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夢恋路 ~青年編~31

【おリョウ】

新年初日の挨拶に晋作が上海に行くと言い出して、私はちょっと意味がわからなかった。

明けましておめでとうなんて、ぶっ飛んでしまった。

上海って、中国でしょ?

今の時代に行けるもんなの・・・?

遣唐使、遣隋使なんてのがいたから、行けるか。そもそもハリスはアメリカから来てたっけ。

「幕府使節随行員なんだって、俺。」

何だその、噛みそうな名前は?

三人で立ち話しながら小五郎が時折助け舟を出す。

「そうそう、3日には江戸港から長崎に行くんだよ。」

「またえらく早々に・・・」

前にもそんな事があった気がするが、晋作の爆弾発言にはもう慣れていて、私も小五郎もまたかという感じ。

「で、どのくらいで帰って来るの?」

「夏ぐらいの予定だよ~」

「小五郎も最近はしょっちゅう江戸を離れているし、また静かになっちゃうわねぇ・・・」

最近は身辺が急に寂しくなった。

「ごめんね姉さん、本当は姉さんも一緒に連れて行きたいんだけど・・・」

小五郎が寂しそうに私を見つめる。

そのうち小五郎は京へと昇り、私から離れる・・・きっと私の知らない所で、幾松さんと出会うんだろう。

「公と私は別、仕事なんだから。」

そう言って笑うけど、実際はちょっとさみしいよね。

これは本音。

「ねぇおリョウさん、俺等がいない間あんまり一人では出歩かないでね・・・」

二人の表情がどこか不安そうで、私は首をかしげてしまう。

「最近は政治が不安定で、江戸も安全とは言えないからさぁ、陽が落ちたら一人では歩かないでよ?」

人々の国に対する想いが少しずつずれてきて、その溝はだいぶ大きくなってきた。

いろんなところで殺傷事件が起こり始め、江戸も決して治安がいいとは言い切れなくなってきているのは事実。

それだけ世の中が明治の代に向かって動いているのだろうけれど、実際にその渦中で生活していると、歴史の授業なんて上っ面なんだってわかる。そりゃ覚える気も失せるわよ。

きっとこの辺りで起きている事件は後に名前が付けられて、教科書に載るんだろう。

そう考えると私ってすごいよね!なんて思ってる場合じゃないか・・・

「そうだね、僕たち長州と一緒にいる所を少なからず見ている人たちがいるはずだから、僕達と志を違える者が姉さんに目を付けないとは、限らないからね・・・」

小五郎の不安そうな顔・・・

晋作も・・・・・

「姉さんの身の安全を確保する方法を考えるよ。」

本当に、不安そうな顔をしている小五郎。

心配しないでって言っても無理よね。

「じゃぁ、何かあったら私のかわいい剣士たちに守ってもらおうかしらね。」

「かわいい剣士たち?」

晋作が首をかしげた。

そうそう、頼りないかわいい剣士たち。そんな風に言ったら怒るかな?

「あら、わかるでしょ?私の周囲をちょこまかしているかわいい剣士二人。明日明後日あたり新年のあいさつに、逃げて来るんじゃない?」

二人が何かを思い出したかのように笑った。

「さすがに今日は逃げられないだろうね。」

小五郎が笑う。

元旦早々に逃げてきたらもはや本当の逃走よ。

「たちって、宗次郎意外に何人かいるの?」

あれ、晋作は平助に会った事なかったかな?

「もう一人かわいいのが増えたのよ。」

私は小五郎と見合って、笑った。

「へぇ!俺も会いたいなぁ!ねぇねぇ、それよか早く初詣行こうよ!」

晋作が声を上げた。

「そうね、行きましょうか。晋作の旅の安全祈願も兼ねて、ね。」

私達は近くの神社へと足を向けた。向かう道中人はたくさんいるけれど新作のトークは止まることを知らず、砂利道を踏みしめながら私たちは時を惜しむようにずっと言葉を交わし続ける。

「ねぇ!おリョウさんの時代にも上海ってあるの?」

「あるわよ~、大きな都市になってるわ。」

「そうなんだ!すごいね!!」

晋作が目をキラキラさせて私に食らい付いてくる。

「姉さんは行った事あるの?」

「残念ながらないなぁ、行く事は比較的容易いんだけどね。」

中国、好きな国ではあるんだけど・・・いろいろとね、お国同士の問題があるからね。

はて、どこまでだったら話してもいいのかな?

晋作が興味ありそうな事って言うと・・・

「あぁ!そうそう!」

これしかないね。

「上海って言ったら上海蟹ね!」

「蟹?」

やっぱり、食べ物の話でしょ!

「そう、蟹!上海で有名って言ったら蟹よ!私は食べた事はないけどおいしいらしいよ!」

「じゃそのカニ食べる!」

新作は一層キラキラしている。

「今は何て呼ぶのか、私は勉強不足でわからないけど、あの大陸は食がとっても有名なのよ。私もあの国の料理大好きなの、何千年もの歴史を持つ国ですもの、この時代にだってきっとおいしいものがいっぱいあると思うよ?」

「やったぁ!!!」

「お前は一体何のために行くやら・・・」

小五郎が笑いながら私を見る。

呆れているけれど、小五郎にとっては手のかかるかわいい弟同然。

なんだかんだ面倒を見てしまうのが小五郎の優しい所ね。

こんな和やかな新年のあいさつから二日後、晋作は長崎にわたり上海に行った。


晋作が立ったその日、試衛館の二人が新年のあいさつ、もとい、遊びに来ていた。

「ねぇ、あなた達って幾つになったの?」

まるで小五郎と晋作みたいに二人セットでやって来た宗次郎と平助、二人は顔を見合わせて首をかしげた。

「今年で十八だよ。」

う・そ・・・

初めて宗次郎にあった時、14だったよね・・・

私がこの世界に来て、4年が経過してしまったんだ・・・

「そりゃ、大人になるわけよねぇ・・・」

宗次郎に関しては背も伸びて一回りは大きくなっている。泣き虫で人見知りで神経質で、幼かった宗次郎はもういない。平助もそうだけど一丁前の大人になってしまった。

「ねぇおリョウさん、ずっと不思議に思ってたんだけど・・・」

平助が私をじっと見つめる。

・・・何よ。

「おリョウさんって、いくつなの?」

私?

私の歳・・・?

私は・・・いくつだ???

「えっと・・・あれから4年たってるんだから・・・えっ!?もう36なの!!?」

「三十六!?」

宗次郎と平助が同時に叫んだ。

うそ・・・やだ・・・もうそんな歳なの・・・

自分でもショックだ・・・

二人は目を真ん丸にして私を見つめている。

「全ったく・・・見えない。」

「うん、みえないね・・・」

それは、喜んでいいのよね?

「あら、ずいぶん嬉しい事言ってくれるわね。じゃぁおばさんが汁粉でもおごろうか?」

「行く!」

「宗次ってば!!」

宗次郎は天然と言うか・・・相変わらず自分に素直な自由奔放、そんな宗次郎を止めるのが平助。

「もぉ、おリョウさんもおばさんだなんて・・・そんな風に見えないよ!?」

「そうだね、おリョウさん全く変わらない。」

「よし!汁粉にまんじゅうも付けてあげちゃおう。」

「えぇ~、そんなに食べたら歯がなくなっちゃうよ!?」

中身は、そのままなんだけどね。

体つきが子供から大人になって、細い線は逞しさが見えるようになった。

それでもまだ小五郎よりは小さいけれど、小五郎がこの時代ではかなり大きい事から考えると、この子達が平均なのかな?晋作もちょっと小さいしね。

「小五郎さん、最近見かけないね・・・」

平助は小五郎の事が好きだから、つまらなそう。

私もその気持ちは同じよ?

「そうねぇ、私も最近会ってないわ。」

「えっ!?おリョウさんも?」

苦笑する私に平助が声を上げる。

「えぇ、元旦に会ったのが久しぶりだったかな。忙しいみたいね。」

「そう言えば晋作さんも見ないね。」

本当にそう言えば的に宗次郎が言うけれど、もうちょっと思い出してあげてよ。ってか、平助君は晋作に会った事なかったんだっけ。

「晋作は今国に帰っているわ。」

上海って言葉は、言わない方が良い気がした。

新撰組は佐幕攘夷になるから、外国に対して前向きな二人の思想は伝えられない。

「小五郎さんは江戸にいるの?」

「どっかにはいるんじゃない?わからないけど。」

笑う私を二人は何でか、じっと見ているけど、新年早々そんなに見つめられてもねぇ・・・

「ねぇ、おリョウさんは小五郎さんと夫婦にはならないの?」

平助は宗次郎よりちょっとおませさん、宗次郎が幼いのかもしれないけど、まぁ、18って言ったら、そのくらいはわかるか。

「うーん、どうかしらね。」

ってしか、言えないかな。

この子達も晋作みたいに、ある時突然結婚するのかしら?

・・・あぁ、宗次郎はしないわね。

宗次郎は、あと何年生きられるのかな・・・

この笑顔、いつまで見る事が出来るんだろう。

平助は?

平助はどうなるんだろう・・・

誰かと夫婦になって、幸せになるんだろうか・・・そうであってほしい。

この子達を差し置いて、小五郎と結婚なんて、できないよ。

「う~ん、じゃーさぁ、おリョウさんが小五郎さんと夫婦にならないんなら僕が引き受けるよ!」

宗次郎の言葉に平助が・・・・・ドン引きしてる。

平助平助、これ、宗次郎の悪い冗談だよ・・・?

「そうねぇ、宗次郎君の方が若いし、いいかもね。」

おリョウさんも何言ってんの!?って顔をしている平助、ちょっと照れ屋さんなのかな?

私は平助に笑う。

「じゃぁさ!小五郎さんに勝ったらおリョウさんもらってもいいかな!?」

う~ん・・・14の時と中身は全く変わってないなぁ。

あの時と全く同じ事言ってるって気が付いているんだろうか・・・そんな事を思っていたら、

「宗次!」

突然平助が大きな声を上げて、私と宗次郎が平助を見た。

そんな私達の視線に平助はハッとした顔をして、もじもじし始めた。

「・・・そんなこと、言うもんじゃないよ、」

平助は小五郎の事、すっごい尊敬してたっけ。

だから、小五郎を侮辱されたと思って、ちょっと声が大きくなっちゃったかな。

「でも、小五郎は剣を抜くの嫌いだから、すぐ逃げちゃうかもよ?」

私はそう言って、笑って平助を見た。

「あの男は頭を使ってお仕事しているみたいだから、剣なんて交えたら負けちゃうわ。他の方法にしてあげてよ。」

「他の方法かぁ~・・・小五郎さんって、何が得意なの?」

宗次郎の質問は本当に悪気がないんだよね、この会話、まだ続くんだ・・・

小五郎が得意な事?

そりゃ、一つしかないね。

「船を反す事、かな?」

自分で言っていて笑ってしまった、懐かしいなぁ。

「船を反す!?」

宗次郎が目を丸くしてる。

「そう言えば小五郎さんって悪童だったって聞いたけど、本当なの?」

「そうそう、とんでもなかったわね。」

「えっ!?小五郎さんが!?」

そうか、平助は本人から聞いてるんだね。宗次郎の目はもう点になってしまっている。

「おリョウさんって、小五郎さんの子供の時を知ってるんだよね?」

おっ、平助にそこまで話したんだ。

小五郎も平助の事お気に入りだったもんね。

「えっ!?そうだったの!?」

宗次郎が私と平助を交互に見ている。

「そうよぉ?だからちゃんと上下関係が出来ているでしょ?」

二人がどっと笑った。

「私は小五郎が10ぐらいの時にちょっと一緒に暮らしていたの。ほんっと、とんでもないクソガキだったわ。」

「くそがき?」

「どうしょうもない悪童って事よ。」

「えー!うそぉー!?」

さすがに宗次郎も信じられないか、まぁ、今の好青年な姿を見ていたら無理ないよね。

「その時に一番よくやっていた悪戯が、川を渡す船を船頭もろともひっくり返す事で、どれだけ頭を下げに行った事か・・・」

「信じられない、」

「今度小五郎に額を見せてもらったらいいわ、その時に船頭に殴られて付いた三日月型の傷跡があるあずよ?」

ここら辺でと止めておかないと名誉棄損で訴えられるかな?

「じゃぁ、その時から小五郎さんはおリョウさんの事好いていたの?」

・・・・・う~ん。

平助の言葉にどう答えようか悩んでしまった。

好きすぎて病んだ、なんて言えないよね。

「さぁね、本人に聞いてみたら?もっとも、あんな照れ屋があっさり話すとは思わないけどね。」

二人に問い詰められたらきっと全力で逃げるでしょうね。

「あなた達、今日は抜けて来て平気なの?」

「今日は平気、なっ、宗次。」

「うん、今日は平気だね。」

「むしろ今日しか抜けられないかな。」

どういう事かな?

「みんな里帰りでもしてるの?」

「してる人もいるけど、ほとんど道場にいるよ。」

そう言って平助と宗次郎が笑い合う。

「・・・あっ!わかった!二日酔いね。」

「すご~い、正解!」

宗次郎が楽しそうに笑う。

なるほどね。

「あなた達はお酒は飲まないの?」

この時代だと、もう飲んでもよさそうだけど。

「飲むけど、俺達あんまり飲んでないから平気。」

「僕はあんまり好きじゃないかな、お酒。」

宗次郎は本当に甘党だわ・・・

「おリョウさんはお酒飲むの?」

おっ、聞いて来るねぇ平助。

「私?そうねぇ、私と飲み比べをやったら死者が出るかもね。」

「えぇっ!?」

目を丸くして叫ぶ二人に私は声を上げて笑った。

私達は女将の計らいで雑煮を食べて、昔と変わらずに中庭に向いて腰を掛けていた。

「ねぇ、私この後出たい場所があるんだけど、どうする?ここで待ってる?それとも帰る?」

そう、あの日から毎年ひそかに行っていること・・・新年のあいさつに、一人で行っている場所。

「えっ、おリョウさん一人で行くの?」

宗次郎が首をかしげる。

「えぇ、毎年一人で行ってるの。新年のご挨拶よ。」

私の言葉に宗次郎と平助が顔を見合わせる。

「おリョウさん、いくら三が日でも今時期女の人一人で出歩くのは危ないよ?」

「そうだよ、最近治安悪いし。」

そう、なんだけどね・・・

「でも、どうしても行きたいのよ・・・」

二人は再び顔を見合わせる、なんか、兄弟みたいね。

「じゃぁ、僕達もお供するよ。」

「えっ!?」

その答えは予想してなかった・・・

「もし、どうしても一人で行きたいなら俺達は離れて歩くからさ。おリョウさんを一人で行かせて何かあったら小五郎さんに申し訳ないよ。なぁ宗次ぃ。」

「うん・・・、」

そうねぇ・・・

「連れて行っても良いんだけど・・・、お墓参りよ?」



【平助】

お墓参り・・・俺達、出しゃばったことしたかな。

でも、最近は本当にバタバタした世になっているから、おリョウさん一人はちょっと心配だよ。

「じゃぁ、一緒に行く?」

「行く!」

もぉ、宗次はおリョウさんの事になるといっつもこれだ。まるで母親に依存し過ぎた幼子みたいだよ。

今も、おリョウさんに誘われてすごくうれしそうだし・・・

「楽しくお墓参りってのも変だけど、行きましょうか。」

三日目の町は少しばかり静かで、でも正月のにぎやかさはまだまだ残っている。みな楽しそうで、幸せそうだ。

酔っ払いが町にあふれているのを見るとやっぱり付いて来てよかったかなって、ちょっと思った。

でも、誰のお墓参りだろう・・・?

新年のあいさつって・・・お墓に、だよね?

街を見て歩きながらのんびり歩いても四半刻もかからない場所に、お寺があった。

小さなお寺、お墓の数もそう多くないかなり静かな場所。

お寺のすぐわきにあった花売りで、おリョウさんは真っ白い小菊の束を買い抱えている。

それは何か、とても不思議な光景だった。

献花なのに、そんな花さえ抱えているおリョウさんは美しくて、哀愁が漂っている。結いあげられていない束ねられただけの髪が風になびいて、余計に憂いを感じた。

通い慣れているのか、何も迷うこともなく目的の墓に向かうおリョウさん。おリョウさんが向かい合ったお墓はとてもきれいにされていて、きっと定期的に来ているんだろうね・・・

古くなったお花を取り換えて、新しい小菊を飾れば、そのお墓が若い女の人のお墓なんだって、わかった。

きっと以前宗次が言ってた、妹さんのお墓だ・・・

「あけましておめでとう、お雪ちゃん。」

そう言いながらおリョウさんはしゃがんで手を合わせる。

その瞳が辛そうで、俺と宗次は顔を見合わせた。

「お雪さんって、あの辻斬りにあった・・・?」

宗次が声をかける。

「えぇ、そうよ。私の命の恩人で、大切な妹。」

あぁ、やっぱり・・・

「ご両親はもういないし、おばあさんはお国に帰ってしまっているから、私がお雪ちゃんの身の回りのお世話をしているの。」

そうだったんだ・・・

「ごめん、おリョウさん、一人で来たかったよね・・・」

俺達は顔を見合わせて、ちょっとだけ後悔した。

ちょっと出しゃばったんだって・・・

「あら、賑やかなのも良いんじゃない?」

おリョウさんはそう言って笑って、僕達を見上げた。

「ねっ、お雪ちゃん。」

こういう時って、どうしたらいいのか俺にはまだよくわからなくって、宗次も珍しく神妙な顔をしていた。

どんな言葉をかけるかとか、どんな顔をするべきなのかとか、手を合わせるべきなのかとか、俺にはわからなくて、自分の経験不足と未熟さを痛感した。まだまだ俺は子供なんだって・・・

ふと横の宗次を見たけれど、宗次は何かを考えている様な、そんな顔だった。

「故人を偲ぶのに必ずしも悲しまなければならないと言う事はないわ。楽しい事が好きな人だったのなら楽しくするのも良いでしょうし、お酒が好きな人ならお酒の席で偲ぶのも良いでしょう。お雪ちゃんは優しい子、きっとあなた達が来てくれたことを喜んでいるわ。」

おリョウさんの言葉は最もだ・・・

でも、おリョウさんの瞳は、悲しそうだ・・・

「じゃぁね、お雪ちゃん。また来るわ。」

そう言っておリョウさんは立ち上がり、僕達を見て微笑む。

「さっ、行きましょう?」

「えっ、もういいの!?」

「えぇ、今日は新年のご挨拶だけだから。」

きっと、俺達がいなければもっとお雪さんと話ができたはずだ・・・

ごめんなさい、お雪さん。

「あぁ、おリョウさん今日もいらしてましたか。」

突然俺達の後ろからかかった声におリョウさんは微笑んだ。

振り返ったそこには、ご住職が立っていて僕達に微笑みながら頭を下げた。

「あけましておめでとうございます。」

そう言って手を合わせるご住職に、俺達も頭を下げる。

「今日はお連れさんもご一緒でしたか。」

そんな住職の言葉に、おリョウさんは急に俺達の首に手をまわして引き寄せた。

「いいでしょ?私のかわいい弟たちよ。」

弟って言葉にちょっと不満を感じたのは宗次もだと思うけど・・・でも、ちょっと、嬉しくもあった。

複雑だなぁ・・・

そんな俺達を見て住職は笑っている。

住職さんって本当に静かなんだね、神仏に勤める人が剣を持ったらきっと誰もかなわない。

小五郎さんでも、かなわないかな・・・?

「そうですか、仲がよろしいですね。」

きっと住職は僕達が本当の姉弟じゃないってわかってる。

「お雪は幸せですね、あなたの様な方に出会えて。」

「・・・さぁ、それはどうかしらね・・・」

おリョウさんの口調が少しだけ、元気をなくした。

ちょっと辛そうな笑顔になってる。

「おリョウさん、あなたには素敵なご兄弟やご友人がいます。もう何も思い込む必要などないのですよ?」

「その続きはまた今度ね、ご住職。」

そう言うおリョウさんの口調はいつも通りで、笑っていて、住職を牽制しているように感じた。

「いつでもおいでなさい。」

そんな住職の言葉におリョウさんは僕達から手を離し頭を下げる。

そして僕達も再び頭を下げて、その場を去るおリョウさんの後を小走りで付いて歩いた。

「ごめんね~、墓参りなんかに同行させちゃって。」

「俺達が行くって言ったんだよ、こっちこそなんか、ごめんなさい・・・」

俺は何となく気まずくてちょっと目を逸らしてしまった。

でも、宗次は違った。

「ねぇ、お雪さんを斬った下手人って捕まったの?」

おいおいっ!!そこ掘り返すの!?

宗次の言葉に驚いて、俺は思わず宗次を見つめてしまう。

「いいえ、聞いてないわ・・・」

「何でそいつは捕まらないの!?」

「さぁ、逃げてしまったのかもね。」

おいおいおいおいおい!

今この時に聞くなよ!!

「なんでおリョウさんのお雪さんは何にも悪い事してないのに斬り殺されて、そいつは生きてるの!?」

ちょっと宗次・・・それ以上は良くないって!!!

「そうね、理不尽ね・・・」

ちょっとちょっと、宗次ぃ!?

「僕がお雪さんの敵を討ってあげたい。」

「えっ!?」

思わず俺、声上げちゃったよ。

「だって、そいつは悪い事をしたんだよ?そんな奴が生きている必要はないよ、死んで償うべきじゃん?」

その時俺は初めて、みんなが宗次をかばっていた本当の理由を垣間見た気がした。

宗次は、真面目に言っている。

しかも、楽しそうに笑いながら・・・

「ありがとう宗次郎、でもそれは奉行所の仕事よ?あなたはそんなことしなくていいのよ?」

おリョウさんは、悲しそうだ。

「だって奉行所は捕まえてないじゃん?きっとお雪さんの様に斬り殺されて悲しんでいる人は他にもいる。悪い奴は生きていちゃいけないよね?」

「・・・そうね。」

おリョウさんがふと俺を見た。

取り残されて唖然としている俺に、おリョウさんは悲しげに微笑みながら、数度小さく左右に首を振って見せた。

おリョウさんは全部わかってるんだ・・・

目の前にいる宗次は無邪気で、善悪の判断さえない気がした・・・

正確にはあるんだろうけど、それがどこかずれていて、乏しい・・・

宗次は本心でこの言葉を言っている・・・

大好きなおリョウさんが刀で心を痛めたとなれば、その原因となった刀を見せまいと武士の命である刀を投げ置いてでもいたわって守ろうとするのに、意にそぐわないものは刀で制すると言っている。

その言葉が無茶苦茶であることを、宗次はわかってないんだ・・・

こいつの中には、鬼がいる・・・近藤さんも小五郎さんも、おリョウさんも、そんな鬼を表に出させない様に、こいつに気を使っていたんだ。

こいつはきっと、笑って人を斬り殺せる・・・・・

江戸川屋に着いて、俺たちはおリョウさんと別れた。

宗次はもっといたいとだだをこねたけど、さすがにそうはいかない、今日はもう帰るべきだよ・・・

俺たちは江戸川屋の暖簾の前でおリョウさんに頭を下げた。

おリョウさんに背を向けて、一歩踏み出したとたん、何か、着物の袖を引かれた気がして振り向いた。するとそれはおリョウさんで、おリョウさんはとっても悲しそうな顔をしていて。

「宗次郎を、お願いね・・・」

そう俺にささやいて、おリョウさんは暖簾を潜って行った。

「もぉ!平助君何してんの?」

「あぁ、何でも・・・」

この意味は何だろう・・・

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