勇者アルフレドVS魔神レイ(中)
魔王ヘルガヌスは袖に消えた。
代役というより真打ち登場、いやユーリがラスボスだから膝代わりとでも呼ぶべきか、
だが予言は違う。
光の女神はこう仰られた。
『この先出番がないとはいえ——』
あれは本来なら間違っている。妙な言葉だった。
ユーリはラスボスであり、アルフレドが最後に戦う相手で、舞台の最期を飾る真打ちなのだ。
だが、超越した存在である神が間違える筈がない。
メビウス様の仰る通り、
「——デッドラインは勇者が玉座に辿り着くまで…か」
そして、レイとアルフレドが戦っているのは玉座の手前
ユーリはあの時点で、こうなることを知っていたのだ。
「アルフレド。周りを見ろ。お前を信じて、お前を支え続けた大切な仲間たちがいるだろ」
「そうだよ。みんな、僕を信じて戦ってくれてる」
「でも、お前の目はユーノしか見てないだろ。たった一人を助ける為に全てを捧げるとか、傲慢すぎるだろっ‼」
ここまで来たレイも気付いている。
物語は続いても、世界を俯瞰する目であるプレイヤーがいなくなれば、そこは舞台ではない。
であればと、ユーリはゲーム主人公との間で語られることを、自らの口で先に語った。
「…どっちが?何の責任も背負わないで、好き勝手しといて」
「好き勝手って…、俺は」
「ずっと言う事を聞いてきたんだ。最期くらい、僕のわがままを聞いたって良いだろ。フィーネ、ソフィア。補助魔法をお願い。キラリとリディアはアイツの力を削いで。エミリとマリア、それからサラとアイザは他の奴の足止めをお願い」
これもまた、ゲーム世界だからか、好感度マックスが為せるのか
仲間たちは拒否しない。勇者の為に勇者の体にバフをかける。
闇メビウスの波動で、魔物側はデバフを受けているが、ヒロインたちからのデバフ魔法も重ねがけが行われる。
コマンドバトル方式が、戦いの中で上手く落としこまれている。
「その仲間の力を借りて、馬鹿デカい我が儘を叶えるのか」
レイは勇者に訴えるが、帰ってきたのは鋭すぎる眼光と、黄金ほとばしる大剣だった。
前列から後退し、どうにか逃れるが、この戦闘のみ出現した中列でもまだ足りない。
最後列まで押しやられた後に
ドンと背中に衝撃が走った。
「嘘…だろ」
今までも戦闘エリアは意識していた。
でも、それはもっとオープンな戦い方が出来るという工夫の為だった。
今回はその逆。魔王の間は駄々広い筈なのに、不思議な壁、見えない壁で囲まれたバトル空間が出現している。
必須バトルに見られる逃げられない空間。
追い込んだ勇者は魔神に剣を突き立てる。
「ちっ…。なんだよ、その顔は。お前こそ神になったつもりで、僕たちを見下してるんだろ」
「俺は神になったつもりはない。寧ろ」
「…気付かない時点でそうなんだよ。ずっと遠くから見てて、今までだってそうだよ。戦いに参加しない。口しか出さない」
「俺は傲慢じゃない。神じゃない。俺はただ」
勇者は冷静に、仲間達に指示を出して、復活四天王とも戦っている。
ユーノを入れて十人。五人対十人の戦いだから、勇者と魔神の一対一の状況が作れる。
逃場を失った魔神は、防戦一方を強いられる。
そして、人間時代から何度も聞かされた忠告。
最終戦だから忠告ではなく、糾弾だろうか
「お前はいつでもそうだ。いつだって他人事で、本気で戦わない。親の力と血統だけ。…それで僕たちを見下すお前こそが、傲慢だよ」
ユーノが生きていて、何処にいるか分かった瞬間から、レイの存在を陰らせていたのは勇者自身だ。
新島礼がプレイしたDLCだって、レイはスタト村で放置された。
とても人のことは言えない。
「好き勝手言いやがって」
だが、魔神レイが直面しているのは、ユーリが出したお題の答えが分からないからだった。
まず、この戦いとハーレムルートが頭の中で結びつかない。
そもそも、ユーリの出番がないとはどっちの意味か分からない。
——世界のルールに則ると、
主人公であるアルフレドが死ねば、勇者の冒険が終わる。
だから、ユーリの出番は回ってこない。
——世界のルールに則ると、
プレイヤーであるレイが死ねば、観客がいなくなる。
だから、ユーリの出番は回ってこない。
どちらにも取れるネタバレのせいで、進むも退くも出来ない。
——いや、もう一つ別のルールがある。
ていうか、もう一つの心がある。
「間違いなく知らないイベント。ハーレムルートはこの先に絶対にある。だとしても、俺は死ぬかもしれないんだぞ‼」
これが初めてのゲーム内転生と信じる今のレイだ。
DLC前は、魔人レイモンドが魔王の間、玉座の前に現れて、戦いの果てにムービー死で絶命する。
デスモンドのムービー死だって、蘇ると知っていたのに心の底から恐怖したのだ。
この期一切登場しないレイの死は、ニイジマレイ自身の死。
到底受け入れられるものではない。
「まぁ、…いいや。あとちょっとなんだ」
「こうなったら、第三の選択だ。アルフレド、俺は金輪際お前の前に現れない‼」
これ以上後ろに下がれなくても横がある。
巨大な列席用の長椅子が十字路を為す複雑な地形だ。
右手の法則を使えば、きっと反対側に回れると信じて、魔神の右手が見えない壁をとてとてと歩く。
「今更…。レイを倒せば、ユーノは救われるんだ」
「さっきの話を聞いてたろ。ユーノが言ってただろ。お前には…」
アルフレドの目的がレイを排除だというのは明白だった。
今まではこんな大トリがあったから、死なないと言う見えない壁があったけれど、この戦いはレイが死ぬ戦い。
殺気と殺意で、体が固まる。思いついたのは、再びの説得タイムだった。
——だけど、時は来たのだ。
「そこまで言うなら、レイにも見せてあげるよ」
白く輝くマントを翻すと、その隙間から光り輝く何かが飛び出した。
勇者は光女神の剣を上に向かって放り投げたのだ。
黄金の光を帯びた聖なる剣は輝きながら高速で回転して、小さな太陽を思わせる。
どこまでも高く、遥か高く、勇者が武器を手放したとか考える間もなく、
ガシャン…と割れる音がした。
今はエルザが放った黄夜梟の波動で暗雲が立ち込めているが、その上には天井は物理法則を無視したドーム状のステンドグラスがある。
見えなけれど、ガラスが割れて、破片が落ちてくる。
一定間隔で落ちる落雷よりも煌めく流星群のようなガラス片。
全体攻撃と言ってよい範囲に振るが、レイのみならず、皆は目を奪われた。
「なん…だと…」
空の暗さもあって、光の女神ではなく闇の女神に見えていた女神の芸術だ。
冴えなく、鈍く、黒い雨が降る筈なのに、光の加護を持つ主人公の力に呼応したのだろう。
光女神の寵愛を受けた聖なるクリスタルが、暗雲を切り裂いていく。
そうなることを知っていたのだろう、勇者は見上げもしない。
そして、肩を竦めて少年は言った。
「レイは知らないと思うけど、勇者は特別なんだ。キラリの受け売りだけど、僕たちには神聖な力がある。…その名もエルピーだよ」
身長差ゆえ見上げるが、見下すような顔で、勇者は落ちてくる剣を颯爽と掴んだ。
ドドドドドドドッ——ドドッドッドド——ドッドッドッドッド
バリバリ、ガシャガシャと落ちていたガラス片の落下音…、こんなだったか?
直後、魔神の視界が埋め尽くされる。
ぎらついたガラスたちが
「マジ…?」
こんなふうに変わる——
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
ピンク色の光が祭壇前のユニコーンロードに広がり、
多くあった筈の巨大な長椅子は、光の中に消えていった。
現れたのは、本来ならこの城で雅な生活を送っていただろう姫だ。
「アルフ…、…お兄様。わたくしは……、妹なのですよね」
闇、黒、薄汚いの権化である魔神レイの前で、互いに手を繋ぎ、見つめ合う。
「リディア。兄妹とか、そういうのなし。僕たちは東と西、正反対の場所で育って、こうして出会えた。それって凄いことだよね」
「え…、えっと。そうですわよ…ね。この気持ちは家族愛ではありませんわ」
魔がつくが神の前で手と手を、肌と肌を密着させる。
「それは僕も…かな。リディアの全てが好きだよ」
「はい!わたくしも、アルフレドを愛してます!」
王子と王女。
高貴な二人に、真っ白なタキシードとドレスが映える。
そして残った肌、唇がフワリと触れて、宝玉のような瞳が魔・神父に向けられる。
その眼差しから愛らしさが削られていく。
「お前が従兄弟だとわたくしも聞いております。お父様を見捨てた一族の恥…」
「これ以上、僕たちの邪魔をするなら、馬に蹴られて地獄に堕ちろ! プリンス&プリンセス・エターナルラブビーム‼」
♡
抱き締め合う二人の周囲に黄金の帯が生まれ、ハートを描くと凄まじいビームが発せられる。
そして神父役に立たされていた魔神には回避不能で、25万ものダメージを食らった。
「ガハッ…。ラブパワースペシャル…だと?てっきり廃止されたのかとおもったら、魔神レイ戦で使えたのかよ!!しかも、なんか痛いし‼」
DLC前は邪神デスモア戦で登場した。
だが、魔王ヘルガヌス戦では現れない。
ネタバレだが、ユーリ戦にも登場しない。
そもそも、ユーリ戦にユーノ以外のヒロインは出て来ない。
「キラリに教えてもらったんだ。愛の力で魔を断てるかもって。良かったね。何の為にいるかも分からない、お前にも存在理由があったんだよ」
「キラリ…。そう言えばカギッコホネッコもある意味でメタ。それにしても、」
「流石に一発とはいかない…と。次はサラ、行こうか」
勇者とヒロインのラブの力に、魔神は膝をつく。
どんなスキルより、どんな魔法よりも大きなダメージが、このスペシャル攻撃なのだ。
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
薄ピンク色の光が祭壇前のユニコーンロードを照らし続ける。
ハートの形をしたそれらが、更に長椅子型の壁を崩す。
そこに現れたのは、姫に付き従う彼女だ。
「殿下…、その」
「もう…、その呼び方は駄目だって」
「ですが」
「僕は西の西。ずっと西の田舎で育ったし。サラさんの方が…いい匂いで高貴っていうか。あ…、ごめん…なさい」
クリーム色の髪は甘い香りがした。
田舎育ちの青年は無意識に近づけた顔をそらすが、サラはそんな彼を捕まえた。
「私は…良いのです。今日は何をしましょうか」
「えっとね。このまま…がいいかな?」
「このまま?私は何も」
「あ、手を離さないで。サラさんの中は心地よくて」
リディアにも似たことをしたのを思い出して、サラは勇者を抱きしめた。
彼だって同じ。いや、両親の顔も知らずに辺境に追いやられた彼の方が、暖かさを知らない。
それが幸か不幸かはさておき
「ですが、このままでは」
「うん。スタトからずっとついて来てる。まさかアイツが王族だったなんて」
「殿下…、いえアルフレドは優しいですね。既にアルフレド様が王です。…私では不釣り合い…」
今度はアルフレドが彼女を抱きしめる。
そして
「どっかに行け。田舎王子と」
「貴族侍女のハーモニーです」
——都落ちバースト‼
♡
抱き締め合う二人の周囲には再び黄金の帯が生まれ、それがハートを描くとハート断面のビームが発せられる。
そして何故か立っていた魔神には回避不能で、やはり25万ものダメージを食らって、口から血を吹き出した。
魔神が直撃した理由は、サラのラブパワースペシャルだ!とテンション高めに見ていたからだが
「ガハッ…。やばいな。くらくらしてきた」
「これもキラリに教えてもらったんだけど。魔物は人間の愛の力に弱いって。光と言うか希望に弱いのかな。…でも、まだ立つのか。次はアイザ、一緒に魔神を滅ぼそう」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
パステルなピンク色の光が祭壇前のユニコーンロードを照らし続ける。
ハートの形をしたそれらが、更に長椅子型の壁を崩す。
そこに現れたのは、幼い少女。五衣を優雅に着こなす彼女はロータスの姫
「わらわは…くさいのら?」
「全然臭くないよ。だって——」
「ほんとう…なのら」
今回も同じく、魔神の前でいちゃいちゃを始める。
それが攻撃モーションだから、魔神はただ見ているだけ。
ではなくて、訝しんで観察していた。
「こっちを見るな、なのだ‼」
「高貴なロータスを穢す悪党を一緒に倒そ」
——黄金の蓮の葉のキューティビーム‼
♡
兄と妹のじゃれ合いが、魔神を削る。
今回だって、25万のダメージを食らった。
ただ、この流れは悪くないんじゃないか、と魔神は考えていた。




