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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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8/58

カミングアウトのタイミング

 ぐわんぐわんと頭が回る。

 どんどんと心臓が破裂寸前に陥る。


「不味い不味い不味い不味い。ムービーイベントが起きない…。このままじゃ世界が終わる。二人とも、とにかくアルを探せ」


 英雄予言をされていない男は二人に号令を出す。

 だが、少女たちは首を縦には振らない。

 それどころか、美少女たちは白い眼を剥いている。


「ムービーイベントが起きないって、何⁈」

「皆集まってないといけないて…、どうしてアル様に説明してないんですか‼」

「俺だって仕組みを知らないんだよ‼」

「っていうか、ユーノって誰よ?」

「私たちの幼馴染よ。アルの身代わりになって魔王軍に連れ去られたの」

「聞いてない。そんなの聞いてない‼」

「言う必要ないでしょ?普通に考えて、絶対に殺されたと思うから‼」

「説明不足‼だったらついて行かなかった‼」


 好感度マックスから始まるアルフレド応援隊も、考える時間が必要らしい。

 そして勇者様も考える間はなかった。勿論、違う意味で。

 訳が分からない内容でも、アルフレドにとっては朗報に違いない。


 忘れては忘れないで。

 追いかけて来るなは、追いかけて。


 金髪頭の中で、絶対にそう変換されている。


「そもそもムービーって何」

「さっきあっただろ。エミリの発言に矛盾があった」

「あ!それ!あたしも思った‼」

「矛盾?一体、何のことよ」

「へぇ。フィーネは気付かなかったんだ。才女なんて呼ばれてるくせに」


 そしてエミリが何故か、フィーネを煽る。

 四天王の一人アズモデの登場、ユーノらしき何か。ユーノ本人と思しき声。


「エミリは流石に気付く。エミリの両親が死んだことになってたんだ」

「そんなこと言ってた?」

「言った。聞いてなかったの?」


 才女フィーネ目線では色々起こり過ぎていた。

 フィーネが聞いていないんだから明言できる。


「ってか、アルも絶対に気付いていない…」


 そもそも、ドヤ顔エミリもマリアの登場にも気付いていない。


「ユーノが居たのよ。アルが覚えてるわけないわ」

「レイは気付いたんだしぃ。アル様も気付いてるに決まってる」

「それを言われたら、そうかもしれないけど…」


 ムービーイベントの条件が時間とパーティメンバーの位置で決まるなら、


 ——というより本当にそうなのだが、


 今の状況はかなり不味い。

 ノーマルシナリオはパーティ勢揃いしないと発生しない。

 だけど、パーティ変更自由のユーノシナリオは問題なく続く。


 立ち止まっている時間はない。

 決断するなら、ここ…


「俺は知っていたんだよ」

「…知っていた?それ、どういう意味よ」

「この先で何があるかを知っている…、そういう意味だ」

「予言者⁈だからレイは英雄に含まれないってこと?」


 ん?

 本当にここだったのだろうか。


「そんなわけないでしょ。予言はミッドバレーに伝わってるんでしょ。レイとアルと私、それにユーノはスタト村の幼馴染なのよ」

「そっかぁ。年齢もあんまり離れてないって言ってたし」

「予言者じゃないって。でも、この世界を知っているんだ」

「えぇ…。これがお父さんが言ってたやんちゃって意味?」

「やんちゃかはさて置き、昔から自己評価過大な男ね」


 違うかもしれない。

 以前が正解とは言わないが、今回よりはマシだったかもしれない。

 エミリはまだ良い。

 フィーネ目線では、二日前までただのレイモンドだ。


「魔王軍の強襲で目覚めたって感じはするけど…。レイって全然戦ってくれないのよね」

「お父さんを助けてくれたのもアル様とフィーネ。レイは後から来て、あたしに来いって言っただけだし」

「そういうのは、いいから‼二人ともいいのか?このままだとアルはユーノルートだぞ」

「そんなこと言われても。アルは」

「アル様って幼馴染のユーノが好きなんでしょ」


 相変わらずのユーノルート。

 予想通りの吸引力に、ぐわんぐわんと目が回る。

 アルフレドがネクタを飛び出した時点で、間違いなく通常ルートは終わってしまう。


「ネタバレ解禁だ‼さっきのシルエットな、最初のはユーノじゃない。アイツはユーリ。魔王軍でアズモデよりも立場が上だ」


 追い詰められたレイの、どうにかなれの精神。

 それはそう。

 ネクタにはレイモンドの分身体とも言えるアレがある。

 魂と体、そして精神が、アレだけは失いたくないと訴えかける。


「え?ユーノじゃない?そういえば物凄い悪魔が従ってたかも」

「あの…さ。そういえばあたしも心当たりがあるかも…」

「何?エミリも妙な事言いだすの?」

「妙な事じゃなくて、思い出したのー。あたし、人を見たかもって話したけど、レイが言うユーリって人だと思う」

「そうだったのか。ギリー農場に現れたのはユーリの方か…。ユーノの見た目だと流石に分かるだろ、とは思ってたんだ」

「アンタたち、何を言ってるのよ。ユーリは魔王軍なんでしょ。見たのはユーノに決まってるじゃない」


 あの時邪魔が入って掻き消えた、レイの違和感の正体。

 そも、フィーネの常識はDLCでは通用しない。

 いやいや、前だってデスモンドでは人間と魔物が共存していたではないか。


「魔王軍だからって魔物とは限らない。ユーリは人間だ。そして——」


 いつものやんちゃなレイモンドの大袈裟な話かもしれない。

 でも、二人ともが息を呑む。


「ユーノの言葉。自分のことは忘れては、ユーノの本心だ。彼女もその先で起こることが予想できたから、あんな風に言った」

「その先で…」

「起こること…」

「俺はアルフレドに尋ねた通りだ。アルフレドがユーノルートを進めば、世界は破滅する。信じるかは勝手に決めろ。俺はアルフレドを探す」


 かいつまんでいるが、最後まで話しきって、


 レイは一人、走り出した。


     ◇


 ネクタはデスモンドに並ぶ、エステリア大陸の大都市だ。

 高さのある建物も多く、例え202cmの大男でも、ひときわ輝く金の髪を探すのは難しい。

 しかもネクタはおしゃれを売りにしている。

 金髪風の髪色はそこそこにいる。

 こんなの探しようがない。


 ——なんて、リメイク前を知らない人間なら思う。


 最初に向かうべき場所はリメイク版をプレイしたなら察せる。

 ネクタを通らなければ東へ進めない。そしてこの街は西から入り、東から出る。


「見て…ないっすか」

「お前さんが言う、キラキラ輝く金色ならな」

「はい。絶対に目立つと思うんで、見つけたら教えて欲しいっす。お仕事中すみませんしたー!」


 東の出口を押さえれば、勇者一人でシナリオを進めるのを阻止できる。

 どうやら間に合ったらしいが、大都市だから一人に聞くだけでは安心できない。

 そこら中にいるネクタ市民に片っ端から声をかけた。


「し、しりません。私は知りません…。夫は金髪ですが…、キラキラはしてません」

「あ、あたしのは金じゃないし」

「俺のは」

「あんたのはキラキラしてないでしょ。…じゃ、あたしたちは」


 この辺では見ない巨男、ギラギラとした品のないジャケット姿。

 レイモンドの容姿が役に立つ。

 殆どの人間が、関わりたくないからさっさと喋るか、何かを誤魔化す。

 若しくは近づかない。


「みんな、大袈裟だな。借金の取り立てじゃあるまいし。モブの金髪とアルフレドの金髪は全然違うっての。とにかくアルはまだネクタにいる。スマホがあれば一発なのに。魔族みたいに魔力で通信するとかさ!人間だって出来てもいいだろ」


 流石は元・魔王。というよりゲーム内でもそんな描写がある。

 ユーノとユーリが現れた空間だって、何処かは分からないのだ。

 勿論、ギリー農場に現れたのだし、近くに居てもおかしくないはない。


「魔族のイツマゾクに比べて、勇者が覚える瞬間移動魔法ファストトラベルは触ったことのある女神像にしか飛べない。まだ覚えていないだろうけど」


 それにしたって大変だ。

 昼夜の概念がある世界だし、今までの経験上、眠い時は眠くなる。

 ここで番をするのも完ぺきとは言えない。相手はレベル4くらい離れただろう、そもそも主人公補正で初期値も上り幅も高い勇者様だ。

 レイモンドの説明はもはや不要であろう。


「頑張って待つか。今回()『勇者は冒険を投げだしたエンド』だけは回避できそうだし…。…ん?やっぱり俺は前にもこんなことをやってるな。しかもアルフレドじゃなくてレイモンドで経験をしてる」


 ストーリーが進むにつれて確信していく、自分の過去。

 体が覚えているのか、世界に記憶の断片が残っているのか。

 ゲームごと消すと言っても、ドライブ内から全てのデータを消去するのは難しい。

 それと同じ仕組みかは定かではないが、何かが残っていることは確かだった。

 だからこそ、レイモンドで始めなければならなかったというのは自分の意志に違いない。

 でも、どうしてかは分からない。


「今は時間がとれそうだし考えるか。ユーノはパッケージの中央に描かれるマブヒロイン。色は殆ど使っていない。唯一の色は瞳の桃色。透き通る長い白すぎる髪に肌が見えない要するためか、厚手のコートを纏っている。淡白な喋り方が特徴で興味なさそうに見えるが人をちゃんと見ている。身内のいないアルフレドにとって、同じく身内がいないユーノは特別な存在だ。俺が転生した時、最初の場面でアルフレドが彼女を特別視していることも描かれている。そんな幼馴染が攫われる。しかも自分の身代わりで」


 レイは真剣に、言葉にしつつ今までを振り返る。

 NPCに聞かれたとて、進行には影響はない。

 

「ゲームがアルフレドにユーノを助けろと言ってるようなものだ。そしてそれはプレイヤーにも当てはまる。殆どのプレイヤーはDLC前をクリア済みだからな。普通はそう考える。普通は、な」

「ひっ‼」


 の筈だったが、隣を通り過ぎようとしていたネクタ民が悲鳴を上げた。

 魔物かと、レイは周囲を見回すがいつものネクタの風景だ。

 いつものネクタで最も怖いのは、レイモンド顔のレイ。

 因みに、それはオタク特有のいきり顔が転じてそうなった。


 ただのプレイヤーとは違うのだよ…


 なんて心の声だが、ネットで有名になったから知っていただけ。


「先にサラのエンドを回収する為に動いた。最終場面前にサラのイベント回収でグルグル回った。だって全部消えるって言ってたしな。それでも吸い込まれたんだ」


 今回も可哀そうなサラ。

 とはいえ、ヒロイン昇格を果たしたサラは、通常ルートでのヒロインとしてエンディングを持っている。

 つまり結局ユーノなのだ。特別なユーノの為のDLCなのだ。


 右手を天に掲げ、傾く太陽を睨みつける。

 もう片方の手は顔に、やっぱり眩しかったから。

 日が沈めば捜査は更に難航する。

 一張羅は赤く染まり、銀髪を撫でるように西から東に風が流れる。

 天が勇者の背を押している、そんな錯覚を引き起こす。


「俺も呑まれるのか。特別なユーノを助ける世界線に…」

「なーに、格好つけてんのよ」

「ねぇねぇ。レイもユーノのことが好きってことー?」


 掲げた手がゆっくりと降りる。

 顔を覆うような手が、力なく垂れる。


「かっこつけてない‼」

「そういうポーズ、子供の頃からやってるでしょ」

「ユーノを好きとか思ったことない!」

「えー?顔、赤くない?」

「夕日のせいだ!…って、二人ともどうしてここに…」

「アルを探してたら、ここに着いたのよ」

「アル様が走った先を探してたら、偶然フィーネと会っただけだし」


 どうやらフィーネとエミリは二手に分かれてアルフレドを探していたらしい。


 タイミングが良かったかはさて置き。


「探してくれるのか。俺のことを信じて」

「信じてはいない。でも、他に出来ることもないでしょう」

「あ、あたしも信じてない。でも、告白してもないのにフラれるのは嫌だし」


 ノーマルルートが消えたわけではないらしい。

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