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第7話 安定と不安定

==========

シリルの小屋の外から侵入してきた冷気。ドアを叩く風の音。見張りのしかばねの警報。

外では氷でできた巨大なモンスターが立っていた。

二人はピンチに晒される。

==========


 風がドアを叩く。


 アルヴィスとシリルは小屋の中、玄関に立っていた。


「――強い魔力を検知」


 しかばねが淡々と警報の声を出す。


 シリルはドアの前まで歩き、振り向く。


 めずらしく、アルヴィスの目をしっかり見ていた。


「お前は小屋の中にいろ」


 突然のことに、アルヴィスは心配そうに見つめ返す。


「ひとりで大丈夫?」


「平気だ。たまにこういうことが起こる。それに、しかばねもいる」


 そう言って、シリルは小屋の外に出た。


 アルヴィスは扉の隙間をわずかに開け、外の様子を覗いた。


 外には、氷のような物質でできた巨人のようなモンスターが立っていた。


 いや――今まさに氷の体が作られている。


 透き通った頭部。手足。尻尾。冷気と氷の鎧が、形を成していく。


 より大きく、より厚く。

 

 高さは、シリルの小屋を余裕で超えていた。もし襲われれば、簡単に押し潰されてしまう。


 シリルは両手を広げて短く唱えた。


「目覚めろ。骨の守衛たちよ」


 どこからともなく、槍や斧を持った骸骨の兵士が現れた。


(今まで、しかばねと呼んでいたのに)


 ふと疑問が浮かぶ。

 しかし、氷のモンスターの足音が地面を揺らし、考えはそこで途切れた。


 シリルは骸骨たちを指揮し、即座に陣を取る。


 氷の腕が振り下ろされる。


 シリルが手を振る。


 骨の守衛たちは攻撃を躱しながら、それぞれの武器で氷の体を削り取っていく。


 その姿が、アルヴィスにはとても綺麗で凛々しく見えた。


「なんて、綺麗なんだろう」


 そう思った――


「出るなと言ったはずだ!」


 力強い声が聞こえた。


 シリルの声だ。


 アルヴィスは、気付かぬうちに小屋の外に出ていた。


「あ……ごめん!」


 咄嗟に声が出る。


 氷のモンスターは再び、シリルを目掛けて腕を振り下ろした。


 骨の守衛が数体がかりで動き、氷でできた腕を地面にめり込ませる。


 身動きが取れない間に、シリルは顔を向けないまま声を張り上げた。


「小屋の中に戻れ」


「う、うん」


 アルヴィスが小屋の中に入ろうとする。


 直後。


 骨の守衛が数体、砕けた。


 モンスターの腕が地面から離れる。


 氷の体が、ぎしりと軋む。


 透き通った胸の奥に、白い影が見えた。


 骨だ。


 頭蓋骨に似た輪郭。

 その下に、細い骨が連なっている。


(……首の骨)


 アルヴィスは息を呑んだ。


 一つ、二つ、三つ。


 無意識に数えていた。


 七つ。


(僕たちと同じだ)


 そう思った瞬間、氷のモンスターの内側で赤い光が脈を打った。


 胸の奥。


 七つの首の骨の、その下。赤い光が一度、大きく膨らむ。胸の部分から細い氷の筋が伸びた。


 地面を這い、音もなく雪と土の上を走る。


「……え?」


 向かう先はシリルではなかった。


 赤い光は、アルヴィスに狙いを定めていた。


 氷の筋が、冷気が、途端に両脚を包み込む。


「動けない……!」


 身動きが取れない。


「……チッ!」


 シリルは手をアルヴィスに向けてかざす。


 足場の氷が振動し、瞬時に砕けた。


 やっと動けるようになった。


 ――はずだった。


「……あれ?」


 体が浮いている。


 違う。


 氷の大きな手が、アルヴィスの体を包み込んでいる。


「まずい!」


 シリルが叫んだ。


 巨大な氷の胸に切れ込みが入る。


 赤く、大きく開く。


 骨の奥で脈打つ光が、アルヴィスを迎え入れるように膨らんだ。


「アルヴィス!」


 その声が届くより早く。


 アルヴィスは、氷の内側へ飲み込まれていった。

登場人物

・アルヴィス

・シリル


味方

・見張りのしかばね

・骨の守衛たち


???

・氷のモンスター

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