第14話 ミーニャの正体
今日はこの宿でゆっくりするそうです。私はクロシッポの毛をさすりながら窓辺に腰掛けてくつろいでいます。この平穏無事な時間が続いてくれればいいのですがそうも行かないのが世の中です。
「随分クロシッポはリーサに懐いているんだな」
「そのようです」
「クロシッポの毛は気持ちいいか?」
「はい、とても気持ちいいです」
「そうか。クロシッポよ。私の膝に来るが良い。私にもその気持ちいい毛を触らせてくれ」
ピーン! クロシッポが直立不動になりました。
「どうした。早く来ないか」
ギコギコ。クロシッポがぎこちなく進んで行きます。
「ほお、確かに気持ちのいい毛並みだな」
ミーニャさんがクロシッポを撫でながら続けます。
「おい、クロシッポ」
ピシッ!
「心なしかお前震えてないか?」
「キュピー」
ぶるんぶるん。クロシッポが全力で顔を左右に振っています。
「まさかとは思うけど~この私が怖いなんて思ってないわよねー」
ぶるんぶるんぶるんぶるん。更に高速で顔を振っています。
「良かった♪ 嫌われたのかと思っちゃったじゃない」
ミーニャさんがクロシッポをコツンと叩きます。
「キュピピー!」
クロシッポが逆Uの字になって土下座しています。ミーニャさんてそんなに怖いのでしょうか?
この頃ミーニャさんが突然可愛らしい話し方になる時があります。もしかするとこの話し方が本当のミーニャさんで、普段は怖いモンスターを押さえつけるためにわざときつい話し方をしているのかも知れません。きっとそうです。ミーニャさんは怖いキャラではなく優しい美人キャラなのです。一応確かめることにしましょう。
「あのう、ミーニャさん。少し聞いてもいいですか?」
「別にいいぞ」
「ミーニャさんて話し方が突然変わりますが、どちらの話し方が本当のミーニャさんなのですか?」
「こっちだ。可愛い言い方はよそ行きだ。特に親しい人にはこのしゃべり方になる」
「そ、そうですか」
優しいしゃべり方が嘘だったのですね。淡い期待を抱いていたのですが少し残念です。
「何か不服でもあるのか?」
「いえ、と、とんでもない。お願いですから怒ったような言い方は止めてください!」
ドドドドド! やっぱり。
「貴様! ミーニャ様に何を言った!」
「私は別に素朴な疑問を言っただけで・・・・」
「あら私は怒ってなんかいないわよ」
ミーニャさんが可愛く首を傾げました。
「しかし不服でもあるのかとおしゃっておりましたが」
どうしてミーニャさんが何を言ったのかわかるのでしょうか?
「あれは冗談よ」
「お願いですから心臓に悪い冗談は止めてください!」
私は思わずツッコんでしまいました。これは怖いとか以前の問題ですね?
怖そうなモンスターが私を睨んでます。お願いですから止めてください。ミーニャさんに出会ってから私の寿命は30年ほど縮んだと思います。
「私は怒ってないからお前達は引き上げていいぞ」
「いえ、ミーニャ様に何かあっては大変です。こちらのブラックデーモンキングに護衛させましょう」
ひぇーーー! これまた心臓に悪そうな怖いモンスターです。絶対に指先一つで敵を倒せる一子相伝系のタイプだと思います。
「いらんいらん! 私を誰だと思っているのだ? 私こそこの世界のラス・・・・おほん。この世界で一番の美少女よ!」
ミーニャさん、誤魔化すの下手すぎです。急に可愛くなったら違和感の塊じゃないですか。
でも、今ラス何とかって言いましたっけ? ラスの付くご職業なのでしょうか? ラスと言えばラスク? これは食べ物ですね。絶対に違います。ラスト? 最後ですよね。何か怖い響きです。他には・・・・。
「しかし・・・・」
まだやってました。
「私の命令に逆らうのか?」
「滅相もない!」
怖いモンスター達が帰って行きます。少しきつい話し方をしただけで怖いモンスターが震え上がってしまうのですから普通じゃないですよね。これが物凄い筋肉マッチョな方ならわかりますがミーニャさんはスタイル抜群の美人です。
ブラックデーモンキングが残ろうか帰ろうか迷っているようです。あなたは即帰ってください。心臓に悪すぎます。
それにしてもさっきの『ラス』が気になります。ラス何でしょう。もうラスの付く言葉を思いつきません。あ! もしかしてラスボス? まさかそんなはずはありません。ラスボスと言えばこの世界を牛耳る最強のモンスターです。そんな存在がこんな身近にいるはずありません。ミーニャさんは怖いモンスターを一括して土下座させたりしてますが・・・・。
「ええーーー!!!」
「どうかしたか?」
「な、な、なんでもありませぬ」
まさかですよね。もしラスボスと旅をしているとしたら大変なことになります。私のようなちっぽけな存在など気分次第で消されてしまいますよね。ああ、神様! 私をお助けください!
「何でいきなりお祈りをしているのだ?」
「べ、別にお祈りなんてしていません」
「ほお、嘘をつくと後悔することになるぞ」
「はい、お祈りをしておりました」
私は思わずクロシッポを抱きかかえてミーニャさんから視線をそらします。そしてミーニャさんにわからないよう『どうかラスボスじゃありませんように』と心底神頼みをするのでした。




