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夢恋路 ~動乱編~16

【おリョウ】

私は極秘裏に京へと向かった。

ハルちゃんと彦太郎と正次郎には、またね。と言った。

必ず再会するからと伝えた。

照り焼きや鶏のハンバーグや、子供たちが好きだったメニューをいくつかハルちゃんに教えたけど他言しちゃだめよと念を押す。ハルちゃんは笑いながら秘密って大好きと言った。

さすがハルちゃんよね。

肝っ玉がすごく良い。

私は従者の若い青年二人と道中を歩いた。



【桂小五郎】

少し前から、晋作の体調が思わしくないと聞いていた。

あいつは江戸にいた時から何かとよく体調を崩していたから、そんなもんだと思っていた。

白石さんの家で療養していると聞いていたけれど、少しでも体調がいいとすぐにいなくなってしまうと・・・僕の所にいつもながらの不満が届く。

・・・面会に行って来るかなぁ、僕は時間の都合をつけて晋作の所へ足を向けた。

一目でわかった。

晋作の容態は、最悪だ。

「小五郎さん久しぶり!」

いつも通り笑ってるけれど、顔色は悪くだいぶ痩せている。

「お前が療養せず隙あらば逃げると言う苦情が来てね、こっちも困ってるってわけだ。」

「誰だよそんな事言う奴。」

ケラケラと笑う晋作を見て胸が痛んだ。

船を乗り回し陸路を走り奇策を引っ提げて常に前線を飛んでいた晋作、今でもそうしたいに決まってる。

時折苦しそうに咳き込む姿を見て、すぐにある病の名が浮かんだ。

「労咳、か。」

「あぁ、たぶんな。」

何て事だ・・・

お茶を持って女の人が入って来た、大人しそうな女の人。姉さんとは違い色が白くふんわりとした感じの子だ。

「おうの、この人がいつも言ってる小五郎さんだよ。」

おうのさんは盆を置き丁寧に頭を下げた。

「はじめまして。君が晋作の面倒を見てくれているの?」

「はい。」

「手がかかって大変だと思うけどよろしくね。」

「はい。」

おうのさんは再び頭を下げて、部屋を出て行った。

「おうのはらぶなんだぞ。」

・・・・・はい?

なんだって?

「らぶ?」

「そう、らぶ。」

なに、らぶって。

何語?

ポカンとしてしまった僕に晋作が笑う。

「おリョウさんが教えてくれたんだ、異国では好きって言葉にはらぶとらいくがあるらしい。」

らぶとらいく?

聞いたこと、ないけど・・・

晋作はますます面白がって笑う。

「おリョウさんは小五郎さんの事をらぶと言い、俺や伊藤の事をらいくと言ったんだ。」

なんとなく・・・だけど、わかったかな?

「頭固いな、小五郎さん。」

ケラケラと晋作は笑い、突如咳き込んだ。

「おいおい!」

それでもひっくり返って笑う晋作。

両手両足を投げて天を見る。

「俺はな、雅の事もおうのの事も好きだ。だけどその意味は違う。雅はらいくだけど、おうのはらぶなんだ。」

なんとなくわかった。

晋作にとって最も優先すべき愛する人がおうのさんなんだ。

「雅との間には梅之進がいる、家の方はもう問題ないだろ。」

ひっくり返ったまま投げやりな言葉を残す晋作、その姿はもう自分の行先に覚悟を決めている様だ。

「おもしろきこともなき世をおもしろく、だろ?まだあきらめるには早いんじゃないか?」

「あぁ、そうだな。もうちょっと遊んでたいなぁ・・・」

窓からの景色は秋に向かっている。

晋作は、春を迎えられるのだろうか・・・

「なぁ、今日はおリョウさんは?一緒じゃないの?」

「あぁ、姉さんは京に向かわせたよ。」

「はぁ!?なんで!」

晋作が飛び起きた。

「姉さんからの提案ではあったんだけどね、先に京に行ってもらって生活の地盤を持ってもらう。そうすれば僕の動く拠点にもなるしね。薩摩を信じきれないのは致し方ない事、薩摩は僕を歓迎こそすれど、こちらとしてはあまり厄介にはなりたくないからね。」

「すごいね、小五郎さんは・・・」

晋作は笑う。

「おリョウさんの事、信じてるんだね・・・」

「疑った事なんて、あれから一度もないさ・・・」

そう、お雪の事以来、ただの一度も。

姉さんも僕の事を信じてくれている。

「・・・あの子達に、宗次郎と平助に会いたいって、言われちゃったんだ。」

「そっか・・・」

僕達は口にこそ出さないがお互い江戸での懐かしい日々を思い返していた。

ただ毎日笑って、剣を振って、兄弟の様にいっつも一緒にいた。

夢ばかり、見ていた。

「おリョウさんなら、あの二人を新撰組から抜いちゃいそうだね。」

「あぁ、きっと連れ帰って来るよ。」

誰がこんな世になる事を予想できただろう・・・姉さんは全部知っていたはずなのに、笑って、黙っている。

この先の事もきっと、黙っているんだ。

「おリョウさんって、いくつになったの?」

「僕が三十四だから、本来なら四十一ぐらいかな。」

「冗談じゃねーや!」

晋作が笑う。

本当だよね。

「公にはまだ二十三ぐらいだよ?」

「そっちが正しいよ絶対!」

姉さんの容姿は全く変わらない。それこそ人知を超えた存在だ。

「おリョウさんと出会って十年か・・・・・怒涛だったな。」

「あぁ・・・」

ほんと、まさに怒涛だった。

「なぁ、小五郎さん。」

「なんだ、」

「俺はもうそんなに長くはない。」

わかっている・・・

「前に言ったよな、小五郎さんに何かあったら俺がおリョウさんを引き受けるって。どうやらそいつは無理な話になりそうだ。だから、小五郎さんは絶対に死んじゃいけない・・・」

そう、もうそれは頼めそうにない・・・

「でさ、今度は俺の頼みを、聞いてくんないかな?」

なんだか情けなさそうな笑いを見せる晋作に、僕は黙って頷いた。

「おうのの事を頼みたい。俺が死んだらきっと、妾のおうのは捕まるはずだ。おうのには俺の墓を守らせる。援助を、頼んでいいかな。」

「・・・わかった。」

「悪りぃね。」

「そんな事、思ってもないくせに。」

「正解。」

窓から外ばかり見ている晋作は、まるで鳥籠の鳥の様で・・・哀れだ。

「おリョウさんには、言わないでね。俺、おリョウさんの笑顔が、すっげぇ好きだから・・・」

「あぁ、わかったよ。」

再会を誓って別れたけれど、約束したことを後悔した。

守れない約束ならしない方が良いと思うから。

叶わない希望など不安をあおるだけだから。

でも、それでも晋作とは再び会いたいと思って、再会を誓ったんだ。

どこであっても、どんな姿であっても、あの世だとしても必ず再会したい。

僕の相棒は晋作以外にはいないから。



【宗次郎】

   けほっ、けほっ。

もう!

この咳いつから治らないのかさえわかんないけど!

でもこの咳のおかげで隊務に出なくってもいいんだけどさ。

「おい総司、風邪か?結構長い事咳してるよな?」

平助君が心配そうに僕の事を見た。

「うん、なんだろうね。でも毎日出るわけじゃないんだよ?」

そう、何かすると出たり出なかったり。

「労咳とかじゃねーだろうなぁ・・・?」

「やめてよ平助君、悪い事言わないで。」

もう、変なこと言わないでよ・・・

でも、この咳、ちょっと変な感じなんだよね・・・

胸が、苦しいんだよね・・・



【おリョウ】

春先、小五郎から私の所に届いた文には私の知らない歴史の一部が書かれていた。

晋作が、結核で死んだ。

そうだったんだ・・・

高杉晋作は、結核で亡くなるんだったんだ・・・

だから、明治維新の志士の中にあの子の名前がなかったんだ・・・

遅かれ早かれ、こうなるんじゃないかと言う事は心得てた。でも私は、あの子は戦で散るんじゃないかって思ってた。

漫画にでもなりそうな彼の武勇伝を聞けば、そんな派手な最期なんじゃなかろうかって。

文には、生前晋作が私に言わないでほしいと言っていた事が書いてあって、それに対しての小五郎の謝罪の言葉が書き添えられていた。もし、知っていたとしたら、私はあの子に会っただろうか・・・やせ衰えて苦しんでいるあの子を見て、知識は持ち得ているのに成す素手もない自分の無力さを許せただろうか。

きっと、許せなかったはずだ。

晋作は、そんな私の事を悟っていたのかもしれない。

最後は雅ちゃんと息子、おうのさんに恩人の尼さんが看取ってくれたとある。こんなにたくさんの女性たちに囲まれて晋作らしい。

妻と妾と年上の女、最後まで派手な子・・・

小五郎が来たらめいっぱい忍んであげよう。あの子の武勇伝やわんぱくさ、小五郎が知らないだろうあの子の事全部笑い話にして語り明かすんだ。翌日は仕事を入れないで明け方までずっと・・・ずっと・・・・・

小五郎に、会いたいな。



【平助】

総司には話さないとって、思ってた。

俺はやっぱり伊東さんと行くって。

人斬り集団としての新撰組に俺の志なんて何もなくって、ただの捨て駒になるのだけは耐えられそうになかった。

伊東さんに入隊を進めたのは俺だし、伊東さんの尊王攘夷に共感している。

山南さんの事以来、隊の中は土方さんの力での統制以外何もない。

あれから総司も、少しずつおかしくなってきてる。

近藤さんも土方さんもそれを分かていて黙ってる。

たまにふらっといなくなっては帰って来なかったり、何日も隊務に参加しなかったり、子供たちと遊んでばっかり。

体調も、ずっと悪いままだ・・・

今日はどこにいるんだろう総司のやつ、俺の話ちゃんと聞くかなぁ・・・

「そーじー、そーじー、どこにいるー?」

大体は裏の川にいるんだけど・・・今日は川じゃないみたいだ。

しばらく歩いて、田んぼの畔を歩いていたら、いた。

子供5人と、総司だ。

「おーい、総司!」

俺の呼びかけに総司が手を振る。

幼子が水路で小魚を追いかけていて、総司はそれをニコニコしながら見ていた。

その光景は江戸川屋の光景みたいで、洗濯をしているおリョウさんをただニコニコと見ていた総司を、あの日を思い出した。

「なぁ、総司。」

「なに?」

「ちょっと来てくんないかな。」

「やだ。」

やだって・・・今、隊務中だろ!

まぁ、こいつにゃ関係ないんだろうけど・・・俺は座っている総司の横に立つ。

「んじゃ、いつならいいんだよ?」

「陽が落ちたらいいよ。」

「なんで?」

「みんなが帰るから。」

あぁ、そう言う事・・・

子供たちが何してるのかじっと見てたら、水際で小魚を追いかけている。

よく見ると子供たちはまだ1匹も魚を取れていない。

「なぁ、これっていつからやってんの?」

「うん?昼前から。」

「ずっと?」

「うん、そうだね。」

・・・で、1匹も取れてねぇの?この子達・・・?

じっと見てたら、まぁ、これじゃ取れねぇよなぁって感じで。

「総司!行くぞ!!」

「えっ!?ちょっと!!」

俺は裾をまくりあげて刀を置いて、川に飛び込んだ。

「総司も早く来いよ!」

「もぉ!」

ぶつぶつ言いながらもやって来る総司、そう来なくっちゃ!

「どっちがたくさん取るか競争しね!?」

「いいよ、負けないよ?」

「上等だ!」

俺と総司は子供たちと一緒に小魚を取って遊んだ。幼子といっしょにずぶ濡れになって小魚を追って転がって・・・久しぶりにすっごい楽しかった。

結局お椀は魚やらエビやらでいっぱいになってどっちがどれだけ取ったかなんてわかんなくなって、陽が落ちてきた。

「お兄ちゃん達またねー!」

「うんまたねー。」

子供たちはみな自分の家に帰って行って、俺と総司は畔に座って足放り投げて沈んで行く夕日を見ていた。

「刀放り投げてこんな事してるの見られたら、土方さんに殴られるな。」

「そうだね。」

総司が昔と変わらない幼い顔で笑った。

「なぁ、総司、体調大丈夫なの?」

「うん、まぁ大丈夫。」

総司の体調については、なんとなくいい感じはしなかった。良くなる気配はなくって、むしろひどくなってる。

たぶんみんな思い当たる病の名前は同じだと思うけど、誰も口にはしない。

それは総司も一緒・・・

総司も聞かれない限りは自分の体調について一切口にしない。

「寝てなくっていいのかよ。」

「寝ててもつまらないよ。」

「まぁ、そうだな。」

総司はおもむろに立ち上がるとお椀を手に取って、入っている小魚たちを川に戻した。

「いいのかよ、戻して。明日もまた子供たちが遊ぶんじゃねーの?」

「ここにずっといたら死んじゃうよ・・・」

「死んじゃう・・・か。」

ここにずっといたら死んじゃう、それは、意味は違えど、俺も総司も同じだ。

「死んじゃったらかわいそうだ。」

この光景だけ見たら総司は心優しい男だ。

でも、こいつは違う。

無関心に抜刀して人が斬れる奴だ。

でもそれは俺も同じで・・・少なからず、人斬り集団と言われても仕方がなくて。

「なぁ、総司・・・」

「なに。」

「俺、伊東さん達ん所に行くよ。」

「御陵衛士?」

「うん、そう。」

「うん・・・・・」

しばらく黙って、俺達は泳ぐ小魚を見ていた。

「伊東さんを隊に呼んだのは俺だ、その伊東さんが俺に来てほしいと言ってる。尊王攘夷の思想から逸脱している新撰組を離れたいと言う伊東さんの気持ちはわかるし俺も尊王攘夷派だからな・・・って、お前には関係ねーか。」

「うん、僕には関係ない。」

相変わらずあっさり言ってくれるよな。

「僕は、近藤さんと土方さんがいれば、それでいいから・・・」

総司は依存する対象を変えてる。

おリョウさんを失ってから、総司は近藤さんと土方さんだけを見て、支えに生きてる。

俺にはそれは、半ば投げやりにさえ感じてた・・・

「ねぇ、平助くんは脱隊になるの?」

「いや、ならないみたい、分離になるのかな。」

「じゃ、切腹しなくてもいいんだね。」

「あぁ、そうだな・・・」

たぶん、そんなに上手くはいかない。

たぶん、いつか追われるはずだ・・・いつかは、斬られるはずだ。

「平助くんとは、また会えるのかな。」

「どうだかな、」

「もう一緒に稽古はできないのかな。」

「たぶんな、」

「そっか。」

ごめんな、総司・・・お前を置いて行くことになっちまって。

山南さんの時も、俺は近くにてやれなかった。

おリョウさんに、頼まれてたのにな・・・・・総司を頼むって。

「でも、また会えるよね。だって僕たち友達だもんね。」

「あぁ、そうだよな。」

きっと次はないんだよ、総司。

俺と総司、どっちが先に逝くのかな・・・



【おリョウ】

この日のお座敷の名前を聞いて私はきっと浮足立っていたと思う。

「幾松さん、ご無沙汰しています。」

「旦那様、お久しゅう。」

私達の関係は吉田屋では周知の間で、座敷ではいつも私たち二人にしてくれる。

「今日はえらい楽そうな格好どすなぁ。」

「えぇ、商人ですから。」

相変わらず変装はお得意と言ったところね。

「ずいぶん懐事情のよろしい商人さんどすなぁ。」

嬉しくって、笑ってしまう。

「お仕事はいかがどす?景気はよろしいんやろか。」

私達はほぼ隠語で話をする。

「えぇ、才谷さん達のおかげでずいぶんと景気は良くなってますよ。」

才谷とは坂本龍馬の事。

「旦那様、相変わらず猫堂なんぞかわいらしい名前使ってはりますの?」

「えぇ、そうですよ?結構気に入ってるんです。」

そう言って小五郎が笑う。

「僕が飼っている猫は気が強くって賢くって美しい容姿をした、悪い猫なんですよ。」

「きっとお高い猫なんでしょうねぇ。」

「えぇ、とっても。」

そう言って笑い合う。

小五郎は数か月に一遍程度ふらっと来ては情勢を集めてまたどこかに消えていく。そんな小五郎こそよっぽど猫みたいだ。

「今日は少しお耳に入れておきたい事があって来たんです。」

「それは、良いお話しやろか?」

「であれば、いいのですが・・・」

小五郎が何やら考える、そして私を近くに呼んだ。

そして小声で話を始めた。

「先日、薩摩に元新撰組の伊東甲子太郎と言う男が接見を求めてきました。伊東さんは尊王攘夷思想をもつ人でこの度、新撰組を離脱したそうです。」

「新撰組を離脱?そんな事可能なの・・・?」

「彼らは孝明天皇の墓所を守る御陵衛士という隊を創り、新撰組から離別した形で出てきたと言っている様子です。姉さん、御陵衛士って聞いたことある?」

御陵衛士・・・知らない。

「ごめんなさい、聞いたことないわ・・・」

「いや、いいよ。で、その御陵衛士の中に、平助が入っている。」

「!!!!!!」

私は声を上げそうなのを必死でこらえた。

そんな私を見て、小五郎は優しく笑う。

平助が、新撰組を抜けた!?

「伊東さんの話がすべて本当なら、平助の身は安全だと思う・・・ただ、総てが本当なら、だけど。」

「平助とは会えるの!?」

思わず口にした言葉に小五郎は渋い顔をした。

「・・・いや、今はきっと会えない。僕も会いたいとは思うけど・・・さっきも言った様に話がすべて本当ならとしか今は言えないんだ。御陵衛士が未だ新撰組の間者である可能性もあるし、伊東さんは離脱と言っているが近藤さん側は脱退として命を狙っている可能性もある。だから今は僕も会う事は出来ないんだ。」

平助に会いたい。

「宗次郎は、宗次郎については何か言ってる?」

「いや、宗次郎については何も・・・」

「そう・・・」

新撰組がばらけて来ている事は、京に来て何となく感じた。

私達が京を去る前は警察的なイメージだったはずなのに、今やガラの悪いチンピラ集団に等しい。

逆らう者には容赦なく刀を向け、斬る。

治安はむしろ、悪くなっていた。

「伊東さんは北辰一刀流だ、才谷さんと面識があるはず、きっと近いうちに会うだろう。平助も試衛館の前は北辰一刀流、ならば伊東さんと平助は古い仲だと思う。そんな伊東さんを平助は選んだのだから新撰組を抜けるほどの何かがあるんだと僕は思ってる。」

小五郎たちの活動が進めば進むほど、坂本龍馬暗殺の日は近くなる。

これは決して他言すべき事ではないし、助言も許されない。

私は幸い、坂本龍馬とは接点がないがこの子は十分すぎるほど持っている。彼の死が、この子に与える物の大きさを想えば伝えてやりたいが・・・そればかりはできない。

晋作もいない、坂本龍馬もいない、宗次郎もいない、新しい世とは多くの者の志と命の上にあることをまざまざと思い知らされた・・・

二兎を追う者は一兎を得ず、私は、この子だけを守るの。



【宗次郎】

どうも世間では大政奉還ってのがなされて世はだいぶ大騒ぎになっているらしい。

幕府が無くなるんだって言うけれど、僕は正直良くわからない。

それをやったのが小五郎さん達で、小五郎さんの仲間の、ずっと探していた土佐の坂本龍馬と中岡慎太郎が近江屋で殺されたと一報が入った。

斬ったのが誰なのか、それが誰もわからないみたいで、僕達じゃないかという噂も上がった。

そんな話をしていた数日後・・・

その夜、僕は隊士たちの言葉を聞いて屯所を走っていた。

「平助君が斬られたってどういう事!?」

僕は近藤さんの部屋に駆け込んで怒鳴っていた。

「落ち着け、総司!」

土方さんが言うけれど、僕は土方さんにも噛みついた。

「平助君が油小路で斬られたって!どういう事!?」

「そのままだ、それ以外何がある。」

土方さんはそれ以上かかわるなと言う目をしている。

「平助君は逃がすって!連れ帰るって言ってたじゃないですか!なのになんで斬ったんですか!」

近藤さんは一つ、ため息をついた。

「永倉と原田には平助が来たら密かに逃がすようにと言っていた、その上で隊に連れ帰る様にと言っていた。だが末端の隊士はそれを知らなかったようだな。」

「その隊士って、誰!?」

僕は二人を見上げた。

「その男、僕が斬る!」

「何言ってやがる!くだらねぇこと言うな。」

「くだらなくなんてない!!!!」

大声をあげて、息が切れた。

「平助君は、末端の隊士になんか斬られるような腕じゃない!」

平助君の剣の腕は確かだ、ずっと僕とやって来たんだ、僕が一番よく知っている。

二人は黙っている。

「平助君が斬られるわけがない。その男はきっと後ろから襲ったに決まってる!そんな奴武士じゃない!」

   げほっ、げほっ、

絶対に、そうだ・・・

「落ち着け総司、体に悪い。」

体なんてずいぶん前から悪い!

土方さんが差し出す手を僕は払って、二人を見上げた。

「武士なのに・・・卑怯だ、げほっ!」

平助君は・・・

平助君はどこ?

「平助君はどこにいるんですか!?」

僕の言葉に二人はまた黙る。

「平助君はどこにいるの!連れて帰る!」

「連れ帰ることは出来ない。」

そう言ったのは、近藤さんだった・・・

「平助は他の隊士への見せしめに曝す、回収は許されない。」

そんな・・・

「そんなのいくらなんでも酷いよ!」

「平助はここを抜けたんだ!その時点で死罪の対象だ!今更わがままを言うな!」

わがまま!?

僕は、わがままを言ってるの!?

平助君は脱退じゃないって言った。

分離するんだって言った。

僕は土方さんの言葉を聞いて、何かが切れてしまって、部屋を飛び出していた!

「総司!!!」

土方さんが叫んでいたけれど、そんなの聞くもんか!

僕は走って、油小路に向かった。

着いてみると、真っ暗でもわかった・・・平助君達は本当にそのまま道に置き去りだった。

月明かりに照らされた平助君は顔を斬られていて血だらけだった。

でも、平助君の下に広がる血痕は決して額からだけじゃない、やっぱり、背を斬られたんだ。

きっと背を斬られて振り向いたときに顔をやられたんだ。

なんて卑怯なんだ・・・

正面から挑めば平助君は絶対に負けなかったはずだ。

池田屋であれだけの太刀振る舞いができたんだ、あれだけ刃がぼろぼろになるまで戦えるんだ、たった二太刀でやられるわけがない・・・

ねぇ平助君。

平助君が新撰組を出ちゃったから悪いんだよ・・・?

平助君にとっても尊王とか攘夷とかって大事だったんだね、そんな事で死ぬ必要なんてなかったのに。

僕はしばらく呆然と平助君を見ていた。

もう動かないんだよね、平助君。

話もできないし、稽古する事も出来ないんだよね・・・

一緒に魚を取る事も、できないんだよね・・・

どのくらいの時間そうしていたかは分からないけれど、ふと気がつくと人の気配がして、僕はあわてて物陰に隠れた。

その人達は走ってこっちに向かっている。

来たのは、きれいな着物姿の女の人と、男の人が二人。

二人の男は周囲に気をはせているけれど・・・女の人は、ふらふらしながら平助君の前に屈んで、平助君を抱え上げて抱きしめた。

すぐにわかった・・・

あれは、おリョウさんだ・・・・・

出て行きたかった。

出て行きたかったけれど・・・平助君を斬ったのは新撰組で、新撰組は小五郎さんやおリョウさんを殺すために探していて・・・出て、行けるわけがなかった。

僕は物陰から平助君を抱えて泣いているだろうおリョウさんを見ることしかできず、静かにその場を去るしかなかった。

   けほっ、けほっ・・・

夜道を歩いていたらまたあの咳が出た・・・

あそこにいる時、おリョウさんを見ているとき、咳が出なくってよかった。

咳が出ていたらきっとばれちゃってたから。

平助君が前に言った、僕たちはもう、元には戻れないんだって。

昔みたいに、一緒にいられないんだって・・・

平助君の言っていた事はきっと本当なんだ。

平助君を斬った僕達は、おリョウさんに会っちゃいけない。

大人になるって、こういう事なんだよね・・・平助君・・・

僕は妙に重い足取りで、屯所へ戻った。

この頃あたりから、僕の咳はひどくなったんだと思う・・・

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