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夢恋路 ~動乱編~6

【桂小五郎】

えぇ!?

僕と晋作は同時に絶叫した。

「どうして俺がおリョウさんを斬るんだよ!?そんな事あるわけないじゃんか!おリョウさん一体どうしちゃったの!?」

「あら、だって私は異国語を話したのよ?」

姉さんのこの言葉に、僕達ははハッと気が付く。そしてそんな僕達に対し、姉さんは未だ挑発的に言葉を投げてきた。

「私は異国の格好をして、異国語を話した。身元も知れないし未来から来たなんて嘘かもしれない。異国にあなた達の事を密告する間者かもしれない。そうは思わないの?」

晋作が絶句している。

そうだ・・・、この姿であんなに異国語を話せば、過激な攘夷派なら姉さんの事を斬っていてもおかしくない。

僕は咄嗟に横でひっくり返っている晋作を見る。

晋作は唖然としたまま固まっていた。

「あなた達は薩摩藩士が行ったように異国人を斬りたいと望んでいるんでしょ、だったらそれは私かもしれない。どうぞ?斬っていいわよ?」

「晋作!絶対にダメだ!」

僕はとっさに叫ぶ。

「・・・・・・・・」

晋作は未だに唖然としている。

・・・・うそだろ!?

「晋作!!!!」

言葉を発する事の出来ない晋作。お願い!正気になってよ!!!

晋作が刀を抜いてしまったら、僕は、晋作を斬らなければならなくなる・・・

そんなの・・・嫌だ・・・・・・

「・・・おリョウさんを、斬れないよ・・・・・・」

晋作は絞り出すような声を発した。

その声はまるで、震えている様だった。

「なぜ?」

姉さんはまだ晋作を煽っている。

「なぜって!おリョウさんは小五郎さんの大切な人で、俺にとっても大切な人で、おリョウさんがいなくなったら悲しむ人はたくさんいて!斬るわけないじゃん!!!」

「変な言い訳ね、実に自分勝手だわ。じゃぁ、あなたが斬ろうとした異国人達はどうなのよ?」

「・・・・・えっ」

僕は黙って、二人を信じて傍観することにした。

「あなたが斬ろうと思っていた異国人は草木の様にその辺から生えて来て、家族も友達も故郷もないと言うの?」

「それはー・・・・」

「なぜ、異国人だと言うだけで、斬って殺していいの?」

「それは!異国人は日本や江戸にとって敵で脅威だからだ!異国が日本に入ってきたら日本は奴らに乗っ取られてしまう!だから異国人が日本に入らない様にしなければならないんだ!!!」

晋作の言葉は、自信に満ちていた。それが唯一で正しいと言う自信がそこにはあって、それ以外は受け入れられないと言っていた。それはあまりに、偏っていて、僕は不憫にさえ思った。

「ねぇ晋作、私ならあなたを理解できると思うの・・・私はあなたの事を全部知っているわけじゃないけれど、少なくとも上海に行くまで、そこまで過激な思想はなかったと思うの・・・上海で何を見てきたの?全部、話してくれない?」

そう、姉さんにはこれをお願いしたかった。

僕だと言い合いになってしまうし、隊士たちの思想を巻き込むわけにはいかない。

姉さんの静かな問いに、晋作は唇を噛んだ。

そして、ぽつりぽつりと話を始めた。

「清国の上海に行くまで、上海はどんな所で、どれほど栄えていて、どんな思想でどんな兵力があって、そんな事を考えてた。江戸よりも栄えているのかとか、欧州米国の様な軍力は持ち得ているのかとか、そんな事を考えていた。でも、いざ踏み込んでみたら全く違った。清国を実質的に支配していたのは、欧州米国の異人たちだった。清国の人は見た目は俺達とほとんど変わらなくって、黒髪に黒い目の人間で・・・ひどい生活だった。異人たちに国を取られ、異人たちの命を聞き、働き、清国の民は皆粗末な服装で食べる物も乏しく生活も貧しく、それに引き替え異国人たちは派手な身なりで富を有していた。江戸の殿様なんて足元にも及ばない贅を得た暮らし。そんな上海の民を見ていて、俺にはそれが日本の行く末にしか見えなかった。日本の国も民もきっと清国の、上海の民同様に異人たちに乗っ取られて、列強の国々によって支配される。俺にはそう見えたんだ。アームストロング砲ってのも見た。でっかい大砲だ、あんなの日本にはないし、造る事も出来ない。そんな軍が異国にはある。そんなもので攻め込まれて、日本が太刀打ちできるわけがない!このままだと日本は清国の様になる!だからこそ!異国人をこの国に入れてはいけないんだ!」

「そっか・・・」

姉さんの表情はどこか悲しそうで、僕も思わずも目を伏せてしまった。

攘夷・・・まさにだ。

晋作の思想はまさに攘夷。

「晋作が見た上海は、そんな姿だったのね・・・・・」

姉さんは、悲しそうだ。

「清国は何度も反撃ののろしを上げている、しかしその都度大敗を期している。上海の民はそれを繰り返す事で戦意を失って言いなりになっている。おリョウさん!日本はどうなっちゃうの!?このままじゃいけないって思うのは間違いなの!?」

姉さんに、答えられるのだろうか・・・これが歪んだ世界なのかそうじゃないのかの判断は、姉さんにもきっとできない。

しかし、目の前の晋作は答えを求めている。

姉さんは、どうするだろう・・・

「ごめんね晋作、私にはあなたが見てきた世界が本来あるべき歴史の一部かはわからない。そこまで頭は良くないの・・・でも、一つだけ言えるとするならば、命を奪って力で得た平和は、意外と脆く崩れると言う事よ。」

その言葉に僕も真剣に耳を傾けた。

「私は二百年以上も後の世界から来ているから、この時代で起きている事まではわからないけれど、私の時代でも国と国の争いは起こっている。幸いにも日本はそんな争いに巻き込まれることはないんだけれど、あなたが見てきたようなことが起こっている国もあるわ。大抵世界は白か黒かの答えを求め、そこに利権をかけて領土を奪い合い、人々は争う。民は皆何かしらの情報に左右され、時には自分たちの国すらも潰してしまう事もあるの。民が国に勝る、それは時代が動いた瞬間なの。国はなくなり全くの真っ新に戻り、そこはただ人々が集っているだけの土地になる。でもそうなったのは自国民の思想と言うよりは他の列国の思惑で、巧みな情報操作で何も知らない弱い民は動かされ、良い様に手駒にされて、命を奪い合い勝利を勝ち取る。失った命は尊い犠牲と称されて、革命の為に死んだ人たちは名誉だと言われるわ。その瞬間は民はとても興奮し、新しい時代に対する期待と喜びで盛り上がっているし瞳を輝かせているのは確かよ。でもね、その波が過ぎ去った後の残っているのは、無秩序なのよ。」

「無秩序・・・」

僕はつぶやいた。

無秩序な世とはいったいどこまでの混乱なのだろう・・・

「人はね力で解決をすることを覚えてしまうと、そこでは秩序や思いやり、敬い尊敬し助け合うと言う形のない物は真っ先に失われるの。力が強い者は上に立とうと登り始め、その力を競い、またその力の元に民が集まり争いが起こる・・・これが、力で抑えただけの結果よ。」

僕達はただ、黙って聞き入る。

姉さんの言葉に耳を傾けて、晋作は神妙な顔をしている。

「あなた達だって、散々見て来ているはずよ?」

姉さんは苦笑した。

「ねぇ、晋作・・・武力や力で事を解決する時代は終えなければならないの。それこそ愚か者だわ。机上で議論し互いの意見をぶつけ合い尊重して、最後まで冷静でなければならない。寛大な心は相手の心を開き、相手が心を開けばこちらの意は通りやすくなる。あなたの良い所は素直さだと私は思っているわ。自分が悪い時には素直に謝れる。相手の話を聞いて許すことができる、素直でまっすぐで、人を引き付ける魅力がある。突拍子のない発想が出来て新しい事が大好きで、笑顔が似合っている。それがあなたの魅力だと私は思っているわ。」

僕もそうだと思う。

晋作には人を引いて行く力がある。

晋作の元には多くの人が常に集まり、慕う。

晋作はきっとこの先、国を引いて行く人間になる。

「・・・でも、異国人と対等になんて、どうしたら・・・?」

「そうねぇ、私が力になれればいいんだけど、それはちょっとまずいのよねぇ。でもいるでしょ、異国語をそれなりに理解できる人。」

「いるけど・・・おリョウさんほど堪能な人はいないよ、ねぇ小五郎さん・・・」

「うん・・・・・」

姉さんみたいな人間はさすがに・・・

「だったら、教育に力を入れなさい。興味がある人に伸びてもらって、それを支援してあげればいい!可能ならどんどん留学をさせて現実を見てもらえばいい。人を育てる事こそが国益になるのよ。」

「人が、国益・・・?」

「そうよ、勉学こそが国益。異国人なんて利用するだけすればいい!彼らが皆日本を軽視しているわけじゃない、日本の事を尊敬し愛する者だっている。良い思いをさせてやればいいのよ、力で抑えれば抑えるほど反発は生まれる。そうなっては本当にこの国はあっという間に持って行かれてしまうわ。」

「でも、そんな流暢な事を言っていて平気なの?あいつらはもう軍隊を呼んでいるかもしれないし・・・」

他国の人間なんて信じられないのは当たり前だ。言葉もわからない、見た目も違う、僕だってそりゃ怖いよ・・・

晋作が言っている事は最もだ、彼らの思想も何もわからない以上、軍隊を呼んでいる可能性は捨てきれない。

「去年あたりだったかしらね、ヘンリー・ヒュースケンと言う米国通弁官が斬られた事件、覚えてる・・・?」

「覚えてるよ、薩摩のやったやつでしょ?」

姉さんが僕を見た。

目を細める姉さんに、僕は小さくうなずいた。

「・・・米国大使のダウンセント・ハリスとヘンリー・ヒュースケンは、私の友人だった。」

「えぇっ!?」

晋作の絶叫があがった。

「ねぇ、どうしてあれだけの事件があったのに、異国が攻め込んでこなかったか、晋作わかる?」

「それは日本が強いからで、幕府が何かしたんでしょ!?」

晋作は何も知らないから、仕方ないんだけど・・・その思想はなんか、聞いていて辛い・・・

「いいえ、晋作。あれはハリスが揉み消してくれたのよ。」

「えっ!?」

「ハリスは日本がとても好きなのよ、日本の風紀も民も全部をとても好きでいてくれている、自分たちが日本に来たことでこの美しさが損なわれるんじゃないかとさえ考えていた。」

「じゃぁ、来なければいいじゃないか。」

「そうね、でもハリスはこうも言ったわ。この国は大好きだし、このままであってほしい、でもこのままじゃいつか他国に乗っ取られてしまう。」

「・・・・・・」

「だからこそ、条約が必要だと。」

「条約?」

「そう、国と国との約束や決め事よ。それには対等に話をして意見を交わし合えるだけの能力を持った人間が必要なのよ。ヒュースケンの件、ハリスが幕府と掛け合ってくれたからこそ、この国は今も存在しているのよ?」

「そんなの・・・・」

信じられないと言う様子の晋作に、僕は思わず声をかけた。

「ハリス公の事は本当だよ、僕も、ヒュースケンさんが斬られた後、姉さんとハリス公に会ったんだ・・・」

「えっ!小五郎さんも!?」

「あぁ、姉さんがハリスやヒュースケンと親しかったのを知っていたから、斬られた報告をした後に・・・」

「あっ!」

僕の言葉を遮って、晋作が何かを思い出したと言う顔で叫ぶ。

「だからあの後拘束されたの!?」

・・・・・げっ!

「ばっ!晋作それ言っちゃダメ!!!」

晋作がどさくさまぎれにとんでもない事言ってしまった!!!

善福寺からの帰り道を見られていたなんてそんな事、姉さんが知ったら暴れるでしょ!!!

「・・・小五郎君?どういう事か説明して。」

姉さんにはこの事隠してたのに!!!

「えっ、いやっ、何でもないよ?」

ほらぁ!もう目が怒ってるじゃん!!

「あれっ、俺なんかまずい事言ったの!?」

「・・・小五郎君?」

わーっ、今日は僕を追い詰める日じゃないでしょ!?

勘弁してよ!!

「小五郎さん・・・なんか、ごめんなさい・・・」

晋作のばかぁぁぁぁぁぁぁ!!!

こんな時だけ素直さ出したってしょうがないでしょ!!!

姉さんは額に手を当てて眉間にしわを寄せてる・・・怖いよぉぉぉぉ。

「・・・じゃ、それに付いては後日ちゃんと説明してもらうから。小五郎が説明しないなら、晋作を尋問するわ。」

「俺ぇ!?」

晋作、口軽そう・・・

「・・・ねぇ、晋作?」

「はっ、はい・・・・」

晋作がまた怯えてる・・・

姉さんは晋作をじっと見つめて、優しく、まるで諭すように問いかける。

「あなた、本当は何がしたいの?」

「へっ!?俺が、したい事・・・?」

「そうよ、あなたは何がしたいの?具体的じゃなくっていいわ、漠然とした形であったとしてもいいの、何がしたいか、どうしたいのか言ってごらん?」

「俺がしたい事・・・・」

晋作が、したいこと・・・?

僕は、刀のない世を創りたいけれど、晋作は・・・?

藩務に沿う事が僕達のやる事で、当たり前すぎて、そういえば聞いたことなかったや・・・

晋作は本当は何がやりたいんだろう・・・・・?

「・・・俺は、もっと自由になりたい!」

晋作はまるで、意を決したように姉さんに叫んだ。

「自由に?」

考えるために臥せっていた顔を上げて姉さんをまっすぐ見つめて、晋作はまるで殿様にでも訴える様に言った。

「藩だとか武士だとか、そんなの全部捨てて自由になりたい!やりたい事やって行きたいところに行きたい!」

「だからって脱藩はだめだ!お前が辞めるって騒いだ時どれだけ僕が走り回ったか知らないだろ!?死罪にでもなったらどうするんだよ!?」

そうだよ!

上海帰りに船を買うだとか脱藩するだとか騒動した時、僕の元には苦情が殺到したんだぞ!?

そんな僕の訴えに晋作が大きくあぐらをかき直して訴える。

「だからさぁ、そういうのっておかしくない?なんで殿様や偉い人が言った事をしなきゃなんないのさぁ。町人や商人たちみたいにもっと自由に何でもする事ってできないの?好きな時に飯食って好きな時に寝て、他の藩士だろうが仲良くなった者同士でなにかやったり、もっと自由でいいんじゃないの!?こんなの面白くない!!」

僕も身分のない世を目指しているから、この辺りは晋作と同じ。でも、晋作はちょっと過激すぎる。

晋作から見たら僕がぬるいのかもしれないけど・・・

「う~ん・・・自由かぁ・・・」

姉さんは何だか考え込んだ。

晋作のわがままに、なんか、策があるんだろうか・・・?

「ねぇ、あなたたちって、藩の殿様に仕えてるのよねぇ?」

・・・ん?

何の事言ってるんだろうか急に。

「殿様に仕える・・・?まぁ、そうだよね。」

晋作が答えた後に僕を見上げて首をかしげた。

これもまた当たり前すぎて考えたこともなかった事だけど・・・

「殿様ってのはこの場合、その藩の一番偉い人なのよね?」

「・・・そうだね。」

「で、殿様は江戸幕府に仕えていて、幕府の他に朝廷がある・・・」

姉さんは何を考えているんだろう・・・どれもこれも当たり前すぎることだ。

「あなた達は、藩から対価をもらうんでしょ?」

「そうそう。」

ふ~ん・・・

「・・・と、言う事は、江戸幕府が国会で、藩の殿様が県知事で、そこに仕える武士は差し詰め地方公務員・・・」

姉さんは何かをつぶやいているが、それは、何?

「ねぇ、だったらさぁ晋作、お休みをもらえばいいんじゃない?」

・・・へっ?

休み?

僕と晋作は思わず顔を見合わせる。

「ちょっと理解できないかもしれないけれど、これからの世の参考に少し話すね。私の暮らしていた平成と言う世ではね『労働基準法』ってのがあって、働く者たちの権利を保障した法があるの。」

「労働基準法?」

「そうよ、その中には一日の労働時間は何刻までとか、何日に一回は仕事をお休みをしなさいとか、賃金は最低いくらとか、有給休暇は年何日取りなさいとかね、そう言う決まりがあるの。」

「ゆーきゅーきゅーか?」

それはなんだろう?

「そう、普通はお休みしたら働いていない分お給料出ないけど、有給休暇と呼ばれる休みは休んでもお給料が出るの。これは労働者に認められた権利なのよ。」

未来ってすごい・・・・

「だから、あなた達は各地方の一番偉い人に勤めていてお国に勤めている事になるから地方公務員って言う呼び名になるの、公務員ってのは一番安定していて一番権利の認められた職種、だったらあなた達だってお休みをもらう権利があるんじゃないかしら?そうねぇ、もう勤めて何年もたってるんだから・・・一年ぐらい休みをもらったっていいんじゃない?」

まさかぁ!?

そんなことできないよ!

そもそも藩務をしないなんて・・・

「なるほど!おリョウさんあったまいぃ!!!」

えぇぇぇ!?

晋作の目が輝いている・・・これは、危険かもしれない・・・

「休みなら脱藩しなくってもいいじゃん!」

そうだけど!

ちょっと本気で言ってるの!?

「あとね、私の時代では『男女雇用機会均等法』ってのもあるの。これは男も女もどんな身分の民も仕事をする機会は平等に与えられるって法律なの、男だからとか女だからって理由で雇う側は断ってはいけない、平民だから農民だからって理由でも断ってはいけない、みんながそれぞれの意思で好きな仕事をして、平等に機会が与えられなければならないって言う法よ。」

「それだよそれ!!!!」

晋作が乗り出した。

「武士よりも剣がたつ農民、商人よりも商売上手な武士、男よりも腕っぷしのいい女、日本人より日本語が上手な異国人そんなのがいてもいいのよ。」

「俺がしたいのはそれだ!もっとみんなが自由になればいい!そしたらもっと楽しい!俺はそれがしたい!!!」

「だったら、あなたがそんな世を創らないとね。」

「わかった!!!俺が創る!!!」

上手すぎる・・・・・・・怖いぐらいだ。

晋作が俄然やる気になってる、これは、本当にすごい事が起きるかもしれない。

「晋作、あなたの考え方は私の時代の民の考え方だわ。あなたはもう少し後に生まれて来るべきだったかもしれない。でも、よく考えてみて?あなたがこの時代に生を受けたこと言う事は、あなたにしか、そんな自由な世を創る事が出来ないと言う事かもしれない。身分はもちろんだけど、人種や国や誰かが作ったくくりなんかで人を分けるのはおかしな事、本当の自由が欲しければ自分で創らなきゃ!でしょ?」

「そうだ!そうだよね!自由な世を俺が創るんだ!」

でもこのやる気は・・・危険な方向には進まないだろうか。

「それはそうと・・・ねぇ、晋作、ちょっと気になってたんだけど・・・あなた、腕出してみて?」

急に変わった姉さんの問いに僕と晋作は本日何度目かの顔を見合わせ、晋作は腕を捲って姉さんに見せた。

「やっぱり。あなたいつ麻疹にかかったの?」

よく見ると晋作の腕にはいくつか消えかけた丸いあざの様な班がある。

・・・気が付かなかったよ、ってか普通気付く!?

「そうそう!上海行きの船の上で!」

「うそだろ?本当に!?」

何て奴だこいつ・・・よく無事だったよ・・・

「上海に行くまでは死んでたまるかって思って、そしたら治った!」

僕と姉さんは顔を見合わせて、呆れた。

すごい生命力だ・・・

「ねぇ、晋作、あなた体弱いんじゃないの?大丈夫?」

「そんな事はないと思うんだけどなぁ~。」

「お願いだから大病しないでよ?」

姉さんは本当に晋作を心配している様で・・・姉さんは、何か知っているのだろうか・・・

「ねぇ、上海は異国人がいっぱいいたんでしょ?綺麗な人はいた!?」

姉さんってば・・・

こんな話題、晋作が簡単に乗っちゃうに決まってんじゃん・・・

「いなかったよー、異国人たちはみんなぶくぶく肥っていてさぁ、背もでかいし、乳とか尻とかでかすぎて気持ち悪いの・・・」

・・・何を見てんだよ、お前は・・・

「あらぁ、そうだったの?残念ねぇ。私の時代だと西洋人の女の人なんて美しくって大人気だけど。」

「えぇぇ!?あんなでかい女がいいの!?」

「清の人達なんかも美しいって評判なんだけどね。」

「あぁ、そうだね、清の女の人ならまだ抱けそうかな。」

こら!!!

「異国人との合いの子ってすっごくかわいいんだから!」

「えぇぇ!?未来じゃそんな事も起こってるの!?」

「そうよ?恋愛も自由よ?人を好きになるのに国境も何もないんだから!」

「すごいすごい!俺、おリョウさんの時代に行きたい!!!」

「でしょ?ぜひ連れて行ってあげたいわ。」

姉さんはとっても優しく笑っている。

その笑顔はまるで子供をあやしている様で、すごく落ち着くものだった。

「晋作、あなたの気持ちはとってもよく分かった。あなたがこの国を大切に想っている事も新しい事を望んでいる事もよく分かった。でもね、人を殺める前に少しだけ考えてほしい。この人がなぜここにいるのか。なぜ遠い地からこの地に来ているのか。大切な人々と別れてまでここにいるのか。長州を離れて江戸にいるあなたにだったらわかると私は信じている。情けをかけろとは言わないし・・・決して殺めるな!とは言わない。私にとって刀で命が失われることは辛い事だけれど、そうせざるを得ない事態はきっとこの先起こるはず。だからこそ、勢いやその場の考えだけで命を奪う事だけはやめてほしい。私はあなたを失いたくない、そんな想いを持った人は他にもたくさんいる事を頭の片隅でも心の片隅にでも良いから留めて置いて?私はあなたが、小五郎と共に新しい世を創ってくれると信じているわ。」

「わかった。ちゃんと考える。」

「ありがとう。」

姉さんは、本当に嬉しそうに、微笑んでいた。

「でも俺、カッとなりやすいから・・・考えなしに何かしちゃったときはごめんなさい。」

「その時はほら、小五郎先生がまた走り回ればいいだけじゃない?」

「うそだろ!?」

姉さんと晋作が声を上げて笑っている。

そんな楽しそうな笑顔を見ていたら、まいっかって、思える。

晋作が言う楽しくて自由な世、僕もそんな世界を見てみたいからね。

「ねぇ、おリョウさん。」

「なぁに、晋作?」

「その着物っておリョウさんの時代の物なの?」

「そうよ?なかなかいいんじゃない?」

そう言って姉さんは立ち上がって全身を改めて見せる。

「う~ん、あれだね。未来の人たちはみんな助平なんだね。」

「なっ!?」

思わず声を上げちゃったよ!

「あらそう?どの辺りが?」

姉さんがそう言うって自分の体を見る様な様子を示す。

姉さんはわからないんだよね・・・これが普通だから・・・

「だって乳とか股とか丸見えじゃん!裸みたい!」

   ゴンッ!!!

「いってぇ!!!!」

晋作の言葉に咄嗟にげんこつを落としてしまった。

僕の姉さんをそんな目で見るな!!

「晋作!もう帰るぞ!!」

「えぇぇ!?」

もうダメ!これ以上は許さない!

姉さんの裸を想像されているみたいですっごい嫌!!

姉さんは相変わらずケラケラ笑っているけど、もうこれ以上姉さんを見られたくない!

僕は晋作の腕を引っ張って無理やり立たせた。

「・・・・・おっ♡」

その瞬間、晋作の目線が姉さんの胸を思いっきり見下した!

   ゴンッ!!!!

「いったぁいぃぃ!!!!」

「晋作、早く帰った方がいいわ、このままじゃ斬られるかもよ?」

冗談じゃないぞ!

本当に斬って捨ててやる!

「帰るぞ晋作!!!!!」

僕は晋作の腕を掴んで戸を開けた。

「おリョウさんまたね!!!」

またねじゃない!

もう会うな!!

「Bye-Bye。See you~」

そう言って姉さんは手を振った。



【晋作】

暗い夜道、俺はなんだかすっごいすっきりしていて、すっごいやる気に満ちていた。

なんだかこれからがとっても楽しくって仕方がなかった。

こんなに高ぶっていちゃ今夜は寝られそうにないね・・・

そっか、わかったぞ。小五郎さんはずっとこんな気持ちでいるんだ。

だから志を高く持てるし邁進できるんだ。

おリョウさんが全部の想いを聞いて整理してくれるから、だから進めるんだな。

いいな・・・俺も、そんな人が欲しいな・・・

賢くって、楽しくって、包容力があって、頼れる美しい人・・・そんな贅沢な話ってある?

「良いな~小五郎さんは。」

「・・・なんだよ。」

あっ、不機嫌になってる。どうせ俺がおリョウさんに絡んだからでしょ?

もぉ、かわいいんだから小五郎さんってば。おリョウさんにうまい事転がされちゃってることわかってないのかな。

まっ、どうせわかっていて転がされているんだと思うけどさ。

「俺もおリョウさんみたいに完璧な伴侶みつけないと!」

「お前は結婚してるだろ!?」

・・・そうだった。

そう言えば、雅は、何をしているんだろうか・・・

「まぁ、そうだけどね・・・」

「まったく・・・」

小五郎さんのこの「まったく」って言葉、俺どんだけ聞いてるかな。

「ねぇ、小五郎さん。」

「何だよ。」

「小五郎さんは世を変えたいって思っているんだよね?」

「あぁ、そうだよ。今の世を変えたいね・・・」

「それって、おリョウさんの為?」

この言葉に小五郎さんは少し考えて、それから、優しく笑った。

「最初はそうだったよ、姉さんの為に世を変えたい、そう思った。でも今はそれもすべて含めて僕の志だ。姉さんの願いは僕の願いでもあるし、姉さんの喜びは僕の喜びでもある。だから今は全部が僕の志だ。」

すごいなぁ・・・この人たち。まるで二人で一人だ。

おリョウさんが頭脳で小五郎さんが行動をする、鬼に金棒じゃないか。

「ありがとうね、小五郎さん。」

俺はいつの間にか、そんな言葉を口にしていた。

「・・・何が?」

「俺をおリョウさんに会わせてくれた事、」

「今日の事?」

「今日の事も含めて、俺におリョウさんを紹介してくれた事。」

「僕は今日ちょっと後悔したけどね。」

あれ、まだ根に持ってるんだ。

身体ばっかりおっきくって、中身は随分と子供のままだ。

「なんかずっと、無茶苦茶言ってごめん。」

「本当だよまったく。」

・・・だよね。

「おリョウさんと話して、漠然とだけど自分がどうしたかってのがわかった気がした。俺も一緒に小五郎さんの目指す世を創りたい。」

「もちろんだ、お前がいてくれなきゃ困るよ。」

「意見の相違はあるかもしれないし、俺の事だからまた迷惑をかけると思う。でも、俺も、おリョウさんが生きてきた世を見てみたいんだ。おリョウさんが言う事が全部本当なら、自由な世がこの先には待っている。俺はそんな世界で生きていきたい。」

「お前の迷惑なんてかけられ慣れているよ、今更気にする事じゃないだろ。気にしたこともないくせに。」

「まぁね、ないかな。」

「大体!本当ならって言葉が気に入らない。姉さんの言う事は本当だ。疑う方が間違っている!」

もぉ!

おリョウさんの事となると本当に馬鹿なんだからこの大男は!

そんな真面目さが俺にはおもしろくってたまらないんだけどさ。これからきっと楽しくなる!

・・・しかし・・・

久坂さん達にはなんて説明しよう・・・

血判したから抜けるって訳にもいかないし・・・あ~あ、めんどくさ~っ!!!

それから半月ほどたって・・・

俺はまた、おリョウさんの前に正座させられていて・・・

今回は、正面に小五郎さんもいて・・・

苦笑しているおリョウさんに対して、明らかに怒っている小五郎さん・・・これは、良くない事態だ。

「お前という奴は・・・・」

「待って!誤解だ!!」

確かに!御盾組でやったけど!

人は斬ってない!!!

「建設中の英国公使館焼き討ちなど・・・・」

「俺じゃない!俺は何も言ってない!」

おリョウさん・・・助けて下さい・・・

「今回ばっかりはもう助けきらん!毛利様の耳にもすでに入っているはずだ!」

いくらなんでも早いでしょ!

飛脚もそんなに急いで走らなくっていいってば!!!

「毛利様のご判断が下りるまでお前は謹慎!」

「またぁ!?」

「当たり前だ!!!!!!」

ぎゃー小五郎さんが本気で怒ってるー!!!

「観念なさい晋作、分が悪すぎるわ。」

おリョウさんが面白がっている・・・・ん?

おリョウさん、怒らないの?

どうして・・・?

そんな事を思っていたら、おリョウさんが、小五郎さんの後ろにそっと手をまわして・・・小五郎さんの頭の後ろから指を一本立てて見せた。

それはさながら、小五郎さんに鬼の角が生えているように見えて・・・・

   ぶはっ!

思わず吹き出してしまった!

「晋作!!!!!!!」

やっべぇ!!

横でケタケタ笑うおリョウさん。それはずるいでしょ!!

「姉さん!何で笑ってんの!!!!」

「何でもないわよ?」

そう言って顔を背けるおリョウさんは・・・笑ってるじゃん。

「ちょっと!二人とも何笑ってんの!!!晋作!お前は怒られているんだ!!!」

「はいっ!!!」

「大体お前は・・・・・・」

あぁぁぁぁこの説教絶対長いよぉ。

翌日、頭がガンガンする俺の所に文が届いた。

封には差出人の名前がないが・・・はて、誰かな?

封を開けてみると・・・

 『人を殺める選択をしなかった事は誉めてあげる』

名前も何も書かれていないけどすぐにわかった。

おリョウさんだ。

だから昨日、怒らなかったんだ。

たった一文だったけど、なんだかすっごく嬉しくって、俺はこの文を絶対に無くさない様に引き戸にしまったんだ。

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