ることができるのは君だけだ。加護を持つ辺境騎士は捜索隊に回っているし……」
ハルジュ様はなかなかうなずいてくれない。
(でも、わたしだって自分から動いて結果を出したい)
今私ができることは、堆肥を作り続けることだけなのだから。
「じゃあ森の入り口だけにします。最近はどんな薬草でも効果があることがわかりましたし、次の日にはすぐ生えてきますから。森の奥に行く必要はありません」
私が食い下がるとハルジュ様は少し考えたあと、渋々うなずいてくれた。
「……わかった。ただし必ず森の入口にノクスを待機させること。常にお互い声かけをして見失わないようにすること。森の土は君では限界があるから、引き続き捜索隊が採取する。いいね?」
「わかりました。ノクスさんもいいですか?」
ハルジュ様の提示した条件に私は大きくうなずいた。ノクスさんも了承してくれたので、明日からは森の入口で薬草採取をすることになった。
◇
翌日、捜索隊が出発したあと、私とノクスさんも森の入口に向かった。
ノクスさんは昨日のハルジュ様との一件など、まるでなかったかのようにいつもどおりだった。
(昨日のあれは結局なんだったんだろう……うん、たぶん考えるだけ無駄ね)
今日も森に入ると聖霊たちがやってきて、お気に入りの薬草の場所を教えてくれる。私はハルジュ様との約束どおり、ノクスさんの声が聞こえる距離以上は奥に入らずに、薬草を籠に集めていった。
「ノクスさーん! いますかー?」
「……いるに決まってるだろう」
「ノクスさーん! 元気ですかー?」
「……元気だよ」
「ノクスさー……」
「わかったから手を動かしてくれ」
声をかけ合いながら薬草をひたすら採取した。
籠が薬草でいっぱいになったら森の外にいるノクスさんに籠を渡す。
私はノクスさんから別の籠を受け取り、また森に入って薬草を採取する。
その間にノクスさんは、小さな子どもが入れるほどの大きな袋に、籠の薬草を移し替えて台車に積み込む。
何度も往復して、たっぷり十袋ほど薬草を集めたところでお昼休憩をとることにした。
「ノクスさんも座ってください。一緒に食べましょう!」
森の入口の前に大きな布を引いて、二人で座った。
「どうぞ食べてください! わたしが作ったんですよ!」
「……これは?」
私が取り出したお弁当の中身を見て、ノクスさんの眉がわずかに動いた。
「今日は鮭もどきのおにぎりと卵焼き、お手製きゅうりのぬか漬けです!」
「サケモドキ? ヌカヅケ?」
「鮭っていう魚によく似た味の川魚の身をほぐして、ご飯の中に入れました。残念なことに海苔がないのが本当に致命的なんですけど……」
「ノリ?」
この世界ではなじみのない言葉を並べ立てる私に、ノクスさんは警戒を強めた。
この世界にはたぶん海がない。
アズロアを含め、隣合う四つの国以外に国は確認されておらず、辺境の向こう側――世界の最果てにたどり着いた者はいないらしい。
だから海が存在するのかどうかもわからないのだ。そのため魚といえば川魚で、貝はいるけど海藻類はない。
前世の記憶を思い出して、おにぎりに海苔を巻けないと気づいたときは本気で落ち込んだ。
ちなみに塩は、他国に塩が採れる山や塩湖がたくさんあり、定番調味料として庶民にも流通している。
私は差し出したお弁当とにらめっこをしているノクスさんに向かって胸を張った。
「まあまあ、おいしいですから食べてみてください。このぬか漬けなんて、ようやく納得できる味になったんですから!」
実は父が大量に米ぬかを送ってきたとき、思いつきから自家製ぬか漬けに挑戦していた。前世の両親と一緒に作ったのを思い出しながら、試行錯誤の末にたどり着いた苦労の結晶だ。今ではマザーの大好物でもある。
私がうまいうまいと言いながら食べているのを見て、ノクスさんがおそるおそるぬか漬けを口にした。
「……! 意外とうまい……」
「でしょ?」
目を丸くしておにぎりとぬか漬けを交互にほおばるノクスさんの姿に大満足して、私はにっこりと微笑んだ。
「……リナリエは笑っていると愛らしいな」
「んぐ!! げほっ!! ごほっ!!」
私をじっと見ながら呟くノクスさんの言葉に、ご飯が胸につかえて盛大にむせた。
「ちょっ、ちょっと! いきなり変なこと言わないでよ!!」
私は水を一気に飲んでから、ほてった顔のまま抗議の声を上げる。
「本当のことだ。殿下が大切にされる理由が一緒にいてよくわかった」
ノクスさんは表情を変えず、さらりと言い放った。からかうようでも冗談を言うようでもなく、「ただ事実を述べただけ」という顔をしている。
「な、なん……」
動揺して何も言えなくなる私をよそに、ノクスさんはたった今自分が言った言葉などなかったかように、再びお弁当を食べ始めた。
うまいうまいと言って食べているノクスさんの姿を見ていると、なんだか恥ずかしがるのもばかばかしくなってきた。
二人並んでひたすらお弁当を食べる。
そんな私たちの様子を――
森の木々の間から、ハルジュ様とカレンディア様が見ていたことには、気づいていなかった。
意外といいコンビ(^o^)




