4話 天才魔導師は、世界のバグ(カイル)に膝をつく
拠点である『庭』を構築してから三日が経過した。
効率化の成果は目覚ましい。
生きた城壁はさらに強固になり、ルナが森から集めてきた希少な果実は、俺の【概念改変】によって「永久保存可能かつ魔力増強効果付き」のスーパーフードに生まれ変わっている。
「カイル様、またこの……『水道』とかいう設備を増やしたのですか?」
聖騎士フィオナが、岩壁から突き出した蛇口から出る清らかな水を見て、目を丸くしている。
「ああ。川まで水を汲みに行くのは時間の無駄だ。山の伏流水をここまで引き込み、定義によって『常に清潔で最適な温度』に固定した」
「……もはや驚きを通り越して、恐怖すら感じます。これ、王都の魔導設備より遥かに高度ですよ?」
そんな平和なやり取りを切り裂くように、上空から巨大な魔力の圧力が降り注いだ。
「――見つけたわ。死の森に突如現れた、理論不可能な魔力の特異点。……一体、どこのどなたがこんな不作法な『奇跡』を振りまいているのかしら?」
空に浮かんでいたのは、透き通るような金髪をなびかせた、耳の長い少女だった。
豪奢なローブをまとい、手には世界樹の枝から削り出されたような杖を握っている。
「ハイエルフ……? それにその杖、まさかエルフの賢者、エルナ・ルミナス殿か!?」
フィオナが驚愕の声を上げる。
エルナ・ルミナス。
若くして世界の真理に最も近いと言われる天才魔導師であり、人間はおろか同族のエルフからも「偏屈な真理の探求者」として恐れられている存在だ。
「あら、私の名を知っている者がいるのね。なら話は早いわ。そこの貴方、カイルと言ったかしら? 今すぐこの『庭』の構築術式を開示しなさい。こんな、自然の摂理を無視した上書きは、魔道に対する冒涜よ」
エルナは冷徹な瞳で俺を見下ろし、杖を向けてきた。
その先端に、超高密度の術式が編み込まれていく。
一撃で都市を更地に変える極大魔法『第七位階:星塵破滅』。
「待ってください、エルナ殿! 私たちは別に――」
「問答無用よ。理解できないものは、一度壊して再構築するのが私のやり方なの」
空が黄金色に染まる。
並の冒険者なら、そのプレッシャーだけで意識を失うレベルの魔力だ。
だが。
俺はため息をつきながら、手に持っていた帳簿をパラリと捲った。
「……効率が悪いな。そんな大規模な術式を組まなくても、光を収束させたいだけなら、反射率の概念をいじるだけで済む話だ」
「何を馬鹿な……。消えなさい、理の外側に住む者!」
放たれた黄金の光。
すべてを灰にするはずの滅びの光が、俺の眼前に到達した瞬間――。
――ポシュッ。
という、拍子抜けするような音と共に、ただの七色のシャボン玉へと変化した。
「…………は?」
エルナの杖が、カランと音を立てて宙に浮いたまま止まった。
「な、何をしたの……? 私の第七位階魔法が、消えた? いえ、違う。術式そのものが、別の『何らかの無害な現象』に書き換えられた……!?」
「定義変更:飛来する高エネルギー体は、周囲に彩りを与える『観賞用気泡』である。……あと、その浮いているのも無駄だ」
俺が指をパチンと鳴らすと、エルナの飛行魔法が強制解除された。
彼女は悲鳴を上げながら落下し――。
「定義:彼女の落着地点の空気抵抗を最大化し、着地衝撃を『ゼロ』にする」
エルナは、ゆっくりと羽毛のように芝生の上に着地した。
彼女は呆然としたまま、自分の手と、俺の顔を交互に見つめている。
魔道の天才として、生涯をかけて積み上げてきた知識と理論。
それが、目の前の青年が放った一言で、完全に崩壊したのだ。
「ありえない……。魔力変換も、詠唱も、魔法陣すらも介さずに、世界の法を直接いじるなんて……。それはもう、魔法じゃない。それは――」
エルナはガタガタと震えながら、俺の足元に這い寄ってきた。
恐怖? 違う。
彼女の瞳に宿っているのは、底知れぬ狂信と、知的好奇心の炎だ。
「神の御業……。本物の、真理そのもの……。ああ、私はなんて愚かだったのかしら。こんな近くに『正解』がいたというのに!」
「おい、急にどうした」
「カイル様! お願いです、私をあなたの弟子……いえ、奴隷でも実験体でも構いません! その『効率的な世界』の端っこに、私を置いてください!」
フィオナと、いつの間にか戻っていたルナが、引き攣った顔で俺を見ている。
また一人、面倒そうなのが増えてしまった。
「……まあ、いい。魔法理論に詳しいなら、この庭の自動防衛システムの『デバッグ』を任せられるな。エルナ、君は今日から『システム管理官』だ」
「はい! 喜んで、我が主!」
◇◇◇
その頃。
王都、ギルド『黄金の翼』。
「おい、どうなってるんだ! 鑑定士に見せたら、俺の聖剣が『ただのなまくら』だって言われたぞ!」
「私の方もよ! MPポーションを飲んでも魔力が一滴も回復しないわ! 粗悪品を掴まされたのよ、きっと!」
ゼクスとミレーヌが、ギルドの中で怒鳴り散らしている。
彼らはまだ知らない。
自分たちが「無能」だと笑って捨てた事務員が、どれほどデタラメな精度で彼らの装備を『定義』していたのか。
そして、そのメンテナンスを失った彼らの実力が、今や「平均以下の素人」にまで落ちぶれていることに。
「おい、カイルを探せ! あの事務員なら予備の装備の場所を知ってるはずだ!」
彼らがどれだけ叫ぼうとも、カイルの声はもう届かない。
彼は今、死の森のパラダイスで、三人の美少女たちに囲まれながら、新作の『全自動全方位マッサージチェア』の概念構築に勤しんでいるのだから。
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