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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていたDLC  作者: 綿木絹


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決戦前に

 薄っすらと覚えている…じゃなくて頑張って思い出す。

 新島礼ではなくレイの記憶だし、ゲーム内設定の記憶で、更には十年近く前の記憶だ。薄っすらしてても仕方ない。

 元々、スタトには子供が殆どいなかった。

 十年かそこらでかなり増えたけど、あの段階だとまだ三人…、じゃなくて四人。


「おーい、ガキども。そろそろ日が沈む。帰らねぇと叱られるぞ」


 三人の六歳の子供は遊びたい遊びたいで、スタト村を縦横無尽に走り回っていた。

 あの日から一年で、他の家族にも子供が生まれた。

 一年も経たずに、村の外の魔物たちは増えて、警備の必要性も増していた。

 畑を耕すのも、山菜取りも、見張りも、子育ても、狩りも、

 何もかもが大人たちのリソースを逼迫した。

 外との繋がりもなくなったから、自給自足の生活を強いられた。

 子供たちも手伝いはするが、実はほんの少ししか手伝わない。

 同じ時期にエミリはバンバン畑を耕しているのはさておき、子供は遊ぶのが仕事という価値観がスタトにはあった。

 今なら分かる。将来の為に体を鍛える、という意味で本当に仕事だったのだろう。


「怒られるのはレイでしょ」

「ばっか‼お前達もだよ!」


 因みに、俺に対するユーノ接近禁止令は出ている。

 だが、元より勇者や英雄になる子供たちだ。

 小さな村が中庭くらいにしか思えなくなった子供たちは、遊びの活動範囲を広げていった。

 今回みたいに、大人たちの目を盗んで、林の中で遊ぶこともあった。

 勿論、ごくごく偶にだ。


「その辺にしとけ。あの看板が見えねぇのか?この辺は夜になるとこっわい魔物が現れるんだ」

「まもの…こわい…」


 稀な子供たちの冒険で最初に疲れ果てるのはユーノだ。

 これも今にして思えばだが、Lv0であるユーノは体が弱かった。

 ここから先の展開も決まっていて


「僕がおぶってあげる」

「アルフレドだって疲れてるでしょ。またいつもみたいに」

「大丈夫だよ。もう六歳なんだし。さ、ユーノ」

「う…ん」

「んじゃあ、フィーネはほら」

「はぁ?なんでアンタなのよ。あたしは大丈夫だし!」


 アルフレドがユーノをおんぶして、フィーネは一人で歩く。

 俺は一番後ろを、一応警戒しながら歩けれど、

 必ずアルフレドの足が止まる。だって、冒険は始まってもいない。

 どれだけおだてられようとも、『人間にしてはやる』くらいにしかならない。

 この時で言うなら、6歳にしては元気だな、くらい。


「フィーネ。おぶってやれよ」

「あんた、馬鹿?あたしだってくたくただし。あんたが背負いなさいよ

「俺は…なぁ」

「誰も見てないわよ。一番年上でしょ」


 あの日から始まった接近禁止命令は子供たちにも適用される。

 とはいえ、実は子供は深く考えていなかった。

 だって、理由が伏せられていたのだし、勇者と言われてもピンとはこないし

 因みに、当時からフィーネはアルフレドのことが好きだ。

 勿論、思春期を迎えての好きとは別物で、非情に分かりやすい。

 チョウロの家にいたポットで幼女は、何故か大人たちの意向でアルフレドとセットで行動するようになった。

 それが掟と言われても、彼女の心は彼女が持つ爽やかな空色の髪と同じようにはいかなかった。


「わたし、歩ける。フィーネがおぶってもらったら」

「いいって。アル。ユーノ歩けるって」

「あ…、それじゃ…」


 なんて言いながら、アルフレドはふらついて、フィーネが彼を支える。

 そしてフィーネは、いつものようにしろと視線を送る。

 俺は肩を竦めて、ユーノをおんぶする。

 あと四年もすれば、大人顔負けの剣術を披露するが、今はピヨピヨと鳴く嘴もない勇者の卵の殻の中。


「お兄…。わたし、ねむい」

「寝とけ寝とけ。フィーネ、いつものやつ」

「おっけー。いー、ぉいしょ‼」


 そして何処かで見たユーノのコートを頭から羽織る。

 いや、今はあのムービーがあるから分かるけど、当時はチョウロ様の私物だと思っていたオトナ用の丈の長い分厚いコートだ。


「ユーノ、なるべく小さくなっとけよ」

「…うん。あり…がと。おにい」


 まぁ、子供のこんな浅知恵なんてあっという間にバレるわけで、

 この後も俺はめちゃくちゃ怒られた。

 それでも、大人たちの目を掻い潜る子供たちの冒険はあと四年くらいは続く。

 しかも年々、活動範囲は大きくなって、俺も二次性徴を迎えて

 皆はまだたけど、体力もついて。

 流石に、おんぶすることはなくなったし


 ——でもそういえば、事件があったような


 東側に出ることはないが、北側にある山に行くことは出来る。

 俺は随分背が伸びてて、アルフレドが九歳だったか。

 スタトは武芸や魔法学を幼少期から教える。

 何度か周辺の魔物狩りも参加したし、成果も上げていた。

 故の慢心、それか若気の至りか。


「すっごいんだから!こっちこっち!」

「アル。ちょっと待ちなさいよ」


 あの日はアルフレドの先導で山を登った。

 そこからの景色は圧巻だった。


「凄い…」

「きれい」


 スタト半島をくるりと囲む海は勿論美しいが、なんといってもギリー農場の世界一の小麦畑、及び金色砂糖いもの畑だ。

 白や黄色、紫ではなく、黄金のそして大きな花を咲かすイモ畑は、例えそれが耕された畑でも、女神がお創りになったと錯覚させられる。


「あれがギリー農場。小麦畑は分かるけど、金色砂糖いもの花。確か…、アーマグのエクレアのホテルでも扱ってるっていう」


 因みに補足しておくが、俺は一緒じゃない。

 親父らに言われて、こっそりと後をついていっただけだ。

 いやいやしながらも地図を頭に叩き込まれた俺でも、目を奪われた。


「クソ親父の顔も一緒に浮かぶのはムカつくけど」


 アレなら確かに食べたら、体中の傷が消える。

 宿屋って本当に大事なんだなぁ、なんて考えていた。


 事件が起きたのはその時だった。


「みんな、気をつけて。魔物だ‼」


 声変わりしていない高い声で、アルフレドが叫んだ。

 たださっきも言った通り、アルフレドもフィーネも小さいながらも、毎週金曜日に行われる魔物退治に参加している。

 魔物との遭遇も慣れたものだし、今までだって似たような事はあった。


「逃げる?」

「ううん、僕、知ってる。こいつ、コウモリんだ。一匹だけだし」


 でも今回は少し手強い魔物。飛んでいるから戦うのが難しい。

 だけど、手に届く高さで飛ぶし、幸いにもひらけた場所だし。

 スタト村の周辺にも出没する魔物だし。

 俺は「一匹ならまぁ、大丈夫か」なんて遠くから見ていた。

 世界を救うらしい勇者様の雛の戦いを横目に、見晴らしの良い景色を楽しんでいた。


「ユーノはさがって!」

「うん。アル、気をつけて」


 アルフレドとフィーネが戦い、ユーノは後ろにさがる。


「あれ、おにい…」


 そして俺の緊迫した空気センサーが触れる。

 呆気なくユーノに見つかって、拒否反応が現れる。

 ユーノに近づかないようにしないと、また殴られる。

 ユーノもそれは知っているらしく、それは言わなかった。


 とは言え、接近しすぎ。

 他に隠れる木を探そうとしたとき、ぎこちないがハッキリと聞こえた。


 火の玉(パイロ)


 目を剥いてアルフレド達を見ると、必死で戦っていた。

 身体に火傷をおって、それでも勇敢に戦っていた。

 背後には回復魔法ケイミルを唱えるフィーネもいる。


 問題は、事件はその向こう側。黄金すぎる景色と同化するように低空を飛んでいる小さな化け物。

 この時、俺の頭に浮かんだのは、接近禁止されていないヒロインフィーネの顔でも、勇者アルフレドの顔でも、接近禁止されているユーノの顔でもなく、


 残念ながら、やっぱりクソ親父の顔だった。


「アルフレド!フィーネ!早く逃げろ!」


 見つからないようにしろ、なんてのは吹き飛んで、急いで飛び出す。

 すると勇者の雛はこう言った。


「なんでレイがいるの?レイもさがってて。コウモりんは僕でも倒せるから」

「馬鹿っ‼コウモりんは藍色だ。そいつはイエローコウモリん‼ネクタ近辺の魔物なんだぞ‼」


 スタト周辺には生息していない、レベルが違う魔物が何故か居た。


 イエローコウモりんは逃げるという特徴がある。

 周辺に住むブルーウルブスに捕食されることもあるらしいから、ここまで飛んで来たのだろう。


 クソ親父と強くて厳しい母親の顔と、とめどない長さの大講義が脳内で高速再生される。


「イエロー?えっとでも一匹だし」

「状況を考えろ‼フィーネのケイミルはまだ二回しか使えない。それにアル。お前はユーノを守るんだろっ‼」

「だけど」

「フィーネ。まだ回復は使えるか?」

「…ううん。もう無理…かも」

「だったらアルとユーノを連れて逃げろ‼」


 その間にも、ぎこちない三文字が紡がれる。


 火の玉(パイロ)


 勇者を守る使命が叩きこまれていたからか、前衛のアルフレドと交代してそのボール大の火球を背中に浴びた。

 ただ幸いにも、この頃からじゃらじゃら服を着ていたから、大したダメージにはならなかった。

 って、成長期にそんなの着るなよ‼


「お前たちには使命がある。それを忘れるなっ‼」


 するとフィーネは頷いて、アルフレドの手を引く。

 アルフレドはユーノの手を引く。

 レイはどうするのか、なんて聞いている暇もない逃走だった。


 そして俺は絶景とイエローコウモりんを独り占めにしたわけだが、


「俺は勇者を守り導く…か。まだLv1。MPもわずか。どうするか…」


 あぁ、そうだった。

 この事件というか魔物との遭遇で、折檻はさておき、両親を尊敬するようになった。

 それは同時に、自分の役目を受け入れ、勇者になる道を諦めることだったんだけれど。


「って、決まってるか。さ、撃ってこい」


 口がある動物系魔物はぎこちなく魔法を詠唱する。

 その時に隙が生じるから、石を口に放り込む。


 ここから見える景色も、イエローコウモりんの見た目も、魔物の特徴も、全部正しい。


「がり…。火の玉(パイロ)

「って、噛み砕くんかい‼」


 やはりレベル差は絶対だ。

 その辺に転がっていた石は役に立たず、何度も焼かれた。

 でも、なかなか死なない俺はどうにかイエローコウモりんの全ての歯を砕くことに成功した。


「どうだ。これでパイロはうてまい。…ここからって逃げる…な」


 ここからは物理勝負というところでイエローコウモりんは逃げ、俺は倒れた。

 そこで死んでたら今居ない訳で、

 駆けつけた大人たちによると、俺は山のど真ん中で寝ていたらしい。


 そして目が覚めた俺は、三日くらい叱られ続けましたとさ。

 そっから先はつまらない日々の始まりで、RPGの世界のように村の至る所に大人たちが徘徊…ではなく見張るようになった。

 俺は俺で、もっともーっと真面目に座学に取り組んだ。


 勿論、ユーノへの接近禁止命令はそのままで


     ◇


 この薄っすらにしては細かい描写も含まれる記憶を思い出し、レイはポンと膝を打った。


「あの日戦ってたのって、あそこか!リベンジ…とは違う気がするけど」

「今更、何を言ってんだよ!」


 そして勇者は面を打つ。


「解決方法は分からないけど!要するに」


 ここでレイに悪魔のような策が浮かびあがった。

 だから容赦なく、勇者の聖剣を角で弾き返した。


 つもりだった


「痛っ!切れ味凄すぎんだろ…、でも」


 軌道が変わったなら、その体勢が大男優位に変わる。

 距離が近いから剣は振れないが、地に足がついていない勇者の腹に渾身のパンチを突き立てることが出来る。


「ぐ…。こんなの痛くない。僕はお前なんかに」

「アルフレドぉ。つまり俺はお前を殺して構わんということだ」

「HPギリギリの癖に何を言ってんだよ…」


 あまりに悪魔じみて、あの思い出の中のイエローコウモりんも開いた口がふさがらないだろう。


「簡単な事だ。お前を殺せば、お前達は時間を遡り、女神像前に戻る」

「…それが…どうしたんだよ。卑怯って言いたいんなら違うぞ。僕は女神様からの加護で」

「分かってないな、アルフレド。そうなれば俺は過去の自分に戻る」

「…そうやって作戦を練るつもりか」

「いやぁ…。時間軸が戻るからその時の俺は前の俺だ」


 魔の神、彼がぱっと思いついた作戦、それは


「俺はお前達みたいに経験値を、記憶を引き継がない。過去の自分に丸投げするんだ。どうだ、恐ろしいだろう‼」


 怠惰の悪魔的な作戦だった。

 ハッキリ言って何の意味もない作戦で、勇者たちは強くなっているから、実は逆に不利になる。

 でも、この意味不明な作戦により、最後の殺し合いが始まる。

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