友達百人できるかな!
先生に遅刻の連絡を入れ、俺は教室へと戻っている途中だった。
昨日爆睡していたせいで聞き逃していた学校のルールを改めて説明され、その場で支給されたのが、この電子式の腕時計だった。
画面には、俺の『現在の学園内序列』がデジタル数字で表示されているという。どういう風に測っているのかは知らない、多分説明されてもわからない。
俺は『受験時最強能力者』だという期待に胸を躍らせ、ワクワクしながら手元に視線を落とす。
【 90 / 360 】
「……」
おし、抗議しよう。俺はもっと強いはずだ。
解せなさすぎる数字に納得がいかず、俺が職員室へ突撃しようとくるりと向きを変えた瞬間、廊下で華から声をかけられた。
「貴方の序列、いくつだったの?」
「あのな、人に聞くときはまず自分から言うべきだろ、山吹華」
「……ねぇ、なんでいちいちフルネームで呼ぶの?なんかバカにしてる?」
華は眉をひそめてジト目を向けてきたが、すぐに胸を張ってフンと鼻を鳴らした。
「まぁいいわ。そんなめんどくさい聞き方をしてきたとしても答えてあげる。私は120位よ!誇れる順位じゃないけどその分堂々と言ったわ!」
「……」
俺はその場に突っ立ったまま、無言で腹を抱えて大爆笑しているフリをした。無言を保ったまま大袈裟に手を叩くような動作をして、指を指して無言で煽り倒す。
「うっさいわねぇ!! 煽ってないで貴方の順位は結局何位なのよ!?」
「いや、俺の人生史上、今が一番静かだったぞ」
「揚げ足取らないでよ!」
怒る華を前に、俺は一呼吸置いて覚悟を決める。
「俺の順位は……まあ、そんな話いいじゃないですか。そろそろ昼食の時間ですぜ。さぁ食いに行きましょうや! 食堂の場所は知りませんけどね、ヘッヘッヘ!」
……どうやら覚悟は決まってなかったようだ。華は心底呆れた目で見つめてくると、ふと自分の腕の端末へ目線を落とした。
「学校に遅刻したからって、そんなに時間が経ったと思わないでちょうだい。腕時計を見てみなさいよ。ほら、10時35分……誤魔化すにも下手すぎるし、そんなに自分の順位を教えたくないの?……ん? ちょっと待って……10時35分?」
華の動きがピタリと止まった。
「確か、二限目の授業開始って……10時35分だったわよね?」
「……あ」
......俺たちは、二度目の遅刻をかました。
教室に入った後、先生から割とガチめで怒られた。
説教が終わる頃には、華は半泣きの涙目になっていた。どうやら説教のショックで順位の件はすっかり頭から吹き飛んだらしく、俺としては災い転じて福となす、といったところか。
授業が終わり、放課後。
重い足取りで近づいてきた華が、俺の目の前でぽつりと呟いた。
「別に……貴方のせいじゃないから。気にしないで」
「なんのことだ?遅刻のことならお前が100悪いぞ」
「……うん、そう……遅刻のこと……。貴方ずっとふざけてるけど、後で痛い目見るからね」
そう言う華の声には、さっきまでの威勢や軽快さが一切なかった。
本当の本当にガン萎えしているらしい。
(まあいいか。友達ってわけでもないしな……)
思考を打ち切ろうとして、ふと自分の脳内に疑問が浮かんでくる。
……山吹華は、本当に俺の『友達』ではないのだろうか?
「友達」という存在の定義はイマイチ分からない。少し気になったので、直接本人に聞いてみることにした。
「なぁ、山吹華」
「ねぇ、そのフルネーム呼びキモいわよ。『華』って呼んでくれない?」
「……おけ。そんで、萎えてるところ悪いんだけど……俺たちって『友達』なのか?」
唐突な問いかけに、華は驚いたように目を丸くした。そして、気まずそうに視線を泳がせる。
「……分かんない。私、まともに友達作ったことないから……」
「へぇ」
「貴方はムカつくし、ずっとふざけてるけど。……嫌いじゃないわね」
素直な言葉だった。
俺は、フッと口元を緩めて笑いかけた。
「じゃあ友達か! 俺の『初友達』だな!」
俺が笑うと、華はその顔をみて、表情が一変した。パッと花が咲いたような、とびきりの笑顔を返してくる。
「いい顔できんじゃん。ずっと怒ってるか呆れた顔しか見てなかったからさ」
「貴方が8割悪い! 私は1割で、残りの1割も貴方!」
「俺が9割じゃねぇか」
俺たちは、入学して2日目という短い期間で「友達」になった。
俺自身、友達という概念の詳しい定義はよく分かっていない。良いものだということだけは、分かっている。
そして俺はふと一つの目標を思いついた。
「友達百人できるかな」
「は? 急にどうしたのよ……。ていうか、この学校でできるかしら? 周りの生徒、みんな殺人鬼みたいに目が血走りまくってるけど」
「俺は普段から人の目を見れないから。あんまり目のこと言われても困る」
「コミュ障ね。ちなみにさっきのは嘘よ! みんな普通の生徒ね!」
「当たり前に分かるわ。そんなとこ心配してんじゃねぇよ」
俺の新しい目標は——『友達をたくさん作ること。目指せ、百人!』に決まった。
まるで小学生のような青臭い目標だ。
けれど、俺にとって、この学校はある意味で「小学校」のようなものなのだろう。
俺はこの学校で、たくさん友達をつくる!




