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第10話 王国魔導師団の「非効率」な総攻撃

死の森の境界線。そこには、かつてないほど「非効率」な熱気が渦巻いていた。

 王宮魔導師団、総勢百名。

 きらびやかな法衣に身を包み、一流の魔導具を携えたエリート集団が、森の入り口を包囲している。その中心で馬にまたがり、傲慢に顎を突き出しているのは、師団長バレット伯爵だ。


彼はかつて、ギルドの監査役として訪れた際、受付の隅で黙々と書類を整理していたカイルを鼻で笑った男だった。


「おい、そこの無能な事務員! 貴様が聖女様をたぶらかした不届き者か!」


拡声魔法を通したバレットの声が、森に響き渡る。

 俺は耳を塞ぎたくなるのを堪え、テラスから境界線へと歩み出た。背後には、不機嫌そうに尻尾を揺らすアイリスと、杖を弄ぶエルナ、そして「いつでもいけます」と静かに告げるフィオナとルナが控えている。

 そして何より、俺のすぐ後ろには、狂信的な光を瞳に宿した聖女リリィが立っていた。


「バレット卿。相変わらず声だけは大きいな。……百名もの魔導師を動員して、この森の入り口で何をしている。業務の邪魔だ」


「貴様ぁ! ギルドからゴミのように放り出された分際で、私に口を利くな! 聖女様を今すぐこちらへ渡せ。さもなくば、この森ごと焼き払い、貴様を塵の一つも残さず消滅させてくれる!」


バレットの言葉に、俺よりも先にリリィが反応した。彼女は俺が『最適化』した聖杖を天に掲げ、冷徹な声を放つ。


「黙りなさい、無礼者。カイル様は、停滞していた私の信仰と魔力を『整理整頓』してくださった救世主です。あなた方のようなノイズが、カイル様の貴重な事務時間を奪うことこそが万死に値します」


「せ、聖女様……!? 何を、何を仰っているのですか! やはり精神操作の類を……! 各員、最大広域魔法の準備だ! ターゲットはあの不遜な男一人! 聖女様以外は殺しても構わん!」


バレットの号令とともに、百人の魔導師が一斉に詠唱を開始した。

 大気を震わせる膨大な魔力。複数の魔法陣が重なり合い、巨大な火炎の渦が形成されていく。王国が誇る合体魔法『紅蓮の審判』だ。


だが、俺の目にはそれが、あまりにも「出来の悪い図面」にしか見えなかった。


「……非効率だな」


俺は溜息をつき、空中に指先で概念のインターフェースを呼び出す。


「百人で一つの魔法を撃つのに、三〇秒の詠唱と合計一〇万マナの消費。そのうち九割が熱損失と魔力漏洩で無駄になっている。……エルナ、これのデバッグをしてもいいか?」


「カイル様の思うままに。あのような不細工な魔法陣、見ているだけで目が腐りますわ」


俺は流れるような手つきで、迫り来る巨大な火炎の渦に対し、新たな定義を上書きしていく。


「【定義変更:対象『紅蓮の審判』。その殺傷属性を『微風』に、熱エネルギーを『森林浴に最適なマイナスイオン』へ置換】」


カチリ。

 世界がリライトされる音が響く。


直後、バレットたちが勝ち誇った顔で放った絶大なる破壊の炎は――境界線を越えた瞬間に、心地よい初夏のそよ風へと姿を変えた。

 ゴォォォという轟音は、サラサラという木の葉の擦れる音に消え、熱風に焼かれるはずだった森の草花は、むしろ瑞々しく輝きを増した。


「……なっ、何が起きた!? 私たちの極大魔法が……消えただと!?」


バレットの顔が驚愕で引き攣る。魔導師たちも、自分たちの杖に魔力が残っていないことを確認し、パニックに陥った。


「消したんじゃない。無駄が多すぎたから、環境に良い形に整理しただけだ」


俺はさらに一歩前へ踏み出す。


「さて、次は君たちの『装備』だ。その重厚な鎧や法衣。維持するだけで体力を削り、機動性を奪っている。……この森において、それはただの『ゴミ』だ」


「な、何を……何を言っている!」


「【定義変更:王国魔導師団の全装備品、および衣類。その質量を『零』とし、存在目的を『消去済みログ』に設定】」


――パァンッ!!


乾いた音が百回、同時に鳴り響いた。

 次の瞬間、境界線に並んでいた百人の精鋭たちは、手に持っていた杖も、身に纏っていた豪華な法衣も、果ては下着の一枚に至るまで、文字通り『無』へと帰した。

 一〇〇人の全裸の男たちが、陽光の下で晒される。


「ひ、ひぃぃぃぃぃっ! 服が! 私の誇り高き法衣がぁぁっ!!」


股間を隠してうずくまるバレット。だが、俺の事務処理はまだ終わらない。


「最後に、不法侵入者の強制退去手続きだ。……ここから王都までの馬車移動は一週間かかる。それは時間の無駄だろう? だから、一瞬で済ませてやる」


「ま、待て! やめろ! 何をするつもりだ!」


「【定義:対象者全員を、王都の中央広場へと『強制転送』。座標固定:民衆が最も集まる噴水前】」


俺が指をパチンと鳴らす。

 刹那、阿鼻叫喚の声を上げていた魔導師団の姿が、その場から掻き消えた。

 

 静寂が戻った森の境界線。

 残されたのは、持ち主を失った数頭の馬と、バレットたちが落としていった「事務的に価値のない」書類の束だけだった。


「……ふぅ。これで今日のノルマは達成かな」


「カイル様、お見事ですわ! あのようなゴミ共を王都のど真ん中に、しかもあられもない姿で送り届けるなんて。これ以上の『ざまぁ』はありませんわね!」


エルナが愉快そうに笑い、フィオナも「王国の権威が、物理的に失墜しましたね」と、少しだけ同情の混じった声で言った。

 だが、リリィだけは、恍惚とした表情で俺の背中を見つめていた。


「素晴らしい……。一瞬で一〇〇人の存在を処理し、最適な場所へ再配置する。カイル様、貴方はやはり、事務の神そのものです……!」


「……だから、ただの事務員だって言ってるだろう」


俺は苦笑し、手元の帳簿に『侵入者:一〇〇名(処理済み)』と記載した。


◇◇◇


一方その頃。

 王都、ギルド『黄金の翼』。


「……おい、聞いたか? 王宮魔導師団が、全裸で広場の噴水に降ってきたらしいぞ」


「ああ。しかも、死の森にいた『無能な事務員』に一瞬でやられたって話だ。バレット伯爵、泣きながら逃げ出したらしいぜ」


ギルドの酒場に流れる噂話を聞き、勇者ゼクスは震える手で安酒を煽っていた。

 

「嘘だ……。カイルがそんな力を持っているはずがない……。あいつはただ、俺の靴を磨いて、書類を整理していただけのゴミなんだ……!」


「ゼクス様、そんなことより、ギルドマスターが呼んでいます。……先日のクエスト失敗による損害賠償、今日中に払えなければ、本当にライセンス剥奪だって……」


ミレーヌの震える声が、ゼクスの耳に届く。

 彼らはまだ理解していない。

 自分たちが「ゴミ」として捨てた事務員こそが、この世界のバグを取り除き、秩序を保っていた唯一の『管理者』であったことを。

 

 そして、その管理者がいなくなった自分たちの世界が、これからどれほど凄惨に「バグ」だらけになっていくのかを。


俺はヴィラの窓から、新しく定義した『常に最適な成長速度を保つ家庭菜園』を眺めながら、午後のコーヒーを啜った。

 

 窓の外では、世界最強の乙女たちが、俺が作った『至高のクッション』の取り合いでじゃれ合っている。

 

「……平和が一番効率的だな」


俺の新しい物語は、まだ始まったばかりだ。

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