勇者アルフレドVS魔神レイ(上)
前衛には龍王ゼノスと武神将軍ドラグノフ、後衛には暗黒大魔女エルザと金色幻想師のアズモデ。
そう言えば、俺ってルビだと大魔神とかほざいてた。
もしかしてあれって、こういう意味っ‼
何かを理解して、黄泉の世界の両親から授かった千代蟲礼刀を構え、レイは勇者に向かって突進した。
最後列の勇者までは遠いが、復活四天王の虚を突く攻撃で、道は出来ていた。
回復や補助に徹するから、「かばう」も「まもる」も使えない。
「最後列で、幼馴染といちゃいちゃすんな。お前は勇者だろうが…」
ヒロインたちの奮闘をニヤニヤと見るだけの男の頭を思い切り、
レイ……
レイ……
レイ……
これは幻聴か、誰かが自分を呼んだ気がした。
デジャヴか。ドラステの世界に入った時と重なった。
これは多分、目を覚ませとかいう意味だ。
「…ったく。変わんないね」
あの日レイは態々、スタトの雑木林の北、小高い丘に行った。
今日こそはアルフレドを倒すと、三人を連れて
甘酸っぱい匂いがしていて、土と草も発光するほどに色づいていて
本編で触れていない直前の出来事
レイはアルフレドに対して、巨大な模擬刀を振り下ろした。
その一撃をアルフレドは寸前で躱し、アルフレドの愛用の練習木刀でレイの頭部を強く叩いた。
今思えば、これでは説明が不十分だ。
アルフレドの身長は172から173㎝、レイの身長は201㎝強。
ただ躱しただけでは、頭部への強打は不可能。
勇者は躱した直後に、DLC前のスタト村手前で行われた蹴りを放っていた。
腹部若しくは下腹部にソレが突き刺さっては、巨人のレイは堪らない。
長身が蹲ると、頭の位置が下がる。
「レイ‼ 」
「ぐ…は…」
当時から大きく差が開いた二人の実力。
そして当時はまだレベル1。武器も互いに練習刀。
たくみな身のこなしで、アルフレドはレイの意識を刈り取った。
今なら——
ガキンンンンンン!!!!!!
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」
速度は全く違うが、トレースしたように勇者の聖剣が頭部を襲った。
魔神は阿鼻叫喚の叫びを上げ、勇者は乾いた舌打ちをした。
「ヤバっ!!」
「あちゃー。どうして角が戻ってるんだよ。全く…、世界の意志とか面倒臭いんだけど」
ムービーの度に元に戻った角はたちまち折られ、噴水の如く血が吹き出す。
アルフレドはその血を酷く嫌がり、大火炎爆魔法を態々使って、粉末さえも蒸発させた。
「汚い血だ。臭いかもしれないし」
「てめぇ…。マジで正義の味方じゃないんだな」
「何が…。そもそもレイの家がおかしいし、邪悪なんだ」
「なん…だと…」
三白眼で睨みつける勇者、爽やかな筈の空の瞳が殆ど見えない青年
アルフレドは今度こそと、聖剣を振りかざす。
角から血が抜ける。血の気が引く。
「だってそうだろ。父親も母親もずっと臭かった。あれ、何の臭い?もしかして、あれが悪魔の穢れの臭い?」
「臭い…だと?一体、どうしちまったんだよ」
父、アーモンドは体臭、オイル臭、プラチナ臭。
母、カカオもしくはココアはロータスおよび竜の臭い。
勇者の言う通り、神・設定資料集通り、この三人はスタトの異物。
正解なんだけど、流石に傷つく。
そして穢れた手で、ユーノを触ったから悪いのは俺で…、
「あれ?」
良い感じに頭が冷えた。
漸くレイは、——とある可能性に気が付いた。
「ムービー、じゃなくて世界の意志は真実なのか?」
「予言者だとか吹聴したお前が言うな‼真実だから、ユーノが大変なことになったんだろっ」
勇者はその言葉の意味を理解していなかった。
いや、この一点に関しては、アルフレドに落ち度はない。
DLCのみをやっていたら、もしかしたら最初からそう思ったかもしれない。
神・設定資料集を熟読しなければ、こんな展開は要らなかったかもしれない。
「あの時、なんでユーノが近くに居た…?」
「お前がユーノに近づいて、その油臭い手で触ったんだろ。ユーノは悪くない」
DV彼氏のせいで申し訳ないが、8人のヒロインよりもアルフレドが圧倒的に厄介なステータスだ。
会話の間も剣劇が行われている。
勿論、四対八で拮抗している仲間たちに感謝はすべきだろう。
だけど、レイの思考はたった一つの見落としに、いやミスリードにフォーカスされていた。
「そっちじゃない。スタトの丘で俺達は戦った。その時、なんでユーノがいた?だって俺は近づくことも許されてなかったんだろ」
「はぁ?突然なんだよ。昔の話を持ち出して」
——新ヒロインを幼馴染設定にしたことで、スタートからシナリオが全て変わってしまった。
正にスタートから変わっていた。
前の世界だと、全会一致でレイモンドが呼び出したで正しかったのだが
「昔の話って…。…そか。スタトの丘での戦いは、俺が計画したことじゃなかったのか」
「何を今更。僕が呼び出したんだよ」
「な…」
自分で聞いておいて、レイは息を呑む。
その真逆、アルフレドは当たり前って顔だった。
フィーネに良いところを見せる為に、アルフレドに喧嘩を売る。
そういうのはあっただろうが、全速力で戻らないといけない場所に行く理由がない。
「お前がユーノにちょっかい出そうとしてたから、…僕は清く正しい勇者の候補として、お前を懲らしめたんだ。だけど、あの時…。ううん。ソレも全部、レイ。お前のせいだ‼」
◇
中の人ニイジマは猛烈に頭を抱えていた。
前まではこれ。
レイモンドはフィーネに良いところを見せようとして、二人を連れて決闘場所に連れて行った。
その後、村の異変を感じてスタトへ向かった。
だが、ユーノルートで始まった世界は、確かにレイの性格と行動をナーフしていた。
時勢を考えると自然な対応だし、仕方のないことだと思った。
新プロデューサーの指示の下、レイへの拘りは消されたと考えた。
そして、ここからはゲーム内転生後で知ったことだ。
ユーノが邪神になってしまったのは、魔物研究に染まった中で生まれたレイが触ってしまったからだった。
大人たちは触ってしまったレイに、ユーノに近づかないよう体で覚えさせていた。
その結果、レイはユーノに近づくと、一種の拒否反応が出るようになった。
拒否反応のせいで、『レイのせい』ムービー以外に、ユーノとレイは共演していない。
いや、そういえばもう一つあった。
——例のレイのムービー死のエピソードである。
冴えない誰か扱いだったムービーの中で、レイはユーリとユーノの二人とすれ違っている。
最初に見えたユーリには声をかけて、後からやってきたユーノに気付かないなんて、幼馴染として在り得ない。
幼少期から刻み込まれた拒否反応は、プレイヤーだからといって、簡単には拭えないモノだった。
故に、スタート地点にユーノが居たのは、レイのせいではない。
アルフレドが態々、
スタト村の大人達の目を盗んで、ユーノをレイの所に連れてきたのだ。
するとたちまち世界の景色と意味が変わる。
「お前がユーノを連れてきたのは、自分が俺より強いことを見せるためだ」
「普段、ユーノが見れないから、見せてあげただけだよ。ね、ユーノ」
背後でコクンと
コートに顎を隠しながら、ジト目で見守る少女。
そして今日もまた、同じ結果を見せようとアルフレドは目を光らせる。
アルフレドはいつだってユーノの為に戦っていた。
同じくらい強い気持ちで、レイを軽蔑していた。
「デスモンドで俺をなかったことにしたのも、態と。…あ、そか。俺もアルフレドでプレイした時はレイモンドを置き去りにした」
魔人は勇者の攻撃から逃げつつ、頭を抱えて両手を自分の血で染めるしかなかった。
そりゃ…、ユーノルートに行くわけだ。
至極簡単だ。メタ目線では造作のないことだ。
別ルートの発動に欠かせなかったのは、レイをデズモンドまで連れて行くこと。
新島礼がやってないところにフラグがあるに決まっているではないか。
「何が…?それより、酷いよ。どうしてお前がそっち側なんだよ」
「ヒロインたちより、俺の方が大事なのか」
「は?意味分かんないし。僕たちの前からいなくなれよ」
これが世界の意志で、カタチだとしたら
「アズモデ、エルザ!ゼノス、ドラグノフ!」
「レイ…。ユーノはユーリと一つになって神様になって消えるんだって…」
もう一つの道は想像していたよりもずっと安易。
誰でも辿り着けそうな大通りの真ん中に転がっていた。
「これが探していたハーレムルートだ…」
「なんでユーノがいなくなって、お前が人間に戻るんだよ!!そんなのズルいじゃないかっ!!」
「この戦いは…」
この世界の力の序列は、血統が他分に関与している。
神・設定資料集には、黄金とか白金とか、光とか闇とか、器とか経験値とかレベルとか、仕組みが載っている。
「当然だよ。クソな父親ではあるけど、君はボクの弟。ドラゴニアの血統の高みだ」
「同じく、ココア様はアタシたちロータスの高貴なる血族」
「本来なら男は俺のように竜人として生まれる。悔しいが、お前は超越した存在だ」
「いつか手合わせ願いたいでござる」
大いなる黄金の血族と、高貴なる白金の血族。
二人の間に生まれた子、魔物がしたレイが記憶を失わなかったのは、アーモンドがプラチナ漬けだったからではない。
「魔物が人間に戻るんじゃ駄目だ。先に邪悪なお前を倒さなくちゃ、お前を倒さなくちゃいけないんだ!!」
全身に黄金のオーラを纏う勇者の顔も、口ほどに物を言っている。
「…勇者もそうなるのか。ここに来たのは魔王ヘルガヌス目的じゃない…」
「気にすることはない。ボクの手記によると、君はボクたちが目指した神とやらだからね」
ソレが更に魔物へ
神とやらが魔に染まった
「裏切り者のレイ、…いや魔神レイ!!お前だけは絶対に滅ぼしてやる!!」
レイはツッコんだが、間違っていたのは大魔人の方。
この中で誰よりも神に近い悪魔レイは、魔神と呼ぶに相応しい。
その身に宿す鈍色のオーラは、かつての人類が羨望した力だ。
そして彼には凄まじい力に呼応する心が──
「散々な言われようだなぁ…。勇者」
「いや、魔神なんかじゃない。お前は!僕に勝てないと知って人間を辞めた、ただの臆病者だ!!」
新島礼ではあり得なかった感情が
しっかりと芽吹いて根付いて、息吹いていた。
「アルフレド。お前が勇者?貴様など只の人間だ…」
「勇者の伝承を知らないんだな。最西端から現れる金色の髪、魔王を駆逐して、世界を希望の光で照らすんだ」
だが、ゲーム主人公も負けていない。
体と言う器があって、器の大きさが決まっている。
それを世界ではレベルカンストと呼ぶ。
だとしても、世界を創りたもうた二人の女神は、世界に種を残した。
即ち種ブーストが、——勇者の体を加速する。
光の剣と闇の剣が交錯し、透明な火花が散る。
「人間如きが目障りだ。勇者とおだてられ、我欲に塗れたその顔で、神になれると思ったか?」
払いのけた直後に出たのは、魔王のテンプレのような言葉だった。
中の人は新島礼という人間だが、流石に目に余る勇者の横暴で、ソレは漏れ出た。
だが実は本人はノリノリである。
このルートは知らない。即ち、ハーレムルートを走り始めた。
後はロールプレイしてれば、勝手に世界が救われる。
だって、ユーノルートとハーレムルートしか存在しないのだ。
「僕は皆みたいに賢くないから神とか世界とか分からない。だけどやるべきことは分かってる。お前を倒して、ユーノを助ける。それだけだ‼」
だが即座に反応した勇者に、出る杭はあっという間に打たれてしまう。
この勇者の目的はハッキリしている。
魔神を倒せば、やはりユーリと対面する。
そして世界を差し出して、ユーノただ一人を助けるのだ。
目的地が設定されている以上、ルートが多少変わったって意味がないのだ。
「マジかよ。ってか、ハーレムルートって何なんだよ‼」




