暗殺者と…。
いつもありがとうございます!
「あの…貴方はどなたですか…?」
ホノカ様が見ているから、僕はわざと震えた声で答えた。
「名乗る必要はかんじません。ジェイル様、今からこの馬車を降りて私達に着いてきていただきます」
男は僕の腕を掴み馬車から引きずり降ろそうとしたが、ホノカ様が僕とこの男の間に入り、自分の後ろに僕を隠したまま、近くにあったピクニックバッグをブンブンと振り回す。
「来ないで!ジェイルに触らないで!」
不意打ちに男は一瞬驚いた様に目を見開かせたが、忌々しげに目を細めホノカ様を睨み、軽々と鞄を避け僕を担ぎ上げ馬車から降りた。
「ジェイル!」
ホノカ様の悲鳴の様な叫び声。
この人はどうしてこんな他人の僕なんかの為に髪をふりみだし、貴族らしからぬ行動をするの?
「邪魔だ!」
男がホノカ様の手を振り払う。
その勢いでバランスを崩したホノカ様は馬車から落ち地面に倒れ込み、痛そうに一度短く呻いた。
それでも、上半身を起きあがらせ瞳に涙を一杯溜めながら、僕へと腕を伸ばし立ち上がる。
薄水色のドレスは土で汚れ所々破れてしまっていた。
「ジェイル!…すぐに助けるからね!」
…は?
何の魔力もない貴女より、僕の方が何倍も強いんだ。
剣の稽古もずっと続けているし、暗殺者のあしらい方だって教えられた。
だから…、
貴女より僕の方がずっと強いのに、どうして僕はホノカ様に頼ってるんだ?
「ジェイルを放しなさい!」
男に向かって石を投げ、僕に近付く隙を狙っているが、殆ど運動というものをする機会がない貴族令嬢のホノカ様は幾度となく小石を投げ続けた限界からか体のバランスを失いまた地面へと倒れてしまった。
「ホノカ様!」
最初は余裕ぶっていた男も、何度も投げつけらる石を避ける行為に苛立ちを顕にした。
「こいつ…!弱い女が鬱陶しいんだよ!」
僕を捉えている手とは逆の右手で、氷魔法をホノカ様へ向け放った。
「避けて!」
僕は男から逃れられず、声を出すだけだ。
こんな小さい体だから、ホノカ様を守れない…。
僕は…
「ファイアーブレス」
ホノカ様と暗殺者の間に大きな壁が作られ、氷と火の魔法が拮抗し合う。
バチバチと静電気の様な音をたてながら、お互いを飲み込もうと魔法は発動していたが、すぐに、氷は炎に飲み込まれ、姿を消した。
声のした方を振り向くが、確認しなくても分かっていた。
父、ユリウス様。
黒炎の貴公子が左手を上げ、僕達を見ている。
「貴様は誰から頼まれた?」
男に向かった殺意は僕が知る何よりも恐ろしく、綺麗な炎を纏っていた。
「…息子を傷付けられたくなければ、手を下ろせ…」
僕の首筋に剣を当て勝ち誇ったように笑う男だったが、次の瞬間、世界は真紅で覆われ、男の生命活動は終わりを迎えたんだ。
力を失くしぶらんとした腕は操り人形みたいだ…。
僕を拘束する物は無くなり、男の腕から解放された僕は重力に抗うことなく地面に落下する。
「ジェイル!」
もつれた足で僕の下まで辿り着いたホノカ様は、子供みたいに泣きながら、「良かった」を繰り返している。
その言葉や柔らかな体温がくすぐったくて、知らないうちに笑顔が浮かんだんだ。
だけど、そのふわふわとした時間は父様の冷たい声で終わりを迎えた。
「どう責任を取るつもりだ?」
ホノカ様に放たれた厳しい言葉に、怯んだ彼女だったが、堂々と顔を上げユリウス父様を射抜くような目で見た。
「魔法具を付けていたのですか?」
「は?」
「ジェイル様を魔法具で見張っていたのですか?」
「論点のすり替えだな。今はそれを聞いてどうする。私が魔法具を付けていなかったら、ジェイルも貴女も殺られていたのではないか?それとも、貴女がジェイルを守れたと?」
ユリウス父様の威圧にホノカ様は下を向いたが、
「そうですね。私ではジェイルを守る事は出来なかったかもしれません」
「守る事は出来なかったかもではなく、守れなかったではないのか?」
「父様!止めてください!」
「ジェイル、昨日言った事を憶えてるか?」
僕の心を見透かすように父は尋ねる。
心を許すなと誓った事を言っているんだ。
約束は守ってる。
心なんて許してない。
ただ、ホノカ様の態度があまりにも前とは違うし、他の人達とも違って戸惑っているだけなんだ…。
「覚えています」
「だったら、自分がどう行動するのかよく考えるんだな」
そして、父はホノカ様の方を向くと、
「今日は屋敷に帰ってください」
とだけ言うと護衛騎士一人を残し魔法陣でこの場から去っていった。
「ジェイル!怪我はない!?」
ホノカ様は僕を両腕で力一杯抱きしめた。
どうして…
「僕を心配してくれるんですか…?」
「当たり前じゃない!」
とくとく、とくとくと僕の心臓が早くなり、ホノカ様に聞こえないかと不安で少し体を押しのけた。
「ジェイル?」
僕は右手でギュッと騒がしく時を刻む心臓を掴んだ。
「胸がくるしいの⁉」
ホノカ様が僕の両頬を包み込み、心配そうに潤んだ目で僕を見たんだ…。
は…は…は…。
僕はこの感情の名前をまだしらない。
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