表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/32

15 辺境伯爵家

本日投稿ラストです

 ――みんなー! リナリエ連れてきたよー!

 ――ありがとー!!

 ――助けにきてくれたぁ!


 以前、王城の客間で聞いた声が、また聞こえた気がした。

 小さな子どもが集まって、私の名前を呼んでる……?


 夢うつつに目を開けると、目の前には(うるわ)しいハルジュ様の顔がある。危うく座席から滑り落ちるところだった。


「あ、起きた? 到着だよ。ようこそ辺境領城へ」


 いたずらが成功したような顔をして、ハルジュ様が馬車の外へと私を促した。


 馬車を降りた瞬間、私は息をのんだ。


 目の前にそびえ立っていたのは、まばゆいほどに白い、石造りの巨大なお城だった。


 小高い丘の上にある辺境領城は、美しく磨かれた白い石がどこまでも続き、お城の周りを囲む城壁も同じ石で統一されていた。

 宮殿よりは城砦(じょうさい)といった方がしっくりくるけれど、まったく無骨な印象はない。

 その姿は、前世で見たヨーロッパの古城を思い起こさせた。


(きれいなお城……)


 私はしばらくの間、その圧倒的なたたずまいに目を奪われてしまった。


 この旅の間に仲良くなった御者と騎士団のみんなとは馬車の前で別れ、ハルジュ様と私はお城の入口に向かって歩き始めた。


 城門から城へと向かう間にある広場は、中央にまっすぐ道が敷かれている。

 その石畳の道以外には、ただ乾いた茶色の土だけが広がっていた。


「さて、まずは領主である辺境伯に挨拶をしよう」

「えぇ!? へ、辺境伯様へご挨拶ですか!?」


 歩きながらさらりと言い放つハルジュ様。

 突然領主様への謁見と言われ、心の準備がまったくできていなかった私は慌てふためいた。


「大丈夫、ただの優しいおじいちゃんだから」


 ハルジュ様は苦笑しながら私を城内へとエスコートした。


 城内へと続く大扉をくぐると、そこは美しい白柱が立ち並ぶエントランスホールだった。

 床に敷かれた鮮やかな青色の絨毯(じゅうたん)が、花のない辺境領の城内を明るく彩っている。


「ハルジュ様、お帰りなさいませ」


 エントランスの美しさに見惚(みと)れていると、ハルジュ様の出迎えに一人の男性が現れた。

 上品な黒服に身を包み、茶色の髪をオールバックに流している。年齢は父と同じくらいだろうか。整った顔立ちをしたスマートな雰囲気の人物だった。


「ただいま。さっそくだけど辺境伯に帰還の挨拶をしたいんだ。取り次いでもらえる? こちらのリナリエ嬢も紹介したい」


 私の名前を出されたため、慌てて淑女の礼をした。


「ほ、本日より辺境の修道院に参ります、リナリエ・メルダールと申します」


 男性が私を見て、丁寧な挨拶を返してくれた。


「ご丁寧にありがとうございます。ようこそ辺境領へ。私はこの城で家令として仕えております、レイブと申します。主がお待ちになっておりますのでどうぞこちらへ」


 レイブさんの案内で辺境伯様の元へと向かう。


 すでに待っていると聞いたので、てっきり応接間に案内されると思っていた。けれどレイブさんは城の奥、あきらかに住居エリアだとわかる場所へと進んでいく。


 レイブさんは扉の前で立ち止まると、ノックをしてから中に入るように私たちを促した。


 広々とした室内に足を踏み入れると、領都を一望できるように造られた大きな窓が目に飛び込んできた。

 窓辺には肘掛(ひじか)け椅子が一脚、窓の外に向いて置かれている。


 部屋には大きなベッドが置かれ、そこにはクッションに背中を預けて起き上がっている一人の男性がいた。


大伯父(おおおじ)上、ただ今戻りました。今日はお元気そうですね」


 ハルジュ様がそう声をかけると、ベッドの上の男性は優しい微笑みを浮かべて私たちを手招いた。


「ハルジュ、おかえり。無事に戻ってなによりだ。そちらのお嬢さんが癒しの聖女だね。さあ、こちらへきて顔をよく見せてくれ」


 ベッドの側に近づくと、ハルジュ様が男性を紹介してくれた。


「リナリエ、こちらが辺境伯のジュスト・ドルク・レストラーシェ様だ。私の祖父、先々代の王兄で、私の大伯父にあたる。大伯父上、こちらが手紙で伝えた癒しの聖女、リナリエ・メルダール嬢です」

「お……お初にお目にかかります。メルダール伯爵家の長女、リナリエ・メルダールと申します。王都では王家の皆様に多大なるご迷惑をおかけしまして、おわびのしようもございません……今日からこちらの修道院で真摯(しんし)贖罪(しょくざい)の祈りを捧げてまいります」


 頭の中で一生懸命考えた挨拶をなんとか言い終えると、辺境伯様はくすりと笑った。


「丁寧な挨拶をありがとう。私は辺境領の領主、ジュスト・ドルク・レストラーシェだ。紹介があったがそこにいるハルジュの大伯父でもある」


 辺境伯様は金が混じった白髪を後ろで一つに結び、ハルジュ様がつけているのと同じ青水晶の髪留めを編み込んでいた。

 新緑の瞳を見れば二人が血縁であることはすぐにわかった。

 穏やかな顔立ちもよく似ていて、深く刻まれたお顔のしわが、長くこの地を治めてきた領主としての歴史を物語っていた。


「長く留守にしましたがお体の具合はいかがでしたか? 今日はお元気そうですが、無理はしていませんか?」

「まあ隠してもしかたない……ここしばらくはあまり良くないかな。起き上がれる日があまりなかった。今日はお前が帰ってくると聞いたからかな……いつもより体が軽いんだ」


 二人の会話から、辺境伯様はお体の具合が悪いのだとわかった。何かの病を患っているのであれば、私の力で癒すことができる。


 とっさに癒しの聖術を使おう……としたけれど、できなかった。

 この旅の中で、私は自分の力を信じるのが怖くなっていた。


(両親は否定してくれたけど……魔女かもしれない私の力が、もし辺境伯様を苦しめてしまったら……)


 そんな私の様子に気づいたのか、ハルジュ様が私の肩に手を置いた。


「リナリエ、大伯父上は病気じゃない。こう見えてもう七十八歳の高齢なんだ。体の衰えは自然なことなんだよ」

「えっ?」

「ふふ、何歳に見えたかね? まだまだ心は現役のつもりだがなあ。歳を取りすぎてしまった」


 思っていたよりもご高齢で驚いてしまった。同時に力を使う必要がなかったことに……ひどくほっとした。


「リナリエ嬢。道中を見てきたと思うが、この地には何もない。何もないが、厳しい土地だからこそ領民は力強く生きている。私はこの地が『呪われている』とは思っていない。聖霊の加護が失われない限り、辺境の民たちがこの地で生きることを諦めない限りね」

「生きることを諦めない……」

「君も今日から辺境領の民だ。日々祈りを欠かさず、誠実に暮らしなさい」

「はい……ありがとうございます」


 辺境伯様の言葉が胸に強く響いた。


(祈りを捧げ続ければ、わたしも諦めなければ、いつかは……)


「私ができることは少ない。あとは次期辺境伯に任せよう。今後、辺境領のことは次期辺境伯に聞くといい」

「次期辺境伯様ですか……?」


 辺境伯様の言葉を聞くまで、次期辺境伯の存在について考えてもいなかった。でも辺境伯様がご高齢なら、すでに後継者がいてもおかしくない。

 このあとで次期辺境伯様にお会いできるのだろうか。それとも今日はお忙しいだろうか。


(これから辺境でお世話になるのだから、ここまできたらちゃんと挨拶をしておきたいけど……)


「あの、次期辺境伯様は今日はお忙しいでしょうか? ご迷惑でなければ、ご挨拶できたら……」


 そうたずねると、辺境伯様は片方の眉を上げてハルジュ様を見やり、大きくため息をついた。


「まったく……たまに意地が悪くなるのは直らんな。もはや病気だろう。癒しの聖術で治してもらったらどうだ? リナリエ嬢の隣にいるよ、ほら」

「え?」

「残念ながら無理ですね、これは私の性格ですから」

「えええ?」


(ハルジュ様が、次期辺境伯……?)



 ハルジュ様はぽかんと口を開けて固まる私を連れて、そろそろ休むという辺境伯様の部屋から退室した。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


明日からは1〜2話ずつ投稿していきます。

続きが気になる!という方は、引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ