悪役の過去回想はエンディング近くにありがち
フィーネは確かに死にかけた。走馬灯を見たっておかしくないし、よくある偶然。
とんでもなく強く頭を打ったんだから、偶然思い出した…
いや、偶然なんかじゃない。
アレは必然である。即ち、条件を満たしている。
——ユーノ救出後にフィーネと共にスタトを訪れること
一度しかプレイしていないニイジマも知らないこと。
とは言え、勇者が絡まないムービーはドラステに存在している。
DLC前ではリディアとレイモンド、DLC後では同じくリディアとサラ。
一つのムービー内だが、ソフィアとマーサのやり取りだって、似たようなものだ。
大修道院のいざこざに勇者は居ない。
俺…目線の…、ガチのムービーってこと…か?
少し前のターン、戦いの途中でムービーが挟まった。
それに加えて、主人公以外のムービーといえば、過去回想が定番だ。
敵キャラが何故凶行に走った、なんてネタバレはラストの花形ではないか。
勿論、この世界には独自のルールがある。
プレイヤーが登場キャラの場合は、自身のキャラ目線でムービーが流れる。
だからレイは今、2mからではなく125㎝から見上げている。
◇
少年レイは小さな墓塚を見やって、肩を竦めた。
大人達は定期的にお参りに行っている。
けれど、少年レイはいつも理由を付けて、ご先祖様の墓参りをサボっていた。
レイ「俺、知ってるんだぞ。俺たちもっと遠くから来たんだ」
あれは自分や二人の子供を洗脳する為、そう疑っていた。
村の子供はアルフレドとフィーネだけだし、二人はやっと五歳になった幼児。
二人は素直に、健気にお祈りを捧げているらしい。
大人たちは二人を見習えと言う。文句を言うと怒られる。
何をどういったって、勘違いだの一言で終わる。
ならば、と
レイ「あのヘンテコユーフォーを見つけて、今後こそ証明してやる!」
文句を言っても、歯向かっても、力づくだって勝てない。
子供の中では最強だけれど、その勝利の名は不戦勝。
少年は、不戦勝のガキ大将だった。
レイ「何が勇者の伝承だ。何がその為にお祈りだ。俺が全部嘘っぱちだって証明してやるっ」
(…あぁ、そうだよな、レイモンド。なんでお前が案内役なんだよっ‼って思うよな。でもな。これでもマシになったんだぞ。そもそもレイモンドは…、って、おい、俺。おい、レイモンド。そっちは村の出口じゃ…)
子供の中では一番体力がある。
最近は、大人と同じ仕事もこなしている。
耳がタコが出来るほど聞かされた、魔物との戦い方。
それから、勇者が辿るべき道。
地図を丸覚えせよと、三歳くらいからずっと言われている。
レイ「東ってどっちだっけ。あ、そだ!太陽の方向が東だ!」
(バカっ、逆だ‼今は日が沈んでんだよ…って、まだ子供だし?)
まだまだ子供だ。北とか南とか、西とか東とか分からない。
そも、村から出たこともない。
スタトは最西端、最南端の村で、今は夕暮れ。
西に向かうと大陸の端っこで、海しかない。
海岸に続く安全で少しばかりの雑木林を、猛々しく歩いていたにすぎない。
大人たちは東側だけを用心しているから、少年は大人に出会わなかっただけ。
それでも8歳の冒険はピンチを向かえることになる。
雑木林でも近年魔物が出現しているのだ。
だから少年は出会した。
レイ「ひ…、魔物…」
——『近年魔物が増加中』という立て札に
たかが看板、たかが文字。されど注意書きとは恐怖を煽る。
文字が巻いた恐怖の種が、逢魔が時を歓迎してあっという間に萌芽した。
(看板ね。でも実際、フィールド上になるけどスタトの西に魔物は出る。スラドンとコウモりんだけど、勇者パーティでもなく、ただの子供ならヤバいかも。俺はスタート時点で無傷だったし?脇腹は…、なんだっけ。兎に角、襲われることはなかったと思うけど…)
大人たちの会話が思い出されて、西に沈む太陽が低木さえも不気味に映す。
少年の足は速くなり、早歩きから小走りに切り替わる。
すると雑木林の影はさらに伸び、引き返せ、引き返せと騒ぎ立てる。
レイ「駄目だ。ここで引き返したら、いつもの家出だ。怖くないぞ、俺。俺は勇者になる男だ」
でも、少年は逃げなかった。
恐怖心に打ち勝つことが出来た。
ここが比較的安全な、西の小さな雑木林地帯だったからではない。
少年には策があった。
レイ「村を出て、雑木林を抜けるとその先にきゅーけーぽいんとがある。一時間も掛からないって話だ。そこまで行けば、魔物はやってこない。うごけぇぇええええ、俺のあしぃぃぃいいいいい」
少年は休憩ポイントの存在を知っていたのだ。
父母より教わった、勇者の為の道はバッチリ記憶している。
いつかの自分の為にと、ちゃんと本にも書き留めている。
とは言え、実際には大人の足、レベルが少し上がった勇者たちの足で一時間。
しかも反対方向。今にも沈もうとする太陽に向かって、ひた走った。
レイ「やった‼森を抜けたぞ。女神様から加護を授かった勇者は森を抜けた!」
大人の足で十分もあれば、海が見える。
些細な林だが、彼の心の中では魑魅魍魎蠢く魔物の森だ。
出迎えるのは水平線と、海の反射を合わせて二つの赤い光。
勇者のように勇敢に森を抜けて、少年レイは伝承に残る休憩ポイントに辿り着いた、と思った。
(子供の体じゃ、子供の足じゃ、確かに森って感じだったな。でも、ここは視野も広いし、まだギリギリ明るいしで…、……え?本当に休憩ポイント…が)
勇者がそこですべきことは、たった一つだ。
レイ「め…、女神様のおっ…、む…、むねをさわ…」
(エロガキかよ‼…。でも、ガキってこんなもんか。誰も見てないし、存分に触ると良いぞ。ま…、硬いけど)
8歳だが、いや子供の中で一番年上だからか、耳は肥えている。
いやいや、子供とか大人とか関係なく、母性を求めるもの。
茶化されないように振り返り、誰も見ていないか確認して、少年は手を上に伸ばした。
——その時だった。
???「えっ」
レイ「え?」
(え…?)
どこからか声がした。
綺麗な大人の女の人の像の胸を触ろうとしたら、声がした。
少年は思わず振り返る。
レイ「こここ、これは、え、え、え、えっちなことじゃ…、あれ…」
振り返るが誰もいない。
誰もいないのに確かに声がした。
いよいよ怖くなって、今度こそ女神像の胸を触ろうとした。
(触るんかいっ‼…ってツッコむ場合じゃない。これ…、どうなってんだ?)
すると目の前に二つの夕日があった。
レイ「わっ!」
正確にはさっきまでは縦並び、今は横並び。
真ん丸で赤く光る何かで、
???「わ?」
遠近の関係で大きく見えただけ。
鈍色の瞳の、目の前。眼球の前に赤い瞳があった。
流石に驚き、尻餅をつくが、少年は首を傾げた。
レイ「あれ…、子供?女神様の像は」
???「んと。この方が触りやすいかと思って」
夕日はまだ沈んでおらず、透き通る長い髪の向こうに見える。
同じく太陽を透過するほど、透き通った腕がゆっくりと胸の位置まで持ち上がる。
その瞬間、少年の顔は夕焼けと同じくらい赤く染まった。
レイ「さ、触るわけないだろっ‼俺は勇者になる勇敢な男なんだ‼」
少年は目を瞑り、外套を投げつけた。
(俺も目を瞑るのか…。っていうか、何故)
???「なら、もっと小さい方がいい?」
レイ「そういうことじゃねぇよ‼なんで裸なんだよ‼」
???「なんで…だろ」
布が擦れる音を待って、少年は目を開ける。
そこで相手が、アルフレドとフィーネと同じくらいの幼女だと知った。
どうしてこんなところに、さっきまでのは、なんて疑問は浮かばない。
レイ「なんでって。お前、見ない顔だな。名前は?どこの村から来た?ってか、親は何処にいるんだよ。森は危ないんだからな」
怖さは何処かに薄れて、一番年上の子供の顔に戻る。
ユーノ「名前はユーノ。それ以外は分からない。親は…いない」
そして、少女の名を知った。
何も分からない、得体の知れない少女。
(どうなってんだよ。さっきの姿は十七歳のユーノの姿か…。こいつが小さくなった…)
親のいない少女の前で、レイは頭を抱えた。
レイ「お前も勇者候補かよっ‼で、あれか。伝説の勇者かもしれないとかか。スタト村に伝わる何かか?」
ユーノ「勇者?君も勇者?」
レイ「…当たり前だろ。俺は勇者レイ。こーんな深い森を!たった一人で!女神様に会いに行ったんだぞ」
頭を抱えたのは、
不気味とか、どうしようか、
とかじゃなく、そういう人間を一人知っているから。
勿論、今はまだ勇者になるライバルの一人だけれど。
ユーノ「…えっと。レイ…」
レイ「っていうか、流石にやばいな。暗くなってきた。村に帰るぞ」
ユーノ「帰る…?」
勇者の冒険の本に登場する勇者も、素性が分からない生まれ。
第二の勇者候補の出現に、少年はハッキリと興が冷めてしまった。
怖さも何もかも吹っ飛んで、少女の腕を外套ごと掴んで歩き始めた。
道を間違っていたことにも気付かず、来た道を戻る。
(村から西に行って、そこに休憩ポイントがあって…?いや…、やっぱり女神像じゃない)
だが、途中で再び頭を抱える。
村の匂いが漂い始めて、どうして冒険に出たのかを思い出したのだ。
レイ「あ…、ヤバい」
ユーノ「ヤバいって?」
レイ「俺、親と喧嘩してたんだった。このまま帰ったらカッコ悪いし…。仕方ねぇ。困った時のチョウロ様だ」
(どうなってんだよ。俺は九歳で、アルフレドとフィーネは五歳だ。フィーネが言った通り、ユーノは後から?でも、ゲームだとアルフレドと同時期に…)
チョウロはスタト村で最も年長者で、先祖代々ここで暮らすお爺さん。
村長であるアーモンドも、そのお爺さんには頭が上がらない。
チョウロの家は、レイにとっては駆け込み寺のようなものだった。
ユーノ「レイ、あの…」
レイ「心配するな。アルフレドを預かってんのはパピルスさんちだけど、チョウロ様なら上手い事やってくれるって」
パピルスとマーマレードは、アーモンドに包み隠さず報告する。
チョウロは年の功からか、色々誤魔化してくれる。
(…で、チョウロ様か。そう言や、チョウロ様がなんで殺されたのか、分かってないんだよな。ユーノの出自を知ってるからって勝手に解釈してたけど。どうやら正解っぽい…)
少年は自分が逃げ込むならと、良くしてくれる老婆の家に決めた。
なんとなく、ユーノを誰にも見つからないようにして、一緒に老人の家に駆け込んだ。
そして今日一日、身の回りで起こったことを素直に話す。
チョウロ「ふむぅ…」
って感じで、暫く黙った後、チョウロ様はユーノを見つめて難しい顔をしたんだ。
チョウロ「ヨコシマガミ様に触ってしまったのか」
俺「はい…。つい手が」
(ヨコシマガミってなんだよ‼結局触ってねぇし‼…って、手は引いたけど)
俺が一割、ユーノが九割くらいかな。
ユーノは住職に色々と質問されてた。
彼女はそれから無表情になって、視線も定まらなくなった感じになった。
ユーノ「…のはざま。あ…ちから…ぷら…」
住職は村のAさん、つまり俺の親父に連絡したみたいで、 俺はそこで大変な事をしてしまったと思った。
ユーノと話をする為に部屋が用意されて、隣の部屋だったから大人たちの声が聞こえたんだ。
俺「俺も」
村民P「君はこっちの部屋にいきなさい」
俺はどうやら、その部屋に入ってはいけないらしかった。
暫くすると住職が出てきて、彼女は何度か頷いて、こう言った。
チョウロ「今日はうちに泊まっていきなさい」
ユーノもここに泊まるらしい。
ただ住職は俺とユーノを別の部屋で寝かせた。
俺は白い着物を着た大人数人に連れられて、新しくはないが綺麗に整った部屋に通された。
部屋にはチョウロ様のご先祖様と思われる写し絵が並んでいて、一番新しい写し絵の下に『スズキ』と書かれていた。
俺「チョウロ様は昔からスタトに住んでたんだな…」
白い着物の大人A「レイ君。今日は一言もしゃべってはなりません」
レイ「え…」
白い着物の大人B「それからチョウロ様がこれを着て、これを飲むように、と」
俺は白い着物に着替えて、塩辛くて苦い水を一気に飲み干した。
全部言われるがままだったけど、多分だけど何かの儀式だった。
そのせいか、薬の影響か
こんなの眠れる筈もないと思ったのに、五分としないうちに眠りに落ちた。
そして次の日の朝だった。
俺「あれ…、ここ…どこだっけ…。えっと…。スズキって誰だっけ」
猛烈な眠気を残したまま、俺は知らない部屋で目を覚ました。
写し絵も初めて見たし、どうして白い服を着ているのかも分からなかった。
チョウロ「おはよう」
俺「あ、お早うございます。チョウロ様」
部屋から出た俺を待っていたのは、いつもの服を着たチョウロ様だった。
彼女の側には知らない女の子が無表情な顔で立っていた。
えっと…、どんな顔してたっけ。とにかく立っていた。
名前も知らない女の子。
分厚いコートを来た女の子は、俺を見た時に間違いなくこう言った。
見知らぬ少女「わたしのことは忘れて…」
チョウロ様も「彼女のことは忘れなさい」と言っていた。
昨日の儀式の影響だったのか、飲まされた薬草水のせいかは分からない。
ただ、嘘みたいに両肩の重みは消えていた。
俺は住職に一礼して、見知らぬ少女にはこう言った。
俺「えっと、何の話ですか?」
チョウロ様はいつものように優しく頷いて、俺を送り出してくれた。
ただその後、両親に滅茶苦茶怒られたんだっけ。
そう言えば、それからだった。
クソ親父は馬鹿みたいに俺に厳しくなった。
母さんも見て見ぬふりをするようになった。
いや、そういえば
チョウロさんも、そん時から厳しくなったんだよなぁ。
俺は今まで以上に努力しろってさ。
フィーネと、アルフレドとユーノにはあんなに甘いのに、俺にだけ厳しくて‼
村の大人たちが全員、俺を腫れ物扱いするようになって
俺「え?ユーノは誰かって?俺も知らねぇよ。アルフレドと同じだろ?」
ほら、勇者の伝説って素性の分からない系の話じゃん
誰かが西から来るって伝承があるじゃん
▲
「…って、途中からオカルト板意識してんじゃん。前にも似た展開…。前?」




