夢恋路 ~動乱編~9
【宗次郎】
土方さんが連れて来たこの人、枡屋の古高って言う人らしいけど、誰なの?
ねぇねぇ、そんなに拷問したら死んじゃうんじゃないの?
あれくらいじゃ死なないのかなぁ・・・?
殺すんだったら首落としちゃえばいいのに、二階から吊るしたりして何してんだろう・・・変なの。
僕と平助君と、ほか数人でそんな光景を見上げていた。
「あんなに騒いでたらうるさいよねぇ。」
「・・・総司、お前よくそうやって言えるなぁ・・・」
平助君が僕の事見てるけど、なんで?
だって、ぎゃーぎゃーうるさいじゃん!
僕はよくわからないけど、平助君曰く、この古高って人は何かを知っているらしく、それを近藤さん達は聞きたいらしい・・・ふーん。
で、土方さんの酷い拷問を受けたこの古高って人曰く、風の強い火に京に火をつけて、その混乱の中、中川宮と松平容保って二人を襲って、で、避難する公明天皇を捕まえて長州に連れて行く・・・って、ちょっとよくわからない事を言ったそうで、でもみんなにとってはこの言葉はとっても意味があるらしい。
で、中川宮と松平って人、誰だっけ。
あっ、あれだ!
松平って人は会津藩のえらい人だ!
・・・たぶん。
長州てことは小五郎さんいるのかな?
もしかして小五郎さんと剣を交える事が出来るのかな!?
そこにはおリョウさんはいるのかな!?
・・・ん、だめだめ、おリョウさんはそこにいちゃいけないんだ。
小五郎さんを捕まえないとおリョウさんまで危ないんだから!そうだそうだ。
「早く小五郎さん捕まえないとおリョウさんが危ないね!」
平助君にそう言ったら、平助君がまたすっごい変な顔して僕を見てる。
最近平助君のこんな顔よく見るけど・・・変な平助君。
おリョウさんを守るって約束したじゃん。
この日から僕達は散々走りまわらされて、残っている長州藩士を探す羽目になって、で、僕と平助君のいる近藤さんの隊は池田屋という宿にたどり着いた。
「ねぇ、平助君。」
「なんだよ、」
「ここって、長州藩邸のすぐ近くだよね。」
「そうだな・・・」
「ここって、長州藩の定宿なんでしょ?」
「みたいだな・・・」
「いくらなんでも、こんな所で集まるの?」
「・・・どーだかなぁ。」
僕達二人はぽかんと池田屋を見上げていた。
いくらなんでも近すぎない?
だって、歩いてすぐだよ?長州藩。
もうちょっと遠くで集まろうよ。
「う~ん、でも、近藤さんが言うんだから、そうなんじゃねーの?」
そうなのかなぁ・・・?
【桂小五郎】
古高さんが新撰組に捕まったと言う報告はすぐに上がって、浪士たちがいきり立っている。浪士ばかりじゃない、藩士たちももはや激昂だ。
これはまずい事になった、いま怒りにまかせて暴れられて新撰組を襲撃でもしようものならすべてが水の泡だ。とりあえず古高さんの奪還が先・・・荒れる仲間たちを抑えて危険な藩士たちを外に出さないために今夜は門を閉じてもらって出入りを完全に止めてもらうように頼んだ。
いきり立つ浪士たちを納得させなきゃいけないし、古高さんを取り返す事もしないといけないし・・・やれやれ、今日の池田屋の会合は難しくなりそうだ。
みんな大人しく話を聞いてくれるかなぁ・・・怖いなぁ。
「御免下さい!」
・・・あれ、まだ誰も来てないの?
早かった・・・?
どうしよう、だたぼーっと待っているのもなぁ・・・じゃぁ、ちょっと対馬藩に行ってこようかな。
大島さんが困ってるって話は聞いていたし、なんだか対馬藩も中でごたごたしているみたいだし、池田屋の隣の隣だし、顔を出してこよっと。
みんなが来る頃にまた来ればいいよね。
【宗次郎】
の刻になって・・・近藤さん、本当にここに入るの?
間取りは完全に把握したから大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど・・・本当にここにいる?
鉢金を巻いて、やる気はあるけど、今日は風がなくって何か暑いなぁ。
やだなぁ~・・・
でも、ここに小五郎さんがいるかもしれないんだったら・・・手合せしたいな!
で、おリョウさんがどこにいるのか教えてもらおう!
近藤さんと永倉さんと、僕と平助君は正面から宿に入った。
「主人はおるか!御用改めである!」
近藤さんがそう叫ぶと、主人と思われる男が出て来て、僕達を見るなり驚愕といった様子で足を止めた。
うそ、本当にここにいるんだ・・・
「これはこれは、ご苦労さんでございます。何用でございましょう?」
主人は明らかに動揺してる、近藤さん大当たりだ。
「御用改めである!」
近藤さんのその言葉に主人は急に上に向かい叫んだ。
「皆様旅客しらべでございます!」
近藤さんは走ろうとする主人を殴り付け、僕達は奥の階段へと走った。
「永倉、平助、お前達はここにいろ!総司行くぞ!」
はーい!
二階に上がって戸を開けてみたら、本当にこんな所で会合してるよ。
この人たちバカなんじゃないの?
う~ん、小五郎さんはいなそうだなぁ。
みんな呆然として、お酒を飲む手を止めてるけど、悪い事している人たちなんだから斬っていいんだよね?
「御用改めである、手向かい致すと容赦なく斬り捨てる!」
あっ、やっぱり斬っていいんだ。
みんながそろりそろりと立ち上がり・・・あれ、大人しく捕まるのかな?
そう思った矢先、一人の男が僕に向かって刀を上げた。
僕は一太刀でその男を斬り捨てて、それが合図となって斬り合いが始まった。
男たちは次々と平助君がいる中庭に飛び降りるけど、平助君強いからみんな捕まるよー。
しかしこの部屋、天井が低いなぁ、と言う事は剣は振り上げられない。
あーっ、しかも誰かが灯消した!
真っ暗じゃん!闇討ちとは卑怯だぞ!
「総司、ここを任す!」
はーい!
近藤さんは下に降りて行く、んじゃ僕はここにいる奴らを斬っちゃえばいいんだよね?
んじゃ、やりますか!
【平助】
おいおいおいおい!
上から人が降って来るけど!?
これ、全員やっちゃっていいんだよね!?小五郎さんはいないのかな・・・
近藤さんが下りて来て奥の広い間に戦場を移した。
と言う事は二階は総司一人?
まぁ、あいつなら大丈夫か。
しっかし何つう人数だよ!
こんなにとっかえひっかえで刀もつかな!?
でもまぁ、負けないよ、俺。こんな奴等、小五郎さんや総司に比べたら全然大したことない!
悪いけど全員死んでもらうからね!!
刀が当たる音と気迫ある声と絶命の声、池田屋はとんでもない事になっている。永倉さんが後ろで戦っている音が聞こえて、さすが永倉さん、やっぱし強いや!
俺も負けてらんないね!
剣と剣がぶつかる高い音、交えれば交えるほど気持ちはどんどん高ぶって行って・・・・・へまをした。
あっ!って気が付いた時には鉢金が緩んでいて首元にずり落ちた。
それに意識が行ってしまったほんの一瞬に、男の切っ先が俺の額を裂いた。
「わっ!!!」
「藤堂!!!」
咄嗟に上げた声に永倉さんが反応して、額を抑える俺に駆け寄ってきた。
「すいません、大丈夫です!」
そう言ってみたものの血の量がすごくって目が開けられない、全部が真っ赤にぼやけて見える・・・
「ここにいろ!」
永倉さんは俺を隅に押し込んで俺を斬った男を追った。
やっべぇ、何も見えない・・・
・・・頭が・・・・・ふらふらする・・・・・
音が遠くに聞こえる・・・
・・・・・・・総司は、大丈夫・・・・・・・?
【宗次郎】
あと五人だね。
ここに残って逃げないって事は腕にそこそこ自信ある人たちなのかな?
でも、僕強いよ?
悪いけど負けないからね。
で、あと五人・・・なんだけど・・・
なんか、息苦しいんだよね・・・?
なんだろう・・・変な感じがする・・・?
男が一人斬りかかって来た、おっとっと、危ないなぁ。
そうだね、最初の男よりは剣が出来るのかな?
でも、問題外だ。
それよりも何か身体が変なんだけど・・・?
男を斬って腕を払って、足を前に出そうとしたら・・・あれ・・・?
今、ぐらって・・・・身体が揺れた・・・・・?
ん?
斬られたの?
ううん、斬られてはないんだけど・・・・
何だろ・・・何も見えなくなって・・・・体が倒れちゃう・・・・・
ねぇ平助君・・・・・今、僕、どうなってる・・・・・・・?
【土方歳三】
おいおいおい!
どうなってやがる!
近藤さん達は無事か!?
「おめぇら全員中に入れ!負傷者の介助とそれ以外の奴は全員斬れ!!」
近藤さん、総司、永倉、平助の四人の腕を持ってすりゃその辺のゴミが二・三十人かかって来ても大丈夫だとは思うが・・・何があるかわからねぇってのが戦だ。
とりあえず全員の無事を確認することが先だ!
「永倉!どうなってる!」
「土方さん!俺は大丈夫だ!」
って手ぇ相当切ってるじゃねーか!
「総司と平助は!?」
「総司は二階だ、平助は額を斬られている、中庭に隠した!」
平助の奴!やられたか!
「二階に行け!総司がいる!!」
俺の声に隊士たちが裏階段から二階に走る、そしてほかの隊士に平助と永倉を頼み俺も二階に走った。
二階は凄惨だった。
転がる男たちの中に、総司の奴も転がっていた。
「総司!しっかりしろ!」
斬られたか!?
総司を抱え上げてみたけれど・・・斬られては、なさそうだ?
「おい!総司!しっかりしろ!!」
こいつここにいる全員をぶっ殺してそれから事切れたってのか!?
顔色すっげぇ悪いぞ!?
「総司!大丈夫か!総司!!」
「・・・・ん・・・土方、さん・・・?」
気が付きやがった!
「どうした総司!斬られたか!?」
「気分が・・・悪い・・・」
・・・はぁ!?
「なんか、胸が・・・苦しいの・・・・・・力が入らない・・・・・」
おいおい!
とりあえずこいつも平助も連れ出さねーと!
っとによぉ!!
【桂小五郎】
「外が、騒がしくないですか?」
大島さんと話し込んでいて気が付かなかったけど・・・外が異様だ。
すぐに対馬藩士の青年に調べさせると、とんでもない事を口にした。
「新撰組に!池田屋が襲われた!」
うそだろ!?
池田屋には宮部さんや吉田さんがいる!それどころかうちの藩士も含め二十人はいるはずだ!
すぐに助けに行かないと!
刀を手にして立ち上がった僕の前に、大島さんが立ちはだかった。
「桂さん行ってはなりません!」
そんなわけにいかない!
「仲間たちがいるんだ!助けに行かないと!」
今行けば助けられるかもしれない!
でも大島さんは頑として動かなかった。
「だめです!もう周囲は新撰組や幕兵に完全に包囲されているはずです!いくら桂さんの腕を持ってもこんな最中に行けば無事では済まない!いま、桂さんが死んだら、いったい誰が過激な志士たちをまとめていくんですか!」
でも!
「お辛いのは重々理解しています!ですがどうか耐えてください。我々の未だ何も成し遂げていないのです!その大事を遂げるまで、あなたは生きなければならない人なんです!!!」
大島さんの叫びに、僕は拳を強く握るしかなかった。
きっとみんなは僕がここにいる事を知らない。
みんな僕を探しにここに来るかもしれない・・・無事な事だけでも伝えたい・・・
・・・あの中に、宗次郎と平助はいるんだろうか・・・
【宗次郎】
僕が覚えているのは・・・ちょっとだけなんだけど。
池田屋を出た僕は土方さんに抱えられて祇園会所に運ばれた。
斬られてしまった何人かがここで手当てを受けたみたいで、僕はほとんど意識がなかったから、誰がどうなったかはわからなかったけど、死んじゃった人がいるらしいことは何となく聞こえた。
平助君、大丈夫かな・・・
池田屋から出てどのくらい時間が経っていたのかわからないけど、土方さんが僕を抱えたことでフッと意識が戻った。
でも体は動かないし、胸は苦しいし、気分は悪いし・・・どうなってんのかな、僕・・・?
外はもう陽が出ていて、僕は土方さんに介助されてみんなで壬生まで帰路についた。
あんまりよくわからないけど・・・
たくさんの人が道にはいて、僕達はその中を歩いて帰った。
良かった、近藤さんは無事だ・・・
永倉さんも、無事みたい・・・
平助君は・・・?
平助君がいないよ?
小五郎さんはいたのかな・・・
そんな事を聞きたかったんだけど・・・僕は声すら発することができない状態で、なんとか土方さんを見上げてみた。
土方さん、めんどくさそう。
これ、後で文句言われちゃうかな・・・
そんなこと思ってたら、土方さんがちょっとだけ優しい顔をした。
「心配すんな、平助は無事だ。」
・・・そっか、無事なんだ。
「もう少しで着く、着いたらガキは大人しく寝てろ。」
はーい・・・
【平助】
俺が気が付いたの翌日だった。
飛び起きてみて・・・ん?
何か視界に入るけど・・・思わず顔を触ってみたら、何かがまかれてる?
あぁぁ、俺、斬られちゃったんだっけか。
油断しちゃったなぁ~・・・
「平助、大丈夫か?」
声がして戸の方を見たら永倉さんだ。
「永倉さん、昨日はすみませんでした。」
「いや、お前はよくやった。」
そう言われると、照れる。
「永倉さん、その手!」
永倉さんの手は随分と巻かれてる。
俺は自分が斬られた後の事を永倉さんに聞いた。近藤さんはもちろん無事だったけど、死者と重傷者が出たと。
さすが近藤さんは、すごいなぁ・・・
横に置かれていた俺の剣はボロボロで、刃こぼれなんて問題じゃなくって、こりゃ新調しないとだめだな。
・・・ん、そう言えば。
「永倉さん、総司は?」
総司はどうした?
あいつ、一人だったはずだけど・・・
「総司は・・・・」
永倉さんの言葉を聞いて突発的に立ち上がったら、ぐらって視界が揺れた。
「おいおい、結構血ぃ流してんだ、勢いよく立つと倒れるぞ?」
・・・そう、みたいです。
笑っている永倉さんに頭を下げて、俺は総司の部屋へと走って向かった。
「総司!?」
一応声をかけて戸を開けてみたら、総司が布団に上でポカンとした顔して座ってた。たった今起きましたって顔で、よくわかりませんけどって顔だ。
そんな総司は俺を見て、いつも通りニコって笑った。
「総司!お前大丈夫!?」
「平助君何その頭~!」
ケラケラ笑ってるけど・・・あのなぁ、俺は呆れた顔して総司の横に座った。
「お前なぁ、人の事言えるかよ!倒れたらしいじゃん!大丈夫なの?」
「うん、倒れたみたいだね。」
「みたいって・・・倒れてたんだ!」
「平助君何その頭?」
まぁ、いつも通りっちゃぁいつも通りなんだけど、こいつ、俺と話する気あるかな?
いつものように笑ってはいるけど、なんかちょっと顔色が悪い、かな?こいつ、色白いから、余計悪く見えるよ・・・
「鉢金が外れちゃって、切っ先で斬られちゃったんだよ。結構血が出ちゃってさ。」
「だめじゃーん。」
だめじゃーんって、お前の方がダメだろ!!!
「ってか総司、本当に大丈夫?お前最初っから具合悪かったの?」
そんな様には、見えなかったけど・・・
「ううん、悪くないよ?」
「・・・じゃ、なんで倒れんだよ。」
「わかんない。」
これだ。
会話が成立するわけねーよ。
「二階で何があったんだよ。」
俺は二階から飛び降りて来た奴らを斬ってたから、二階がどうなってたのかよくわからないけど・・・下は激戦だったけど、上は?
「ん?何人いたのかな・・・ちょっとわかんない。」
・・・お前に聞いた俺が悪かったよ、近藤さんに聞くべきだった・・・
そんな事を思って落ち込んでいたら、やおら総司が思い出すかのように考え出した。
「誰かが灯消して真っ暗でとっても暑かったんだよね、天井低いし。その場にいた人はみんな斬ったんだけど、最後の方で五人ぐらいが残ってて、で、なんだかぐらぐらしてきて、息が苦しくなって、今。」
なんだ、それ。
暑気あたりとかか・・・?
「とにかくねぇ、気が付いたらぐらーってして、斬られたわけじゃないのに力が入らなくなって、今気が付いの。」
そう言って笑う総司、なんてお気楽な奴だ。
「ねぇ平助君、小五郎さん見た?」
「いや、見なかった。」
そう、小五郎さんはあの場にいなかった。
何人か有名なお尋ね者は斬ったらしい。でも、その中に小五郎さんはいなかった。
複雑な気分だ・・・いた方が良かったのか、いなくてよかったのか・・・
「そっかー、やっぱりいなかったんだ、じゃまた探さないとだね。」
探すのに出歩くのが嫌だとかぶつぶつ言う総司。
俺は時々、こいつが本当にわからなくなる時がある。こいつの口から出ているのは本心なのか、偽りなのか。
俺には理解が出来ない総司の鬼の部分・・・みんなは、あの時の大人たちはみんな、これを恐れていたのかもしれない。そして、この鬼をうまく抑えていたのがおリョウさんで、使いこなしているのが近藤さんなんだ。
近藤さんがこの鬼を自由にしちまったんだ・・・
おリョウさん、どこにいるんだろう。
この京にいるのかな・・・?
もう夏だなぁ。
今年は暑い夏になりそうだ・・・




