夢恋路 ~動乱編~10
【おリョウ】
かの有名な池田屋事件が起こり、それから一月もせず長州が挙兵したと聞いた。
でもそれは小五郎からじゃなくって、噂で。
小五郎の無事だけは聞かされたけれどもはやどこにいるかもわからない。
朝敵となってしまった長州を庇護することは難しく私自身も耐えるしかなかった。
三本木は京都御所に近く、吉田屋の近くにはほぼ空になっている長州藩邸もあり、近隣ではいろんな争いが起こっていて商売なんてやっている場合じゃないよ。
長州藩相手となれば出てくるのは新撰組だ・・・小五郎を助けないと。
私は顔が知れている。近藤勇、土方歳三、宗次郎に平助・・・山南は私の顔を覚えているだろうか?
戦線が落ち着くのを待とう、そしたらすぐに、小五郎を探さないと。
そう思っていた矢先・・・
それから数日して、京の町に火が放たれた。
この当時完全木造建ての建物に放たれた火は瞬く間に燃え広がり、盆地である京の町は文字通り、火の海だった・・・
出火元は長州藩邸とも、幕府が火をつけたともうわさが上がり、私達は鴨川河川までなんとか逃げる事が出来た。
川の向こうは大火災で、燃えている町を見つめるのは心が痛く、でも立ち尽くしてそんな光景をじっと見つめる以外私には何もできなかった。川面に映る紅い光、その色だけでも熱さを感じた。
私達はお母さんの知り合いの家に身を寄せ、そしてその日から、私は必死で小五郎を探した。
消えない炎は夜も明るく私は河川に集まる人ごみを縫って必死に小五郎の姿を探した。
京にいるかなんてわからない。
もしかしたら長州にいるのかもしれない。
どこかの藩でかくまってもらっているのかもしれない・・・・
ただ、私のつたない記憶が正しければ、小五郎はこの河川にいるはず!
教わった歴史が本当であるのなら、どこかの橋の下で、物置かどこかで、しかも、とんでもない姿で・・・
私は手ぬぐいと握り飯を巾着に下げて昼夜問わず探し回った。
そして探し回る事2日目の夜、ある河川で、背の高い男の影を見かけた。その男はふらふらとした足取りで真っ暗い橋桁へと消えていく。
絶対に小五郎だと言う確信があった。
もし、全くの人違いだったとしたら私は襲われるかもしれない、そんな事が頭をよぎったけれどそれはほんの一瞬で、それに勝る強い気持ちが私の中にはあった。
私に手を出すなんて何百年早いと思ってるの!?
こんな事が怖くて、あの子を助けられるはずがない!
私は周囲に目をやった、幸い、この付近は人がいない・・・人が近付かない様な場所なのかもしれない。
暗い色の着物を着てきて正解だ、私は、その男を驚かさない様に、できるだけ静かにその男がいた場所に足を向けた。
土手はぬかるんでいて、下駄では到底無理で、私は下駄を脱いで足袋の状態でその土手を降りた。
お願い・・・小五郎であって!
自分の足元さえ見えない暗闇、小石や小枝が当たるけれどそんなことどうでも良い!
・・・これで小五郎じゃなかったら、私逆ギレしないかな。
腰を落としてできるだけ身を小さくして、河川下まで何とか降りた。
そこに人の気配はない・・・
あるのは、雑な作りの粗末な小屋だけ・・・
小屋の横、暗がりに立って、小さな裂け目から私は声をかける・・・
「・・・小五郎・・・?」
中で、何か音がする・・・
神様お願い・・・小五郎であって・・・
「・・・姉さん・・・?」
薄いヨシズ一枚隔てた向こうからした声は小五郎だ!
「大丈夫よ、誰にも見られていないわ・・・」
私は私だとわかる様に、髪に付けていた、小五郎からもらったクシを隙間から投げ入れた。
すると、ほんの一瞬だけ戸が開いて、中から伸びる手が私を引き入れた!
「姉さん!」
「小五郎!!」
私達は消え入りそうな小さな声で、真っ暗な小屋の中で互いを確認した。
抱き合い互いの顔に触れ、互いを確かめ合った。
「どうしてここに!?」
その問いに、私は自分の頭を二回ほどついて見せた、それを見て小五郎はハッとする。
「さすが、僕の姉さんだ!」
「お腹すいているでしょ、ちょっと待ってて。」
私は戸の隙間から暗闇に出て、足の感覚を頼りに水面までたどり着いた。手ぬぐいを二枚濡らして絞って、そして再び小屋へともぐりこむ。
「食べなさい、持って来たわ。」
巾着から握り飯を二つ出して、小五郎の手を手ぬぐいで拭いてから渡した。もう何日も食べていない様子だった小五郎はあっという間に二つの握り飯を食べてしまう。
やっと目が慣れて来て辺りを見ると昔は船頭か何かが使っていただろう倉庫の様、むしろに縄、かなり古い船の用具が置かれているが、もう何年もそのままと言った感じ。小さな桶には水が張ってあるけど飲み水として使っているのかな。
ここは、あまりになにもなかった。
小五郎の身なりはと言う・・・まぁ、教科書通りで、物乞い?と言う、まぁ浮浪者の格好ね。
いつも身なりはきれいにしていた方だったから・・・ちょっとこれは受け入れるのに時間がかかりそうだわ。
「この変装はどちらで?」
「ん?その辺で。」
そう言って小五郎は苦笑した。
二本の未使用の愛刀は・・・どっかに隠してあるのかな?
私はもう一枚の手拭いで小五郎の顔を拭いてやる、もーそのまま洗濯機にでもぶち込んでやりたい格好ねぇ。
「いつからここに?」
「二日ほど前、あの大火の日からだよ。京を出る事も中に入る事も出来なくってね・・・助かったよ。」
「あなたを助けるって言ったでしょ?」
小五郎はふと、私の足元に目を落とした。
「姉さん、足!」
・・・ん?
下駄を履いていない私の足はドロドロで、足袋はもはや土色。着物の裾もぐちゃぐちゃだ。
ちょっと、血が滲んでいるかな・・・?
「履物は!?」
「そんなもん、ここに降りるのに不便だったから捨てたわよ。こんなの、白糸と畑に出ていた時よりマシだわ。」
言い切った私に小五郎はしばし絶句して、そして笑った。
「さすが姉さんだ!」
「明日から毎朝食事を届けるわ。たぶんだけどこの橋の上からはちょうど朝陽が見える、私はその朝陽を拝みに来ている芸者になればいい。もし、私が目を付けられている様だったら私がおとりになって誰かを必ず来させる。ここに降りる事が出来ないのなら橋の上から落とすわ。大丈夫、あなたの事は絶対に守る。これが幾松の勤めよ?」
唖然とする小五郎を見て、私はめいっぱい悪い顔をして見せた。
「とんでもない女でしょ?」
「本当に。」
「私はあなたを信じる、だから、あなたも私を信じて。」
私は紙とペンを小五郎に渡した。
「もし、私以外の誰かに事を頼むのに必要なら使って。これなら墨も筆もいらないわ、持っているといい。例えどこにいたって、この日本にいる限り、私は必ずあなたを探し出してみせる!」
私はそう言って小五郎の頭を抱え、額に口付けをして小屋を後にした。
【桂小五郎】
姉さんが去った後、僕は腹を抱えて笑った。
声を殺すのに必死で、のたうっていたかもしれない。
何て女だ、恐ろしすぎる!
僕はすごい女を妻にしようとしている!
履物が邪魔だったから捨てただって!?
そんな芸妓、見たことも聞いたこともない!
姉さんは僕の問いに二回頭を指さして見せた、きっと、僕がここにいる事を何百年も先の世から知っていたんだ。
だから握り飯まで持っていたんだ、僕が何も食べていない事も知っていたから。
まさに神仏だ、そうとしか言えない!
ここにいる事は誰一人も知らない、だからこそ本気で困っていたんだから。
姉さんがいる限り、僕は絶対に死なない!
姉さんがいるからこそ僕は生きられるんだ!
絶対に生き抜いて見せる!
しかし・・・同志はほとんど戦死してしまって、今や長州はほとんどの兵力も頭脳を失っている。
来島さんも久坂さんももういない。
姉さんの為にも、何とかここを出よう・・・
とりあえず一度、京を出なければならない。
どうする・・・
どうやったらここを出られる・・・
考えろ、桂小五郎!
何か策あるはずだ・・・何か・・・
姉さんが来たのは2日程、その後はお母さんがやって来てくれた。
「勘忍ね、計は今別の場所に足を向けてるんよ。」
それは、姉さんが目を付けられていると言う事だ。
お母さんにはすぐに帰ってもらった、これ以上ここにいるのは姉さんに危険が及ぶ可能性が高い。現に姉さんはおとりとなって幕士の目を自分に向けるべく動いている。
すぐに京を出なければならない。そして、京のほとぼりが冷めるまで身を隠さなければ・・・
この京には誰がいる・・・?
誰なら、うまくここを出られる・・・?
「甚助しかいないか・・・」
でも、甚助、来るかなぁ・・・?
危険な仕事いっぱいさせちゃったしなぁ・・・
臆病だからなぁ・・・
僕は姉さんにもらった紙にペンなるもので甚助の名を書き、住所を記す。
これを明日、お母さんに渡して、甚助をさがしてもらおう・・・出石に向かおう。
ここにいても仕方がない。
翌朝、まだ暗い中やって来てくれたお母さんに僕は姉さんからもらった紙を持たせた。
「対馬藩にいる広戸甚助を呼んでください。林竹次郎が呼んでいると言えば分るはずです。」
「わかりました。」
お母さんは一言そう言って、また静かに出て行った。
【お母さん】
対馬藩の広戸甚助はん・・・
桂様のお頼み、潰す訳にはいきまへん。
せやけど、うちが直接行けば今後桂様に食事を届ける事は出来んようになるし・・・計に相談せんと。
「計さん、ちょっと、三味線のお稽古に付きおうてもらえるやろか?」
うちの言葉に計は何かを察したのかすぐに頷いた。
「せやったらうちの部屋でどうどす?」
計の部屋は二階、そこなら誰かに聞かれることもない。
うちの置屋にいるもんはみな長州びいきや、もし桂様を裏切るような行為をする者があったら鴨川に埋めたる!
隣り合って座って三味線を鳴らしながら、うちは計に事を伝えた。
「お母さんが行くのは良くないわ、お母さんまで目を付けられてはこの瀧中全体が監視の目に合う。そうなれば小五郎の所へ行けなくなってしまう。」
「お使い言うても、誰に行かせたらええやろか・・・?」
「呉服屋がいいんじゃないかしら、着物屋なら中に入れるはず。」
「せやね、呉服屋ならうちに出入りの子がいるわ、すぐ使いに出すわ!」
「くれぐれもうちからとは言わせないでね、あくまで商いで行かせて。文をうまい事渡してもらって。」
計はそう言ってさっと文を書いた。
計はほんま、頭のよう切れる子やわ、利発な娘。
うちは計がしたためた文を持って呉服屋に向かう、そして、呉服屋の小間使いの青年に計の文と風呂敷包みを持たせて、対馬藩に向かわせた。
幸いにも呉服屋と対馬藩は目と鼻の先、すぐに小間使いの子が広戸様連れて帰って来るはずや。
そう思うて、呉服屋さんで待たせてもろうてたんやけど・・・
本当に、早う帰って来はったんやけど・・・もう済んだん?
「女将さん、えろぅすんまへん。頼まれた旦那ですが、会うてもらえまへんかって・・・」
・・・なんやって!?
「なんや、林竹次郎と言う名を出しましたら血相変えて屋敷に逃げてしもうて・・・」
なんて男!?
桂様の一大事に!
「その甚助と言う男、どんな身なりしてはった・・・?」
私の中で、何かが切れた気がした。
その甚助と言う男の風貌と着物を聞いて、私はいてもたってもいられずにそのまま対馬藩へと足を向けていた。
なんて肝の小さな男!うちの出入りの子やったら絶対に許さへん!
京女の度胸、見せたるわ!
私は裏口にまわって、通用口の全てに手をかけて、鍵のかかってない戸を見つけた。
こんなこと、知れてしもうたら罪人になるかもしれへん。
でも、桂様をお助けせな!
庭の陰に身をひそめ、通路を歩く男たちを必死で見定めた。言われた通りの風貌の男・・・その男を探さなければ!
しばし待っていたら、運がいい事にその男が一人で廊下を歩いてきた。
これは今しかない!
思わず私は叫んでしまった。
「広戸甚助様!」
私の声に男は驚いた様子で足を止め、私に気が付いた!
「何者だ!?」
小心者なのか驚いて数歩下がるこの男に、私は足元で膝を付き声をかけた。
「林竹次郎様からぜひにと言うお言葉をお預かりしております。どうか、うちと来て下さいまし!」
私は計が書いた文を差し出した。
男は妙に狼狽えていて私の文を取ろうとしない。
何やじれったい!
それでも男なんか!?
私は立ち上がってこの甚助と言う男に詰め寄る、男は狼狽えて数歩下がって、梁に体をぶつけた。
「女であるうちが忍んでまでやって来てるんや、あんたも男やろ!助太刀の一つも出来んのか!?」
「いや、しかしだな・・・」
何やこの男!!
「あんさん!林様に恩義はないんか!?」
この言葉に甚助と言う男はうつむいて、口を真一文字に結んで、それから顔を上げた。
「林竹次郎殿には代えがたい恩義があります・・・」
「せやったら!今が返す絶好の機会やないの!男やったら出て来なはれ!」
私はすぐに計の文を押し付け渡す、そしてそれに目を通した甚助と言う男は状況を理解したのかすぐに表情を変えた。
「・・・わかりました、連れて行ってください。」
やった!
私の役目はこの男を桂様の元へお連れする事。
いつも私達が使っている人目につかない道を通って、私は桂様がいる土手へと甚助を案内した。
「ここを降りておくんなまし、橋の下にある小屋の中に林様はおられます。うちは橋の上から見張っておきますさかい、早よぅ・・・」
甚助と言う男はこくりとうなずき、土手を降りた。
【甚助】
使いの男を追い払ったかと思えば女が藩の中に潜んでる!
女はまるで嘆願書のごとく俺に文を渡すけれど・・・どうしよう・・・
林竹次郎と言えば桂さんの事だ。
今桂さんと共にいる所を見られでもしたら死罪はまのがれない!
どうしたら・・・
そんな事を思っていたら女が詰め寄って来て!俺は梁に背をぶつけた!
ちょ、ちょっと!
「あんさん!林様に恩義はないんか!?」
この一言はかなり堪えた・・・
桂さんには大分贔屓にしてもらった。
賭博で問題起こしちまった時も助けてもらった。
なによりあのお人が窮地に立たされている・・・これは、男ならば腹をくくるしかあるめぇ!
「林竹次郎殿には代えがたい恩義があります・・・」
「せやったら!今が返す絶好の機会やないの!男やったら出て来なはれ!」
「・・・わかりました、連れて行ってください。」
女の文に目を通せば今出川の東の小屋に潜伏していると言う。
俺はすぐに藩を出て、女とその場所に向かった。
聞けばこの女の娘は桂様の恋仲の娘だと言う、母親と二人で毎日食事を届けていたと。このご時世、長州に触れただけでも死罪になると言うのに、恐ろしい女達だ。
いつも女たちが使っていると言う人通りの少ない道を通って、土手にたどり着いた。
「ここを降りておくんなまし、橋の下にある小屋の中に林様はおられます。うちは橋の上から見張っておきますさかい、早よぅ・・・」
女はそのまま橋の上に向かい、俺は隠れるようにして小屋へと向かった。
こんな掘立小屋に桂さんが・・・?
開けてみて、そこには信じられない光景が広がっていた。
物乞いの姿をしてむしろを被って大きな体を丸めて寝ている桂さんがいた。
なんて事った・・・
これがあの、長州を代表する志士である桂さんか・・・?
まさか、こんな事になっていたなんて・・・もっと早くに気が付くべきだった・・・
戸の閉まる音に、桂さんは気が付いた様で、薄目を開けて俺を見た。
そして、笑った。
「やぁ、甚助、元気ぃ?」
「・・・へぇ、」
元気ぃ?って、元気ですが・・・そんなのんきな事、言ってられませんぜ?
桂さんは起き上がって目ををこすって、立ち尽くしている俺を見上げた。
「京を出たいんだ、出石に連れて行ってくれないかな?」
まさか、まさか、本当にまさかこんな事になっているなんて思ってもみなかった。
桂さんに頂いた恩義はとんでもねぇものだ!
どうしょうもねぇ俺をいっつもかわいがってくださった、武士と言う身分でありながら俺達の様な使い走りをとても面倒見て下さった。この頼み!受けねぇとあらば男じゃねぇ!
「任しておくんなまし!必ずやお連れします!」
「ありがとう。」
桂さんは、笑った。
この広戸甚助、必ずや桂さんを出石にお連れします!
【桂小五郎】
これで京を出る事が出来る。
しばしほとぼりが冷めるまで身を隠すしかない・・・
出るにあたっての絶対条件は、誰にも居場所を教えないと言う事・・・
それは、姉さんにも当てはまる事で・・・きっと、かなり長い時間、姉さんと会う事は出来ないだろう。
それが何より、一番つらい。
でも、ここにいては姉さんが疑われるだけで・・・早く、出よう。
で、甚助曰く、僕の容姿はすっごく目立つそうで・・・まぁ、だよね。ちょっとでっかいんだよね、僕。
立ってしまうと甚助を大きく上回っちゃうんだよね。
「そうだねぇ、かなり怪しいね、僕。」
「へぇ、かなり・・・」
だよねぇ。
こ~りゃ困っちゃったねぇ。
「で、旦那、考えたんですが・・・駕籠で行きやしょう。」
「駕籠?」
「旦那を歩かせる訳にはいかないんで、それがいいかと。」
だよねぇ・・・
そーいえば、姉さんが駕籠をすっごい嫌ってたっけ。
あの頃の事を思い出してちょっと笑ってしまった。
・・・姉さんに会いたいなぁ・・・
僕は甚助の案によって病気の船頭と言う事になって、服も着替えて駕籠に乗って、姉さんに何も告げる事が出来ないまま京を後にした。出石に着くまで途中何度か危ない場面もあったけど、甚助の持ち前の顔の広さで無事に着く事が出来た。出石に着いた後も結局じっとは出来なくって、長州に帰るよりもここにいた方が京の情勢が入りやすいと思い残ったはいいけど・・・まぁ、追われに追われて、甚助の親戚や遠縁や寺やら、その中でも湯島の松本屋さんでお世話になった時に・・・
そのぉ・・・
なんと申しましょうかねぇ・・・
女将さんの娘さんのね、タキさんをね、世話役で付けてもらったんですけど・・・
えーっと・・・
何と申しましょか・・・
いろいろと、事が進んでしまいまして・・・
子がね、できてしまったわけですよ・・・
どーしよう・・・
切腹させられる・・・
・・・・・・・・・・。
でも・・・
だって!
だってしょーがないじゃん!
ずっと追われててさぁ、ずっと隠れてるんだよ!?
そりゃ・・・ねぇ、そりゃ、さぁ・・・寂しくもね、なるわけで・・・
男ですから、いろいろと・・・
「旦那ぁ・・・」
「はい・・・」
「確か京に、いらっしゃいましたよね・・・奥方、」
きゃー!やーめーてぇー!
「おタキを、めとられるんですかい・・・?」
いや、それはー・・・
責任は、取りますけど・・・
めとるのは・・・あのっ、
「そこまではー、面倒みきれませんぜぇ?」
「はい・・・」
いや、そのぉ・・・
だって!
みんなして僕の回りに世話役として若い女の人置いていくから!
えっと・・・なんか、いろいろと、本当にごめんなさい。
「あのー・・・この事は・・・」
「そのくらいは、お手伝いしやす。」
「恩にきります・・・」
本当に、本当に、本当にごめんなさい・・・
姉さん、何してますか・・・
僕の事、忘れてないですか・・・
【甚助】
何もさせてねぇと旦那はふらふらしちまってあぶなっかしい、あの容姿にあのたっぱじゃ目立ちすぎる。なんかさせねぇと・・・堀田さんと一日碁を打ってるぐらいだったらまだいいけども、奥方に顔向けできなくなるのだけは、勘弁していただきてぇ。
「旦那様、商いをしませんか?」
「商い?」
「へぇ、場所は手配しますんで、旦那のような方が何もしてねぇってのはかえって目立ちやす。世話人としておすみを置いて行きますんで。」
旦那はふーんと何か考えたようで、そして快諾した。
「ありがとう、世話になるね。」
そう、旦那は笑うんだけど・・・一つだけ、釘差しをしておかねぇといけなくて・・・
「で、旦那、一応確認ですが・・・おすみにはー・・・」
「わかってます・・・」
手、出さねぇでくだせぇよ?
おすみはまだ十三です・・・
苦笑してますけど、俺、嫌ですよ?
どんな奥方か知りませんがあの厳戒令がしかれている京の中で重罪人である旦那を庇護して囮にまでなるような女、恐ろしすぎて敵に回したくはねぇよ・・・旦那の子、幸か不幸か早い段階で流れちまったってからまだいいものを・・・勘弁しておくんなせぇよぉ・・・まったく。




