『女子生徒』
また、悪夢を見た。
あの公爵令嬢の夢。
退屈な日常を繰り返して、いつの間にか噂が流れ始める。
最悪の夢。
夢の中で、彼女は何もしていない。
そんなこと、知っていた。
彼女は完璧で、綺麗だったもの。
それが気に食わなくて、噂を広めたんだもの。
夢の中の私は、公爵令嬢にかすかに聞こえる声で友人と話している。
この身体は、それを黙って聞いている。
この人が何を思っていたのかは分からない。
けれど、夢の中の私の顔は見ていられなかった。
何度もこちらを窺いながら声をひそめ、その口元には笑みが浮かんでいた。
こんなものを何度も見せられて、嫌気がさす。
それからも公爵令嬢は、噂など耳に入っていないような顔で、退屈な日々を繰り返す。
けれど、ある日。
一度だけ、いつもとは違うことをした。
目の前には、私と友人がいた。
公爵令嬢は私たちを呼び止め、確かめてもいないことを口にするべきではないと注意した。
それだけだった。
私たちは、彼女に脅されたと周囲に話した。
身分を笠に着て口を封じようとしたのだと。
そして、公爵令嬢はそれ以降、噂に何も言わなくなった。
けれど、仕方ないじゃない。
皆が噂していた。
最初は、嘘だと分かっていた。
でも、皆が口にするうちに、本当のことのように思えてきた。
だから、その時は彼女が悪いって、本気で思ったんだもの。
その後、公爵令嬢は婚約破棄された。
殿下の冷たい視線は、何度見ても怖い。
けれど、やっぱりこの身体は平然と会釈をして何事もなく家に帰る。
そして、死んだ。
さっきまで気にしてないって態度だったくせに、部屋の中で首を吊った。
死ぬ直前の記憶だけは、いつもぼやけている。
部屋に誰かがいる。
公爵令嬢が何かを言っている。
けれど、姿も、声も、表情も、霞の向こうにあるようで分からない。
そこで、目が覚める。
頭が痛い。
酷い気分だ。
何も考えず、もう一度眠ってしまいたい。
けれど眠れば、またあの悪夢がやってくる。
私は這うように寝台を出た。
「何なのよ」
寝台脇の卓にあったティーカップを、思い切り壁へ投げつける。
甲高い音を立てて砕け、白い破片が床に散らばった。
それでも、気は晴れない。
「仕方ないじゃない」
カーテンの隙間から差し込む朝日が目に刺さる。
夜が終わったはずなのに、少しも安心できなかった。
「誰かが言い出したんだもの!」
「私はそれをちょっと広めただけじゃない!」
「噂される方にも問題があるでしょう!」
「私だけのせいじゃない!」
……死ぬなんて思ってなかったのよ。
立っていられなくて、私は椅子に座り込む。
そのまま、机に突っ伏す。
もう何も見たくなかった。
──愚かな女だ。
「誰!?」
声が聞こえた気がした。
顔を上げて振り向く。
けれど、部屋には誰もいない。
「もう嫌だ」
変な声も、この悪夢も。
その時、ノックがした。
侍女の声だと分かり、私は大きく息を吐いた。
それから、髪を整えられ、朝食を取り、いつもの服に袖を通すうちに、夢は少しずつ薄れていった。
こんなのただの夢。
今さらどうしようもないのよ。
あの人が死んで、ショックを受けてるだけだ。
そのうち悪夢も見なくなるに決まってる。
「私は悪くないのよ……」
そして、また夜が来る。




