余りにも分かり易かった。伏線。
魔王の間、若しくは魔神の間。
空気が再演算されたのか、一つも薄暗くなく、部屋全体が同じ明るさで照らされた。
ただ一人を除いて、全員の顔がよく見える。
それは女悪魔の魔法をたった一人で受けている男がいるからだ。
雨も降り注ぎ、フィーネとソフィアが得意とする水魔法とアルフレドとリディアが得意とする雷魔法の威力が増大する。
漫画のような目で分かる雨男の名は勿論、レイ。
「こんなの認めねぇぞ‼なんで人間と悪魔が手を組んで、俺を集中攻撃してんだよっ‼」
「認めない?おかしいなぁ。レイは僕にこうするように、ずっと言ってたよね?」
「言ってな…、…言ってるけど‼こんなの絶対に違う‼」
レイはこの時の為に、アルフレドにも他ヒロインたちにも、アズモデたち魔王軍幹部たちにも、訴え続けていた。
アルフレドがユーノを諦め、ユーノを一人でユーリのところに行かせるのがハーレムルートだ、と
「レイ。ボクも悲しいよ。我が愛しの弟がラスボスに選ばれたのに、往生際が悪いのは良くないねぇ。あぁ、何故ラスボスはボクじゃないんだ…」
「生粋のラスボスのてめぇと一緒にするな。俺はそんなつもりで生きてねえし」
「でも、レイが言ってた通りの道。アイザと一緒にいられる。感謝しているわよ、レイ」
「それでも武士に御座るか?拙者は情けのうござる」
「武士でもねぇ」
「あの世に逝っても心配するな。俺がきっちりハーレム作ってやるからなぁ」
「てめぇのハーレムじゃねぇし‼」
四天王たちはノリノリだった。
最後はノーサイドで悪いヤツを倒すに感銘した、というより魔王軍特有の性質によるものだ。
最終的に負けるということこそが、ゲーム内に生息する魔王軍の美学である。
「エルザさんもアズモデさんも、そいつを回復しちゃ駄目だからね」
「当然でしょ」
「ラスボス戦で無粋な事はしないよ」
閉鎖空間だから全体魔法が範囲魔法にならないから、数の暴力はそこまで痛くない。
前衛を失った事も大きいが、回復魔法という兵站路を断たれたことがとても痛い。
何より、心が一番痛い。
「僕は心を入れ替えて、レイの言う通りにするんだよ。それなのに、カッコ悪いよ」
「そうですわよ。仮にも王家の血を受け継ぐのなら、王家を臣民を裏切った責任をお取りなさいませ」
「レイ…。幼馴染としてこんなこと言いたくないけど、やっぱり…こうしないと治まらない…というか」
「ユーノちゃんが消えないといけないのは、レイのしりぬぐいなんだよ。だから、その妙なマントで身を守るのを止めて、大人しく止めを刺されなさいよ」
一番最後のムービーで、ユーノが邪神になったのはレイのせいだと分かった。
そして、そのレイが魔神になって魔王の間に居る。
これはユーノの生前に行われる弔い合戦。
その後はゼノスのではないが、勇者のハーレムが待っている。
加えて、過去のレイモンドの立ち位置だ。
ユーノを一人で行かせるという事は、光女神ユーリとの戦いはないということだ。
やっぱりあの『レイ』を倒さないと、ファンは納得しないだろう。
ラスボス・ユーリが存在しないハーレムルートのラスボスは『レイ』
——余りにも綺麗な展開すぎる。
「こ、これは勇者の罠だ」
「往生際が悪いぞ。全部、お前の言う通りに事が運んでんだ」
「そうだよ。ゼノスの言う通り。秘密の塔の前でレイは、その前だってお前は僕にユーノと仲間、どっちが大事だって言ってたじゃないか」
「ほんと、男らしくない臆病者ですわね」
これまで何度、誰かの盾になったか数知れないレイ。
だのに世界の為に身を差し出すことが出来ない。
新島礼だって、人間だし?死にたくないし?
「ねぇ、だからさ。ユーノの為に…、死んでよ‼」
攻撃力二倍、素早さ二倍、防御力三倍、魔法防御三倍。
虹色にも見えるオーラを纏った勇者が飛び出した。
対して、魔神レイは昔のラスボスにようなデバフ無効のオーラを纏っているが、それ以外は特になし。
勇者の仲間たちは、デバフが利かないと悟るや否や、環境魔法で攻撃魔法の威力を増す機転を利かした。
「死にたく…ない…。俺は死にたくないんだよ‼」
「……あは。かっこ悪……」
レイの喉の奥から、低く、地響きのような悲痛な叫びが漏れる。
勇者は失笑し、次の瞬間、勇者の仲間たちは世界が爆ぜたと錯覚する。
銀の魔神が地面を蹴り、アルフレドの背後に居た「ノーサイドの仲間」たちが綺麗な放射状に吹き飛ばされた。
「ありえねぇんだよ‼この場にキラリがいないってのがなぁ‼」
千代蟲礼刀が、大気を切り裂く高音を上げてアルフレドの頭上から振り下ろされる。 アルフレドは咄嗟に脇に置いていた聖剣を掴み、文字通り紙一重でそれを受け止めた。
「なにを言ってるの。キラリならもうすぐ、…ほら」
ガギィィィィィィィンッ‼
「分かってねぇなぁ」
「なん…だって?」
「お前がそうやって、全部を自分に都合のいい『物語』に書き換えるのが……、ドラステファンとして、一番ムカつくんだよッ‼ハーレムっつったら、その時全員揃ってるに決まってるだろうがっ‼」
アルフレドの聖剣から溢れ出す光は仲間たちのサポート魔法で加速されているが、レイの刀から噴き出す闇の魔力も異様に黒い。
黒いが明るい光と世界を生み出す勇者の光が、互いの顔を至近距離で照らし出す。
力は拮抗しているように見える。
だが、レイの剣には「光を齎す反射」すら凌駕する解読不能な重みが乗っていた。
「レイ、君はまだ自分が予言者のつもりかい?」
「予言者?笑わせんな!俺はただのゲーマーだ。だからこそ、情緒がねぇって言ってんだよ!」
レイは鍔迫り合いのまま、無理やり刀を横に滑らせた。
火花がアルフレドの頬を焼き、視界を奪う。
そこへ、再生したばかりの鋭い爪が、アルフレドの喉元へ真一文字に奔る。
「世界の意志が言ってる。お前が全部悪いって」
「言ってろよ、勇者様!死んでもう一遍戻ったって…」
アルフレドの体が、あり得ない角度で後ろへ頻った。
空振ったレイの爪が空気を引き裂き、背後の巨大な元巨大な長椅子を豆腐のようにぐずぐずに溶解させた。
「……はは、本当に化け物だね。でもね、レイ。君が怒れば怒るほど、ヒロインたちは僕を頼り、君を恐れる。この『構図』が理解できないのかい?」
アルフレドは後退しながら、左手で光の礫を無数に放つ。
「世界の意志…?あれ…、おかしくないか」
「いきなり否定?世界の意志を予言だの言ってたのはお前だろっ‼」
レイはそれを避けない。 顔面に突き刺さる光の衝撃を無視し、肉が焼ける臭いを撒き散らすが、動かない。
そも、動かなかったから勇者の首と胴は繋がっている。
「そっちの意味じゃねえよ。あぁいうのは大体、誰かが教えてくれたり、俺に思い出すキッカケがあったり。そういう構図とかルートとか」
「構図だのルートだの……知るかよ。僕が今、お前のその知ったかツラを斬り飛ばせば全部終わるんだよ。それ以上に重要なフラグがこの世にあるかよ!」
勇者は攻撃を緩めない。
レイが言った確実な急所、首をめがけて剣を振る。横一文字を描く。
ぽんっ‼
そして響くのは、世界を寒からしめるには余りにもコミカルな音だった。
「ムービーの中で俺が言ってる。——えっと、何の話ですか?って。少し前から誤字が目立ったからスルーしてたけど、あのムービー自体が自己補完してた…。ムービーはおかしくない‼」
さっきの反対。アルフレドは体をあり得ない角度まで後ろへ頻ったが、魔物であるレイはそうはならんだろ、というくらい大袈裟な三日月型に避けていた。
コミカルな音の正体が手鼓を打ち鳴らした音だった。
冗談のような体勢のせいで、ぽんっ!の瞬間は誰にも見えていない。
「ご苦労様。おかしくないなら悪いレイは死んでいいよね」
アルフレドは重装備でも器用に肩を竦めて、剥き出しの胴体を斬りつける。
魔神は胴体内の急所を動かせるらしいが、確実にHPは削れる。
だから、何度も何度も斬りつける。
だから、見えていなかった。
冗談のような体勢のせいで、魔神の口角もあり得ないほどつり上がっていたのだ。
「言ってくれよ、俺。ほら、一応キャラへの敬意とかあるじゃん?フィーネが好きなお前に、こんなこと言わせられないって前作やってると思うじゃん?」
レイの全身から、魔神の闘気が噴出し、銀髪が深い銀色、プラチナの色を吹き出して逆立つ。
心臓を何度も斬りつけられても動き続けるその執念は、アルフレドの目に明確な「焦燥」を形作らせる。
「お前が死ねば、それで終わり。訳が分からないことを言えなくしてやる‼」
「アル‼範囲魔法で空中に足場を用意したわよ‼」
焦燥を感じたのは仲間たちも同じ。
回復できない筈の魔神が、バグのように生き続けている。
「みんな、愛してる‼ってことで、ついでにその命も刈り取ってやる‼」
パキィィィィン‼
その時、アルフレドの額に衝撃が走った。
同時に幼馴染の厭らしい顔が視界いっぱいに広がった。
レイという幼馴染は銀髪で前髪に一束の黒髪を持つ。
銀髪は深い銀で輝いていたが、そこだけは黒曜石の如く煌めいて、黒曜石と同様の硬度を持っていた。
「…お袋、サンキューな」
神様に近い力を持つ勇者だから、それで前頭部が破壊されることはない。
だが、たった数秒。それだけで事足りる。
「レイ‼やめろぉぉぉおおお‼」
「レイの為にも言ってやんねぇとなんだ…」
世界を輪切りにするような英雄の一撃よりも早く、
レイは中の人ニイジマレイと、キャラであるレイの気持ちを
世界が終わるその前に叫んだ。
「ユーノ‼俺はお前が好きだ。ずっと忘れてて、——ゴメン‼」
そして
ビスクドールのように制止していた白金色の長すぎる髪が靡いた。




