51 お留守番コンビの堆肥作り
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話し合いの結果、聖霊王様の捜索チームとは別に、私はできる限り多くの薬草堆肥を作ることになった。辺境の大地を再生していくためには大量の堆肥が必要だからだ。
そしてなぜかカレンディア様の従者であるノクスさんが、私の護衛兼お手伝いをすることに決まった。私は護衛なんて必要ないと遠慮したけれど、ハルジュ様がどうしてもと譲らなかった。
私は大切な再生の聖術使いだから……らしい。
(大切なのはわたしの能力なんだ……)
そんな考えがよぎって慌てて打ち消した。
(考えるのは夜だけって、決めたのに)
二人が一緒にいる姿を直接見るのは、想像よりもはるかに堪える。領城へ帰っていく馬車を見送るときにはすっかり疲弊していた。
(実際に見るのは、まだきついなぁ……)
カレンディア様が来た日から、夜が来るたびに二人の寄り添う姿を思い出していた。
枕に顔を押しつけて、行き場のない感情を吐き出す。そのまま眠って、朝になったらいつもどおりの一日を過ごして……もう何度繰り返しただろうか。
この新しい日課は……もうしばらく続きそうだ。
◇
それからすぐに聖霊王様の捜索が始まり、お留守番組は日々堆肥作りに励んでいる。
農地再生計画の第一弾として、まずは街の外れにある土地を再生することになった。今は辺境騎士団の手も借りて、着々と整備を進めている。
カレンディア様と離れることを渋っていたノクスさんも、カレンディア様の「お願い」に最後は折れた。
最初は無表情の彼との接し方がわからなかったけれど、慣れると普通のお兄さんだった。
「――というわけで、薬草、米ぬか、森の土の組み合わせが一番なんです」
今は土を耕しながら、これまでの堆肥作りの実験結果をノクスさんに説明している。
普通の土に再生の聖術を使っても植物は育たなかった。つまり、今の辺境の土の中には、再生の力を与えられる聖霊が宿っていない、ということだ。
だからまずは、聖霊が住める環境を整える必要があった。
「森の土に住んでいる聖霊に、ほかの土地に引っ越してもらう感じ……ですかね」
「リナリエは面白いことを考えるんだな」
ノクスさんは意外と聞き上手で、相槌を打ちながら話を聞いてくれる。興味を持ってくれるのが嬉しくて、ついつい饒舌になってしまうというものだ。
それに……ノクスさんと話をしていれば、余計なことを考えなくてもいい。それがありがたかった。
「森の土だけを畑に移した場合も試したんですが、成長する確率は半々でした。森の土と薬草の組み合わせだと、確実に芽が出るんです」
「へぇ……それは興味深いな。ほかには?」
「あとおもしろかったのは米ぬかの実験ですね。堆肥に米ぬかを混ぜたときと混ぜなかったときだと、堆肥になるスピードが倍以上違って……」
特に祈りを捧げた米ぬかは効果が抜群で、さらに数倍の早さで堆肥が完成した。たくさんの堆肥を作りたい今、米ぬかは必要不可欠だった。
「父には米ぬかをどんどん送ってほしいと手紙は出したんですが、辺境全体に使うとなるとすごい量が必要ですから……いったいどこまでできるのか、想像もつきません……」
私がつい弱音をこぼすと、ノクスさんは作業の手を止めずに言った。
「今は目の前の農地を再生させることに集中すればいい。こういうのは今を積み重ねていくことが大事だ。不確かな未来を考えるのは後でもできる」
こうやって私が前を向けるように、まっすぐ言葉をかけてくれる優しいところもある。
彼を信用するのに、そう時間はかからなかった。
「わたし……ノクスさんはもっと話しにくい人かと思ってました」
「ん?」
畑に穴を掘りながら、打ち解けてきたノクスさんに初対面のときのことを話した。
「最初に修道院に来たとき、わたしのこと、すごく警戒してましたよね。かなり怖かったんですからね」
「まあ……それは悪かったな。正直あのときは信用ならなかった。俺のお嬢様が慈悲深いばかりに、王都で因縁のあった相手を庇っていると思ったんだ。逆恨みでもされて俺のお嬢様に何かあっては困るからな」
(二回も『俺のお嬢様』って言ってる……)
思わず小さく笑いそうになる。
「じゃあ、今は信用してもらえてるんですよね?」
「……まあな」
ノクスさんらしい返事にほっとする。どうやら信頼を勝ち取れたようだ。
「リナリエこそ」
「え?」
次の場所に移動している途中で、ノクスさんから思わぬ指摘が入る。
「君を王都の大聖堂や学園で見たことがあるが、ずいぶん雰囲気が変わっていないか?」
「そ、そうですか? わたしも辺境で苦労したからかな……ははは……」
愛想笑いでごまかしてみるものの、ノクスさんは訝しげに目を細めた。
「ふうん? ところで……あの日、お嬢様と二人きりで何を話していたんだ?」
「へぇ!?」
思わず足が止まり、スコップを取り落としそうになった。
「お嬢様に聞いてもかわされてしまった。ときどきお嬢様は、俺とは違う世界を見ているように感じることがある。ここに来て驚いたが、なぜかリナリエからも同じ空気を感じるんだ。いったいどういうことなんだ?」
ノクスさんの瞳が、逃がさないと言わんばかりにじっと私を射抜いてくる。
(ノクスさん、するどい……。でもわたしたちの秘密は教えられない……)
「だ、だめですよ! 女同士の秘密を知ろうとするなんて……! わたしが勝手に話したら、きっとカレンディア様が悲しみます。カレンディア様が悲しむのは困りますよね?」
「……! それは困る。すまなかった。今の質問は忘れてくれ」
慌ててそれらしい話で説得を試みると、ノクスさんは途端に追及をやめた。
(本当にカレンディア様第一主義なんだな……)
気がゆるんだ私は、その場の空気を変えようと「さあ! 続きいきますよ!」と元気よく方向転換して一歩を踏み出した。
「あっ」
……足元に薬草があることに気づかずに。
うっかり薬草を踏みつけて足を滑らせ、後ろに重心が傾く。
(――転ぶ!)
そう思った瞬間、背後から力強い腕が回り、腰をぐいっと引き寄せられた。
「大丈夫か?」
後ろを振り返ると、ノクスさんが抱きとめてくれていた。
「あ、ありがとうございます。助かりま……!?」
「……悪いな」
お礼を言って離れようとすると、突然ノクスさんが腕の力を強め、ぐっと腰をさらに近くに引き寄せた。
「えぇ!?」
密着する距離に、理由もわからず目を白黒させていると――
「……何をしているのかな?」
とても聞き覚えのある、低い声がした。
あらあら……




