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夢恋路 ~動乱編~1

【桂小五郎】

藩命で京へと拠点を移すようにと命が下りた。

いよいよ、動くんだ。

晋作が帰って来るのはまだ先、そうなると、姉さんが本格的に一人になってしまう。

長州が開国攘夷へと固まった今、それを良く思わない者達が姉さんを狙いかねない。姉さんだけじゃない、江戸川屋にも何もないとは言い切れない。

京で走らせていた小吉の情報が確かであるとわかった今、姉さんを京に連れて行くことが、姉さんにとっても、僕にとっても・・・僕達にとっても最善だ。

姉さんを一緒に、京に連れて行こう・・・

でも、姉さんはどう思うかな・・・

またみんなと別れる事になる。

僕に、付いて来てくれるかな・・・

いや、来てくれないと困るんだ!

じゃない、未来が変わってしまうことになるから・・・



【おリョウ】

昼過ぎの春めいた空の下でいつも通り洗濯をしていた。

桜の季節が終わって芽生えたばかりの新緑美しい季節。

まぁ、そんな新緑の桜には毛虫君が多くって多くって、私には敵だらけの季節ではあるんだけど・・・

「ねーぇさん!」

あら、最近聞かない珍しい声。

「今日は仕事は?」

「今日はないんだって。」

そう言って小五郎はいつもの場所に座った。

なんか、機嫌が良さそうね。

「だいぶ久しぶりなんじゃない?」

「そうだねぇ・・・だいぶだねぇ。」

小五郎はちょっと考えてみた様子。

「毎日一緒にいたのが嘘みたいね。」

「ほんとだよ、今いったいどれだけ扱き使われてると思ってる?」

「人気者は辛いわね。」

江戸に来ていろんな事件が起こったけれど、小五郎はちゃんと私の所に帰って来る。

だから私も、黙ってこの男が帰って来るのを待っていた。

「この前またあの二人が来てたわ。」

「相変わらず姉さんの周りは賑やかだねぇ。」

「そうそう、正月に聞いた事だけどあの子達、今年で18なんですって。」

「もうそんなになるんだ~・・・大きくなるわけだね。」

「本当ね。」

小五郎が目を細めて笑う。

何だか自分たちの子供の事の様で、少し幸せだった。

「あなた、いくつになった?」

「僕?二十九だよ・・・姉さんって、幾つって事になるの?」

やっぱり、そう来るよね。

「なんかねぇ、36みたい。」

「三十六!!!?」

「ねっ、もう危険水準よ。」

アラフォーよ、アラフォー。

15で子供を産んでるこの時代、20の子供がいてもおかしくない。

まぁ、実際の私の時間がどれだけ動いているかわからないから、何とも言えないんだけど・・・

でも最近、自分に少しばかり変化がある事に気が付いている。

「姉さんが変わらないのは、向こうとこっちで時間が違うから・・・?」

「あら、自助努力かもしれないわよ?」

そう言って笑ってみる。

「ねぇ、小五郎。」

「うん?なに?」

「私、髪が伸びたと思わない?」

「そう言えば・・・・・」

そう、髪がほんの少しずつだけど、伸びている・・・肩口でぎりぎり束ねられていた髪はもう肩甲骨ぐらいまであって、やろうと思えば一丁前に髪結いができるほどにはなっている。4年でこの程度だったら相当遅いではあるけれど、でも時間が進んでいる事は確か。

「速度は違えど、未来の私の時間も進んでいるみたいね。」

未来・・・

そう、ここは私のいるべき本当の世界じゃない。

そんな世界に、私はもう4年もいる事になっている。

長州にいた期間が過去最高の1年間、もうそんな記録なんてとうに突破してしまって、私は完全にこの時代の人間になってしまっている。

「姉さんがこっちに来て四年になるんだね・・・」

「えぇ、どうやら私は未来に帰る気はないみたいね。」

帰る気なんて、ないんだけどね。

「ねぇ、姉さん?」

「なぁに?」

「姉さんは、江戸が好き?」

江戸が好き・・・?

それは単純に江戸って事でいいのかな?

「江戸?好きよ、みんなもいるし。なんで?」

その言葉に、小五郎はちょっと黙った。

どうしたのかな、江戸を、離れるのかな・・・

「あのね、」

「うん、」

「実はね、」

「はい、」

「京に行く事になったんだ。」

「また?大変ねぇ。」

んじゃ、またしばらく会えなくなるって事かな。

「今回の命は、京に完全に移動する事なんだよ。」

・・・ん?

京に完全に移動?

「京の藩邸に、拠点を移すんだ。」

あぁ、引っ越しね・・・・・・ん?

引っ越し?

「えぇぇぇぇ!?引っ越しって事!!?」

「まぁ、そう言う感じ。」

すっごい遠距離じゃない!

私がぽかんとしていたら、小五郎が立ち上がって、私の所にやって来た。

小五郎はまっすぐ私を見つめて、まっすぐ私の前に立っていて、私は思わず、手を止めて、同じように真っ直ぐ向き合った。

「クシ・・・今も持っていてくれてる?」

クシ・・・鼈甲のクシ・・・

「もちろん、肌身離さずに。」

私は懐から、あのクシを取り出した。

何度も私を救ってくれた、小五郎からもらったクシ。

婚約の・・・クシ。

「姉さん・・・」

「はい・・・」

「僕と一緒に、姉さんが知っている僕の未来を創ってはもらえませんか?」

「小五郎の、未来・・・?」

「そう、僕の人生の、未来・・・」

小五郎の人生の、未来・・・それは・・・

「姉さんに、僕の未来の伴侶となる幾松に、なってもらいたいんだ。」

・・・なんですって・・・?

私は頭の悪い方じゃないと、自負して生きてきたつもりだけれど・・・こればかりはわからない・・・

私が幾松になる・・・?

じゃぁ、幾松さんは、誰になるの・・・?

「白糸を連れて長州に向かっている時、僕が京の藩に寄ったの、覚えてる?」

「酔いつぶれて二日酔いになった、あれ?」

「・・・・・・まぁ、それだよね。」

なんがかばつが悪そうな顔になったけど、一言多かったかしら?

「あの時、僕は小間使いの小吉にある頼み事をしてたんだ。」

「頼み事?」

「そう。この京のどこにいるかわからない幾松と言う芸妓の女の人を探し出してほしいと。」

・・・驚いた。

そんな手回しをしていたとは。

でも、なんで?

「もし、幾松さんと言う芸妓がいるならば、僕はその人に会ってみようって思ったんだ。会って、本当に姉さんを差し置いてまでも選ぶような女の人なのか、この目で確かめて見たかった。でも、本当の理由はそうじゃない。」

本当の、理由・・・?

「ちょっと、賭けてみたくなったんだ。」

「賭け?」

「僕は、神に悪態をついてまで姉さんを選ぶと宣言した。もし、神にその悪態が届いているのなら、もし、姉さんがこの時代に来て、わずかでも歴史が変わってしまったと言うのなら、もしかしたら、幾松さんなんていないんじゃないかって・・・・・」

この子の、私に対する想いはとんでもないんだと、今改めて思い知った。

この子はどんな事をしてでも、私といたいと、私と共にいる方法を探していた。

歴史を変えても、私といたいと、心の底から想っている。

「・・・で、どうだったの・・・?」

私は、恐る恐る、聞いてみた。

「結果から言えば、幾松さんは、いた。」

やっぱり・・・

歴史なんて、そう簡単には変わらないんだよ・・・

「でも、五十六歳だった。」

「・・・え″!?」

思わずとんでもない声を上げてしまった。

56歳の幾松・・・さん?

いくらなんでも、そんなに年上の女性と、小五郎は結婚するだろうか?

見惚れて?

・・・いや、この男がとてつもないマザコンだったら、あるのかも・・・?

宗次郎じゃあるまいし?

そんな疑いの眼差しで小五郎を見ていたら、小五郎が大きなため息をついた。

「いくらなんでも、そこまで範囲じゃないって・・・」

「そう・・・?」

「そう?って、ねぇ・・・」

そう、か・・・

いったい、どういう事・・・?

「で、その幾松さんにお会いしてきたんだ。」

「・・・好みだった?」

「だからぁ・・・」

   はぁぁ~・・・

小五郎がまた、深いため息をついた。

「まぁ、昔は、きれいだったろうなぁとは、思ったけど・・・夫婦にはなれません。」

「・・・どういう、事・・・・?」

もはや皆目見当が付かない。

「僕もね、会って話をしてきたんだけど、幾松さんはご夫婦で瀧中という小さな置屋をやっていて、子供もいない。で、幾松さんはもう芸妓を引退したいと考えているみたいなんだ。」

・・・なんとなーく、読めては来たけれど・・・?

「で、後を継がせる養女を探している。」

まさか・・・?

「たぶん、その養女が、僕の夫婦となる幾松になるんだと思う。」

それは・・・?

「姉さん、僕の為に幾松になってもらえませんか?」

「ちょっとまったぁ!!!!!!!」

思わず大声が出た。

小五郎がぽかんとしている。

そりゃそうだ。

一世一代の告白を私が絶叫で止めたのだ。

「そりゃ、幾松になれるんだったら何でもするわ!芸でもなんでも覚えるし、養子にだってなる!でも、私36よ!?芸妓って舞子を経てからでしょ!?舞妓さんって十代前半よ!?無理無理無理!!!!!!」

いくらなんでもそれは無理でしょ!

いくら、この時代の同年代の女性に比べて若く見えるとは言え十代は不可能だ。

小五郎はう~んと考えている。

「何とかなるんじゃない?」

笑って言ってるけど、何とかならないでしょ!

「一応ねぇ、幾松さんには十代後半って紹介してある。」

うっそ・・・

それはないでしょ・・・

いろんなものが重力に負けてますよ、だって・・・

宗次郎たちと同級生ですって!?

絶対に違う!

「僕は、本気で言ってるよ?」

・・・・・・・・、

「姉さんが幾松になってくれれば、未来は壊れない。」

そりゃ、そうだけど・・・

「そして何より、僕達は歴史上何も問題なく、本当に夫婦になる事が出来る。」

そりゃ、そうだけど・・・

「僕と一緒に歴史を、いや、神様と歴史を欺いてみるつもりはない?」

・・・・・その言葉、気に入った。

「その挑戦、受けて立つわ。」

私がそう言って笑うと、小五郎は喜びを爆発させてまるで飛びつくように抱きついてきた。

「本当に!本当に一緒になれるんだよね!!」

「あら、まだわからないわよ?私が幾松になれると言う保証はどこにもないんだから。」

「姉さんなら絶対になれる!」

「すっごい不器用で楽器なんてできないかもよ?」

「姉さんなら絶対にできる!」

「踊れないかもしれないわ。」

「姉さんなら絶対に踊れる!!」

「時間がかかっちゃうかもしれないよ?」

「いつまでだって待つよ!」

私は、小五郎の頭に手をまわして抱える様に抱きしめた。

「ありがとう・・・小五郎・・・」

もう、手放さなくていい、そう思ったら余計に手放したくないと言う想いが強くなった。

例えどんなに想い合っていても結ばれないんじゃないかという不安、未来を知っているがための不安、形の約束されない不安が全て取り払われた気がした。

希望すら、見えた気がした。

嬉しくて、涙が止まらなかった。



【女将】

立聞きなんて粋じゃないのはわかっているのよ?

おリョウちゃんにお使いを頼もうとしただけなのよ?

そしたらおリョウちゃんの絶叫が聞こえて、桂様がいて、こんな話をしているんだもの、出られるわけないじゃない?

・・・たぶん全部、聞いちゃった。

この二人が話している事は、本当なの?

おリョウちゃんが、この世の人間じゃないって・・・

未来から来たって、どういう事・・・?

歴史上って、何?

でも、この二人の喜び方は、とてもじゃないけれど普通じゃない。

そうだったの・・・

あんなに想い合っているのに、結ばれる約束がない二人だったのね・・・

愛し合っているのに、結ばれる事がないとわかっている、それでも愛し合っていて・・・そんな辛い事はないわよね。

だって、明日さえも約束されてないんですもの。

二人とも、さぞ辛かったでしょうに・・・

桂様のおリョウちゃんに対する想いは到底私の理解を超えている、言い方が悪いけれどそれはまさに病的なほどに、おリョウちゃんを求めている。離れる事に恐怖を感じているとしか思えない。

一時たりとも離れたくない、そう言っている。

おリョウちゃん、京に行くのか・・・

また、静かになるのね。

この二人の為に、私は何をしてあげられるかしら・・・

まっ、とりあえずここは、しらを切りましょうかね!



【おリョウ】

「あらまぁ、昼から堂々と。」

女将の声に私と小五郎の肩が跳ねて心臓が口から出そうになった。

「いいのよいいのよ、続けてちょうだい。お使いは他に頼むから。」

ちょっと待ったぁぁぁぁ!!

「待って女将!行きます!!」

私は全てを払拭するかのように叫んでいた。

「あら、いいのよ。せっかく桂様も来てるんだし。」

「いやっ!あのっ!僕も行きます、から!」

「あら、いいの?」

行かせてください!!!

「あら。」

二人で叫んで、女将は大笑いした。

「じゃぁ、お願いね。逢引しないでちゃんと帰って来るのよ?」

や~め~てぇぇぇ~!!!

私は小五郎の手を取って逃げる様にしてお使いに出た。

江戸川屋を出てしばらく走って足を止めて、腹を抱えて笑った。涙が出て息が出来ないほどに体を曲げて笑った。

きっと周りの人から見たら不審でしょうね。

「私、十代になれるかしら?」

「なれると思うんだけどね~、黙っていれば。」

「あら、お口が達者ねぇ。」

「ほらぁ、だから黙っていればって言ったんだよ~。」

久しぶりに笑い続けた。

一体いつぶりにこんなに笑ったんだろう。

江戸に帰って来てからはみんな忙しくて、こうやって腹の底から笑い合う事なんてなかった。

もし、本当に私が京都に行って、芸妓となって、幾松となるのなら、今よりもっと小五郎とは会えない。芸の道に入れば私も仕事としてお座敷に行く事になる。きっとそれは私が思っている以上に忙しくて騒がしくて、そして、大変なんだと思うから。

小五郎が京に行けば同じ時期に新撰組が発足されるはず、そうしたら、小五郎は近藤勇や土方歳三、そして沖田総司となる宗次郎に命を狙われる・・・そして、きっと私の元へも、彼らは来る。

宗次郎は幾松となった私に気が付くのだろうか・・・

平助は、どうするんだろう・・・あの子もきっと新撰組に行くわよね。

これが、戦の世の本当の姿なんだ・・・昨日まで当然の様に共に生きていた仲間が、明日になれば殺し合う。そんな時代なんだ。

だったらせめて、今だけは、笑っていたい・・・

今だけは何も考えずに、笑っていたい。あともう少しだけ今のままで・・・

女将が注文していた新しい下駄を引き取って、帰ってきたら女将が出迎えてくれた・・・んだけど、すっごい、悪い顔してる。

「おかえりなさい!ごめんなさいねわざわざ、桂様まで。」

「・・・いえ、」

小五郎も何かを察した様子・・・

「桂様、今日は泊まって行くんでしょ?」

「へぇっ!?」

小五郎が奇怪な声を上げた。

女将、先制攻撃ですな!?

「今日ね、ちょっといい鶏が手に入ったの!お客様に出す分はないからみんなで食べちゃおうかって話でね!桂様もゆっくりしていくわよね?」

おいコラ!

まてまて。

いいものが手に入った、は、わかるが・・・お客様に出さないで食べちゃおってそんな事ありなの!?

なんちゅー宿じゃ。

私は笑った。

「観念なさい小五郎、こうなったらもう諦めるべきよ。」

私は小五郎にそう告げると、小五郎も観念したのか、笑った。

食事を無事に終えた私達は部屋で相も変わらず笑っていた。

「本当に泊まって行く?」

「そのつもりだよ?」

「あら、ずいぶん大胆になったわね小五郎先生は。」

「大人ですからね。」

そう言って小五郎は笑う。

そう、もう29歳になる。立派な大人だわ。

「最初に私があなたに出会った時が17歳年上、次に会った時が7つ、そして、次に京で会うときは10ほど年下になるのね。」

「不思議だよね、僕だけが歳を取って、姉さんはそのまま・・・」

不思議なんて言葉じゃ片付かないほどに、私達の時間は平等ではない。

「えぇ・・・そうよね。」

不平等だと、思うのかな・・・複雑だ。

「ねぇ、小五郎・・・」

「うん?」

「うまく、いくよね・・・」

不安はあるよ。

もし、幾松を襲名できなければ、私はどうしたらいいんだろうか?

「珍しいね、姉さんが弱気になるなんて。」

そう言って、小五郎は優しく笑って私の横に寄り添う様に座りなおした。

そして私の身体に手をまわして優しく胸に寄せてくれた。

「弱気にもなるでしょ?」

私は笑った。

「急に先が見えて、戸惑っているのかもしれない。あなたとの永遠なんて叶う事ないと諦めていたから・・・」

「大丈夫だよ、大丈夫・・・姉さんならできるよ・・・僕がいる。」

はぁぁ・・・なんてこと、私、子供に慰められている。

「・・・まったく、大人になっちゃって・・・」

小五郎の胸の中でつぶやいて、笑った。

「そうだよ?これから先は僕が年上。本当の意味で僕が姉さんを守るんだから。」

「あら、そう簡単に行くかしら?」

顔を上げた私の顔に小五郎の顔が重なって触れた。ゆっくりと唇を離してしばらく見つめ合っていたら、おませな私のかわいい子をちょっと試してみたくなった。

私って、悪い女かしら?

さぁて、どういう反応をするかしら。

「ねぇ小五郎。ちょっと大人の遊び、してみない?」

「大人の、遊び?」

小五郎が首をかしげた。

「そう。宗次郎たちにはね、歌えない歌があるのよ?」

額が付きそうなほどに近い小五郎に声をかける、私達のムードはだいぶ甘いけど、大人だと言い切る小五郎君は、もうちょっと我慢できるかな?



【桂小五郎】

唇を離したら、姉さんが色めかしく笑った。

「ねぇ小五郎。ちょっと大人の遊び、してみない?」

大人の遊び・・・それは、危険な遊びなんだろうか・・・

「そう。宗次郎たちにはね、歌えない歌があるのよ?」

歌えない歌?

どういう事・・・?

「それは、異国語って事?」

「半分は異国語ね、でも日本語よ。だいぶ大人の歌なの、だから子供には歌えないわ。」

子供には歌えない曲って・・・?

「じゃぁ僕は大人って事でいいんだよね?」

「だから、歌ってあげるんじゃない。きっとこの時代での、最後の歌になると思うわ・・・」

最後の歌・・・?

「芸妓の様な伝統的な世界に入れば、もう歌を歌うことは決してできない。私の歌う歌は西洋の物で、この時代にはない物だから。」

そうか、そうなっちゃうね・・・

あの声が聞けないのは、それはちょっと寂しいかな・・・

「歌ってよ。」

僕がそう言うと、姉さんは徐に髪をほどいた。

そして、結っていた帯を緩めて、襟元をぐっと開けて、足を出して・・・・・

えっと・・・・・ちょっと・・・・

姉さんはまるで遊郭の遊女の様に、男を誘う大人の女へと変わって・・・僕の頬に手を添えて、囁くように、歌い出した。

その声は、いつも聞いている澄んだきれいな声ではなく、低く囁く様に、歌う仕草も息継ぎの声すら艶っぽくって、完全に僕を誘っている。ぱっちりとした目は細く流して、すり寄る様に身を寄せて・・・

大人って、こういう事をして、余裕を持った遊びをするんだよって、思い知らされてる気がした。

鳥たちがその歌声で愛を奏でる様に、人もまた、こうやって愛を奏でるんだよって、今教わっている。

裾から覗いている足が僕に絡んできて・・・これは、ちょっと、耐えきれるかな・・・

そして歌い終わった瞬間、姉さんは僕の唇を自分の唇でついばんで・・・う~ん・・・もう無理かも。

「ねぇ・・・姉さん・・・・・」

「なぁに?」

「大人って・・・こういう遊びを、するの・・・・?」

「余裕がなければ、大人とは言えないわよ?」

僕、まだ大人にはなれないかもしんない・・・・・・

「・・・まだ、焦らすの・・・・・・?」

「どうしてほしい?」

「今すぐに・・・・」

僕はきっと、かなり荒く姉さんを奪ったかもしれない・・・

こんな歌、宗次郎と平助が聞いたら大変だ・・・絶対に歌っちゃダメ!!!

こんな事されて、正気でいられるものか!

姉さんは遊女でも女郎でもないんだ!

姉さんは・・・僕の物だ・・・・・

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