夢恋路 ~青年編~30
【桂小五郎】
「桂さん!!!桂さん!!!」
その日、自分を呼ぶ尋常じゃない声色に、最悪の事態がよぎった。
僕はそれを自ら口にすることも確認する勇気すらなく・・・突然全部が真っ暗になって、思わずその場に座り込んだ。
「桂さん!しっかりしてください!」
数人の藩士たちが僕を支えてくれたけど、涙が止められなくて、僕は声をあげて泣いたと思う。
それは、8月28日の朝の事で・・・
僕達は、必死になって思い留まる様に説得したんだけど、彼の思いを止められなかった・・・
いつも熱くて、人一倍責任感が強くて、真面目な男。
どうして、命を持っての償いなどが起こり得るんだろう・・・
仲間の志士たちに支えられて、目にした彼の自宅・・・そこは、思っていたよりももっと凄惨な現場だった。
割腹し、文字通り血まみれになっていた来原さんが、そこにいた・・・
先に見つけてくれた藩士たちが彼の体を起こしてくれていたけれど、僕はただ呆然とその場に立っている事しかできず、とりあえずそこには何も、なんの光も存在しなかった。
差し出された彼の遺書は、自決に至る思いが強くて
『忠義と思ってやったことが、すべて不忠不義となってしまい、自分を誤り人を誤らせた罪は逃れがたく、割腹してお詫び申し上げる』
来原さん・・・
残されたハルと、子供たちはどうするの・・・?
ハルはまだ二十五で、彦太郎もまだ小さいのに・・・
僕は来原さんを他の藩士たちに任せて、ふらふらと外へ足を向けた。
「桂さん!どちらへ!」
誰かが僕を呼んでいる・・・
「この事を、伝えなければならない人がいるんです・・・」
・・・姉さん・・・助けて・・・・・
【おリョウ】
「あのぉ、おリョウさん・・・」
「なぁに、さっちゃん。」
「あのぉ、桂様がお越しなんですが・・・」
その、さっちゃんのためらいがちな口調になんだか嫌な予感がした。
「なんか、様子が変なんです・・・」
何かあった、直感でそう思った。
「私の部屋に行くようにと伝えて、すぐに行くから。」
「わかりました・・・」
最近は小五郎と会うこともままならないけれど、それでも私の所に来るときはいつだって笑っていた。
どんなに大変でも、忙しくても。
投獄されていた時でさえ、ボロボロになっても私に心配かけまいと、笑っていた。それが、傍目の人間から見てもおかしいとわかるなんて、絶対に何かあったはず。
あの子は決して不器用な子じゃないもの・・・私は手持ちの仕事を終えて、部屋へと急いだ。
戸を開けると、小五郎はただ立っていて、私を見るなり縋るように抱きついて来て・・・泣いた・・・
大きな男の大きな体を抱き寄せて、私は小五郎の頭を抱えた。
「来原さんが・・・自決した・・・・・」
・・・・何ですって・・・・?
頭が真っ白になって、意味がわからなくて、危うく聞き返しそうになったけれど・・・私のことを抱きしめる小五郎の力が驚くほど強くて、今の言葉が本当なのだと、わかった。
「何度も!何度も思い留まる様にって、みんなで説得したのに・・・」
声をあげて泣く小五郎に、涙があふれた。
膝から崩れ落ちる体を抱き留めて、ただただ小五郎の髪を撫でた。
まるで子供の様にわんわんと泣く小五郎・・・
残されたハルちゃんと息子たちは一体どうしたらいいの?誰が、こんなに残酷な事を伝えるの・・・?
私がお雪を失った時と同じような喪失感をきっと今この子も得ているんだろう、自分を責めて・・・
私、この子に辛い事をさせているのかもしれない。
未来を創るなんて、そんな事、この子には出来ないのかもしれない・・・
この子は優しすぎるのかもしれない・・・
歴史上は明治を作っているけれど、今となっては疑わしいと思えるほどに、この子は優しすぎる。
「もういいよ、小五郎・・・」
私は思わずつぶやいていた。
「そんなに辛い思いをしてまで世を変えなくったっていい・・・私が無理を言ったのよ・・・まさか、こんな事になるなんて・・・」
そう・・・
こんな事になるなんて・・・
これは全て、私のせいかもしれない・・・
私さえいなければ・・・自責の念が、渦巻いていた。
「・・・もう、後戻りはできないんだ・・・」
「小五郎・・・、」
小五郎が歯を食いしばり絞り出すような声を出す。
「松陰先生を失い、来原さんも失い、今自分がここで立ち去っては多くの者の志が無駄になる!絶対に下りない!」
小五郎は顔を埋めたまま、より力を込めて私を掴んだ
「命など捧げて何になる!奪って何になる!命など差し出されて何の価値がある!生きてこそ、生きてこそ命には価値があるんだ!生き抜いてこそ、世を変える事が出来るんだ!」
そう叫ぶと小五郎は顔を上げ、私の頭を強く抱きかかえる。
「絶対に死なない!絶対に死なせない!絶対に・・・自決なんて認めない・・・・」
私は小五郎の背を子供を落ち着かせる時と同じように優しく打ち続けた。
「ごめんね、情けないね・・・」
そんな事、言わないの・・・
「いいんじゃない?私の前ならば、いくら泣いたって・・・その代り、」
私は小五郎の額に自分の額を付けた。
「私の前だけよ?あなたが帰って来る場所は、私の所なんだから。」
後日、来原さんは埋葬されて、その知らせはハルちゃんに届けられた・・・
秋も深まったある日の事。
「ねぇ、姉さん?」
「なぁに?」
「ちょっと、頼みがあるんだけど・・・・」
いつも通り外の掃き掃除の時にやって来た小五郎が私の顔を見るなりそう言った。
何かしら、こんなに改まって?
小五郎はちょっともじもじしていて、まぁこれはこれでかわいいんだけど・・・
「実は、晋作の事なんだけど・・・」
晋作?
・・・また何かやったんかい!
「実は、熱が引かなくて・・・」
えっ?
なんて・・・?
熱が引かない?
「藩医はいるんだけど、どうにも、その・・・」
「早く言いなさいよ、一大事じゃないの。」
「そうなんだよね・・・男ばっかで、どうした物かと・・・」
まーったくぅ・・・
「女将に外出許可取って来るから、ちょっと待てる?」
「僕からも、お願いした方が良いかな・・・」
いや、そこまではいらないはず・・・もはや、私達の事は何も言わないし、あの女将・・・
「大丈夫よ、でももし渋られたその時はお願いね。ちょっと待ってって。」
私はとりあえず、女将に事情を説明した。
まぁ、あっさりオッケーなんだけどさ・・・あの、私って、職務上あまり必要なかったり、します・・・?
部屋に帰って着替えて、ふとバッグを見た。
現代の薬、必要だろうか・・・?
出来れば使いたくはないが、一応持って行こう。ってかそもそも使えるのだろうか?
玄関に出ると小五郎が待っていてくれて、私達は藩邸まで急いだ。
藩邸に入ると私を見て驚いた顔をした人間も何人かいたけれど、私はその都度軽く頭を下げた。きっとお雪ちゃんの事件の時に私の顔を覚えた人がいるのね・・・
通された部屋は・・・秋だと言うのにむっとしていて、暑かった。
部屋の真ん中で布団に寝かされている晋作はだいぶ暑そうで、熱にうなされている。
「姉さん申し訳ない、僕はこれから会合に出なきゃいけなくて、もしかしたら今日は顔を出せないかもしれないんだ。」
「大丈夫よ、行ってきて?」
「何かあったら誰でもいいから声をかけてね、みんな晋作の事は心配してるから。」
「そうねぇ、あんなに元気な子がこんなにしおれてちゃぁねぇ・・・これじゃ、あまりにかわいそうよねぇ。」
「そうなんだよね・・・」
井戸は出てすぐだったはず、確かここまで歩く間にあったっけ・・・
「桶と手ぬぐいを・・・手ぬぐいは最低五枚はもらえる?あと飲むためのお水もできるだけたくさん。あとお塩とお砂糖があったら持ってきて。あと茶さじね。」
「塩と砂糖も?わかった、運ばせるね。」
そう言って小五郎は部屋を出て行った。
スポーツドリンクなんてないから、経口補水液は自分で何とかするしかない。分量はあるけれどそれを正確に測る術はないし・・・どうするかな。
晋作の額に手を置いてみると、熱が高いなぁ・・・
インフルエンザってこの時代にもあったっけ?
咳がないから肺炎ではなさそう・・・
・・・結核でも、ないよね・・・
リンパは腫れていないわね。
「・・・あれ・・・おリョウさん・・・なんで?」
かわいそうに、辛いのか薄目を開けて私を見ている晋作。
「小五郎に頼まれたのよ、もう大丈夫。今熱を下げてあげる・・・」
あまり使いたくないけれど、解熱剤を飲ませるか・・・
でも、この時代のお薬と言えば漢方よね、一緒に飲ませても大丈夫なのだろうか?
とりあえず、化学薬剤に耐性がない体なんだから、半量から飲ませるかな・・・
しかし・・・こんなに体が熱いのに布団なんてかけていたら熱なんか下がるわけないじゃん!
もうっ、かわいそうに!
とりあえず、布団は剥いでしまおう・・・
「晋作、お薬飲める?」
「・・・苦い?」
この子供がっ!!
「苦くはないと思うわ、私の時代の物よ。この時代でこれを口にするのは晋作が初めてね。」
「・・・じゃぁ、飲む。」
本当に子供だ・・・確かこの子、結婚したんじゃなかった?
私は解熱剤を一錠取り出して晋作君の体を起こす。
「・・・何これ、飴?」
「まぁ、そう思って飲んじゃってちょうだいな。」
とりあえず薬を飲ませて再び晋作君を寝かせる。
「暑いんじゃない?」
「暑い・・・」
「じゃぁ、布団は掛けないわ。まず熱を下げないと。」
襟元を開いて帯を緩めて・・・
「・・・襲う・・・?」
「バカ。」
元気じゃないか!!!
この時代に氷なんてないから、ひたすら水で冷やすしかないか。幸い井戸水はもう冷たいわね。
「寒くなったらすぐ言ってね。」
頭と首と両脇に固く絞った冷たい手ぬぐいをあてて体を冷やす、すると晋作は気持ちよさそうに目を閉じた。
やがて静かな寝息が聞こえ始めて、薬が効いてきたのか少しだけど熱が引いてきた。
表情も、さっきよりはずっといい。
腰から下にだけ布団をかけて足先は出して、一息ついたら小五郎がやってきた。
「あら、会合は?」
「今少しだけ抜けてきたよ、それより晋作は?」
「今は薬が効いているから、寝てるわ。」
「薬って、姉さんの?」
「そう、本当は使いたくなかったんだけど・・・あまりに辛そうで。」
「そう、ありがとう。面倒をかけるけれどもう少し晋作を頼めるかな?」
「えぇ、大丈夫よ。こんな晋作かわいそうだもの、早く元気になってもらいたいわ。」
小五郎は再び会合に戻り、私は何度目かの手ぬぐいを変えて、晋作が目を開けた。
「あら、おはよう。気分は?」
「びっくりするぐらい良い、おリョウさん何したの?」
「教えないわ、そんな事。」
私は笑って答える。
「とりあえず、これ飲んじゃってくれる?」
私は湯呑を渡す。
「水?」
「まぁ、そんなもんよ。」
若干の塩味と甘味が感じられるくらいの濃度の水、あれだけ汗かいていたら体の中身はカサカサよ。
現代のテレビコマーシャルで得た知識ね、感謝だわ。
「・・・水?これ、」
「水よ、飲みきって。」
首を傾げながらとりあえず飲みきった晋作、さてと、熱が引いている間に何か食べさせないとね。
「お腹すいてない?」
「すいた。」
「じゃぁ、今のうちに何か食べようか。準備してくるから大人しくしてるのよ!?」
用意した卵粥なんてそりゃもう簡単に平らげて・・・そうだった、相手は晋作だった・・・
普通の飯を食わせりゃよかったよ。
「おいしかった!はぁ、一時は死ぬかと思っちゃったよ!で、おリョウさん何でいんの?」
「・・・さぁねぇ、なんでかしら?」
・・・苦笑。
ついさっきまであなた、本当に死にそうだったのよ?
「いい、晋作?今のあなたは私が飲ませたお薬で一時的に熱が下がっているだけなの。またこの後上がって来るかもしれないから大人しくするのよ?」
「つまんない。」
このガキ!
「・・・風邪にかかったのは誰の責任ですか?」
「・・・俺です。」
「じゃぁ、大人しくしてなさい。」
しょぼんと寝転がる晋作、かわいそうだけど風邪ごときでも命を落とす時代、そんなことさせられないでしょ!
晋作は手ぬぐいを絞る私をじっと見つめて、突然に問いかけてきた。
「ねぇ、おリョウさん。」
「なぁに?」
「おリョウさんの時代では、男と女は好きあって結婚するの?」
・・・・・ぅん?
「もちろんそうよ?」
「どんな身分でも?」
「そうねぇ、身分はもはやほとんど存在しないかな。日本ではだけどね。」
「じゃぁ、家柄で結婚することもないの?」
「まず、ないかな・・・・・?」
どうしたかしらこの子・・・そーいや結婚してすぐに江戸に逃げてきたっけか。
「そっか・・・」
何だか遠い目をする晋作。
この時代の男と女の関係は、まぁ、複雑なのよね・・・
「あのね、晋作・・・」
私は晋作の額に新しい手ぬぐいを置いて、横に座りなおした。
「確かにこの時代では身分や家柄で、特に女は不自由をしていると思うわ。好きでもない人と結婚したり身を売り買いされたりね。でも、女達だってバカじゃないと私は思うの。その隙間に楽しみを見出していると思うの。まぁ、よっぽど生理的に無理って場合を除けばだけど・・・」
いつの時代も生理的に無理な場合は、仕方ないよねぇ・・・
「・・・・・例え愛することがなくても、他の男を好いたままであったとしても、伴侶となった相手と暮らすことはできると思うの。暮らす事が出来れば情がわくと思うの。情がわけば、愛がなくとも添い遂げる事はできると思うの。そうやってこの時代の女たちは夫となる男たちを支えて、家や子供たちを守って来たんだと思うわ。」
「情・・・ね。」
「そうよ。寝食を共にして同じ空間で生きていればね・・・まぁ、夜の生活が無理ってなっちゃうと話は別かな?」
この言葉に晋作が笑った。
「いつの時代だろうと誰だって愛しい人と相思相愛になって暮らしたいと思うわよ。でも、例え相思相愛で夫婦になっても別れるところは別れるんだし、どちらがいいとは言えないかな。」
「おリョウさんと小五郎さんはいいね、相思相愛だ。」
おっと、そうきたか。
「あら、そう見えるの?」
「もちろん見える。」
そう言って晋作がケラケラと笑った。
「あなたの奥さんは確か雅子さんだった?まだ若かったわよね。」
「うん、そう。結婚した時は十五。」
・・・う~ん、児童買春で捕まる年齢だ。
「顔はいいよ、あのあたりじゃ有名な美人だから。」
「あら、もったいない。」
「えっ!?それどういう意味!?」
私は思わず笑った。
「でも、向こうは突然俺の所に連れて来られて、俺も突然その子と結婚することになって、良くわからないんだよね、どうしてそんな事が起こるのか・・・」
「そうね、確かにね・・・」
「いきなりそんな子と一つ屋根の下で寝食を共にして、子供を作るとか、最初は何とか頑張ろうって思ったけど・・・やっぱり無理で、で、江戸に来ちゃったんだ。」
この子も、雅子ちゃんもまた、時代の被害者ね。
「そうね・・・とっても難しい問題だと思うわ。世が変わらなければ解決できない問題ね。でもね晋作。あなたはこうやって逃げる場所も仲間も小五郎も私もいるからいいのよ?男だし身一つでどこにでも行けるわ。でも、残された雅子ちゃんはきっとあなたを待つ事しかできないの。」
この時代の女の定めとは言え、十五で嫁いで夫に置き去られた雅子ちゃんと言う子はどんな想いか・・・
「十五と言えばこの時代では大人なのかもしれない、でもよく考えてみて?まだ生まれ落ちてから十五年しか生きてない子よ?宗次郎たちと同じ歳、まだまだ子供だわ。あなたは何年生きているの?少なからず雅子ちゃんより長く生きているし、その何十倍も多くの世界をその目で見る事が出来ている。例えその子を愛せなくとも、情は抱いてあげるべきよ?」
「情・・・・・・か、」
「大体!そんなにかわいい娘なら子作りなんて全く問題ないでしょ!?」
「まぁね。」
私の景気づけの言葉に晋作がニヤリと笑う。
【晋作】
「まったく!贅沢な子ね!」
おリョウさんの言葉に僕はいつの間にか俺は笑っていた。
さっきまで死にそうだなんて思っていたのに。
「はぁ、おリョウさんが伴侶なんて、小五郎さんがうらやましいよ。」
「そう?結構苦労してるみたいよ?」
おリョウさんは僕の頭に置かれた手拭いをまた変えてくれる・・・なんでおリョウさんって、こんなにいい匂いがするんだろう。なんかとっても、懐かしい匂いだ。
「小五郎さんはおリョウさんがいるから何でもできるんだよ、おリョウさんじゃなきゃきっとダメなんだ。」
「そうであったら嬉しいわね。」
そう、その笑顔、きっとその笑顔の為に小五郎さんは頑張っているんだ。
・・・雅は何しているんだろ?
ちゃんと実家に帰ってるかな?
ちょっと、かわいそうな事、したのかな。
「次、長州に帰るとき、家に帰るよ。」
「えぇ、そうしてあげて。」
おリョウさん、きれいだなぁ・・・
「あぁもう!なんでおリョウさんは小五郎さんなのかな!?小五郎さんのじゃなきゃ俺がもらってたのに!」
「あら、あげないわよ。」
「じゃぁ買う!」
「高いよ~?」
「じゃぁさらう!」
「誰かさんみたいに殴られちゃうかもよ?」
もう!これだからおリョウさんの事が好きなんじゃないか!
そうか!わかったぞ!
俺は賢い女が好きなんだな!
じゃぁ、雅も賢くなれば・・・好きになるかな?
「じゃぁ!」
「はーい終わり。病み上がり早々に小五郎先生の長いお説教を聞きたくなければもう少し大人しくしてなさい。」
・・・それは、嫌だぞ。
静かにずーっと説教されるぐらいなら一発殴られた方がまだいい。
思わず布団を頭まで被ると、おリョウさんが笑った。
「それだけ元気なら大丈夫かな、夜は少し生の付くものを用意しようか、食べたいものある?」
「えぇ!?おリョウさん夜もいてくれるの?」
「えぇ、あなたが完治するまでって小五郎に言われているからそのつもりよ?」
「俺が耐えられるかなぁ・・・」
うーん、完治早々に小五郎さんに斬られないかな・・・?
「バカ。あんたが寝たら帰るの。」
まぁ、そうだよね・・・
何考えてるんだろ、俺・・・
結局俺はその後また熱をぶり返しちゃって、おリョウさんはどうもその夜は帰れなかったみたい。時折意識が戻って薄目を開けると必ずおリョウさんは俺の顔をのぞき込んで、大丈夫だよと、笑ってくれた。
すごく、安心した・・・
「晋作は?」
「寝てる、夜ちょっと熱が高かったのよ・・・」
・・・誰かが、話してる・・・?
おリョウさんと、小五郎さん・・・?
「お医者様はなんて?」
「目が覚めたら薬を飲ませる様にって。」
・・・薬・・・苦いやつかな・・・
「姉さんの薬は飲ませたの?」
「どうしようかと思って・・・」
・・・おリョウさんの薬・・・?
・・・なんだっけな・・・
「そうだよね、この時代にはない物だから、あまり使わない方が・・・」
「と、言うかねぇ、薬が効いてきちゃうと元気になっちゃうのよね、あの子。」
あれ、なんか、笑ってる・・・?
「でも、次目を開けたら飲ませた方が良いかも、これじゃいくらなんでも体力が持たないわ。」
「ごめんね、今日もお願いしていいかな。」
今日もおリョウさん・・・いるの・・・?
「えぇ、薬が効いている間に一度帰るけど、そしたらまた診ておくわ。」
うっすらと見えた世界には、おリョウさんと、小五郎さんがいて、逆光の明るい朝の陽を浴びて、キラキラしていて、とても幸せそうだった。
「いいなぁ・・・・・」
そんな事つぶやいて、俺は再び目を閉じた。
【おリョウ】
「やーっと熱が上がらなくなったわね、はぁ、長かったぁ。」
あー長かったよ本当に、このまま下がらなかったらどうしようかと思ったよ。
この時代に抗生剤なんてないし、解熱剤じゃ治らないしね。なんとかこの子の体力が勝ったかな。
でもこの子、体弱いんじゃない・・・?
「・・・まぁ、これだけ食べりゃ病気も逃げるか。」
まったく、落ちないのは食欲だけだわ。
「寝てるだけなのに、何でこんなに腹が減るんだろうねぇ?」
晋作は首を傾げながら箸を置いた。
「まぁねぇ、あれだけ熱が高かったらいろんな物が足りなくなるでしょうねぇ・・・」
やっぱり現代医学はすごかったんだわ・・・、もっと感謝すべきだったよ。
「いやぁ、おリョウさんの薬は効くんだね!すごいなぁ~!」
おっとっと、他言禁止。
私はあわてて中指を晋作の口の前に立てる。
その行為に晋作は何かを思い出したように慌てた。
「あなたはお医者様のお薬で治ったのよ?でしょ?」
「御意」
私達は笑う。
【晋作】
「明日までは一日大人しくしているのよ?」
「えーっ、おリョウさん帰っちゃうの?」
「何言ってるの、今夜は帰るわよ。ちなみに今夜は小五郎先生が見て下さるみたいだから、大人しくしてなさい?」
ぶっ!!!
げほげほっ!
びっくりしてお茶を喉にれちゃって咳が止まらない。
そんな事をしているとおリョウさんは俺の横にやってきて、笑いながら背を擦ってくれた。
はぁぁ・・・違う意味で熱が上がりそうだよ・・・
薄ら笑う俺をおリョウさんが不思議そうに覗いた。
「開けるよ。姉さんそろそろ行こうか、」
そう言って小五郎さんが部屋に入って来た。
「どうした、まだ具合が悪いの?」
小五郎さんが不安そうな顔をしている。
ちょっと、違う・・・
「違うわ、あのね!」
「わぁぁぁぁぁー!!!」
まって!言っちゃダメだって!!!
俺は思わずおリョウさんの口を押える!
すると、ちょっと勢いが強すぎたのか、おリョウさんが体勢を崩して倒れて・・・最悪な事に、俺、おリョウさんを押し倒す格好になっちゃった・・・
・・・最っ悪・・・
「ちょっと!晋作!!!」
あぁぁぁぁ・・・夜が怖いよぉ・・・
俺の下でケラケラと笑っているおリョウさん、慌てて駆け寄って俺を剥がす小五郎さん。
小五郎さんは俺を起こした後におリョウさんを起こして、まるで抱え込むように自分の方に寄せた。
「姉さん大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、これだけ元気ならもう心配ないわね。」
おリョウさんは相変わらず笑っていて、小五郎さんは相変わらずオロオロしていて、本当に相思相愛なんだって、思い知らされる。と、言うか、小五郎さんの方が比率は重いかな。
小五郎さんがおリョウさんを送って、帰って来て・・・
病み上がりの俺の横で正座して・・・あぁぁ助けて、おリョウさん・・・




