ユーノ登場のムービーイベント
「森って南を周れば迂回できたんだね」
「呆れた。アルは地図を見てなかったの?」
「だってレイの目的はユーノを攫った魔物退治だよ。レイが行く道にユーノはいるんだし。今だって東に向かってるし。それで今から向かうのは…」
「ネクタとの間にある宿場町だよ。アル、フィーネの言う通りだ。てか、フィーネに聞け。大体教えてるから」
アルフレドは相変わらずだった。
変わったとすれば、パーティの立ち位置だ。
アルフレドとフィーネが並んで歩き、その後ろにレイがいる。
因みにレイの隣には赤毛の少女がいる。
エミリは農作業服のまま、鉄斧を担いで歩いている。
あれだけのプレゼンテーションが行われたのだ。
ユーノ救出に燃える勇者様が、即戦力を希望しないわけがない。
「あたしが…英雄?」
「英雄だな。しかも世界一の力持ちになれるポテンシャルを持ってる」
「それって…、褒められてるの?今ならお母さんの気持ちが分かりそう」
両親が渋ったところで、アルフレドが望めばそうなる。
でなければ、フィーネも今頃スタト村だ。
エミールに至っては、勇者伝説を丸暗記レベルで覚えていた。
家族全員を含めた世界滅亡を望むか、娘の安全を望むか。
こんな間抜けな選択肢で間違える男ではない。
「それでも娘は守ってほしい…。それはそうだ。アル、聞いてるか?お前が約束したんだぞ」
「分かってるってば。だからレイの近くにいてもらうんじゃん。僕は地図を読むのに忙しいんだから」
「…ったく。なんかガキっぽくなってないか?」
変わらずユーノまっしぐらの勇者様。
脇腹にスイッチがあるんじゃないかと疑うくらい真っ直ぐな彼。
世界の崩壊及び、全セーブ消去というエンドでなければ、応援したい気持ちしかないのだが。
そしてエミリの加入が示している通り、通常ルートは残されている。
「…さん」
「東…。流石に宿場町には何もないだろうか」
「…さん」
「レイさん」
「ともかくネクタだな。あそこで間違いなくイベントが」
「レイさん!!!!」
「のわっ!び、ビックリした。どうしたんだ、エミリ」
「どうしたって…。さっきからあたし、ずっとレイさんに話しかけてます」
「レイさんは止めてくれ。レイでいい。それから同年代と思っていい。実際3才くらいしか違わねぇし。で、何?斧の使い方はもう」
「あの二人って恋人ですか?」
何かを飲んでいたら盛大に吐き出していた。
プレイヤーであるレイは、それくらいにはビックリした。
そんな話をしたいから、エミリは小声で呼んでいたらしい。
「恋人になるかもしれない二人、だな」
「そっか。まだってことですね」
「…少なくとも魔王を倒すまでは、か」
「凄かったんです!ゴブリンがいきなり家に入ってきて、もう死んだかも…って思ったら、勇者様が入ってきて、バッタバッタと…」
そこから約半刻、エミリはアルフレドの活躍を語り続けた。
絶対に三分も掛かっていないのに、その十倍以上の時間も話した。
流石はアルフレドだ。彼は終始キラキラと輝いていたらしい。
「とにかく!あたし、勇者様の為に頑張ります‼それが世界の為ですし」
「おー。そのいきだーがんばれー」
「えー。なんか、頼りないなー。ちゃんとあたしのフォローをしてって勇者様に頼まれたくせにー」
エミールは伝承を知っていた。
次のヒロイン・マリアの両親、マハージとイザベラも知っていると考えるべきだ。
今度はマリアを快く送り出すだろう。
「俺は最後までいないから。それまで」
「うん、知ってるよ。お父さんから聞いた。レイは予言に登場しないって。そこから先は、あたしが勇者様を支えればいいんだよね。世界で一番強いあたしの力で、勇者様をしっかりと繋ぎ止めるの‼」
エミリは屈託のない笑顔で、勇者は任せてとも言った。
フィーネが「アル」呼びで始まる世界線だ。
簡単ルートの汚名を持つエミリは、初めからアルフレドが好きに決まっている。
前みたいに、レイモンドを師匠の如く扱わない。
きっとマリアもそうなる。キラリもアイザもリディアも。
——だからこそ恐ろしい。
「ここにはユーノの目撃情報はなかったね」
アルフレドはユーノを追い続ける。
「小さな宿の町だ。アーモンドの剣が売れて皆の装備が揃ったので良しとしよう」
フィーネもエミリも、前のようにレイを意識する世界線じゃない。
それにレイ自身も離脱はチラつかせていない。
だから何も起こらずに宿場町の夜を迎える。
「アル。今日はしっかり寝なさい。ここから先、魔物が強くなるのだし」
「勇者様。あたし、そろそろ前衛できます‼」
「それじゃあ、エミリと僕が前衛でフィーネとレイが後衛?」
「私はその中間よ。ボランチで二人を支える役よ」
「レイもそれでいい?」
「あぁ。いいんじゃないか」
そこで妙な個人面談なんて発生せず、四人で仲良く食事をとって終わる。
次の日の朝も同じ。奇妙なプロレスなんて起こる筈もなく、
「全員好感度マックスでも、ユーノは全てを呑み込んでいく。俺は本当にレイモンドで良かったのか?」
——呆気ないほど早くネクタに辿り着く。
▲
少女「ママー!私、今さっきいいことしたよー!お小遣いちょーだい!」
少女の母親「マリア、あんなよっぱらいに魔法をかけても神様はいいことって言ってくれないわよ。それよりも早く離れなさい。碌でもない人間に決まってるわ。」
マリア「えー、そういうの分かんないじゃん! だって私は敬虔な信徒だもん。いつかお金持ちの王子様が私を攫いにくるの!……キャ!もう!どこに目をつけてんのよぉ……おじさん!!」
ピンク色の髪の少女の名前はマリア、マリア・エクナベルだ。
ネクタの街の資産家の娘であり、今は教会でのお祈りの帰り道だった。
今日はスピードエイドという神聖魔法を教えてもらったから、ベンチで寝ているガラの悪そうな男に試してみた。
彼の魂が少しでもまともになりますように、と祈ってやったのだから、金髪イケメンとの出会いをくれても良いのに、とマリアは口を膨らませていた。
そんな少女が母の元に戻ろうとしたら、急に視界に黒い物体が現れて、彼女は転けてしまった。
だから、彼女はその黒の燕尾服を着ている男に文句を言った。
燕尾服の男「おじさん? 人間の小娘が何を言っているのかなぁ。それに僕はまだ360歳。ぴっちぴちのアズモデ様だよ? その目、壊れているのかなぁ? 僕が抉り取ってあげようか?」
少女は恐怖した。
彼は顔の色こそ人間だが、金色に光る瞳、尖った歯、尖った耳に尖った舌。
本を手にしているし、人間そっくりだが、何かが色々、いや全然違う。
アレはどうみても人間ではなかったのだ。
アルフレド「彼女から離れろ‼」
ただ、そんな中、金髪のカッコよい男が間に割って入った。
アズモデ「おやぁ? 君は……」
謎の男「ちょっと待てやぁ、アルフレド。まーたお前、勇者のフリなんてカッコつけやがってぇ。俺様に任せろってぇ」
アルフレド「レイは下がって‼魔族め、ユーノは何処だ。ユーノを返せ」
その時だった。
アズモデの燕尾服の下から矢印のような尻尾が出る。
その矢印は下から上へとしなり、レイの顎に直撃した。
とんでもない威力を持った尻尾。
直撃を受けた長身銀髪男は高さ10mまで上がり、見事に街の噴水へホールインワンする。
アズモデ「くく、本当に人間界は腐っているねぇ。さて、漸くボクの待ち人が来たみたいだ。金髪の剣士。君、スタト村出身だよねぇ。焼き尽くした村はあそこだけだしねぇ」
アルフレド「僕を待っていた…? お前が僕たちの村を‼ユーノを‼」
フィーネ「アルフレド、気をつけて! 貴方まで死んでしまったら私…。でも、許せない。だから私も戦う!」
エミリ「勇者様!あたしも戦います。天国で見守っているお父さんとお母さんの為にも‼」
ネクタの中心地が騒然とする。
皆が逃げ惑う中、勇敢な若者たちは飛び出した。
すると悪魔は燕尾服をはためかせながら禍々しいオーラを放った。
更には余裕の表情で空に浮かんでいく。
彼の背中にはいつのまにかコウモリのような羽が生えていて、そこから発生する疾風が公園の木々を痛めつける。
アズモデ「違う、違う。ボクじゃないよ。ボクは光の勇者様のご尊顔を見に来ただけ。君の村を襲った連中なら、今は極東の地だ。魔王様が君臨する地にいるよぉ。でもまぁ、いいか。この手で君を葬って——」
アズモデの魔力は凄まじく、突風がつむじとなって周囲を破壊していく。
勇者たちは剣をしっかと握りしめるが、次第に追い込まれていく。
だが、ここで——
???「アズモデ、うるさい」
謎の声が響き、風が止まる。
全ての破片が落ちると思いきや、それらも空中で静止する。
アズモデ「おやおや。これは王子。失礼を致しました」
静止した空間は光さえも捻じ曲げるのか、周囲はいつの間にか真っ黒に染まっていた。
その中から声がする。
勇者アルフレドは目を剥いた。
そして叫ぶ。
アルフレド「ユーノ‼」
???「だから煩いって。ユーノが起きちゃうじゃないか」
闇に浮かぶシルエットはユーノのモノだった。
一つ違う点を挙げるなら、ユーノが着ていた分厚いコートではなく、薄いワンピース。
???「アルフレド、煩い」
アルフレド「良かった。ユーノ、無事だったんだ」
アズモデ「さて、僕は先に帰らせてもらうよ。では、光の勇者アルフレド。またの機会に。でもせっかくだ。この子と遊んでやってくれ。」
アズモデが肩を竦めると、その体は天に昇った。
そして常人の目では追えない速さで去っていく。
その行方を険しい顔で見つめる光の勇者の仲間たち。
若しくは彼を追わない一対の瞳。
???「だから…。ボクはユーノじゃない」
アルフレド「ユーノ?何を言って…。そ、そんなとこに立ってたら危ないからこっちへ」
???「ユーノじゃない。っていうか、…ウザい」
アルフレド「待って‼何処へ行くんだ。ユーノ‼僕は君を——」
アズモデが消えた後も、アルフレドはユーノらしき影と話していた。
だが、ユーノではないと言った誰かが背を向ける。
背景のように広がった闇へと飲まれていく。
追いかけるが、黒い霧が邪魔してそれ以上前へは進めない。
まるで悪夢の中にいるみたいに、足が重くなっていく。
それでも諦めないで進むが、そこで
???「アル」
アルフレドは目を剥いた。
他人行儀に聞こえていた彼女の声が、トーンが変わった。
それはとても聴き馴染みのある話し方で、彼女はいつも「アル」と呼んでいた。
だから分かる。
アルフレド「ユーノ‼」
でも、闇が消えていく。
彼女が消えた向こう側が消えていく。
ユーノ「私のことは…もう忘れて…」
アルフレド「嫌だ‼待ってよ、ユーノ‼」
▲
地面には禍々しく光る三つの卵が突き刺さっていた。
ピシッ!
レイは噴水の中。
ゲホゲホと気管に入った水を吐き出す為に咳き込んでいた。
何なら胃の内容物まで吐き出している。
そして今起きた現象に、ある意味で困惑していた。
「知ってたけど‼俺のシーン、めちゃカットされてる‼」
そう、完全版に変わると共にレイモンドのシーンはかなりカットが入った。
理由はユーノに焦点をあてたかったというより、所謂大人の事情だ。
どうやら海外では巨人レイモンドの姿でも、未成年に見えていたらしい。
だから、レイモンドの飲酒シーンは不味かったらしい。
こっちの世界では合法なんだけれども。
「ユーノ‼」
アルフレドは雑にホールインワンされたレイモンドなんて無視して、消えてしまった彼女を探している。
フィーネもユーノの行方を探している。
「ユーノ、あの子。一体、どうしちゃったの?」
「あ…れ?あたしのお父さんとお母さん、死んでないよね…」
そしてエミリはムービーシーンに大困惑をするわけだ。
エミリとアルフレドがぶつかって、豊かな胸に勇者の顔が押しつぶされるシーンは、相変わらずカットされずに残っている。
今回も残念ながら、そのムービーはカットされてしまった。
この状況にレイも困惑してもおかしくなかった。
だがやはり、自分の登場シーンの八割がカットされた以外は、戸惑うことはない。
「三人とも話は後だ。アズモデが残した魔物の卵は残っているぞ‼」
完全版と言っても、撮り直しと言っても、全てがそうなったわけじゃない。
リメイク作だって4Kだったんだから、使えるシーンはそのまま使う。
だから実は微妙に声質が違う。
「エミリ、分かっているな?ここはブーメラン殺法だ」
「あ…、そか」
エミリはずぶ濡れの大男の言葉で、漸く我に帰った。
三つの卵に狙いを定め、鉄斧で卵を割って行く。
中には今回も、昆虫型のモンスター『ビビビースト』が入っていたのだが、可哀そうに。
「次はアルフレド。念のために火球弾だ。孵化後だから、乾燥させないとな。」
「うん。火球弾!」
そして勇者も続く。
悩ましいシーンではあるが、彼のやる気が落ちることはない。
微妙に動きが残るビビビーストの体を焼いた。
「フィーネ。ダメ押しだ。火力をあげよう。大鎌鼬行っとこうか」
「分かってるわよ。住民の皆さん、避難できてますね!大鎌鼬!」
流石、才女フィーネ。
すでに予想して、住民の非難喚起まで行っていた。
彼女もまた躊躇いもなしに、ビビビーストが燃えている炎に酸素を供給して行く。
戦闘面での問題はない。
ビビビーストが孵化していたとしても、勇者チームの圧勝だっただろう。
だけど、問題は山積だった。
「アル!」
「探してくる!ユーノはあっちに行ったんだ‼」
「えっと…、さっきのも意味分かんないし。ユーノって誰?」
その後の行動を見れば分かる。
勇者は知らない街を一人で走り、才女は追いかけるべきか頭を抱え、力持ち系美少女は首を傾げる。
三人が三人とも混乱状態に陥ってしまう。
「アルがいない。そりゃ、そうなるよな…。だってムービーのみの登場だし。めちゃくちゃ意味深だし、実際にはシルエットしか見えないし」
そして結局、唯一冷静だったレイも、フィーネに倣って頭を抱えてしまう。
量子物理学のように、DLC前ストーリーとユーノストーリーが決められていない状況で、物語は進んでいく。
ではこの後、何が起きる予定だったのか。
「…エミリのイベントはキャンセルされた。アレは多分、全員が揃ってなかったから。だとしたら…、マリアの登場イベントもキャンセルされる⁈」




