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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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不思議な人と僕と…。

いつもありがとうございます!

 天使のようだと大人達は口々に僕を褒め称えるが、正直彼らの相手をするのは殊更に面倒で、生きる為の義務感から天使を演じているにすぎない。


 ユリウスという父も本物じゃないと聞いたし、いつ僕は捨てられてもおかしくないんだ。


(はぁ。でも疲れるな…)


 この芝居もじきに終わる。

 今の僕は8歳だ。男が天使を演じられる期間なんて長くない。


 成長するまでには、はっきりとした基盤を固める事が僕には必要なんだ。


 だって僕達は本当の親子じゃないから。

 ユリウス父様にいつ捨てられるかわからない。


「ジェイル?」


 ピンク色の瞳が僕を見て、何度か瞬きをした。


「はい、ホノカ様」


 僕は無邪気に見えるように満面の笑みを作る。


 向かい合わせで座った僕達は、日常生活や趣味などの話をしていたが、あまり会話も弾まず、会話が途切れる事もあり、ホノカ様は気まずい様だ。


 時々、僕をチラチラ見ては考え事をしていた。


 話す事がないなら、話さなければ良いんじゃないかな?


 本末転倒な事を考えながらも、外面だけは良い僕はニコニコと話を合わせている。


 面倒だけど…ホノカ様との空気は悪くないな…。


 昨日突然に決まった義母になる予定のホノカ様との外出を報告した時、ユリウス父様は良い顔はしなかったが、渋々この馬車を使って良いと言ってくれた。


 公爵家の馬車は乗り合い馬車の高ランクより乗り心地が良いそうで、ホノカ様は最初はしゃいでいたけれど、すぐに窓の外を見ながら何やら考え事をしているみたいで、時折、瞳を曇らせ下を向き、小さな溜息をこぼしていた。


「あの…」

「はい、何でしょう?」


 何か躊躇う様に口を開いてはまた閉じてを繰り返すホノカ様だったが、


「バランスが悪いなら、私の隣に座ったらどうかしら?」


 は…?

 ただ、これだけの事を言うのに躊躇ってたの?


 僕はポカーンと口を開けたまま、この人を見て固まった。


「あの、…ジェイル?」


 僕の返答を待ちながら困った様に眉を寄せて首を傾げる姿は、大人だけど少女のようで可愛い。


 この人には僕の本心は見せたくない…。


 こんな冷静に考える僕を見せたら、この人は他の大人達と同じ様に接するかもしれない。


 それは…嫌だな…。


 だから、僕は貴方に本心は見せない。


「よろしいんですか?」


 僕は子供らしく、ホノカ様に尋ねた。


「勿論よ」


 以前とは別人の様にふんわりと笑うこの人が、何故か気になってたまらない。

 

 はぁ。

 考えたって仕方ない。


「ありがとうございます」


 差し出された右手に掴まり隣の席に腰を下ろした。


 満足そうに微笑みホノカ様は優しい瞳で僕をじっと見ている。


 ムズムズと居心地悪いようなこの胸のむず痒さは本当になんなんだろう。


 意識して笑うと引き攣った様な表情を見せる彼女が、自分には自然な笑みを見せてくれる時がある。


 僕にだけ…。


 これが優越感からくる気持ちなのか、はたまた別の感情なのか…。


 きっと、大人に聞いてもわからない。


 それに、聞いて無知な僕が馬鹿だと叱責される事は避けたいいんだ。


 あ、と思い昨日の疑問だけは聞いてみようと思った。


「あの、ホノカ様、何故アダム先生から庇ってくれたんですか?」

「え?そんなの当たり前でしょ」

「当たり前?」

「そう。あの人のやっている事は躾を装った暴力よ。…ジェイル、あんなの我慢する必要ない。…あのね、他にもあんな態度をとる人がいたら教えて欲しいの」


 真剣な顔で僕に問いかけるホノカ様だったが、正直何が言いたいのかわからない。


 だって、だって、


 子供はみんなああやって育てられると聞いた。


 何度も鞭で打たれたって、平気だった。


 みんな同じだから、僕だけじゃない。


 アダムなんて本当は僕の力でなんとでもなるけど、弱々しい振りをしていれば敵は出来ない。


 そう聞いてたから、小動物のように潤んだ目で震えてみせた。


 震えてみせた…?


 あれ?


 僕はあいつが、大人が怖くなかった?


 それとも、本当は怖いから歯向かわないと思わせていた。


 …そうだ、公爵家に来たばかりの頃、誰かの怖い瞳を見たんだ。


「うわぁぁぁ!」


 御者の叫び声が聞こえた直後、


「きゃぁ!」


 ガタンっと大きく揺れた馬車が僕の思考を中断させたが、同時にホノカ様の小さな悲鳴と静止した風景。そして、ピンと張りつめた空気が心をざわつかせる。


 何かが起きてる…。


 不自然すぎる程の静けさはまるで静止画の様に固く、冷たい空気を含んでいた。


 カタン


「ジェイル様ですね?」


 茶色の髪を一つに纏めた男が馬車の扉を開けて、無感情な顔で僕に尋ねる。


 この男の背後には先程まで馬車を動かしていた御者と…そして、その倒れた地面には赤い水溜りと飛沫が馬の足を染めていた。


 よく見るとこの男の顔にも点々と赤い染みがついている。


 あぁ。


 また、僕を狙う暗殺者が来たみたいだ。


 僕は無感情なまま、ぼんやりと男の顔を見た。



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