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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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67/71

ノーサイド

 先にヒーラーを狙えとか、厄介な魔法を使う後衛を狙えとか、ゲームシステムがどうのこうのは弾けて消えた。

 光と闇が直接で交わり、元の位置に戻る。

 勇者対魔神は、様式美的には完璧で、観客と化したそれぞれの仲間たちは、それぞれに歓声を上げる。

 人間も魔物も、一騎打ちという魅力には抗えない。


 だがその中身は


「俺が恋敵だからって?勝手に認定してんじゃねぇよ」

「いつもいつもユーノの前で格好つけて、あの日だって厭らしい目で見てたじゃないか」

「んなこと、するか。ってか、あの日っていつだよ‼」


 バフもデバフもない素の戦いと

 正義と悪もない素の感情の戦いだった


「僕に無様に負けて、土下座したあの日だよっ!」

「無様に負けて土下座?この俺様がそんなわけ…」


 死んでもリプレイできるのは確認済み。

 彼は死んでも大丈夫、勇者を殺しても大丈夫。

 片方の道が解放されたから思い切りやれる。


「…あ」


 見事なフライング土下座

 からの「す、すみませんでしたー」

 からの「ユーノに厭らしい目を向けないで」


 からの


『フィーネ、気にしすぎ。レイの厭らしい目はフィーネに向いてる』

『そうかしら。ユーノは体が弱いんだから、村に戻りなさい』

『ユーノ。レイの後始末は僕達に任せて、先に帰ってて』


 こんな会話。

 この三行が重要である。

 レイは間違いなく、ユーノを厭らしい目で見ている。


「ほらね、——勇撃獅子煌剣ブレイブ・セイクリッド・ソード‼」


 迷いが無くなっても、動揺はする。

 だから勇者の剣が勝った。

 ステータスが殆ど同じなら、精神状態が戦いを左右する。


「う…、しま…っ…た…」

「急所攻撃はえいちぴーとは関係無い…んだっけ?やっぱり無様だね」


 ドクン…と一度脈を打った後、心臓の自律運動が止まる。

 特異な存在であるドラグノフを除いて、人間型の魔物は人間と同じ。

 瞳孔が拾いたまま、白目の血行が引いていく。


「ううん。ここで手は抜かないよ。魔物は死ににくい、レイは特になかなか死なな…」


 ぴし…、ピシ…。ピシィィィィィィィィィィィィィィィ‼


「なんだよ。まだ、抵抗するのか。それかズル?チート?…光女神メビウス様、こんなどうしようもない僕に力を——勇撃獅子煌剣ブレイブ・セイクリッド・ソード‼」


 聖剣が凍り付いたように止まり、勇者は溶かそうと力を籠める。

 アルフレドもさっきのシステム調の空気を感じていた。

 だから、これもそうかもと思ったが…


「…アルフレド。それは聞き捨てならないな。ゲーマーにとってチートは一番の煽り文句だ」

「え…。なんで動けるんだよ。お前が言ってた急所攻撃だぞ…」


 たった二人で戦っているのではない。

 スポーツではサポーターも戦力に数えるのと同じ理論だが、

 観客がいるのを忘れてはいけない。


「当然だよ。ボクは何度も狙ったんだから」

「何よ、突然。アレはここで戦う役目があったからで結論ついたでしょう?」

「やんちゃな俺達の戦いだって」

「我らが死ななかったのは役目があったからであろう」


 今回のピエロはやはり兄の顔でレイを見続けていた。

 (いわん)や、ドラステストーリーを見ることが出来る超越者も見ていただろう。


「ヘルガヌスの時に死ななかったのは、ユーリの意志。そういうこと?」

「残念、不正解w。エルザ、君ならば気付けたと思ったのにね。ま、一番分かりやすいのは秘密の塔の前かな。ボクたちは遠くで見えにくかったけど、あの裏切り者なら…」


 この魔神レイ戦はハーレムルートと関係している。

 秘密の塔だって、ユーノルートではなくハーレムルート。

 だが、あの時。キッカケがあった筈だ。


「一人、シルバーアークデーモンで死なないものがいました。私を懸命に守り続けたので印象に残っております」

「サラを守ってくれたのは、嬉しいですけれど…。アレはレイという悪魔が何かを企んでいたからでしょう?」

「わらわもアークデーモンさんにお世話になったのら」

「それもこれも世界の意志、ムービーで颯爽と悪魔宣言の御膳立てじゃない?」

「…皆。落ち着いて。今はいないけれど、キラリがスコープで見て、そこから空気が変わったの。だって、あの時まで私たちはレイって気付いてなかったわよね」


 勿論、それ以外に何度もあった。

 そもそも、アズモデが言いたいことは魔人でも魔神でもアークデーモンでもない。


「前から思ってたんだよねぇ。世界の意志、ムービーの成立条件って、ボクたちも含まれてる。ルート分岐があるなら尚更…」

「それはおかしいでしょう?レイが死んだら」

「何もおかしくないよ。元々、世界のメインストリートは闇女神ユーノルートだったんだしね」

「いや。見えない壁うんぬんはテメェの言葉から出たんだろうがっ」

「あの喧嘩の話に戻るかい?仕方ないなぁ。あの時ボクは…」


 ピエロは肩を竦めた。


「…なるほどねぇ。って言ったよねぇ。その後、君たちには敢えて急所を狙わずにいたんだけど」

「てめ。またぶりかえすか」


 そして、とても嬉しそうに言った。


「君たちが余りにも弱かったから言ったんだよ。武神が聞いて呆れるって。だって、あの段階でもレイの力は圧倒的だった。だって彼は見えない壁なんて関係なく、急所を避けてたんだ。臓腑さえも動かして…ね」


     ◇


 さて、外野の声はこのくらいにしておこう。


「取り消せ。チートなんて使ってない」


 ドックン…ドックン…ドックン…ドックン


「なんでだよ‼心臓を貫いて、それ以外にも色んな動脈も魔力器官だって」 

「反射って知らないのか?倒れそうになったら手を突くだろ?」

「反射?そんなのって‼」


 何度も剣を振る。

 その一振りが手に当たり、魔神の指を切り落とす。


「そこは急所じゃないぞ。魔物なら…ほら。こんな風に末端は再生する。確実を考えるなら」


 魔神は治ったばかりの尖った爪を立て、ゆっくりと首元にあてて、ピッと横に流した。

 するとそこからジワリと赤い液体が流れる。


「首を落とすか、頭を叩き割る。それだと流石に条件反射で動かせない」

「この化け物…」

「バケモノ…」


 まだ?もういいじゃん。

 漸く…、やっとだ。


「って⁈それはそう‼なんだよ、その条件反射って。俺もさっき魂抜けたかと思ったし…。まぁ…、でも——」


 アルフレドは魔神の話を聞かずに、大きく距離を取った。

 その顔は苛立ちと、少しの憔悴があった。


 彼が何処に行ったかなんて関係なく、


「アル。お前のお陰で助かったよ」


 魔王の間、もう魔神の間でも良い。


 魔神の間で独り、ぽつんと立って呟いた。


「お前の怒りの正体が、…やっと分かった」


 一個だけ、重要なのは分からないけれど理解した。

 キャラクターのレイの役。彼が何を考えていたのかは、今のニイジマレイには分からないけれど。

 だとしても、ニイジマレイのことなら分かる。


「原作者が不在でのリメイクで、プロデューサーがねじ込んだヒロインの方。ネットで色々言われてるけど、俺的には有り寄りのアリ。つまり、大賛成…って、俺の中の人が言ってんだわ。それってつまりさ」


 DLC編が始まった一番最初に答えが出ている。

 新島例はゲームを通して、ゲーム世界のユーノの行動を知っている。

 その上で、ジェッピー君による世間の評価はどうだったか。

 ユーノはシナリオを破壊しすぎる存在だ。セーブデータどころかゲームまで壊す存在だ。

 世界の評価はさておき、ユーノルートの勝手すぎるユーノの行動を知っていた。


 それなのに——


 と、魔神が拳を握りしめた時だ。 


「みんな、ゴメン…」


 観客の前で、とある青年が頭を下げた。

 ホーム側に一度、アウェイ側にもう一度。

 そして今までにない憔悴した顔で、勇者は瞑目した。


「皆、ゴメン。僕一人じゃ勝てないみたい」

「え?だからラブマ…」

「ううん。たぶん勝てない」


 ファン達にもう一度深く頭を下げる。

 選手代表はあからさまにションボリする。


「だ、大丈夫だよ。ヤラれたって、女神様が…助けてくれるし…」

「そうだよ!あたし達は死んでも大丈夫なんだよ?」

「もう三回もだから慣れっこよ」

「さっきの魔神の動きは奇妙だったしね。でも、エミリたちの言う通り、次はそれを踏まえて戦えるのよ」


 先は二回と言った。

 実際二回だが、ドラグノフも彼女達の中ではカウントされている。

 その戦いと今回はある意味で似ていた。

 それならやれないことはない。

 次戦う時は、魔神に急所はないとして戦えばいい。

 

「それに…、ずっと考えてたんだ」


 だが、勇者は違う選択をした。

 青年は優しく微笑んで、ゆっくり長い睫毛を揺らした。

 すると瞳にハイライトが射す。

 

「アイザ。それにエルザ。アズモデも、ここにはいないけど、キラリとあの悪魔たちも」


 銀色の魔神が神妙な面持ちで構える中、

 勇者は勇敢にも…?

 敵に背中を向けて

 魔神はそんなん知らんと迫りくるが


「ユーノ、…ゴメン。僕は冷静じゃなかった」


 魔神の振りかぶる千代蟲礼刀(スウィートダークネス)が止まる。

 哀愁を漂わせる勇者の背中には、銀髪も止まるしかなかった。

 銀色の長い髪の少女は小さく俯く。


「……」

「皆で人間に戻りたいんだ…」


 さっきまで戦っていたのに、これは余りにも突然すぎる。

 だけど、止まる。

 両者のいがみ合いをぶった切るように、勇者は言ったのだ。


「ユーノを…、ユーリの元に向かわせようと思うんだ」

「えええええええええええ⁈」

「ア、アル…、それって」


 今までは全肯定のロボットにしか見えなかった。

 そのヒロインたちの瞳に、DLC前のようなハイライトが戻っていく。


「…だぁって。普通に考えて…さ。皆が暮らす世界を壊すなんておかしいよ。それって死んじゃうってことだよね」


 なん…だと?まさか…

 こんなの攻撃するわけにはいかないだろ‼

 と、魔神の顔が引き攣った。


「アル様…。えっと」

「…ユーノ。ゴメン…。やっぱり考え直したよ」

「……そ」

「ユーノの望みを叶えよう…って」


 それはつまり今までずっと願っていた道だ。

 探していた世界崩壊を防ぐルートだ。


「ユーノ…ゴメン…ね…。僕は…やっぱり……強くなくて…」

「あ…のね。わ、私たちも…」

「ユーノちゃんは神様…だから」

「お姉たま‼お姉たま‼」


 ユーノがユーリと共にいなくなる。

 そうすれば、世界からファンタジーが消えて、魔物も人間になる。

 ユーリもユーノも神様で、神様が言う事なんだから、絶対にそうなる。


「戦いが終わる…?アタシも人間になってアイザと一緒に」

「魔法がなくなるってことは、俺たち竜人の呪いも消えるってことか」


 見たムービーも事細かく説明していたから、復活四天王も息を呑む。

 さっきまで、魔神の強さを褒めたたえていたのに、そんなことも忘れて人間になった自分を想像したりする。


 そこで、だ。


 アルフレドは剣を置き、盾も置き、右手にヒロインたち、左手に魔王軍最高幹部たちを添えて、


「だから、最後の我が儘を聞いて欲しい…」


 鷹揚に腕を広げ、こう宣言した。


「ユーノに酷い運命を背負わせたアイツだけは、…倒したい。人間も魔物もない世界を創るために、誰も死なない世界を創る為に…」


 そう…かもしれない

 これがハーレムルートの入り口…?


 消えゆくユーノの為に、ユーノを穢した男を——


「人間と魔物と手を結んで、俺を…」


 世界の意志、即ちムービーは、全部レイが悪いと言った。

 あれ以来、ムービーは出現していない。

 だから、全部悪いレイを倒す流れで締めくくるのは自然な流れかもしれない。


「アズモデもいいわね」

「はぁ…。世界の再生も捨てがたいけど」

「…その前に皆を死なせたくない。それに…、出来るかも分からない賭けで世界を失うなんて、駄目…だから」


 ノーサイド。

 最後は敵も味方もない世界。


 漸く辿り着いたハーレムエンド——


 魔神が死ねば、ハーレムエンド?


「はぁぁああ?そんなわけ…、ねぇだろ‼アルフレド、お前は」

「…見苦しいよ。そんな見苦しい姿をユーノに見せないでやってくれよ」

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