夢恋路 ~青年編~27
【近藤勇】
「宗次郎!!宗次郎はどこに行った!!!!!」
歳がまた騒いでいるのか・・・
宗次郎の奴、上手い事巻いたな?
「あのバカ!また逃げたか!!!」
まぁ、約束したとはいえ、しばらくは目をつぶってやろうと思っているから、今回は口出ししないが・・・余り続く様ならまた言わねばなるまい。
でなきゃ歳がうるさくてかなわん・・・
「あの野郎、確かに朝の準備まではいたはずなんだが!!!」
どたどたどた。
「平助!!!平助はどこにいやがる!!!!」
「は~い!何ですか土方さん。」
「宗次郎はどこに行った!!」
「えぇ!?俺知らないですよ!!」
「お前らいっつも一緒だろ!」
「そんなぁ!」
これじゃ八つ当たりじゃないか・・・
とりあえず、平助を助けるか・・・
「歳、朝から何だ・・・」
平助の横まで歩き、平助を手で払う。
平助はそんなわしの合図に逃げる様にその場を去った。
「宗次郎の奴がまた逃げたんですよ!?」
まぁ、わかってはいる・・・
「まぁ、しばらくは目をつぶってやれ、ひどくなるなら私から言う。」
「っとに!どうせあの女のところだろ!何で帰って来たかなあの女は!!!」
この男はいつか落ち着くんだろうか・・・?
「とりあえず、お前は朝の稽古に出るんだ。宗次郎の事は私に預けてくれ。」
「っとに近藤さんは宗次郎に甘いんだから!!!」
はいはい。
さてと、迎えを送るか・・・
「平助、」
「はいっ!?」
「こっちへ。」
呼ばれた平助はびくびくしている、土方に当たられてわしにも問われると思っているかな?
やれやれだ・・・
「平助、お前は午前の稽古が終わったら宗次郎を呼びに行ってくれ。」
「へっ、俺が!?」
「あぁ、そうだ。お前しか宗次郎の居場所はわからないからな。」
これで歳は納得するだろうか・・・
「連日遅くまでお邪魔していては先方に迷惑だ、夕餉前には連れ帰って来い。」
「はぁ・・・」
「それと、必ず帯剣していくように。宗次の剣も置いてあるなら持って行け。今日は二人だけで帰って来るんだ、いいな。」
「はい!」
さてと・・・約束だったからな、宗次郎のしりぬぐいも大変だ・・・
「こ、近藤さん!?」
わしが竹刀を持つのがそんなに珍しいか?
「宗次郎が不在の時はわしが相手をすると、以前に言っていたはずだ。さて、相手をしよう。」
今日は比較的人数が多いなぁ・・・なるほど、だから抜けたのか。
逃げるなりに考えていると言う事か。
さて、全員相手できるかな?
【おリョウ】
「ねぇ、宗次郎君・・・?」
「はい!」
うーん、晋作もいないし小五郎にも最近会えないから、こうやって来てくれるのは嬉しいんだけどね・・・
「ちゃんとみんなに言って、出て来てるわよね?」
「うん?」
ほらぁ!
逃走癖が出た!
去年辺りかっこいい事言ってなかった!?
もぅ、近藤勇に何て言うのよ・・・言っとくけど私がたぶらかしてるわけじゃないからね!?
「あら、宗次郎君いらっしゃい。」
女将が通り際に宗次郎に声をかける。
「おはようございます、お邪魔してます。」
礼儀は、きちんとしているのよね・・・
「じゃ、後でお茶にしましょうね、ごゆっくり。」
そう笑って去って行く女将。
ごゆっくりじゃないのよ・・・
「久しぶりにおリョウさんの歌が聞きたいな。」
ほらぁ・・・って思いながら笑ってしまう自分もいる。
「いいけど、去年と変わらないわよ?」
「いいよ。」
やれやれ。
懐かしい毎日が始まって、私は宗次郎にこき使われながら江戸川屋の仕事をして、ここに小五郎と晋作がいないことは残念だけど、あの二人はこの子とは会わない方が良い。
幸い晋作は江戸にいないし、小五郎は忙しくしているから、そう滅多に会うこともないでしょう。
命を奪い合う同士、できるだけ会わない方が良いわ・・・
【平助】
午前の練習が終わった休憩の時間、俺はこっそり道場を出た。なんで俺がこそこそしないといけないんだよ。
宗次の奴、また丸腰で行ったのかよ・・・
あいつ大丈夫?何で俺が宗次の剣を持ってるのさぁ!!
急ぐ必要はないんだから歩いて江戸川屋に向かったけれどやっぱり城下は賑やかだなぁ・・・
宗次の奴、そんなにおリョウさんが好きなのかなぁ・・・
だって、おリョウさんって小五郎さんの女でしょ?いくらなんでも、小五郎さんは大人だし、小五郎さんがおリョウさんの事姉さんって呼ぶくらいだから、おリョウさんは小五郎さんよりも年上だろうし・・・
そんな人、好きになるかなぁ?
ってか、宗次だったら小五郎さんに勝つのかな?
一度でいいから小五郎さんと手合せしてみたいなぁ・・・なんてことだらだらと事を考えていたら、案外あっという間に江戸川屋が見えてきた。
これって、入っちゃって大丈夫なの・・・?
ぼーっと江戸川屋の玄関で立っていたら女中の人が声をかけてきた。
「お泊りですか?」
「・・・えっと、」
お泊りじゃない。
でも、宗次の奴、本当にここにいるの?
「あっ、もしかして宗次郎君のお友達とか?」
「えっ!?なんでわかるんですか!?」
「だって、年頃がよく似ているから。宗次郎君ならいるわよ、どうぞ。」
そう言って、女中の女の人は俺を中に入れてくれて、これって、入っていいんだよね?で、奥の部屋にどんどんと向かうんだけど、宗次の奴何してんのいったい!?
「失礼します、女将さん、宗次郎君にお客様です。」
そう言って女中の女の人は戸の前に膝を付くけど・・・女将!?
えっ!?
おリョウさんってここの女将さんなの!?
偉い人じゃん!!!
そんな事を思ってオロオロしてたら・・・
「宗次!お前何してんの!?」
「あっ、平助君も抜けてきたの?」
「そうじゃねーだろ!?お前何してんの!?」
宗次のやつ、何でのんびり茶飲んで菓子食ってんの!?
おリョウさんと・・・この人が女将さん!?こんなに年上の女の人たちと、こいつは何呑気にやってんの!?
えっと、俺は・・・どうしたらいいんだ・・・・?
「平助君いらっしゃい。」
そう言っておリョウさんは僕を見上げて笑う。
「宗次郎君のお友達?」
そう、女将だと思う人が言うけど・・・俺はどうしていいのかわからなくって、思わずおリョウさんに助けを求める視線を投げた。
・・・すみません、助けて下さい・・・
おリョウさんは笑って、立ち上がり俺の横に立ってくれた。
「平助君、こちらは江戸川屋の女将さんよ、ご挨拶なさい。」
そう言っておリョウさんは僕の背にそっと手を置いてくれた。
あぁ、これか・・・宗次がはまる理由・・・
なんだろう、この心強さと安心感・・・
「藤堂平助と申します。」
俺は頭を下げた。
「いらっしゃい、さぁ、座って。平助君もお茶にしましょう。」
女将さんがそう言ってくれて、俺は宗次の横に座った。
こいつ、なんで普通なんだよ・・・
目の前にお茶とおまんじゅうが置かれて、おいしそうだけど・・・
「大丈夫よ食べて、横の子を見て見なさいよ。」
そう言っておリョウさんが宗次を見て笑った。
確かに・・・宗次はいたって普通にまんじゅう食べてる。
恐る恐る食べて、すっごい美味しくて・・・すっごい腹減ってんだよね俺。
「平助君、稽古終わってから来たの?」
宗次の言葉で思い出した!!
「そうだよ!近藤さんにお前を連れて来いって言われたんだよ!俺朝稽古終わってからそのまま来たんだぞ!?」
「あら、それじゃお腹すいてるでしょ?」
おリョウさんがそう言って笑う。
・・・はい・・・
「あらやだ、じゃぁ何か用意させましょうか。ちょっと待っていてね。」
そう言って女将は部屋の戸を開けて女中の女の人に何かを頼んでいる。
いいの・・・かな・・・?
「おリョウちゃんは人気者で大変ねぇ。」
女将さんがそう言って笑う。
「あら、この子は宗次郎君を追っかけてきたんでしょ?私じゃないわ。ねっ?」
えっと、そう、だったんだけど・・・さっきまでは・・・
「えっ、僕はお願いしてないよ?」
だからぁ!
俺だって自主的にお前を迎えに来たんじゃないってば!
女将さんが握り飯を用意してくれて、なんか、全部食べたらお腹いっぱいになって緊張感がなくなってしまった・・・
「もう!平助君食べすぎだよ?道場でご飯食べてないみたいじゃん!」
「夜も食べて行ったらどう?」
女将さんの言葉でまた思い出した!
「あっ、近藤さんが夕ご飯までには帰って来いって!はい、お前の刀。」
俺は宗次の刀を宗次に突き付けた。
「何で持って来てんのさぁ!」
「近藤さんが自分たちで帰って来いって!だから持って行けって!」
「もぉ!刀なんてなくっても平気なのに!」
・・・ん?
なんか、不機嫌になった?
この感じ、土方さんに文句言ってた時と一緒だ・・・ぶつぶつ言いながら宗次は俺から刀を取って腰に付けた。
「いいじゃない、かっこいいわよ?」
おリョウさんがそう言って笑う。
なんか、宗次がおリョウさんを見上げて、困惑した顔をして、おリョウさんが、そんな宗次の頭に手を置いて、笑ってる。
・・・なんだろう。
刀持って来ちゃ、いけなかったのかな・・・?
お茶を終えて、おリョウさんと宗次について行くと・・・どういう事?
おリョウさんは、仕事をしていて・・・
宗次はそこに座って話をしてるだけで・・・何してんの、こいつ?
俺も横に座ってみたけど・・・えっと、こいつは一日こんな感じなのかな?
「ごめんね平助君、私はいつも仕事していて、そこに宗次郎君がいるだけなのよ。」
おリョウさんは洗濯物を干しながら笑っている。
「お前、何してんの?」
「ん?おリョウさんと話してる。」
「話、だけかよ?」
「うん、話したり歌ってもらったり。」
「歌?」
歌って、歌でしょ?
「宗次郎君やめてよ~、言いまかないでぇ。」
おリョウさんは恥ずかしそうに笑っている。
「んじゃ平助君が言わなきゃ良いんだよ、ねっ。」
ねって言われてもさぁ・・・?
「じゃ、おリョウさん歌ってよ。」
宗次って無茶言う奴ではあるけど・・・こんなに無茶だったか。
「今日何曲目よ~。」
「だって平助君は聞いてないよ?」
うん、まぁ、聞いてないけど・・・って、歌でしょ!?
「ねぇ、おリョウさん、あれがいい!」
「えっ、どれよ・・・?」
「前に歌い終わった後におリョウさんが泣いちゃった歌。」
「えぇぇ~!?だってあれ悲しい歌でしょ!?」
どう考えても宗次がとんでもない無茶を言っているようにしか聞こえないんだけど・・・どんだけ性格悪いの、こいつ。
「こっち座って歌って?」
おぃおぃおぃ・・・えっらくわがまま言ってんぞ、宗次。
「また泣いちゃったらどうするのよ。」
「うーん、その時考えるね!」
慰めるとかじゃ、ねーんだ・・・
はいはいと言わん気におリョウさんはやって来て俺に苦笑する。
そして俺は、聞いたことのない美しい声で『歌』と呼ばれる俺の知らない歌を歌うおリョウさんに、見入ってしまった・・・
「泣かなかったね。」
「そうねぇ。」
おリョウさん、苦笑・・・
「この歌のどこがそんなにいいの?」
「う~んとねぇ、」
呆気にとられている俺を置いて話が進んで行くけれど・・・今のは、何?
まるで山鳥が人間の言葉を囀ったような声で・・・美しい歌だった。
「おリョウさん・・・今のは、歌、なんだよね・・・?」
「えぇ、そうね。」
おリョウさんは俺に笑う、その横で宗次がいろいろ言ってるけど、俺にはよくわからなくって・・・
それは、あまりにきれいな声だった・・・
おリョウさんは何事もなかったかの様に再び洗濯物を干し始めて、宗次が再び楽しそうに話し始めて。付いて行けないのは俺だけで。
そんな事を思っていたら、後ろから足音が聞こえてきた。
「おや、先を越されたかな?」
「小五郎さん!」
俺は思わず叫んだ。
「やぁ平助君、宗次郎君も。」
「こんにちは。」
宗次が笑う。
「君たち、今日は稽古は休み?」
「今日は人がいっぱいいたから大丈夫ですよ。」
・・・おい。
何だその理由は。
「やれ、また抜けてきたか。平助君も抜けてきちゃったの?」
「ちがうよ!」
俺は、小五郎さんにそんな風に思われたくなくって、思わず声を上げた。
「俺はこいつを連れ帰って来いって出されたんです。」
「大変だね平助君は。」
小五郎さんが笑って、僕の横に座った。
「何で平助君が大変なの?」
宗次のバカぁぁぁ!!!
小五郎さんとおリョウさんは慣れているのか笑っていた。
「で、宗次郎はまた姉さんを歌わせていたわけ?」
「まったく、人使いが荒いのよ?」
小五郎さんもおリョウさんの歌、知ってるんだ・・・
「僕はあれがいいかな、琉球の歌。」
「琉球だって!?」
琉球ってあのすっごく遠い島国でしょ!?
おリョウさんって、琉球の人なの!?
「もぉ、あれは子守歌よ?」
「いいじゃんかねぇ、好きなんだから。ねっ、宗次郎。」
「はい。」
そしておリョウさんが歌っている言葉は・・・俺達が知る言葉ではなくって・・・
琉球って、異国の言葉を話すの・・・?
「良い歌だよね~。」
小五郎さんが笑っている。
ちょっとまって、整理させてよ!
「おリョウさんって、琉球の人なの・・・?」
僕の問いにおリョウさんが洗濯物の隙間から声だけで答える。
「いいえ、違うわ。ちょっと訳あって住んでいた事はあるけどね。」
「え、訳って・・・?」
島流し、とか・・・?
おリョウさん、まさか罪人じゃないよね・・・?
そんな俺の言葉におリョウさんはひょいと顔を覗かせて、
「それ以上は聞いちゃダメ、ね。」
そう言って、笑った。
笑顔がとっても色っぽくって、一瞬心臓が跳ねた気がした。そんな顔されたら、それ以上は聞けない・・・でしょ・・・
「おリョウちゃーん!お使い頼まれてくれない?」
そう言って女将さんがやって来た。
女将さんは小五郎さんを見て頭を下げる。
「あら、か・・・小五郎さんお久しぶりです。今日はすいぶん賑やかねぇ。」
女将が笑ってる、明らかに慣れてますよね女将。
今、『か』って言いかけたけど、桂って言おうとして止めたよね・・・女将も宗次に小五郎さんの事、隠してるんだ。
「おリョウちゃん、お使いお願いしても良い?」
「あっ、じゃぁ僕が行きますよ?」
小五郎さん武士なのに、そんなに簡単に動くんだ・・・
「あら、お願いしてもいい?」
・・・女将もだ。
「じゃぁ、平助君一緒に行こうか?」
えっ!俺!?
小五郎さんと出かけられるの!?
「はい!行きます!!」
「あら、よろしくね。」
女将はそう言って、俺に何の迷いもなくお金を渡してくれた。
初対面なのに、信じてくれるんだ・・・それって、とっても嬉しい事だよね!
俺は小五郎さんと二人になれた事がちょっと嬉しかった。
宗次に内緒って言われている以上、小五郎さんと話すのは宗次がいない時だけだからね!
【桂小五郎】
平助は明らかに僕に興味を持ってる。
宗次郎の前で口にさせないためにはどっかで聞いてやらなきゃって思ってたから、女将の申し出は願ったりだ。
平助の、なんというか、この期待の眼差しは・・・ちょっと困る。
そんな目で見ないでよ・・・
「平助君、僕と話したい事があるんじゃない?」
僕のこの問いかけに、平助は即答
「小五郎さん!手合せしてください!!」
「えぇぇ!?やだ!!!」
思わず即座に拒否、叫んじゃったよ。
この元気の良さは、宗次郎とは違うなぁ・・・
「俺!小五郎さんとやってみたいです!!」
これは・・・困った。
いくらなんでも他道場の子と手合せは塾頭さんに許可をもらわないと・・・失礼でしょ!?
「う~ん、でも僕、道場以外で剣は振らないんだよね・・・」
諦めて~!!!
「じゃぁ道場に行きます!」
それはダメダメ!!
絶対にダメ!!!
「それはダメだよ平助君!いくらなんでも試衛館に失礼だよ!?」
「1回でいいんです!お願いします!!」
どうしよう・・・困ったなぁ・・・
かといって江戸川屋でって事にはいかないし・・・
宗次郎がいない時じゃないとできないし・・・
そもそもこの子だけが抜け出るって事もいかないだろうし・・・
ってか、今日みたいに勝手に抜け出ちゃったら、それはそれで僕が怒られるし・・・
最近は僕も忙しいしなぁ・・・・・どうしたらいいんだか。
「場所があれば、いですか?」
えっ!?
そう言う話じゃないんだけど・・・
「じゃぁ玄武館は!?」
「玄武館!?千葉先生の!?」
や~め~てぇ~!!!
なんで千葉先生が出て来るの!?
「俺!千葉先生の所にもいたんです!」
ん?
平助は北辰一刀流なの?
・・・ちょっと、いいなぁ。って、そんな話じゃないってば!
「いやいや、それも失礼だよ平助君!?そもそも他流派の人間に場所を貸すなんて・・・」
「じゃぁ、千葉先生が良いって言ったらいいですか!?」
えぇぇ!?
そう言う話じゃないでしょ!?
「俺が千葉先生ん所に行ってきますから!良いって言ってくれたらいいですか!?」
「う~ん・・・・」
困ったなぁ・・・どうしよう。
仕方ない・・・観念せねばなるまい。
「じゃぁ、千葉先生がいいって言って、平助君がちゃんと道場から時間がもらえて、僕の手が空く時間がうまいこと重なったら、そう言う事にしよう。僕も今ちょっと忙しいから上手く時間が合うとは限らないけど、それでいい?」
きっと、無理だと思うよ?
「わかりました!」
あぁぁぁ・・・・どうしよう・・・・・
「えっと、でもね平助君、これだけは約束してね?いくら君が千葉先生の所の門下だったとは言え、今は違うんだ。絶対に無理は言わない。近藤さんにもそうだよ?他稽古なんてのはきちんと承諾を得なければならないことだ、君が勝手にできることじゃない。勝手にやったら道場破りだからね?絶対に迷惑がないように、いいね。」
「はい!」
・・・わかってるかなぁ・・・
この目は、わかってない気がするなぁ・・・最悪、僕が頭を下げる事になるのかなぁ。
それより、千葉先生に時間作ってもらっちゃって、僕が行けないってのは・・・なしだなぁ。
あぁぁ・・・しまった、平助がすごく喜んでいる。
この喜び様は、拒否できないなあ・・・・・まぁ、いいか。
「本当に、期待しないでよ?」
「はい!」
あぁぁぁ、僕も道場に行こう・・・もうしばらくちゃんとした稽古なんてしてないよ。
「・・・これは二人だこの秘密だよ?」
「はい!」
「・・・あと、できれば千葉先生には僕の名前、出さないでもらいたいんだけど・・・」
「はい!!」
・・・かわいいなぁ。
宗次郎とはまるで違う、この子は今が一番楽しいんだろうなぁ。こう言う子を、養子にしたいなぁ・・・宗次郎の無邪気さとはまた違う無邪気さだ。
僕たちは買い物をして、江戸川屋に帰った。
【おリョウ】
何やら楽しそうに帰ってきた平助君と、げっそりしてる小五郎に私は苦笑した。
「あら、何か良い事でもあったのかしらね。」
「はい!」
元気に返事をしたのは平助。
「こっちだって良い事あったわよねっ、宗次郎君?」
「はい。」
私も宗次郎に同意を求める。宗次郎はニコニコ。
「何なに!?」
言うのは平助だけど、明らかに聞きたがっているのは小五郎の方かな?
もぉ、一番子供じゃないのよ。
「教えなーい。」
私と宗次郎は笑う。だって、もらった落雁は全部食べちゃったんだもの。
いつも通り何が楽しいのか私の仕事を見ながら三人は話を楽しんでいる。その笑い声がほほえましくて、まるで、一つの家族みたいだった。歴史上決してあり得ない家族が、今私の目の前にある。あと数年の内にこの三人は命を奪い合う者同士になる・・・
宗次郎は、何を思って小五郎の命を奪おうとするだろう・・・
平助は、どちらに付くんだろう・・・
私はこの悲しみを乗り越えなければならないんだ。
「さぁ、そろそろ帰らないと今日こそ怒られるわよ?」
「あっ!そうだよ!宗次帰ろうぜ!」
「えーっ。」
いつも通りの、宗次郎のぐたぐだが始まったか。
「はいはい、もう二度と行くなと言われないようにちゃんと言いつけは守りなさい?」
宗次郎を引っ張りあげて玄関まで送る。二人並ぶとかわいいけれど、腰に刀を差す姿はやはり武士だ。
「ねぇ、宗次郎君?」
「はい?」
「次からはちゃんと帯剣してきなさい。」
「えっ、でも・・・」
やっぱり、この子は私に気を使ってたんだ。
「あなた達の身の安全の方が、今の私には大切よ?だから、お願い。」
そう、今はまだ、そんな世だから・・・私の方が受け入れなければならないんだ。現代のアメリカ人が未だに銃で身を守るように、今の日本人は刀で身を守る。
「でも、おリョウさん・・・」
「約束して?」
宗次郎が頷いて、そんなやり取りを平助が不思議そうに見ていた。
【平助】
「もう!平助君が刀持ってくるからだよ!」
帰り道ずっと宗次の不満は止まらない!
何で俺が怒られてんだよ!
俺は小五郎さんと約束出来て気分が良かったってのに!
「だって近藤さんがそう言うからじゃん!」
俺が持って行きたかったわけじゃないだろ!?
ってか、宗次ってこんなに感情出す奴だったの?
「もう!おリョウさんのところには持って行きたくなかったのに!」
・・・おいおい、その言葉は不味いだろ!
「お前武士だろ!?武士が刀持ちたくないなんておかしいだろ!」
「・・・おリョウさんには、見せたくなかったんだよっ・・・」
何でこいつ、こんなに悲しそうな目をしてるんだよ。そういえば俺が刀渡したときも、いらだってたっけ・・・
「なぁ宗次、どういう事だよ?何かあったの?」
何か、理由があるんだろ・・・?
「おリョウさんは、辻斬りに妹さんを、目の前で殺されてるんだよ・・・」
そう、だったんだ・・・
それはちょっと辛い・・・
「それでおリョウさん、心の病気になっちゃって、小五郎さんが療養に長州に連れ帰ってたんだよ・・・」
宗次は泣きそうな目をしてる。
そっか、俺が来たときは、ちょうどその時だったんだ・・・そりゃ、俺の事なんて覚えてるわけねーや。
「だから、おリョウさんには刀を見せたくなかったんだよ・・・」
なんか、すっげぇ悪い事したのかな、俺。
・・・ん?
でもさぁ。
「でも、小五郎さんは帯剣してるじゃん・・・」
そうそう、小五郎さんは帯剣してる、しかも二本。
あれは?
「だって、小五郎さんはおリョウさんを守らなきゃならないから・・・でも、僕は友達だから・・・」
だからの後が気になる、友達でいたいのか、不満なのか。
でも、友達であったって、相手が年上の人だって、男が女を守らなきゃでしょ?
「でもさぁ、宗次ぃ、俺たちだって男なんだし武士なんだからさぁ、何かの時はおリョウさんを守らなきゃいけないんじゃないの?丸腰で何も出来ないってのはいくらなんでも無しだよ。」
「でも、それでまたおリョウさんがいなくなっちゃったら・・・」
こいつ、本当におリョウさんが好きなんだ・・・
でも、何て言うか、普通に考えるのとはちょっと違う感じの「好き」だ。
こんなにしょぼくれた宗次、あんまり見ていたくない・・・
「大丈夫じゃねーの!?」
俺がいつも通りに笑ってそう言うと、宗次が伏せていた顔をあげて俺の事をじっと見る。
「おリョウさんは賢い女の人だ!俺達がダメな事をしたらダメだって教えてくれる、だからきっと、おリョウさんが言ってることは正しいから、俺達は従うべきだ!」
宗次がぽかんとしてる。
「それに、俺達が強くなっておリョウさんを守ればいい!もっともっと稽古して、大事な人やその大事な人ぐらい守れるようにならないと男じゃないよ!」
「・・・えぇぇ~、もっと稽古するの?僕もう強いよ?」
やっと、宗次らしくなってきた。
そう来なくっちゃ!
「まぁでもおリョウさん、土方さんを殴っちゃうような人だから、俺達は必要ないかなぁ?」
「あの時すごかったんだよ!?おリョウさんがね!」
やっと、宗次が笑った。
嬉々として俺にその時の事を話す宗次、相変わらず人を小ばかにしたような口調で話す宗次はいつもの宗次だ。
・・・でも、宗次の話が本当なら・・・
おリョウさんって、すごい威勢のいい女の人なんだなぁ・・・
さすが、小五郎さんの女だよ・・・
【おリョウ】
「ねぇ、姉さん?」
「なぁに?」
「どうしよう・・・」
あら、どうしたの?
子供たちが帰ったとたんにでっかい子供が現れたわね、久しぶりに会ったってのに。
笑いが出てしまう。
「何かあったの?」
私の言葉に小五郎がため息をついた。
あら、結構深刻な悩みみたいねぇ・・・
「どうしたの?」
私は洗濯の手を休めて小五郎の横に座った。
「うん、あのね、」
うん。
「平助君に、稽古する約束、させられちゃったんだ・・・」
「あら、仲良し。」
う~んとそれは、一大事なのかな?
確かに、歴史的には緊急事態かもしれないけど・・・
「あなた達は所属している道場が違うでしょ?稽古なんて可能なの?」
「いや、基本的には可能じゃない、でも以前門下だったとかってなれば出稽古が許されることもあるけど・・・基本は所属道場に失礼だからやらない。」
そうよねぇ、失礼よねぇ・・・
「なら、どっちがどっちに?まさか小五郎が行くの!?」
それはダメよ?
歴史がふんぞり返るから。
「無理無理!行けないよ!近藤さん怖いもん!」
「そうよねぇ・・・」
その辺は常識があってよかった・・・
「じゃぁ、どうするのよ。」
「平助君、以前玄武館にいたんだって・・・って、玄武館ってわかる?」
「わかんない。」
もちろん即答。
わかるわけないじゃない。
「だよね。」
小五郎が笑う。
「前にもちょっと言ったと思うけど江戸三大道場ってのがあってね、僕のいる斎藤先生の練兵館と、桃井先生の士学館と、もう一つが千葉先生の玄武館なんだよ。」
千葉先生?
それは、聞いたことがある様な・・・ない様な?
「お人柄のいい先生なんだけど、そこを借りて来るっていうんだよね。」
道場を借りる?
そんなことできんの?
「いくら平助君が以前門下だったとはいえ、今は違うわけで・・・貸してくださいって言うのもどうかと思うし、もし万が一許可が下りても、平助君ならまだしも、僕が行くのもおかしいし・・・どうしようかって。」
あらら。
だから買い物帰りにげっそりしてたんだ。
う~ん・・・・・・
「一回きりなら、秘密の遊びで済まされるんじゃない?」
私は首をひねりながら言ってみる。
「よく、道場事情は分からないんだけど・・・千葉先生はあなたの事知ってるの?」
「正直、直接面識があるかないかと聞かれたら、ほぼないんだけど、僕、この世界じゃちょっと有名人だから・・・向こうは知っているのかも。」
苦笑する小五郎。
そんなに有名だったか・・・
「でも、もし、千葉先生がどんな状況かはわからないけど、道場を貸すって言ってくれちゃったら、あなたが行かないわけにはいかないんでしょ?」
「・・・はい。」
「じゃぁ、行くしかないわよねぇ・・・」
「そうなんだよね・・・」
そうよねぇ・・・
いくら有名人でも、他道場であったとしても、平助君ならまだいいとして、貸してくれると言う道場主の顔を潰すわけにはいかないしねぇ・・・
「もう、そうなったら行くしかないでしょ。」
「そう思う?やっぱり・・・・・」
「うん、あなたは自分の顔を潰す事になっても、千葉先生の顔は潰しちゃいけないわ。」
ちょっと、すっごいめんどくさい事になってるけど、これは小五郎が試されるわねぇ・・・
剣の腕も、器も、常識も・・・
「あなた、試されてるわね。いろいろと。」
「・・・そう、だよね。」
苦笑する小五郎。
「とりあえず一回きりよ、二回目は無し。千葉先生にもその旨を伝えて頭下げるしかないわね。で、手短に帰る事じゃない?あと、手土産は必要ねぇ・・・。」
「うん、そうする。」
小五郎が再び深くため息をついた。
「ねぇ、姉さん・・・」
「なぁに?」
今度はなに?
「あのね・・・僕、養子をね、取ろうかって考えてるんだ・・・」
おっと・・・これは、私には結構キツイ言葉だぞ?
自分が何者かがわからない私には子供を産むことはできないでしょうし・・・そもそも、小五郎とはこの先が約束されているわけじゃない。
正直に、言うか・・・
「それは、私には厳しい言葉ね。」
とりあえず笑いながら言ったけど、小五郎がハッとした顔をして私を見た。
「いや!姉さんに不満があるんじゃないよ!?そうじゃなくって!!」
「大丈夫よ、わかってるから。」
小五郎の焦り方が尋常じゃないけど・・・
「いや!違うんだ!そうじゃなくって!!」
「・・・ちょっと、落ち着いてよ。」
私の冷めたひと言にまたハッとした顔をして・・・俯いちゃった。
あぁあぁ・・・これで大丈夫なの?
「考えあってでしょ?」
「うん・・・・・・・」
「聞かせてもらえる?」
泣かないかしら、この大男・・・
「・・・桂の家は、僕で最後なんだ、和田の家は長女姉さんたちが婿を取ってるから続くけど・・・桂の家は武家だから、僕の代で終わらせるわけにはいかなくて・・・でも僕は姉さんがいれば良いから、だったら名義だけでも、養子を迎えた方が良いんじゃないかって・・・」
「うん。いいんじゃない?」
即答する私に小五郎は今度は唖然と見ている。
なんでこうも表情がころころ変わるかね、この男は。
「だって、家督が必要なんでしょ?」
「うん・・・」
「なら、いいんじゃない?」
「でも・・・姉さんが嫌って思うなら・・・」
「うーん・・・思わない、かな。」
ってか、思えないでしょ・・・そう言う時代だしね。
「そうねぇ、私の時代で養子をとるって言うと夫婦二人で本当の子供として育てるって意味だけど、家督を継がせるだけの養子ならそういうんじゃないんでしょ?」
「うんまぁ、そうだね・・・」
「だったらその子にお願いしたらいいんじゃない?」
「姉さんはそれでいいの・・・?」
「何が?」
「だって、本来なら、桂の名は僕と姉さんが夫婦になって、僕達の子が継ぐわけで・・・」
僕達の子、ねぇ・・・
「だって、私に子が出来るとは限らないじゃない。そもそも自分に実態があるのかさえ分からないんだから。」
小五郎は再び俯いてしまった。
そうよね、普通なら愛する人と夫婦になって、子供に囲まれて生活するのが幸せでしょう。あなたもそれを望んでいるわよね。
でもね、小五郎・・・
私の記憶が確かなら、あなたは幾松さんとの間にも、実子を持てなかった気がするの・・・
ごめんね。
私は小五郎の手に、片手を乗せた。
「養子の事は、ずっと考えていた事なの?」
「いや、今日、思った。」
「今日!?」
思わず声をあげちゃったじゃない。
今日、急に!?なんでまた。
「うん・・・平助と話していて、あの子見てたら、こんな子が養子で来てくれたらいいなって・・・思って。」
なるほど。
納得したわ。
「そうね、あの二人なら、養子にもらいたいわね。」
歴史なんて関係なくて、長州の田舎であの子達と出会っていたらきっと、私達は四人で暮らしていた・・・
本当なら、そうしたい。
「小五郎?」
「うん?」
「養子の子、ちゃんとあなたが面倒見てあげるのよ?」
「えっ・・・?」
「戸籍上、あなたの子供になるのだから、あなたは父親になるの。親としてちゃんと面倒を見てあげるのよ?ねっ・・・」
私は小五郎の手をにぎった。
「うん・・・・」
「何かあったら私も面倒見るから、ね。」
「うん・・・・」
もう、何辛気臭い顔してるのよ!
男でしょ!?武士でしょ!!
「あなたの養子だと言うのであれば私の子でもあるのよ!?宗次郎と平助も私達の子供みたいなもの!今更一人二人増えたところで何も面倒な事はないわ!」
そう言い切った私を小五郎が抱きしめた。
「ごめんね、ありがとう・・・・」
本当に、でっかい子供ね。
私は小五郎の背を数度叩く。
「しっかりしなさい、まずは平助君との約束を何とかしないといけないんでしょ?こんな先生の姿、見せられないよ?」
よしよし。
いろいろと大変だね、大人ってのは。
仕事とプライベートの両立はね。




